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<第四六章 秘密部隊>

 三人での話から十日ほどたった日、新聞に例の件に関する記事が載った。

 米国特派員から米国主要新聞に澎湖諸島に関する記事が載ったという内容だ。

 俺が盗み聞きしたこととほぼ同じことしか書かれていない。

 その翌日には日本の新聞にも関連記事が載った。

 一面大見出しではないが、一面と政治面に記事があり、そこそこ大きい扱いである。

 政府発表は米国の申し入れ内容を検討中となっている。

 また、翌日にも続報が載った。

 識者の意見は賛成と反対に分かれていて、新聞の論調としては反対という感じだ。

 その後、続報の扱いはだんだん小さくなり、そしていつしか載らなくなった。

 俺が気にしても仕方が無い。

 毅や政府の仕事だ。


 そうこうしているうちに慰安旅行は十月に熱海へ行くことになった。

 寒くも無いのに温泉は今一つだし、十二月になると何かと忙しくなる。

 加えて年末が近づくほど毅が忙しくなるということで、それならと十月になった。

 それにしても普段毅はどんな仕事をしているのだろう。

 元外交官なのに俺に関することに何かと関わっているが、他は何をしているのか。

 俺関係だけだと年末が忙しいというのが分からない。

 俺は一年中似たようなことをしているからだ。

 文書配達やどこかの研究の手伝いに季節はほとんど関係ない。

 それで毅が忙しい要素が無い。

 今度の旅行で酒を飲んだ時にでも聞いたみたいものだ。


 そして十月の第三土曜日熱海へ慰安旅行へ出発した。

 参加したのは俺とハナ、正一、次郎、毅に静子で予定通りの六人だ。

 このうち毅は明日の日曜で一旦東京へ戻り、来週の土曜日に再びやって来る。

 天気は日本晴れでとても気持ちが良く絶好の旅行日和だ。


「あぁ、いいお天気だ。これも俺の日頃の行いのおかげだな」

「そうかもしれませんね」

「もう少し秋が深まってからなら紅葉が見れたのにな。本当に残念だよ」

「そんな贅沢を言ったらバチが当たりますよ」

「どうせ行くなら、紅葉狩りの一つでもついでにしたいじゃないか」

「これもユシウさんが毎日お仕事を頑張ってくださってるから、私達がお供できるんです。

 行けるだけでありがたいと思わなくては」

「違うぞ、ハナ。

 今回はお前がケガをしたお詫びを兼ねての旅行なんだから、もっと大きい顔をしてもいいんだぞ」

「それなら兄さんはなおさら関係無いじゃないですか」


 俺は宮鳴兄妹の話を聞きながらウトウトしていた。

 自分でも気付かないだけで日頃の疲れが溜まっているのかもしれない。

 汽車の揺れが心地良くて俺はいつの間にかに寝てしまっていた。


 宿に着いたのは夕方近かった。

 そこは古くてこじんまりとして伝統を感じさせるところだった。

 古くても掃除が行き届いているので汚い感じはしない。

 なかなか居心地が良さそうだ。

 毅か教授か知らないが、良い宿を見つけたものだと感心した。

 俺達は一風呂浴びて垢を落としてから宴会を始めた。


 飲み始めてすぐに、毅が男性陣を集めた。


「酔う前に言っておくが、今回はあくまでも湯治が目的だ。

 夜の酒くらいは問題無いが、昼間っから飲んだり歓楽街へ繰り出してはいかんぞ。

 特に夜の街へは決して行かないように。

 もちろん芸者を呼ぶのも駄目だ。

 万が一のこともありうるからな。

 宿から極力出ないようにしてくれ。

 用事があれば宿の者が手配してくれるし、外に連絡を取りたいならここには電話がある。

 分かったな」


 先に毅に釘を刺されてしまった。

 実は俺と正一、次郎の三人で計画していたのだ。

 芸者を呼ぶのはハナと静子が居る手前よろしくない。

