第65話:すれ違い、顔見えぬ騎士と、踊らされる女と、沈む青年
木車を従え前行く騎士が、まるで今思いついたかの様に不器用な素振りで私に問いかける。
「フードの君よ、時に……君はエリックと言う青年の家に厄介になっているようだな?」
「えっ?あっ、はい。」
さっきから後ろをチラチラ見ていた彼は、どのタイミングでこの話を聞こうかと迷っていたのだろう。
畏怖すらも感じるその姿からは連想できないその不器用さが、余りにも滑稽で、可愛らしかった。
それにフードの君って……名前を聞かないようにした配慮なのだろうが、何か可笑しい。
別にこの人ならば名前ぐらい教えてもいいとも思ったが、今は彼に合わせてあげることにした。
「エリックの家に厄介になってることを知ってる割には、エリックとは面識がないような……。
不思議な物言いの質問ですね?」
ここは素直に感じたことを質問してみた。
警戒をしているわけではないが、経緯については知っておきたいところだ。
「あっ……いや、その、何というかだな……。」
全身鎧の大男が慌てふためいき、不思議なジェスチャーを繰り広げる姿に、お腹を抱えてしまう。
可愛すぎるでしょ、この人。
「フフッ……フフフフッ……。
騎士のお方、そんな大げさな身振りをしてしまうと折角の鎧が台無しですよ?」
「ぬ……。」
「フフフフッ……。」
「そんなに笑ってくれるな……。」
彼は頭を人差し指で数回掻き、降参のポーズを示した。
「わかった……白状しよう。実は最近……とある傭兵団とひと悶着あってな。
傭兵団の名は『銀色の風』と言うのだが……。」
銀色の風……何だっけ、どっかで聞いたことあ……ってあぁ、あいつらか!!
久々に聞いて思い出す、もう風化しかけた名前に、思わず感嘆詞を漏らしてしまう。
「君も多少なり知っているという感じか……。
なら、君に危害は及んでいない……と言う事でいいのだろうか?」
「危害?……いやまぁ、ない事もなかったかなぁ……。
事の次第によってはお嫁にいけない身体にされてたかもだし……。」
「……なに?
いや……そんな重大な事をそんなさらっと流されても困るのだが……。
と言うより、ならば何故君は彼の元を去らない?
いや……まさかっ!?」
「えっ?」
「んっ?」
お互いが何を言っているのか分からないと言った風体で見つめ合う。
そして……漸くの後、私が先にその理由に思い到る。
「もしかして……エリックって……疑われてます?」
「むっ?……その物言いからすると、彼は無実なのか?」
「あっ、はい。」
鎧騎士がフェイスマスクを良い音を鳴らしながら、片手で覆う。
「……すまない。」
「いえいえ……私の方も失念してました。」
そう、私は彼の事を良く知ってるからこそ言えることだが。
彼は元々、銀色の風のメンバーだったわけで。
他人から見れば、悪者の一人にしか過ぎないと言う……、
「……と言うか、あいつ等どんな悪さしてるんですか?
私は質の悪いチンピラぐらいにしか思ってなかったのですけど……。」
「質の悪いチンピラ……まぁ、そういう言い方も出来るのだろうが……。
立場を利用し、弱みを見つけては女性たちを食い物にしていたゲス野郎共だ。
野放しにしてる方がおかしいのだがな……。」
「まぁ……そう言われるとそうですね。」
何だろう、異世界って言うとさ。
この程度の治安の悪さは当たり前なのかなって思ってたのだけれど、その認識が間違っていたらしい。
いやまぁ、そもそもあいつ等が私が思っている以上に悪い奴だったてのもあるけどさ。
「さて、話の内容は理解してくれたと思う。
その上でだ……私は彼を処罰しに来たわけだ。」
「それは……認めるわけにはいきませんね。」
さっきまでの和やかな空気が一瞬の間に戦慄へと変わる。
彼の兜から光る鋭い眼光に、私はフードの隙間から睨み返して対抗した。
目の前にいる相手が例え、得体のしれぬ力を持った強者であろうとも、私は引けない。
何故なら、エリックは処罰をされるような、そんな人間では断じてないのだから。
「君に対しては優しくしてくれていると言う事か。」
「彼は人を選んで顔を変えるような人間ではありません。」
「君はまだ出会って日が浅い関係だと聞いたが?」
「それはドーブさんから聞いたんですか?
だったら、付き合いの長い彼からもエリックの人間性については語られてるはずですが?」
「鍛冶屋は傭兵の生命線だ。彼にも良い顔をしていたという事もあり得るだろう?」
……コイツ。
「それを言い出したらキリがないでしょうっ!!
そもそもエリックはアイツ等の被害者であって、加害者じゃないっ!!」
「だが……同じ傭兵団にいたと言うならば、行われてた悪行を知らなかったと言う事はないだろう?
それについてはどう思う?」
「それは……いや、それも違いますっ!
どうせ、エリックにはわからない様にあいつ等が裏で隠れてやってただけですっ!!
