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神よ、与える前に考えてくれ、トイレットペーパーは武器じゃないっ!  作者: エッチな思考の鈴木
第一章 始まりは高難易度ステージ
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第2話:逃走は、汗と涙と、トイレットペーパー




私は走っていた。

もちろん、全速力の化け物に追われながらだ。


くそっ!

何だこの状況っ!?

最初に超強そうな敵が現れて、逃げるこの展開!?

テンプレ展開の一つにはあるが、あれはチート能力持ちだった場合だぞっ!?


トイレットペーパー?

あんなん条件反射で、投げつけたわっ!!

だから、今は完全なる無防備!絶体絶命!!




―――とにかく、泣きながら走るしかなかった。


迫りくる重い振動音が確実に迫ってくる。


地理的なものはまるで分らない。

それでも、木と木の狭そうな合間を選び、少しでも距離を離そうとしている。

枝なんかが身体に触れて、そこらじゅう痛かったがそれどころではない。

止まれば間違いなく・・・二度目の人生は最悪の終わりを迎えるのだから。


願いとは裏腹に、奴との距離は段々縮んでるような気もするが

怖くて、後ろなんか見れるわけがないっ!!



―――とにかく、どこか、どこか隠れる場所だ。


どこでもいい。

どこでもいいんだ。

どこか、どこかどこかどこかどこかっ!!


あっ……。

あれって……。


あぁ!あぁ!あぁ!!


アドレナリンやらドーパミンだかが溢れ出ているのだろうか。

思わず変な笑いが溢れ出してくる。


私はついてる。

実に、実についている!!

間違いない、私が探していたものは正しく()()だった。


そう、少し先ではあるが・・・前方に岩壁があり。

そしてそこには()()()()が空いているのだ。


私が入り切れるのかは・・・微妙なサイズにも見えたが

あの場所なら、後ろの大きな化け物は追ってこれないと思ったのだ。


だが今のはあくまでも離れた位置からの私の目算だ。

不安は十分にある。

だがそれでも!!


「人生はっ!」


「いつだって!」


「誰だって!!」



「出たとこ勝負なんじゃボケぇええええええっ!!?」




30のおっさんを小さな穴にシュウウウウウウッーーーー!!!



……。



うーん……いけた?

いや、寧ろ少しばかり余裕で入れるサイズ過ぎたかもしれない。

穴の大きさは、立った状態でもあと上半身分くらいの余裕はあった。

横幅に関しては、まさに洞窟的な広さと言える程の余裕がある。


だがそれでも、明らかに後ろの圧が途切れたのだ。


安堵と洞窟の床から伝わる冷たい感触で身体が一気に冷え始める。

最初の賭けに、私は勝った。


だが……まだ完全なる安全を手に入れたわけではない。

次の判断を素早く、素早く決めるのだ、決め……。


状況を整理しようとした瞬間。

私の安寧などお構いなしに、次の展開(悪夢)が容赦なく襲ってくる。




―――後ろからドンッと物凄い衝撃音が鳴り、それと共に地面がグラりと揺れる。


見るまでもなく、奴が入り口の壁にぶつかった音だった。

伝わる振動に心臓を止められそうになる。


正直、後ろを振り向いて状況の確認はしたくない。

だって見れば、今のハイな状態から現実に戻される様な気がしたからだ。

だが、でも、そんな情けないことも言ってられる暇は私には残されてなんていない。


確かに、この洞窟の大きさは、奴よりも遥かに小さいはずだ。

だけど……もしも、もしもだ。



―――()()()()()()()()、奴でも入ってこれたとしたら?



