第37話:共生、間違い探しと、答え合わせは、はじめの一歩
私とエリック君は『レアの実』と言う名の珍しい木の実の採取依頼を受け、
テンアゲの森に来ていた。
ちなみに、テンアゲの森とはシャッハ君と出会ったあの森だ。
「ここまで来ればいいかな・・・シャッハ、出ておいで。」
そう呼ぶと、胸のサラシがシュルリと外れ、服の中からおトイレ紙の蛇が出てくる。
勢いよく這い出たそれに敏感な部分を擦られてしまい、思わず声を漏らしてしまう。
そしてその元気のいい蛇は、みるみる内にプリティなホウタイ男を組み上げていく。
横目で垣間見えたエリック君が
温度計もびっくりな速度で赤面していたのは見逃してあげようと思う。
ルードだったらもちろん、丸一日使ったとしても弄り倒してただろう。
そう、ルードだったら・・・って一体何を考えているのだ。
すぐにルード脳で考えてしまう、未練がましい己が疎まし過ぎて殺したくなる。
愛おしくも愚かしい思考を捨てた私は、
気を取り直して掲示板から特別に拝借してきた依頼書をシャッハ君に見せる。
「シャッハ君、これ、この果物どこにあるかな?」
しかし、シャッハ君は首をかしげてしまう。
早速あてが外れてしまったようだ。
うーん、困った。
「ダメかー・・・。
ごめんエリック君、やっぱ私の勘違いだったみたい。」
「・・・。」
「・・・エリック君?」
「・・・あっ、すいません。
神の御使い様を見るのは初めてだったので・・・。」
あぁ、そう言えばシャッハ君とはそういう存在であった。
徳の高い存在だとは聞いていたが、神の御使いとまで言われるとは・・・。
・・・やっぱうちの子凄いっ!!
我が子におんぶに抱っこのダメな母親は、
自分が褒められているわけではないと言うにどや顔で腕を腰に当て胸を張る。
だが、そんなダメダメな母親を見て、愛しの我が子が同じポーズをとってくるのだ。
これが俗に言う小ガモ的習性と言う物であろう。
うん、何というか・・・やっぱうちの子はベラ可愛いなぁっ!!!
「まさか、御使い様にここまで認めらたお方だったとは・・・。」
シャッハ君の子ガモ的習性を、愛情の度合いと勘違いし感嘆するエリック君。
いや、そんな霊験新たかな山から湧き出る神水の如き澄んだ瞳で私を見つめないでほしい。
私はこの子と出会ってすぐに殴りつけ、のちに蹴り上げた暴力母なのだ。
そして弱った心に付け込み、子に食べ物を貢がせるニート母になったと思えば
置き去りにし、躾のために泣き暴れる子を再度傷つける選択しか選べなかった。
・・・そんな最低な母親なのだ。
そして今ですら、こんなに愛してくれている我が子を道具の様に使っている。
あぁ・・・ほんと、ダメダメダメな母親だよ私は。
―――私が勝手に落ち込んでいると、エリック君が慌てて声をかけてくる。
「いやっ、御使い様がいなくても私はミコトさんの事を初めから信じてますし!!
今のに深い意味はないんですよっ!?」
君はほんとに優しいねエリック君。
でもこれは私が悪いだけなんだ、気を使わせてしまってすまない。
「ハハッ・・・ごめん。エリック君は何も悪くないんだ。
昔の自分の行いを思い出して勝手に落ち込んでたというか・・・。
シャッハ君には酷い事しちゃったからね・・・罪悪感と言うか・・・うん。」
「そ、そうなのですか・・・。
でも、本当に悪い人間だったなら。
こんな風に信愛を見せたりはしないと、僕はそう思います。
だから大丈夫ですよ、きっと。」
シャッハ君も私の肩に乗ってきて、頬ずりをしてきてくれる。
これはシャッハ君なりの慰めなのだろう・・・。
あぁ・・・あぁもう・・・あぁダメ、ここで泣き崩れたら先に進めなくなる。
私は溢れるものを堪え、「ありがとう。」と言ってシャッハ君を撫でた。
私はほんと・・・幸せ者だよ。
そしてエリック君・・・君もほんと気遣いのプロだな、うん。
よし、二人のおかげで元気が出てきたぞっ!!
気を取り直してエリック君更生計画を・・・。
・・・あれ?なんで私、エリック君にも慰められてんだ?
「ところでミコトさん。
もしかして御使い様は探し物が絵ではなく、紙全体だと思われてるのでは?」
「あっ、確かに。」
改めて、シャッハ君に絵の部分だけを指で何度かなぞって伝えてみる。
するとシャッハ君は少しの間停止して、両手を上げてぴょんぴょん跳ねた。
「お?マジ!?やったよエリック君!これ当たりかもよっ!!」
「やりましたね、ミコトさん。」
「それじゃあシャッハ君、道案内お願いす・・・シャッハっ!!!」
シャッハ君が一人で勢いよく飛び出そうとしたので、私は慌てて止めた。
シャッハ君・・・君のその優しさは、本当にうれしい。
でもね、苦労と言うものはもっと一緒に分け合って行くべき物だと思うのだ。
片方だけが苦労するのはフェアではないし。
それに・・・それはお互いのためにはならないと思うのだ。
私はシュンとしているシャッハ君を抱き寄せる。
怒られると思っていたのだろう、手で触れた時に一瞬、身を強張らせていた。
きっと今の君には、私の行動がちぐはぐ過ぎて混乱しちゃうよね。
でもごめんね、ここをなぁなぁにするわけにはいかないのだ。
だから私は、怒ってないという意図だけは伝わるように。
ゆっくりとシャッハ君の頭を撫でてあげた。
―――シャッハ君がこちらを見返してピタリと止まる。
シャッハ君は私の腕の中で、先ほど進もうとした方向を指し示した。
そして動こうとせず、もう一度見返してこちらを見つめる。
つまりは・・・理解したのだ。
私の想いの応えようと、必死に考えて答えを導き出したのだ。
泣きそうだった。
でも、泣いたらまた変な誤解をさせてしまうかもしれないから我慢した。
でも、そのぐらいうれしかった。
我が子が一生懸命に努力し成長する姿は、本当にうれしかったのだ。
「シャッハ君、偉いっ!!君はほんと賢いっ!!もう天才っ!!」
ちょっと乱暴だが大げさにシャッハ君に頬ずりしたり、高い高いしたりした。
ルードには甘やかすなとはきつく言われていたが、天才だから仕方ない。
仕方ないのだ。
一通りの甘やかしが終わると、シャッハ君が下を向いて固まってしまった。
しまった・・・嬉しさの余りやり過ぎてしまったのかもしれない。
もしかして怒ってるようにも見えただろうか?
あぁ、どうしよ・・・えっと・・・えぇ!?どうしよ!?
シャッハ君が私の腕からピョンッと飛んで地面に降りる。
―――そしてて身体を震わせ
・・・舞い踊った。
それはそれはもう激しく飛び跳ねて、本当に楽しそうに舞い踊っていた。
あぁ・・・泣いてはいけないのに、涙が止まらない。
だってさ、私たちはずっとすれ違っていたのだ。
すれ違って、お互いの気持ちが空回りし続けたのだ。
だからさ、初めてお互いの気持ちがちゃんと通じ合えたことが・・・
・・・本当に嬉しくて堪らなかったのだ。
ごめんエリック君。
君にとっては何をそんなに騒いでるのだと不思議だろう。
でも今はさ、今だけはさ。
私たちのこの小さな一歩を、盛大に祝わなければならなかったのだ。




