第72話:覚悟、通り抜ける幸せと、押し寄せる不安
私はフィオナちゃんの舌を満足させ無事、酒場『ニューテイスター』との契約を手に入れた。
週5でハンバーグのタネ10セットとテリヤキソース、マヨソースを多めに宅配と言うものだ。
酒場は夜の営業がメインらしく、納品もそれに間に合えばいいと言う緩さ。
これで中々の金額の夢の定収入を貰えるのだから、こんなに好条件の契約もない。
最初こそ、店主であるフィオナの親父さんは顔をしかめていたものの。
テリヤキソースを使った『テリヤキステーキ』を食べさせてイチコロだった。
肉さえあれば、テリヤキはいつだって最強なのさっ!!ハハッ!!
ただ、市場で出していた店舗自体は一旦下げることにはした。
流石に両方の分を作るほどの人手はうちにはない。
その代わりタネの用意は昼の酒場で行い、リリィ師匠への奉仕場所は確保済みだ。
一番の功労者であるリリィ師匠へ恩を仇で返すようなことはしない、絶対にだ。
テリヤキ以外にもまだまだ美味しい日本食はある。
思いついたらメモ帳に残しているレシピ案も大分溜まってきたもだ。
だから……私が仮にいなくなっても、このメモ帳さえあれば大丈夫……大丈夫なはずだ。
「次の問題は私自身……自衛はしっかり出来るようにしとかないとねぇ。」
「どうしたの、ミコト?」
「あ、ごめんごめん。ただの独り言~。」
横で可愛らしく首を傾けるプリニアを眺めながら、私は深長な想いに浸る。
これから……私たちはどうなって行くのだろうと。
やっと手に入れた安全、ずっと一緒にいたいと思える人たちと出会えたこと。
生活も順調で、まだまだやりたい目的もいっぱいで……。
でも……私たちは魔王側なのだ。
仮に元だとしても、人間の世界にいていい存在ではない。
バレれば危険が降りかかるのは私たちだけじゃない、関わったもの全てだ。
それにエリックとマイノちゃんなら……きっと一緒に背負ってしまう。
だからダメなのだ。
彼らが良くても……私がダメなのだ。
私には彼らの不幸を背負う覚悟も、そこから幸せにする力もないから……。
だから……逃げる準備をしなくてはならい。
「プリニア……ごめんね。
私も出来ることならマイノちゃんと一緒にいさせてあげたかった……でも……。」
「ミコ……デアが一緒にいてくれるなら私はそれでいい。
マイノの事は悲しいけど……覚悟はしてた。だから大丈夫。」
「プリニア……。」
「それにまだお別れしたわけじゃない。
悲しくなるのは本当にお別れした時でいい、それまでは笑おうって……デアが言ってた。」
このデアは、きっと私の知らないデアなのだろう。
「そっか……そうだね。まだ一緒にいるんだから悲しむ必要はないよね。
ありがと、プリニア。」
「デアが言ったんだからお礼言われるのも何か変。
でも……どういたしまして。」
恥ずかしそうに頬をポリポリとかくプリニアは愛おしく。
もう絶対に悲しませてはいけないと、そう強く決心させた。
だが、それもこれもだ……。
「まずは私が強くならないと始まらないんだよねぇ……。」
そう言いながら私たちは、目的の練習場へと到着する。
過保護なエリックの目を掻い潜るため、プリニアに別の場所を紹介してもらったわけだが……。
「なんかすっごい禍々しい感じのする洞窟なんですけど……。
大丈夫ですかね、プリニアさぁ~……ん。」
到着した洞窟の入り口は紫色の鉱石で薄く照らされ、ちらほら変な虫が蠢いてるのが見える。
奥の方では何かしらの遠吠えの様なものも聞こえ。
……ゲームならば正にラストダンジョンに相応しいと言ってもいいだろう。
「デアなら大丈夫。」
フンスッと鼻息を出しながら胸を張るプリニア。
いや、今の私デアじゃなくてミコトなんすよ、プリニアせんぱぁ~……い。
「最悪、私が力使えばいい。」
「是非ともそれでお願いします!!」
洞窟から出るのは鬼か蛇か……いや、できれば蛇でお願いします。
てか今日はただの練習なんでっ!!
そこのところ神様、間違えない様にしてくださいねっ!!
いやほんとお願いしますよっ!!!
選択肢間違えたかなと、ちょっと不安になりつつ。
あのプリニアがいると言う安心の元に、私たちは洞窟の奥へと進んでいく。
鬼が出ないことを祈って!!!




