第30話:傲慢、進まない入門と、連れ去ろうとする歪み
くそっ・・・離せっ・・・この変態糞デブっ!!
塞がれた口にかけられた大腕を、私は必死で引き剥がそうとしていた。
もがくようにひたすらデブを蹴ろうとするものの
この男、本当に身体が大きすぎるのだ。
胴体もそうだが、手の指は棍棒みたいなサイズだし、人間と言うかほぼオーガだ。
更には腕自体が長過ぎて、奴の顔面に私の足が届くことすら許してもらえなかった。
筋肉粒々のでふっとい腕は、蹴ったところでビクともしてないし・・・。
こうなったら・・・
助けて・・・真面目くんっ!!
私は真面目くんに視線を送り、救助を要請した。
だって君門番でしょ!?
そっちの始めからへこへこしてるチンピラは違ってもさっ!!
―――真面目くんが我に返る。
「ガ、ガスパーさん!やめてくださいっ!!
いくらあなたと言えど、こ、これは犯罪行為ですよっ!?」
そうだぞ、クソガスパー!!
お前、兵士さんたちの目の前で誘拐凌辱行為とか、ほんと何考えてんだ?
さぁ、そのクソちっこい脳みそで理解したらさっさと離せっ!!
てか、口塞がれると息もちゃんとできないんだよっ!!
「オデを捕まえるの~?ほんどにいいの~?」
「あなたのおかげで救われた人もいます・・・ですが、それとは話は別ですっ!!
例えここで・・・あなたに殺されようとも!!」
え、何、コイツそんなにヤバいの?
だったら無理しなくていいよ!?
命をそんな簡単に粗末にしちゃダメだって!?
「違うよ~オデが言いたいのは~
・・・お前の事ぜっだい忘れないっでこと。」
「な・・・何を・・・。」
「オデは借りはきっちり返すイイ男だから~
お前がかっこよくやられても~
残された大事なものは~どうなるかなぁ~?」
「・・・なっ!?」
腰に下げた剣柄に手を掛けつつも、真面目くんは剣を抜くことができないでいた。
真面目くん・・・。
「それにオデはこの街の英雄なんだぞぉ~?
だから牢屋なんてすぐにでちゃうぞぉ~?
そしたら・・・夜道でこっそりぃ~・・・
グヒヒ・・・可愛い女の子だとうれしいなぁ~。」
「・・・くそっ・・・。」
剣柄から項垂れるように手を離し、完全に戦闘モードを解除した真面目くん。
うん・・・それでいい。
「グヒっ・・・グヒヒヒっ!!
やっぱ英雄は偉大だなぁ~グヒヒヒヒっ!!」
・・・今までの会話を聞く限り、恐らくは
この糞デブには英雄を自称するだけの力も、そして権力もあるのだろう。
それに対して、真面目くんはきっとそのどちらも持ってないのだろうな・・・。
もしも自分が同じ立場なら、歯向かう事すらしてなかったかもしれない。
だから・・・真面目くん、君はよく頑張ったよ。
でもそう考えると、私とチンピラが同列の思考回路ってことになるのか・・・。
・・・それは、なんか納得いかねぇ。
まぁ、こうなってしまったらどうしようもない・・・。
大人しくこいつを満足させてやれば・・・殺されることはないだろう。
クソむかつくけど、私は状況を受け入れることにした。
でもほんとこのクズ外道・・・あぁ・・・イライラする。
だが・・・仮に受け入れるとしても、私にはなすべきことがある。
それは、生存率をあげるために。
そして、二度目の大災害を引き起こさないために。
どうしても・・・シャッハ君だけは確保しなくてはいけなかった。
―――となれば・・・
・・・交渉だ。
私は暴れるのをやめる。
次にその大きな手の甲をゆっくりと摩り、クズデブの視線をこちらに向けさせる。
そして・・・・・胸元へと手をかける。
クズデブのたれ目がつり目になる程度には目が開き
・・・その口角は更に深みを増していく。
「グヒヒヒ・・・お前もわかったのかぁ~?
いいぞぉ~物わかりのいいメスは好きだぞぉ~?」
クズデブのクソみたいな戯言は無視して、私は真面目くんが持つポーチを指さす。
「・・・おまえ・・・あれが欲しいのか~?」
私は頷けない代わりに、瞼を閉じる。
これであいつに分かってもらえるかが心配ではあるが・・・
「そっかぁ~わかっ・・・・
・・・よかった。
お前のクズミソちっこい脳みそでも理解できたようで何より・・・
「・・・った何て言うと思ったのかぁ?、メス壺がぁあああああああああああ!!!」
―――息が出来なかった。
クズデブは空いていたもう一方の腕で・・・私の腹部をおもいっきり殴りつけたのだ。
そのまま鷲掴みしていた手から、乱暴に地面に投げ捨てられる。
私は口から胃液交じりのよだれを垂れ流し、うずくまる事しかできなかった。
「メス壺如きがっ!!このオデに命令してんじゃねぇぞおおおおおおお!?
この英雄のオデ様に!!オデ様にぃぃぃいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!」
クズデブはそんな意味不明な怒りを見せながら地面を地団駄踏んでいる。
とにかくこの間に、ポーチを確保しないといけない・・・それはわかっている。
分かってはいるのだが、身体が言う事を聞いてくれない。
腹部にかかった痛みとうまく働かない呼吸で、身動きが取れなかった。
だが・・・さっきの弾みで真面目くんがポーチを落としたのだ。
間違いない、チャンスはどう考えても今しかない。
だから・・・這いずってでも・・・
―――しかし、願いは打ち砕かれる
髪を無造作に捕まれ、私は元来た道へと乱暴に引きずられていた。
前ではなく後ろに引きずられて行くことで、これから待つのが死である事も理解した。
いや、死よりも先に死にたくなるような屈辱と痛みを味合わせられるのかもしれない。
引きずらていく痛み
腹部にかかった痛み
呼吸がうまくできない苦しさ
・・・死への恐怖
そして何よりも・・・一人取り残されてしまうシャッハ君のこと
様々な思考が過ったが・・・私に出来たことは成すがままに引きずられていくことだけだった。
こんな事になるなら、無理を言ってでもルードについて行けばよかった・・・。
あんなにお世話してもらったのにさ・・・
こんな終わり方になっちゃって・・・
ほんとに・・・ごめんね・・・シャッハ君・・・ごめんね・・・ルー・・・。
「その汚い手を離せ・・・豚が。」
―――誰かの声がした。
私の髪からはいつの間にか手が離され、地面に寝かされていて・・・
・・・遠くの方では金属がぶつかり合う音がする。
恐らくは、誰かとクズデブが戦ってるのだろう。
もしかしたら、ルードがこっそり後からつけて来て・・・・
・・・だったら・・うれしいな。
そして、薄っすらと私の視界に慌てた真面目くんが映る。
それと共に、優しく抱きかかえられる。
うん・・・これはきっと助かったな。
ポーチもきっと、真面目くんが確保してくれるはずだ。
その程度には真面目くんのことは評価している。
だから私は安心して・・・
その意識をゆっくりと手放した。
まーた気絶落ちかよって思った君!正解っ!!