 そこで夜の街へ行こうと考えていた。


『男子たるもの、たまには遠征して腕を磨く必要があると思う』

『別府にもそういうところはある。となると熱海にも必ずある。

 場所は宿の主人に聞けば教えてくれるはず』


 などと話し合って楽しみにしていた。

 その夢を初日に壊してくれるとは、毅は罪深い男だ。

 男同士だから気持ちが分かるはずなのに。

 いや、男同士だから考えが筒抜けで先手を打たれたのだ。

 こうなったら、普通に温泉を楽しむしかないと男三人肩を落としてしまった。


 湯治といっても一日中温泉に浸かっているわけではない。

 宿の者によると入り過ぎは逆に体に悪いそうだ。

 温泉から出るとやることがないので、正一と将棋を指したり、本を読んだりしてのんびり過ごした。

 男三人は三日目ともなると退屈で早く帰りたいと考えていたが、ハナと静子の女二人は湯治を満喫しているようで途中で帰ろうとは言い出せなかった。


 暇を持て余した七日目に毅から知らせが来た。

 仕事の都合でどうしても翌日に熱海に来られないというのだ。

 毅は最初と最後と言っていたのに結局最初の二日しか参加しないことになる。

 俺達はこれは絶好の機会だと顔を見合わせた。


「行くか」

「いいですね」

「行きましょう」


 そして最後の夜、土曜日の晩に決行することになった。

 万が一毅に知られたとしても、翌日は東京へ戻るだけだ。

 旅行を途中で打ち切るとなっても何の影響もないのだ。


 土曜の夜、俺達は晩酌の量を控えた。

 飲み過ぎて、使い物にならなかったら意味が無い。

 それにハナが気が付いた。


「今日はお酒が進みませんね。

 最後の夜だから、もっと羽目を外すのかと思ってました」

「この一週間飲みっぱなしだからな。

 飲み疲れだよ。

 それに来週からまた仕事だろ。

 酒が残っててもいかんと思ってな、控えることにしたんだ」

「まあ、殊勝なこと。

 どういった風の吹き回しでしょう」


 正一にしては良く切り返したが、ハナには気付かれたかもしれない。

 それでも、俺達はやるしかない。

 食事を終えて俺達は早々に部屋に戻った。


 そして頃合いを見計らって部屋を抜け出し、宿の主人のところへ向かった。

 正一が代表で話を付ける。


「どうだ、分かったか」

「ばっちりですよ。

 少しばかりの気持ちを渡したら、すぐに教えてくれました。

 二時間ほど鍵を開けて待っててくれるそうです」

「でかした、正一。では行くか」

「行きましょう」


 音を立てずに宿を出たところで、先頭の次郎が足を止めた。


「待て」


 声が真剣だ。


「誰か居る」


 俺の頭の中に北海道の事件がよぎる。

 すると闇の中から一人の男が歩いてきた。

 男は敵意が無いことを示すためか両手を上に上げている。

 次郎は俺達を制し、懐へ手を差し込んだままその男へ向かった。

 そして、小声で何かを話し合った。

 その後、男はまた闇の中へ戻っていった。


「今夜は諦めよう」


 次郎がとても悔しそうに言った。


「あの男は何者ですか」

「俺の同業者だ」

「ということは」

「義雄の護衛だ。

 旅館の周囲を警戒しているそうだ。

 温籠さんの差し金だろう」


 ということで今回の旅行はただの温泉旅行で終わってしまった。

 やけになった俺達は主人に頼んで酒を運んでもらい、浴びるほど飲んで寝てしまった。

 翌朝二日酔いの俺達を見て、ハナと静子が不思議そうな顔をしていた。



 旅行の後、毅からしばらく連絡が無かった。

 旅行の恨みで嫌みの一つでも言ってやりたかったのに、それもできない。

 そして十一月になると、俺に外務省への呼び出しがかかった。


「行きません」


