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<第六章 実演>

 異変の日から一晩明けて俺はかなり元気になっていた。

 まだ本調子とはいかないが、体力は八割がた戻っている。

 これで、空間連結を試せる。

 朝食の後、早速試してみよう。


「よく眠れましたか。

 御体の具合はどうでしょう。

 もう普通のご飯は食べられそうですか」


 ハナが盆に載せた食事を運んできた。

 ハナは寝具を片付けると、小さくて脚の短い机を出してきて食事を並べた。


 朝飯は白くて微妙な柔らかさの小さい粒がいっぱい入ったものだ。

 コメというらしい。

 それに塩味の汁と焼き魚、塩漬けの野菜だった。

 コメは初めての食感だけど悪くない。

 だけど量が多かった。

 椀にこんもりとつがれている。

 客だから奮発したのかもしれない。

 俺は腹一杯になりさらに元気が出た。

 ハナが食事を片付け一人になると俺は早速魔法を試してみた。


 部屋の真ん中に立ち、十年住んだ我が家の庭を思い浮かべる。

 そして空間連結の魔法を発動しようとした。

 が、いくらたっても発動しない。


 普通なら、ここで地力の流れを感じ、次に連結先の物質の存在を探る。

 そして魔法の発動と同時に連結完了となる。

 地力の流れはとても強く感じるが移転先の状態を探れない。

 全く気配が分からない。

 それでも無理やり魔法を発動しようとしても全く反応しない。

 まるで、そんな場所は存在しないかのような反応だ。


 空間連結は一度行ったことがある場所で頭に思い浮かべることさえできれば使える魔法だ。

 師匠によると星の反対側さえつなげられるそうだ。

 距離は関係無く、ただ両地点の高低差だけが関係してくる。

 高低差が大きくなるほど使う体力が大きくなる。

 その場合も疲労度が違うだけで連結の成功率には関係しない。

 俺も一度覚えてから失敗したことはない。


 こんな反応は初めての経験だ。

 ひょっとして空間魔法そのものが使えなくなっているかもと思い、部屋の端から端へ転移してみたら上手くいった。

 部屋から便所までも問題無く飛んで、また、戻ってこられた。

 ということは――。

 ここは本当に違う世界なのか。

 あの異変で異世界へ飛ばされてしまったのか。


 俺は愕然とした。



 俺が事実を飲み込めず呆然としていると、正一が申し訳なさそうな顔をしながらやって来た。


「ユシウさん。

 すみませんが、後でまた魔法を見せてもらいたいんです。

 どうしても見せろと言う人が居まして。

 昨日やってもらったのと同じでいいんですが……」


 タダで泊めてもらって食事も出してもらっているのだ。

 それくらいなんてことない。

 それに、なぜかここでは魔法の効きが良くて疲れない。

 全く問題無い。

 俺は大きくうなずいた。


「ありがとうございます。

 すぐに呼んできます。

 ちょっと待っててください」


 そうして正一は急いで部屋を出て行った。


 昨日と同じ魔法で良いのかな、でもそれだと芸が無いな、などと考えていると、しばらくして正一は戻ってきた。


「もうすぐ、二人の年寄りがやって来ます。

 実はこのあたりの名家というか実力者なんです。

 昨日、ユシウさんのことを相談したら、是非とも魔法が見たい、見せろという話になりまして。

 申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 この辺りのまとめ役とか親玉みたいなものだろう。

 買い物で毎日行っていた村の村長みたいなものだと想像した。

 そしてしばらくして貫録ある二人の年寄りがやってきた。


「ユシウさんと申される方、すまぬが魔術とやらを見せてもらえるかな」


 二人の内の一人の年寄りが言った。


 俺はうなずくと、正一が差し出した小皿を受け取った。

 その上にはウメボシが一個乗っている。

 まずは梅干から塩を取り出す。

 抽出は一番簡単な錬金魔法だ。錬金魔法使いの弟子が一番最初に覚える魔法だ。

 俺がシギルから最初に習った錬金魔法でもある。

 ちなみに抽出の一段上の魔法が分離になる。

 抽出が塩水から塩を抜き出すようなものだとすると、分離は青銅を銅とスズに分けるようなものだ。


 抽出はもちろん成功して、ウメボシの横に塩の粒ができた。

 年寄り二人は驚きと疑いが混ざったような変な顔をしている。


「他にも何かできますか」


 と、もう一人の年寄りが言う。

 親玉にしては言葉遣いが丁寧だ。

 俺は心を静め小皿に魔法を掛ける。

 少しばかりの時が流れ、ウメボシを乗せた小皿がふわりと浮きあがった。

 成功だ。

 空間魔法の浮遊だ。


 空間魔法の使い手は普通なら最初に浮遊を覚える。

 俺の場合は事情があったので、最初に覚えたのは転移だった。

 最初は手に乗せた軽い物から始めて、だんだん重い物、自分の体へと練習していく。

 そして自分より重い物へと鍛錬していく


 調子に乗った俺は次に転移を見せた。

 瞬間的に部屋の端から端へ飛んでみせる


「うわぁ」


 転移を初めて見た正一が腰を抜かす。


 二人の親玉は口を開けてぽかんとしている。

 魔法を見るのは初めてのようだ。

 この世界というか、少なくともこの国には本当に魔法が無いようだ。



 二人の親玉が帰った後、俺は今までに覚えた魔法が使えるか一通り試すことにした。

 部屋と便所の往復しかしていないので、その二か所を空間連結してみた。

 これも成功だ。

 部屋と便所をつなげて部屋に居ながら小便ができた。

 これは便利なので、家でも良くやっていた。

 家の外で仕事をしている時に、いちいち便所に戻らなくて良い。

 転移で戻るよりも使う体力が少なくて済む。

 ただ気を付けないと、師匠が魔法に気付かず用を足しに来ておしっこでべちゃべちゃなんてことになる。


 探知もできた。

 正一、ハナの場所が分かる。

 錬金は材料が無いので試せなかったが、それ以外の試した魔法は上手くいった。

 それも前より楽にできる気がする。

 駄目なのは家への転移と空間連結、ツユアツの人間の探知だ。

 師匠やシギルの気配を探るが全く何も感じられない。


 原理はともかく、俺が異世界へ飛ばされたのは間違いなさそうだ。

 俺はこの先どうなるのだろうかという不安で一杯になる。

 右も左も分からない世界。

 すぐに殺されるということは無さそうだ。

 まあ、その時はいざとなると移転で逃げるが。


 俺は魔法の確認を続けることにした。

 正一に聞くと裏庭へ出ても良いということなので、庭石を持ち上げたり色々試す。

 分かったことは、元の世界でできたことは全てできる。

 しかも、元の世界よりも楽で早く効果が大きいということだ。

 そんなことが分かっても、今の状態の解決にはならない。

 そして、行く当てのない俺は、この日も正一の家に泊まることになった。


次回更新は明日2/9(火)19時予約投稿の予定です。

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