第17話:真実、マッチョと私、一声OneDieの大告白
―――昨日はお楽しみでしたね。
何てことは一切なかったし!
下世話な妄想はやめてほしい。
てか、そもそも身体は女であっても魂は男だし?
確かに、昨日のは心が弱ってるところに優しくされて、ちょっと・・・
・・・いやなんでもない。
とにかく、何もないったらないっ!!
「・・・そろそろ行こ、行きましょうか。」
「あっ・・・はい、あっ、ウン ワカッタ。」
私は頬に意味不明な火照りを感じながら、お花畑な雰囲気に一時は飲まれつつも
私たちは崖道を抜け、また新しい森の中へと足を踏み入れていた。
不穏な何かを恐れつつも
良い方向であってほしい
そんな私の前向きな歩みとは裏腹に
いつものように神の気まぐれが
―――休む間もなく、忍び寄る。
まだ夜の闇に包まれつつある早朝の冷たい風が
ゆっくりと、私の身体に現実と言う冷たさを取り戻させていく。
そして何よりも
森に入った瞬間、前を歩く男の出す空気が大きく変わり始めたことで
否応なしにでも、私の心は不安で埋め尽くされていった。
―――私が訪れてほしくないと感じているその時は、刻一刻と近づいていた。
男の足が、森の終わりとは到底言えないような場所で止まる。
そこは大きく開けた場所で
それを覆うように生え並んだ大木は、何者からも包み隠してくれるような
・・・大きな天然の檻を構築していた。
いや・・・天然の闘技場と言った方が正しいか。
ここに来て、漸く・・・この男の意図が見えてきた。
いや・・・見えてきてしまった。
―――男が振り返る。
それは私の知ってる、女に触っただけで一挙一動するような優男ではなく。
―――相手を人として見てないような、恐ろしく冷え切った何かだった。
間違いない、ここで判断を間違えれば私は・・・
―――確実に殺される。
「―――何故、襲ってこなかった?」
男から、予期していなかった質問が飛んでくる。
―――ここで意識を緩めてはいけない。
私は、一瞬で凍えさせられそうな声に身を震わせながらも
そこから発せられた内容を、間違って読み取ってしまわないように
―――全神経を集中させ、思考を巡らせる。
・・・襲う?
それは何故?
何故、あからさまに怪しかった人間を放置してたのか、と言うことか?
それとも、私のような弱い人間が、お前から逃れるためには
そんな手段しか残されていなかった、と言いたいのだろうか?
・・・うーん・・・いや、違うな。
それらではない・・・と思う。
しかし、正しい答えも今一思いつかない。
―――となれば、私が取るべき返答は・・・
「・・・夜に・・・襲っただろ?アレだけでは不満だったか?」
見当違いの回答をぶつける。
・・・頼む、これで私にヒントを与えてくれ。
「・・・俺は、つまらない冗談が嫌いだ。
だから、さっさとその化けの皮を剥がしてくれよ・・・
・・・悪魔さんよ。」
―――あぁ、はいはい。
私が欲しかった情報を提供してくれてありがとう。
なるほど、なるほどねぇ・・・悪魔かぁ。
ハハッ、何それ笑える。
いや・・・状況的に笑えはしないんだけどさ。
だが、そういうことならば
―――次に行うべきアプローチは決まった。
「あなたは・・・人違いをしてないだろうか?
私も、原住民のフリをして騙していたことは謝る。
でもそれは、最初あなたが何者かわからないのが怖かっただけで
身の危険を感じたことからの行動だったんだ。
あなたの言う悪魔とは何なのか、私にはさっぱりわからないし。
少なくとも、あなたがそんな目を向けてくるような、私は大層な存在ではない。
だから・・・。」
「だから・・・戦いたくはない、か?」
―――う~ん、まずい。
だめだ、この顔はまるで通じてない顔だ。
男の表情が更に険しく怒気に染まっていく。
それに浸食されていくように、私の脆い心は揺さぶられ
私の足の熱も比例するように失われていき、小刻みに震えだす。
だが・・・・まだここで負けるわけにはいかない。
「あなたが私をその悪魔とやらと勘違いしている理由はなんだ?
この髪の色か?
それとも、その悪魔とやらに私は似ているのか?
それだけでも、教えて欲しい。」
「悪魔からお願いされるときが来ようとはな・・・笑えてくるぜ。」
―――こっちは全然笑えないんだけどなぁ・・・うん、だめだこりゃ。
「・・・だが、そんな言葉で騙し切れると思われたのは、胸糞わりぃ。
敢えて聞いてやる・・・
その呪われた瞳の色はどう説明するつもりだった?
・・・青刻の千人殺しさんよぉ?」
―――ん?・・・あんだって?
え?・・・セイコクの?
え、千人殺し?
そもそも、セイコクってどゆ意味?
いや、と言うか、千人殺しって・・・やべーな私。
・・・。
いやいやっ!? ないないないないっ!!
―――とっ、とにかく、何か、何か言わないとっ!
「あっ・・・えーっと・・・や、やっぱり完全に人違いだと思うわけでして・・・。」
「御託はもういい・・・。
そっちがいつまでもそういう態度を続けるってんならよぉ。
無理やりにでも、その腑抜けた脳みそに思い出させてやっからよぉ。
往生せいやぁああああああ!!
ド畜生がぁああああああああああああああああああああああ!!!」
―――その瞬間、奴から強烈な突風が放たれ、身体が吹き飛ばされそうになる。
突風に煽られた私の前髪が
不穏の幕開けを知らせるようにゆっくりと、ふわりと降りていく。
顔覆っていた腕を下ろし、前を見なければ、私は先へは勧めない。
あぁ・・・見たくねぇ。
どうして神と言うものはいつも
私にやたらハードルのぶっ飛んだ試練を突きつけてくるのだろうか?
・・・ほんとに勘弁してほしい。
それでも、私は待つべき者のために、その試練を受け入れる。
―――だが・・・予想の遥か上を行ったソレに、私は言葉を失った。
男のその逞しく大きな肉体は、更に一回り・・・いや、二回りは大きくなり
身体中の溢れんばかりに伸ばした体毛を、怒りで激しく逆立てる。
腕や足の筋肉は、まるででフットボールでも仕込んだように膨れ上がらせて
足先と指先からいくつも生やした巨大なかぎ爪を鋭く唸らせる。
その怒りに満ちた顔からは、鼻を長々と尖らせ
歯茎をむき出し、人間では考えられない数の牙をギラリと光らせ、私を威嚇する。
―――詰まるところ、そこにいたのは・・・
憎しみに目を血走らせ、よだれを垂れ流しながら荒い息を吐き散らす
スーパーマッチョの狼男だった。