 俺は電話口で即座に断った。

 旅行の恨みをまだ忘れていないのだ。


「いやいや、今回は説明だけだ。

 他には何もない。

 ただ、ついでに会わせておきたい人が居るのだ」

「行きません。

 どうせ、新しい仕事の話でしょう」

「義雄君が考えているような話ではない。

 その男は義雄君専用部隊の隊長になる男だ」

「俺の専用部隊?」

「義雄君の力を最大限に使用するために新設された特別部隊だ。

 その辺のことも説明しようと思っている」


 専用部隊と言われては聞かないわけにはいかない。

 気になるし、変なことを勝手に決められては困る。

 俺に事前の相談も無しで、そんなことを勝手に始めないでほしい。


 俺が外務省へ行くと二か月前と同じ部屋へ通された。

 部屋には既に毅と教授が待ち構えていた。

 もうそれだけで二人が悪だくみをしているのだと思えてしまう。


「いやあ、毅君、また呼び出して悪かったね」


 毅が笑っていない顔で言う。


「温籠さん、教授、お久しぶりです」

「私は元気だよ。忙しすぎるのが困ったもんだが、これも国のため数学のためと粉骨砕身がんばっておるよ」


 前回の話以来で声を聞く教授はいつも通りに精気が満ち溢れている感じだ。

 本当に仕事に打ち込んでいるのだろう。

 ご苦労なことだ。


「それで、話というのは」


 嬉しくないことはさっさと終わらせてしまいたい。


「そうだな、この中で一番忙しい義雄君の時間を無駄にするわけにはいかんな。

 さっそく始めるとしよう」


 毅が嫌味っぽく聞こえることを言う。


「まずは、澎湖諸島に関する米英からの申し入れだが、我が国は条件付きでの了承を返答した。

 条件とは、ハワイ、シンガポールにも同様の地域を作ること。

 本国以外に植民地や属領も関税免除の対象にすること。

 行政権は該当地域を領する国が行使し、軍や警察の派遣は認めないこと。

 この三点だ。

 結果、交渉が長引いている。

 米国がわざと長引かせている感もある。

 そのほうが都合が良いのだろうな。

 おそらくこの話は条件の折り合いが付かず流れるだろう」

「私としては、条件次第では受けても良いと思ったのだがな」


 教授が予想外のことを発言した。


「どういうことですか」


 毅が聞き返す。


「君たちは米国の重油を恐れすぎている。

 重油の原価を計算する際に義雄君の魔法を考慮に入れてないだろう。

 魔法を有効に使うことでかなり費用を削減できる。

 あの後、計算してみたのだ。

 第一に満州の油田と本土の石油精製施設を魔法で連結し二点間に巨大な管を通す。

 この管を使って石油を輸送する」


 輸送まで魔法に頼らないで欲しいと口に出そうになったが、とりあえず最後まで話を聞くことにした。


「仮に満州と高度差無しで連結できた場合、国内で入手できる最大級のポンプを使うと一時間に百トンの石油を送れる。

 昼間に作業を行うのは機密保持面から問題があるとして、夜間に二時間、年間二百五十日輸送を行う。

 これで年間五万トン産出の油田が国内で発見されたのと同様の効果がある。

 ポンプや油送管の数を増やせばさらに輸送量を増やせる。

 あまり大規模にやり過ぎると、秘密漏洩の恐れもあるし諸外国が不審に思う。

 あくまでも原価低減の一環として一部に留めておいたほうが良いだろうな」

「たしかにおっしゃる通りですな。

 無料で瞬時に石油が送られてくるなら国内に油田があるも同然。

 費用面でかなり有利になる」


 悔しいことに教授の話にはいつも納得させられてしまう。

 それに、連結した空間に管を通す発想も無かった。

 元の世界でも聞いたことがない。

 ツユアツではそこまでして運びたいものが無かったというのもある。

 んっ?

