第57話:夜明け、下向く過去と、前向く視線
虫たちの歌声もゆっくりと終わりを告げていく、静かな夜更け。
薄暗い厨房に、一人の男が静かに椅子に座っていた。
その生真面目な男は、長年愛用してきた剣を眺めながら静かに佇む。
「その心に秘めし想いは喜びか、それとも戸惑いなのか?」
「起こしてしまいましたか?……でも何ですか、その語り口調?」
「頭の中で物語風にしてくのが、ライフワークだったりするんだよね。
でも……その方が人生楽しそうでしょ?」
エリックは力の抜けたような顔で私を見てくる。
「あなたは本当に変わった人ですね。」
「そこはミステリアスって言って欲しいなぁ?
で?……さっきの答えはどうなの?」
エリックは持っていた剣にもう一度視線を戻し、答えを探す。
「どちらも……いえ、どちらかと言うと戸惑いかもしれません。ただ……。」
エリックは私の瞳へと視線を真っすぐ向ける。
「もし、あなたに出会ってなければこんな気持ちを抱くことさえできなかった。
本当に……ありがとうございます。」
改まって真剣な顔でお礼をされると、なんだか気恥ずかしくなってくる。
って、コラっ!
いくらイケメンに見つめられたからって、ドキドキしないでよミコトちゃんっ!?
面食いですぐにドキドキし出すもう一人の私を押さえつつ。
本当の私が言いたいことを、冷静にしっかりと彼に伝える。
「エリックはさ、まだ自分の才能を信じてあげることができない?」
「才能だなんて……ミコトさん、いくら何でもそれは買いかぶり過ぎですよ。」
「エリックはさ、『才能』ってものを勘違いしてるよ。
そしてエリック自身が、自分の事を過大評価しすぎてる。」
エリックの眉間にしわが寄る。
それも当然だろう、彼にとっては私が言ってることは支離滅裂にしか捉えられないはずだ。
「悪いけど、私はエリックが天才剣士になるなんて微塵も思ってないからね。」
「それはそうでしょう……って、ほんと何が言いたいんですか……。」
私は少し語調を強くして、その腑抜け面に言葉を叩きつける。
「私はBランクの冒険者ってのが、実際どの程度の物なのかはよくわからない。
でもさ、エリックの出した結果が称号と言う形で認められた事実はわかる。」
「……。」
「『才能』なんて言葉を使って自身を卑下する人間を、私は何人も見たことがある。
そしてその誰もが、自分の事を棚に上げて……上の人間を見て羨み、僻むんだよ。」
いつの間にか説教モードになってしまってる自分を叱咤しつつ、それでも私は続ける。
思い出すほどの鮮明な記憶なんてないが、奥底に眠るぼやけた何かが私を突き動かすのだ。
「僕は僻んでなんて……。」
「なら何で『才能』なんて言葉で片づけるのさ?
彼らは『才能』なんてくだらない力ではなく、『努力』で結果を手に入れたんだ。
何故それが認められない?」
「努力が必要なことは僕にだってわかりますっ!
でも、才能がなければ……いくら努力したって……。」
「自身も信じてやれないまま、簡単にBランクと言う結果を手に入れた君がそれを言う?」
「いや、Bランクだなんてまだ普通の冒険者になれた程度ですから。
この程度で才能だなんて……。」
「それを、Bランクにもなれずに悩んでいた昔の自分に言う事が出来るの?エリック。」
「それは……。」
人と言うのは不思議なもので、恵まれていないことはよくわかると言うのに。
恵まれていることについては全く持って理解できないのだ。
だから人は自身をさげすんで、自分より恵まれた何者かばかり見ようとする。
そしてその恵まれた何者か達は、才能ではなく努力で掴み取った者たちだと言う事も。
だからこそ私たちは今一度立ち止まって、自分を信じてあげなくてはいけない。
小さな結果を得ると言う事は、努力を始めるための大事なスタート地点だから。
「私は、エリックがこれから天才剣士になれるだなんて思わない。
でもね、あなたがあなた自身を信じて自身を磨くことが出来るのなら……。
あなたは他人よりも多くの人を救えるだけの力を持てると確信してる。
だからね、エリック……。」
―――私は彼の背中を思いッきり叩いた。
「小難しい事考えてる暇があったらさ、もっと前を見て自信持ちなってエリックっ!」
大げさにむせる彼を見て、私はその姿に笑い……そして誇らしく思う。
私が信じるに足る才能があったことは十分に証明されたのだ。
まだ、彼の中で完全な踏ん切りはついてないかもしれないが。
それでも、結果を出せたと言う事は、彼が彼自身を少しづつ信じ始めた証明でもある。
過去の記憶もほとんどなく、他人の尾を借りっぱなしのこんな私だが。
少しでも後ろ向きな彼に前を向けさせた自分を誇らしく思う。
過去ではなく、新たな自分がなした偉業を嬉しく思うのだ。
「まぁ、エリックは硬すぎるんだよ。
結果出したんだから、いつもみたいなウザいぐらいにどや顔してればいいんだって。」
「え……僕っていつもウザいんですか……?」
「割と?」
ちょっとした意地悪にショックで落ち込む彼を見下ろしながら、私は笑う。
だって……微かに緩んだ彼の口角を見逃しはしなかったのだから。
いつの間にか外から鳴り始めた小鳥のさえずりに、朝焼けを感じてこの場を後にする。
手を振り上げ、めいっぱいに背伸びをして力を抜き放つ。
さぁ、今日は……気持ちの良い二度寝が出来そうだ。
今更だけど、前回含め結構前からエリックの妹の設定を中学生ぐらいと勘違いしていた。
初期設定だと小1ぐらいだったので、これからはそっちで帳尻合わせていきます。
違和感感じた人にはごめん。