怖い、すごく怖い、見るの怖い、だけど・・・



「死にたくはないんだっ!!!」



ドラマや映画なんかのシーンで。

死の直前、視界がスローモーションになったりするような演出がある。

そしていつも思うのだ。

あの瞬間ってどんな感じなんだろうって。


キーンと鳴り響く耳鳴りが私の頭の中を駆け巡る。

身体はまるで私の意志から離れているかのように重く、全然動いてくれない。

そして役に立たない身体とは裏腹に。



―――はっきりとした視界が、有難迷惑にもソレを映し出す。


まっすぐこちらに向けられた、大男の()()()()()を。


洞窟の穴に収めきる事の出来ない大きな上半身を、私はただ眺めていた。


向こうも、全力疾走してきたのだろう。

汗も絶え絶えに、息も荒い。

よーく見ると血管なんかがいっぱい浮き出ている。

てか、現実に見るオーガって結構肌荒れひどいんだなって。

てか、想像よりも顔の造形とか深くて怖いなって。

てか、なんで私のこと、そんなに必死になって追いかけてくるのかなって。

あっ、もしかして私のこと好きなんかなっ?って。


途中からもう思考がわけわからなくなっていた。

なのに、そんな頭ハッピー状態の私に神は非情な現実を突きつけてくる。



洞窟の入り口の端、そこに、()()()()()()()()()()()()()()




―――奴が入ってくる。


全身から汗が一気に噴き出す。

恐れて止まりそうになる思考を、私は無理やりにでも奮い立たせる。

青ざめた顔で、素早く思考を回転させる。


状況は理解した。

次に取るべき行動は振り返り、この洞窟の奥へ全力疾走することだ。

そうすることが最善の選択。


わかっている、わかっているのだ。

だけど、だけどもさ……。



腰が抜けた。




―――逃げれない。


その現実が突きつけられた時

尻もちをついている洞窟の冷たい地面が、私の体温を急激に奪い取っていく。



もう終わりだ。


私は負けた。


勝負に……負けたのだ。



悔しかった。

悔しすぎた。


2度目の生を、夢見た異世界で迎えるこの幸運を。

宝くじで3億円当たるよりも、幸運な切符を。

今までの苦労が、少しは実ったのかもしれないという幸福を。

無慈悲に、冷酷に、残酷に 奪われていくのだ。


そんな悲しみに浸る時間すらも、十分に与えてもらえずに。




―――現実が、私の左の足首を掴み取るのだ。


これは……私への報いなのか?

いや、私がどんな悪いことをしたって言うんだ!!


私は……真面目に、真面目に生きてきたつもりだっ!!

辛いことがあったって、一生懸命に!前向きに生きてきたつもりだっ!!

なのに、こんな……こんなのっ……こんな終わり方……。




「嫌だっ!!!」




その瞬間、私は今までの人生でしたことのない悲鳴を上げていた。

いや、表現的には絶叫の方が正しい。

顔面をこれでもかとクシャクシャにして

鼻水も、よだれも、涙も、意味不明なほど垂れ流して


涙で、前なんて全然見えなくて。

言語化できてない言葉を、まるで首を絞められた鳥の様にギャーギャー喚いていた。



―――石でも砂利でも、何でもよかった。


手当たり次第に手に触れた物を化け物に投げつけた。

力の限り投げつけた。

指先の痛みなどお構いなしに投げつけた。


途中、柔らかい感触の()()を投げた。


一瞬だけ思考が停止した。

だがすぐに、掴み止められる大腕が恐怖へといざなってくる。

そんなものでこの状況が変わるなんて到底思えはしなかった。


そうだ。

どんなに足掻いたって、こんな絶望的な状況が変わるわけがない。


潰されるだけだ。

食べられるだけだ。

何も変えられない。



この先の運命が変わるわけなんて……()()()()()()()




―――なぜか、私の右足から、オーガの手が離される。


意味が分からなかった。

意味は分からなさ過ぎて逆にその理由を求めた。

オーガの方へと間の抜けた顔を向けた。

涙はピタリと止まり、視界が余すことなくその答えを映し出した。


そこにあったのは……




()()()()()()()()()()()()()()()、オーガ君だった。



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