 そこで気が付いた。


「俺は魔法を掛けっぱなしにできませんよ。

 飯も食うし、他にやることもある。もちろん睡眠も必要だし。

 魔法が消えたら、その管は切断されると思います」

「だから一日二時間限定で考えている。

 それに管は接合部分を取り外し可能にすれば良いだろう。

 毎日取り付け取り外しの手間はかかるが簡単な工事だ。

 何とかなるだろう」

「そのくらい簡単なものでしょうな」

「さらに言うと、改質魔法でできる石油製品の利益を重油に回せば米国産より安くなる可能性もある。

 そのためには、石油改質の魔法能力が上がり、また、満州の油田をもっと大規模に開発する必要はあるがな」

「それは国内の石油政策にも関わってきますから簡単にはいかないですよ。

 この短期間ではそこまで国内の意見をまとめることはできない。

 なんせ情報が入るのが遅かった」

「だが、義雄君のおかげでなんとか最悪の筋書は避けられ、引き分けに持ち込めた。

 それで良しとしようじゃないか」


 この人達はどれだけ俺を働かせようとしているのだろう。

 俺の能力は無限じゃないぞと言いたい。


「現在米国との関係はさらに冷え込み、英国との関係も悪化しつつある。

 米国の対日政策の大筋も分かったところで政界の重鎮の間で対外政策は党派を超えて一本化しようという話になった。

 そこで与野党、政府、軍部、元老、華族の代表者が集まって会議が行われた。

 これまで野党には義雄君の情報は伏せられていたから、全日本で今後のことを考えようということだ」

「野党まで巻き込むとは凄いですね」

「いつ政権が変わるか分からんからな。

 そのせいもあって揉めに揉めたよ」

「ああ、揉めたな。

 二十人からの人間の意見を一つにしようというのだから、簡単な話じゃない」

「揉めた原因の一つは、教授、あなたですよ」

「それは仕方ない。

 出席者全員、軍に関する知識が日露戦争で止まっている。

 あの大勝に引きずられ過ぎだ。

 特に海軍がひどい。

 自国の戦艦の運用方法も理解していない。それなのにいまだに大艦巨砲主義や艦隊決戦に固執している。

 あと十年か二十年で戦艦は無用の長物となるというのに」

「無用とまではいかないでしょう」

「無用が悪ければ、使い道が限定された金食い虫の厄介者といえば良いのか」


 教授の発言に毅がやれやれという表情だ。


「こっちは海軍の山口君にみっちり教えを受けて、何度も計算を重ねて検討し発言している。

 どだい無理な話なのだ。

 水平線のむこう何十キロも先の動く物体に弾を当てようなどと。

 確率論的にありえない」

「自分達が不利になることなのに山口大佐は良く教えてくれましたね」

「魔法が砲術の発展に役立つと勘違いしてホイホイ教えてくれたぞ」

「それなのに戦艦不要論を主張したんですよね。後で恨まれますよ」

「そこは抜かりない。

 これからは飛行機の時代だとみっちり諭してやった。

 山口君は飛行機で戦艦を沈められるなら、その方が安上がりだと目を輝かせていたぞ」


 教授の言うことが正しいのか俺には判断できない。

 山口大佐の人生が変な方向へ曲がってしまわないか心配だ。

 教授の悪口はさらに続く。


「駄目なのは陸軍も同じだ。

 ソ連を仮想敵としながら、実際にソ連が朝鮮に攻めてきたらどうやって守るのか。

 準備がほとんどできていない。

 これまた日本の兵力で朝鮮を守るなど無理な話なのだ」

「ひょっとして教授は軍のお偉いさんを前に今の話をしたんですか」

「ああ、口調は丁寧だが、さんざんこき下ろしてくれた」


 毅が教えてくれる。


「今でも命を狙われているのに、もっと危なくなるじゃないですか」

「そこが、教授のしたたかな所だ。

 延々自説を展開して飛行機の有効性を軍に認めさせた。

 何時間も付き合わされたこちらはたまったもんじゃなかったが」


 どんなことを話したのかちょっと聞いてみたい気もするが長くなりそうだ。

 機会があればかいつまんで説明してもらおう。


