暗闇の中で
こんにちは、ご無沙汰してます、白蘭です!
今年は暖冬だーなんて言ってますけど、寒いものは寒い!!
というわけで少し、暖まればいいなあと思って書いたお話です。
もうどこまで来ただろうか。
いつから僕はこの電車に乗っているのだろうか。
気づいた時には無人の真っ黒い駅舎にいて、そして目の前には怪しい光のレールと黒い車体の電車が待っていた。
その電車に乗って、どこへ行くわけでもなく、ただ僕は真っ暗な車外を眺めながら時の流れを忘れていた。
きっとこの電車に乗ってすぐは覚えていたであろう、電車に乗るよりも前の記憶も、時間が経てば経つほどに薄れてきて、今ではほぼ忘れてしまった。
しかし、そんな中でただ一つ覚えていることがあった。暗闇の中に一筋、光が灯されるような、甘くて愛おしくなる"ありがとう"。
「…ありがとう、か。」
それがどんな意味なのか、誰が言ったのか、何も覚えてはいない。ただ思い出す度に心の奥がむず痒くなるような声色と言葉だけは覚えていた。
何度も何度も思い出そうとした。
しかし窓の外と同じく、僕の頭の中は真っ暗で空っぽで、思い出そうにもその言葉のヒントすら、思い出せなかったのである。
この電車はといえば、たまに何処かに止まってはまた真っ黒い駅から誰かを広い、そしてまた暗闇を永遠に走行するのみで、しかもその誰かですら僕のいるこの車両には乗ってくることは無かった。
この電車はどこへ向かうのだろう。
前後にある扉とその間にはボックス型の席が6つ。だが僕が座る真ん中の席以外は誰も座っていない。
この光景にも、もう寂しさを感じなくなってしまった。
トンネルでもなく、夜空を翔けるでもなく、ただひたすらに暗闇を進む。
光は見えず、まるで世界には僕だけのようだった。
いつもの様に窓の外を眺めていると、電車はゆっくりとスピードを落とし、僕が乗ってきた駅と同じようで違う、不思議な黒い駅舎の駅にたどり着いた。
プシューという音とともに、ノロノロと前後の扉が開く。長い間、開閉をしなかったおかげで錆びてしまったらしい。
そんなこんなで駅から僕だけしかいなかったこの車両に乗ってきたのは、白髪に眼鏡、背筋をピンと伸ばして歩く、品のいい服を着たマダムという言葉が相応しいようなお婆さんだった。
彼女は僕しかいない車両をキョロキョロと見回し、そして僕の姿を見つけると目を見開いた。
そして、僕も、何故か足が動き、彼女の元へと駆け寄った。
「…ごめん、ごめん、ごめん…!!」
気づいた時には抱きしめて、僕はそう呪文のように唱えていた。
僕の目からは涙がポロポロと、とめどなく流れ落ちる。
「いいのよ、もう、いいの。」
彼女はそう言って僕の背中を摩ってくれた。
声を聞いて、僕の全ての記憶が蘇った。あの時と何も変わらない、柔らかく、愛おしく、心地いいこの声。僕が会いたかった、僕の愛しくて愛しくてたまらない人。
すると、みるみるうちに彼女の姿が若返り、僕と同じくらいの年齢になった。
そして彼女は、僕の記憶と変わらない笑顔で言った。
「会いたかった。」
今日もゆっくりと、この電車は暗闇を進む。
fin.
驚くべき短さですねはい。
さて、なんの話だ?と思われた方も多いと思います。この電車は一体どこへ向かうのか、僕は誰なのか。
はっきりとしたものはないかもしれません。読んでいただいた方の想像力に一任したいと思います。
読んでいただき、ありがとうございました!