知っていたなら、彼なら正しい行いをしていたはずだからっ!!」
「付き合いが浅く、過去の彼も知らない君の言葉にどれ程の信頼が置けると思う?」
過去のエリックなんて知らない。
私が知っているのは今のエリックだけだ。
でも、それでも……彼は良い人間なのだ。
証拠はないのかもしれない。
寧ろ、見て見ぬふりをしていたと言う可能性は……ある。
彼には守る者がいて、もしもそれを引き合いに出されたら……その選択をしてしまったのかもしれない。
事実、彼に初めて出会ったとき、彼はマイノちゃんの為に私を見捨てた。
だが……それだがなんだ。
大切なモノを引き合いに出されて、それでも正義を成そうとするのが正しい事なのか?
私はそうは思わない。
「なら……徹底的に抗うまでです。」
「事実が彼の悪性を証明していたとしてもか?」
「私はそれ以上の善性を知っていますので。
それに彼は他人が罰さなくても、自ら自身を罰するような、そういう男ですから。」
「……。」
一番に守るべきは……自分が最も大切にしている人だと私は思うから。
だから……私はエリックを罰さない。
「……わかった。君の言葉を信じよう。」
「……へっ?」
途切れた戦慄に、思わず後ろにコケそうになる。
「君の思いは良く伝わったと言う事だ。
何、本当の所は言うほど彼を罰する気などなかったよ。
君の様に彼を庇う証言はいくつか取れていたからな。」
「だったらなんで……。」
「それでも……だからだ。
公平に裁くためには一人はより慎重に、より疑い深く見極めなくてはいけない。
それがどれだけ信頼され、信用されていようとしてもだ。」
「……。」
それは……一理ある。
疑い過ぎて、信頼を全くしない人間が信頼を得ること何て出来ない。
でも……全く疑わないのだってダメなのだ。
それをしてしまえば、人はひたすら騙され、奪われ……時には洗脳をされることだってある。
だから彼のやり方は間違っていない。
しかし、それなら彼は……。
「……嫌な役回りですね。」
「……気遣ってくれてありがとう。だが、こう言う事には慣れている。
こちらこそ嫌な思いをしただろう?すまなかった。」
どうして良い人と言うのはいつも、大変な目に会うのだろうか?
この世界と言う枠組みは実に理不尽で……私は時に憤りを感じずにはいられない。
さっきまでの信頼を放り投げて、この人に敵意すら示していた自分が恥ずかしい。
だから私はこの誠実さに、何かしらで報いたい、だから……。
「……あっ。」
フードを外そうとするのを制止しようとして素っ頓狂な声をあげた彼を置き去りにし。
私はありのままの私を晒す。
それが、信頼の証と言うものだと思うから。
「改めまして、ミコト=ミヤウェーと申します。
これからも縁があれば、よろしくお願いします。
後の事は任せてください、後は私からエリック話します。
勿論、ちゃんと公平な審査も引き継ぎますから安心してくだ……。」
「えっ……ミコっ……えっ……。」
ん?何か期待してた反応と若干違うと言うか。
何か無駄にキョドっていると言うか何というか……もしかして……。
私、美少女過ぎましたかねぇ?(突然のドヤ)
いや、何と言うか如何にも女性に免疫なさそうな感じだったし。
もしかして一目ぼれさせちゃったかなぁ?って。
……と言う感じにしか見えないんだけどなぁ、過信しすぎかなぁ?
でも、他にこの場面でキョドられる理由が見当たらないんだよ。
マジ何で?騎士さんよぉ。
「あの、もしよかったらお名前教えてもらってもい……。」
そこで後ろから近づいてくる足音に気づく。
何故なら、この足音には聞き覚えがあったからだ。
「あっ……エリッ……エリック?」
すぐに反応して、少し遠目ではあるが渦中の人物を見つけた私は……。
普段とは違うその落ち込んだ雰囲気にすぐに気づく。
確か……私の代わりにグラウ爺さんのところにバーガーをお届け。
ついでに、プリニアの事について相談に行ってたはずなんだけど……。
どうしたらあんな……昔の彼の様な雰囲気になるのだろうか?
てか、グラウ爺さんに何か言われたのか?それとも何かあったのか?それにしたって……。
「えっと、騎士さんごめんなさい。
今言ったことはちょっと保留にさせていただいてもいいですか?
ちょっと今、エリックの様子がおかしくっ……えっ?」
―――そして、どうしようか困惑しながら振り向いた私の視界に移ったのは……
素っ頓狂なフォームで砂煙を立てながら逃走する……白銀の騎士だった。
「えっ……なんで?」
完結に向けて、ちょっと気合入ったかも?
何かいつもより長くなった気がする。
グダグダが嫌なんで、結構ガツガツ場面切り替えてしまってますが、
実際、切り替えが上手くいってるかは不安なところです。
グルメ回がこのままだとサラッと終わりそうな気もするけど。
そうなったらごめんなさい。




