第59話:ハイエナの憤怒、間のない宣告と、間の悪い手紙
「あ゛!?何ふざけたことぬかしてやがるだ、てめぇ!!」
ブリプスの荒々しい怒鳴り声がギルド中に響き渡る。
「そ、そう言われましても……上の決定ですから。」
その威圧に押されながらも、若い受付は気丈に職務を全うしようとする。
「それがどうした?あぁん!?
散々俺らに助けられておきながら、もう仕事は受けさせられねぇだぁ!?
ふざけてんのか、てめぇっ!!!」
怒りに震える拳が受付台に振り下ろされ、景気の良い音を鳴らす。
気丈に振る舞おうとしていた受付も、これには身体を強張らせてしまう。
そして、この隙を参謀のソマールは見逃さない。
「ブリプスが申し訳ない。……しかしだね。
そんな理不尽な言い分を押し付けられた我々の気持ちも考えて欲しい。
我々が納得できる説明をして欲しいのですよ、分かってくれますね?」
「そ、それは……。」
「で?実際の所、誰が我々を排除しようとしているのですか?」
「……言えません。」
受付は目をそらし、ソマールの追求から逃れようとする。
だが、それ自体が返答とも取れるのだ。
「つまりは……。
あなたが口止めされる程度には権威を持った相手であると言う事ですか……。」
「おいおい、ソマールなんだそりゃ?
俺らはこの街で唯一のBランク集団だぞ?
いなくなって困る奴はいても、いなくなって欲しいなんて思う野郎がいるわけがねぇ。」
小馬鹿にしてヘラヘラするブリプスに対して。
ソマールは眉間をつまんで下を向く。
「もう一度確認しますが、今後完全に我々に仕事は振れないと言う事で良いんですね?」
「……はい、それが上の決定です。」
「……わかりました。行きましょう。」
踵を返すソマールに、これまで状況を掴めていなかった下っ端ロデロは間抜けな顔を晒し、
ブリプスは激怒した。
「何、怖気づいてやがるソマール!!それでも銀色の風か!?
おい、お前。いいからさっさと俺らにケンカ売った野郎を連れて来やが……。」
「やめなさいっ!!!」
ソマールの隠しきれない憤怒に、ブリプスがやり切れぬ表情で睨み返す。
「とにかく、詳しい話はジェリドを踏まえてしましょう。
ここで声を張り上げたところで、我々の立場が余計危うくなるだけです。」
「……ちっ。」
パーティ全体の風評に関わると言われ、根は小物のブリプスも大人しくなる。
「あっ……待ってください!ジェリドさん宛のお預かり物がありまして……。」
急に何かを思い出した受付が慌ててソマールたちを呼び止める。
この状況での下らぬ話に、殺気を抑えきれないソマールとブリプスであったが、
ジェリド宛という単語の前に、彼らが無視できる理由はなかった。
その手紙を手にした銀色の風のメンツはその場を後にする。
そして、いつもの酒場でジェリドと合流し、ブリプスが低い唸り声をあげ問いかける。
「で、どういうことなんだよソマール。」
対するソマールはため息をつき、ただただ不機嫌そうに語りだす。
「あなたが先ほど言ったように、我々はこの街でほぼ唯一のBランク集団です。
他にもBランクや我々の上のAランクの傭兵もいるにはいますが、それは少数だ。」
「だ、だったら……。」
状況が読み込めないままのロデロも不安から言葉が零れる。
「えぇ……ですから、我々を失うと言う損失はこの街の防衛力を大きく削ぐことになります。
よって……いくらAランクの人間が我々の排除を申請したとしても、それは通らない。」
「つまり俺らを止められる奴はいねぇ!!そう言う事だろっ!!!」
「ですから、それが可能であると言うのなら申告者は……領主様と言う事になります。」
余りの事実に面喰う二人だが、ブリプスは首を振って仕切り直す。
「そんな事あるわけがねぇだろ!?
領主だって、俺らがいるからこの街が助かってんだからよ!!」
「ですが事実、首を切られてしまった以上そう考えるしかないでしょう?」
「だとしても、領主はなんで俺らの首を突然切るんだ!?
こちとら領主の顔なんて見たことすらねぇし、意味が分かんねぇだろっ!!!」
だが、その意味すらも理解しているソマールは淡々と次の句を告げる。
「領主と会った心当たりはなくても、最近、違和感のある人間には出会ったでしょう?」
「違和感のある人間だぁ!?何言っ……。」
ようやく、呑込みの悪い大男にも理解が及び始める。
「そうです…‥あの白銀鎧の男ですよ。
領主自身とは思えませんから、関係者と言ったところでしょう……。」
「だとしてもだっ!!俺たちを切って困るのは奴らだろ!?」
「そうですね、少なからず防衛のための戦力は減衰するのは事実でしょうが……。
それを踏まえても強引に切りたかった。
あるいは切っても別の補填先を見つけたと言う事ですかね?
どちらにしろ、結果的に我々が切り捨てられた事実は変わりません。」
「だったら……何でてめぇは涼しい顔でいやがるんだ?あぁん!?」
「いいですか?領主に睨まれた以上、もう我々に打つ手なんてないんですよ。
それよりも、さっさと次の移り先を考えましょう。」
「……。」
流石のブリプスもソマールの判断の潔さで状況の深刻さを把握し、押し黙る。
「と言う事ですからジェリド、次の移住先を決めて欲しいのですが……。」
ここで要約、ジェリドが話に参加せず、手渡された手紙に夢中であった事に一同は気づく。
そして……その表情が底冷えするほどの嫌悪で満ちていることにも。
「あの……ジェリ……。」
「ソマール、この街を出るつもりだと言ったね?」
「は、はい……。」
「だったら……出ていく前にちょっと悪だくみでもしようじゃないか……。
じゃないと僕は……どうにかなってしまいそうなんだよ……。」
そう言い切った途端、ジェリドは顔を鬼のように歪ませて手紙を地面に叩きつける。
「少し一人になって計画を練ってくるから、君たちはそれまで待機だ。いいね?」
普段とは違うジェリドの新たな一面に一同は無言で頷くしかなかった。
ジェリドは立ち去り、残された面々はただ無言で顔を突き合わせた。
そして、エリックから送られたクシャクシャの手紙が……ただ転がり続けていた。
前回のイキリ具合からの即落ち2コマ。
ちなみにこの人らは最初にギルドで口喧嘩した人っちですね。




