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<第九章 役人>

 正月も過ぎたある日、いつもと変わらず正一からの質問に答えていると、使いの人が来たからと正一が呼ばれていった。

 その正一が慌てて戻ってきた。


「大変だ、ユシウ。

 明日、東京から偉い人がやって来る。

 神社局の人だそうだ」

「トウキョウ? ジンジャキョク?」

「ああ、そうだ、神社局。国の役所だ。

 そこの偉いさんがお前を見に来るそうだ」


 正一が何を興奮しているのか分からない。

 役人ならツユアツでも毎年国の魔法担当に会っていた。

 たかが役人に驚くことはない。


「きっと、あの二人が点数稼ぎで神社局へユシウの話をしたんだ。

 それで、役人が興味をもって見に来ることになった。

 ユシウの生活費は出してやるとかいって、裏ではこんなことを考えていやがった。

 また、魔法を見せろとかいう話になるぞ」

「ダイジョウブ、ダイジョウブ」


 魔法を見せるくらいなら簡単だ。

 何の問題も無い。

 この国で魔法を使っても罰金を取られる訳ではない。


「本当に大丈夫か。

 嫌なら、断っても――、いや、断るのはまずいか。

 仕方ない、ユシウ、すまんがよろしく頼む。

 爺さん二人に見せたのと同じで良いからな」

「ダイジョウブ、ダイジョウブ」


 そう言えば、あの時以来人前では魔法を使っていない。

 念のために少しだけ練習しておこうと、その晩は一通りの魔法を練習しておいた。

 そして、次の日、その偉いさんとやらがやって来た。


 その人は五十代くらいだろうか、正一達とは違う感じの服を着ていた。

 宇佐神宮へ行く時に見た人の中にも居なかった。

 ズボンをはいているのはツユアツと同じだけど、上半身は体の正面で服を留めてあり、なぜか首の根元に布を巻いている。

 かなり奇妙な格好だ。

 役人の制服なんだろうか。


「君がユシウ君だね。

 魔術を使うと聞いた。

 すまぬが、私にも見せてくれたまえ」


 その男は名乗りもせずに、いきなり用件を切り出してきた。

 横柄だと思ったけど、ここでことを荒立てても正一に迷惑がかかると思い、黙って魔法を使うことにした。

 まずは抽出の魔法だ。

 それに対して正一が説明する。


「これが抽出の魔法です。

 梅干から塩を取り出しています。

 混ざっているものから、そのうち一つを取り出す魔法です」


 男が疑いの目で俺を見ている。

 なら次は浮遊魔法だ。

 梅干の乗った小皿を浮かせてみせる。


「浮遊の魔法です。

 見た目の通り物を浮かすことができます。

 これはしばらくすると段々力を失い、下へ落ちてしまいます。

 浮かせる重さや時間は力の込めようで変わるようです」


 これには男も驚いていた。

 浮かんだ小皿を指先でつついてみたり、何かで支えていないか周りを手で探っている。

 最後は転移魔法だ。

 部屋の端から端へ転移して見せた。

 これに男は腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「転移魔法です。

 目に見える範囲や、一度行ったことがある場所へ瞬時に飛べるようです」

「もう一度、もう一度やってみてくれ」


 お安い御用と俺は何度か部屋の中で転移を繰り返した。


「分かった。もう良い。ご苦労だった」


 男は服から布を取りだし額の汗をぬぐった。

 そして爺さん二人と顔を見合わせお互いにうなずいている。


 それから男が矢継ぎ早に質問してきた。

 正一がそれに答える。


「抽出は塩以外も抜き出せるのか」

「たいていの物はできるそうです。ですが、初めて見た物はできないこともあるそうです」

「浮かせるのはどうなんだ。なんでも浮かせられるのか」

「重い物ほど疲れるそうで、馬車なら試したことはあるが、それ以上重い物は試してみないと分からないと」

「転移はどこまで行けるのだ。短い距離しかできないのか」

「どんな遠くまででも行けるそうです。

 やったことはないが星の裏側でも行けるそうです」

「それは凄い……」


 男は何かを考え込んでいる。


「今日はご苦労だった。

 今後のことについては追って伝える」


 そう言い残してトウキョウの男は爺さん二人を連れて帰っていった。


「さすが役人は態度が偉そうだったな」


 正一も少し頭に来ていたようだ。

 この国では役人の地位が高いのだろうか。

 ツユアツでは魔法使いは尊重されているので、それほど無礼な態度を取られたことはなかった。

 だからか余計にさっきの男の態度が気に入らない。


「お話は終わったみたいですね。お茶でもどうですか」


 俺と正一が憤慨していると、ハナがお茶を持ってきた。


「なんだか段々話が大きくなってきたな。

 最初ハナがユシウを拾って来たときは単なる行き倒れかと思ったんだが」

「行き倒れはひどいですよ。

 ユシウさんは魔法が使えるんですよ。

 大騒ぎになって当然ですよ」

「ハナ、あらためて言うが、ユシウのことは絶対に秘密だからな」

「分かっております。誰にも申しません」

「これ以上、話が大きくならなければ良いのだが」


 そう正一は心配そうな口調で言った。

 その心配は翌日には予想以上に大きくなって的中した。



 朝食の後、正一が元気なくやってきた。


「すまん、ユシウ。この通りだ」


 正一が床に手をついて謝ってきた。


「何? どうした?」

「明日、東京へ行ってもらうことに決まった」

「トウキョウ?」

「この国の都、帝都だ」


 都か。

 どんなところだろう。

 実を言うと俺はツユアツの都へ行ったことがない。

 年に一回の魔法使いの更新手続きは最寄りの大きな街でできるので、これまで機会が無かったのだ。

 人が大勢居てとてもにぎやかだと話には聞いていたのでとても興味があった。

 異世界の都となるともう想像の外で、それが見られるとなると興奮してきた。

 それにしても、なぜ正一が謝るのか分からない。


「正一、なぜ謝る?」

「怒らないのか」

「大丈夫」

「だって、人に言われて遠くまで行かされて、また見世物みたいに魔法を使わされるんだぞ」

「大丈夫」


 魔法使いが魔法を使うのは当たり前だ。

 面倒なことをやらされるわけでもない。

 そんなことでタダ飯を食わせてくれるなら、いくらでもやらせてもらう。

 それに、都を見せてくれるなら、こちらからお願いしたいくらいだ。


「心配するな。

 ユシウ一人で行かせはしないから。

 俺も連れていけと、ねじ込んできた。

 俺が付いていくからな」


 と、正一は意気込んでいる。

 俺としては正一が居てくれた方が安心だ。

 知らない人と話すより、正一の方が慣れているので会話しやすい。


 そして翌日、東京の偉い男、老人一人、俺と正一の四人で都へ向けて慌ただしく旅立つこととなった。


次回更新は明日2/12(金)19時予約投稿の予定です。

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