第32話:拳、真面目な男と、下向き願望にご用心
―――妹ちゃんに案内されるがままに階段を降りていくと・・・
そこには食堂があった。
いや、正確には食堂だったと思われる場所があった。
小さいなりにもカウンターもある立派な食堂だが
椅子や机はボロボロで、台所には食器類が僅かしかなかったのだ。
ついでに言えば、そこら中クモの巣だらけだった。
この家庭の問題とはこれが関係したりもするのだろうか?
・・・・うーむむ。
「・・・・・お姉ちゃん?」
「・・・あっ、ごめんごめん。」
いけないいけない、つい気になる物があると無意識に立ち止まってしまう。
これのせいで今日の悲劇だって産んだも同然なのに・・・。
悪い癖だとはわかっているのだけど・・・なかなか治らない。
気を取り直して、私は妹ちゃんの案内に従った。
食堂のカウンター奥の細い通路を進むとそこには・・・これぞ立派な厨房があった。
ほとんど明かりがなく、全容は見えずらいものの
レストランのドラマセット様な、そんな立派な厨房であることは間違いなかった。
そしてその暗がりの先に・・・ぽつんと項垂れている、真面目くんがいた。
「・・・・・お兄ちゃん・・・お姉ちゃんがね・・・。」
妹ちゃんの言葉で察した真面目くんが私たちの方を向き、目が泳ぐ。
「ねぇ、妹ちゃん。
ちょっとだけお兄ちゃんと二人っきりにしてくれないかな?」
「・・・うん。
でもね・・・あのね・・・お兄ちゃんはねっ!・・・えっと、その・・・。」
きっと私の事も考えながら、必死に兄を庇おうとしているのだろう。
小さいながら気遣いのできる・・・本当にいい子だ。
「大丈夫、お兄ちゃんをいじめたりしないから・・・だから安心して?」
「・・・・・うん。」
妹ちゃんが去ったのを確認して、真面目くんへと向き直る。
真面目くんは、まだ言葉に詰まっている。
こういう時、謝罪を受ける側が取るべき選択は・・・黙って聞くことだ。
まぁ、別に謝罪する必要もないはずなんだけど。
色々聞きたいこともあるし、真面目くんが落ち着くまで私は静かに待つことにした。
―――そして、真面目くんがほつりぽつりの溜まっていた言葉を吐き出していく
「この度は・・・本当に申し訳ありませんでした。」
・・・ふむ。
「弱い人を守る者として・・・最低の行為を働いたと、自覚しています。」
・・・まぁ、そういう視点だとそうなるのか。
「僕みたいな中途半端な人間が・・・務まるような仕事じゃありませんでした。」
・・・ん?
「この店も・・・死んだ親から任されたのに・・・結局・・・こんなありさまで・・・。」
・・・お、おう。
「何をやってもダメなんです・・・。
期待されても、僕なんかじゃガッカリさせることしかできなくて・・・。」
・・・。
「こんな男の命なんていらないかもしれません・・・。
でも、もう僕に生きている資格なんてありません・・・だから・・・。」
・・・うん。
ごめんね、妹ちゃん。
―――そう心の中で妹ちゃんに懺悔して・・・
私はこの馬鹿の顔面を全力で殴った。
真面目くんが吹っ飛ばされると同時に、厨房にあった器具が一緒に倒れて大きな音を上げる。
真面目くんは後方に吹っ飛ばされ、突然の状況に混乱しているようだった。
てか、命を差し出そうとした人間が殴られたぐらいで驚くなよ。
音に驚き、妹ちゃんも駆けつけてくる。
しかし状況も理解できず、ただただ立ち往生するしかないようだった。
うん・・・妹ちゃんには本当にすまないと思っている。
でもね・・・
「馬鹿じゃねぇの、お前?」
「・・・あ・・・いや・・・その・・・。」
「ツッコミたいことは色々あるけどさ。
取り敢えず・・・お前は自分が死んだ後、周りがどうなるかをしっかり考えろ。」
私は知っている・・・家族に先立たれた者の気持ちを。
私は知っている・・・漏水ではなく、身勝手な自殺で取り残された者の気持ちを。
私は知っている・・・一人の死は、残された者の永遠の苦しみの始まりだと。
「てかさ・・・
ダメな人間だから死んだほうがいいとか、ほんと馬鹿じゃないの?
ダメな人間だって周りは死なれたら辛いんだよ!!
家族なら尚更、どんな人間だって愛してんだよっ!!
それだけじゃない、忘れたくても一生付きまとって・・・一生後悔するだよ。
あの時もっとああしていれば、こうしていればってっ!!
死なれた方がさ・・・ずっと重荷なんだよっ!!
死にたいとかほざいてる暇があったらな・・・惨めに生き続けろこの馬鹿がっ!!!」
ダメな人間だから死にたくなる気持ちはわかる。
だって・・・自分もそうだったから。
思い描く自分と実際の自分のギャップに驚いて、悔しくて悲しくて。
クソみたいな悪意丸出しの人間たちに見下されて・・・
それでも見返すことが出来なくて辛かった。
でもさ・・・私は惨めに生き続けたよ。
死にたいと思っても、絶対に死んでやる気はなかったよ。
―――だって
勝ちたかったから。
何度負けたって、そんなことはどうでもよかった。
大事なのは、今負けている事ではない・・・最後にどう勝っているかなのだ。
だから、勝ったと思える最後まで私は生きていたかった・・・。
本音を言うなら・・・勝ち切ってから、私は転生がしたかった・・・。
私は間抜けな顔した真面目馬鹿を指さし、そして高らかに宣言する。
「おい、クソガキ・・・私はキレた。
だからな・・・勝ちたくて勝ちたくて仕方ない欲しがりさんになるまでっ!!
私がお前を教育してやるからなっ!!覚悟しろ馬鹿がっ!!!」
前世では負け越してしまった。
だから今回は・・・自分以外の人間の分も勝ち越してやる、そう決めていたのだ。
だから覚悟しろよ?
記念すべき最初の犠牲者は・・・お前に決めたんだよっ!!
こうして・・・私の異世界生活最初の目標は、決まったのだった。
ここで出会ったが真面目くんの運の尽き