「まあ、そんな感じで揉めに揉めて話し合いは一回で終わらなかった。

 合計三回も行われた。

 最終的には総論賛成各論反対という感じで終わり、小異を捨てて大同につくことにはならなかった」

「その総論とは」

「今後十年間は富国強兵、堅忍不抜に徹するということだ。

 与野党間で対外政策は政争の論点にしないと互いに確認した」

「それなら良かったじゃないですか」

「その合意もいつまで持つのやら。

 本当に有効なのか、いささか疑問だがな」

「軍は納得したんですか」

「予算は現状維持。物価の上昇分だけ増額するということで納得させた。

 だが、使い方で揉めたがね。

 教授は航空関連の支出増大、陸軍は兵器の近代化と火力の充実を主張。

 海軍は航空関連の支出増大はおおむね納得したが、新型艦艇の研究は一歩も引きさがらなかった。

 この十年の間に軍縮条約が無効になったら対抗手段が無いと主張してな」

「米国に魔法使いは居ない。

 よって米国の戦艦が活躍することはない」


 教授が横から口を挟む。

 戦艦は海軍の象徴だ。

 それを無くすのは海軍の上層部が納得しても、下の者や国民が納得しないだろう。


「だが、全員で合意したこともある。

 それが秘密部隊の新設だ。

 少数精鋭による破壊工作部隊、それが義雄君の魔法を一番活かせるということだ。

 現代版の忍者というか隠密みたいなものだな。

 今日会わせたいというのが、その部隊の人間だ。

 まだ隊長しか決まっておらんが、いずれ隊員が選抜され、数十人規模の部隊が編成される」

「その部隊が俺専用ということですか」

「そうだ。義雄君の魔法で敵陣へ侵入し破壊工作を行い、跡を残さず撤収する」


 秘密部隊というのがかっこいい響きだ。


「今日は顔合わせで来てもらっている。

 呼んでくるから、しばらく待っていてくれ」


 そう言って毅が部屋を出ていった。

 俺は教授と二人残されたので、教授に話し掛けた。


「本当に大丈夫なんですか。

 あまり軍を怒らせるとまた命を狙われますよ」

「分かっておる。

 私もまだ死ぬわけにはいかんからな。

 十分気を付けておる。

 それに私にも護衛が付いている」


 教授と互いに近況を話していると、毅が一人の男を連れて戻ってきた。


「彼が部隊の長で山本少佐。仮名だ。本名は私も知らん」


 毅が紹介すると、男が軽く頭を下げた。

 背広を着ているが、服の上からでも屈強な体付きをしているのが分かる。

 顔は日に焼けて黒く、深いしわがある。

 現場一筋で生きてきたという感じだ。

 不敵な顔付きをしている。

 一癖も二癖もありそうな匂いがする。


「彼は本郷中佐の推薦だ。

 士官学校の出で優秀な男だが、上官にたてつくから出世が遅れているらしいぞ」


 山本中佐がニヤリと笑い、言った。


「日本中から一騎当千の命知らずを集めて世界最強の部隊を作りますよ」


 この男なら凄いことをやりそうだ。

 そんな気にさせる何かを持っている。


「くれぐれも私のことは秘密に願います」と俺が言うと、

「分かっております。

 隊員は全員身元調査を受け志願した兵で編成される予定です。

 私を含めて全員万が一の時の覚悟も済ませておきます」


 小声で教授に聞く。


「万が一の時の覚悟って何ですか」

「捕虜になるくらいなら自決するということだろう」


 せっかく本人に聞こえないように聞いたのに、教授が普通の声で返事するから山本少佐にも聞こえてしまった。


「上官に死ねと言われて、自分もそれ以外道が無いと思えば自決しますが、できれば自決はしたくないですな。

 自決するくらいなら敵を一人でも多く道づれにしてやりますよ」

「死ぬ覚悟ができてるのは結構。

 簡単に自決しないのも結構。

 命の大切さを分かっておる」

「命は一つですからね。大切に使わないと」


 山本少佐がまたニヤリと笑う。

 この教授と少佐は人の生き死にの話を平気でしている。

 二人は意外と気が合うのかもしれないと俺は思った。


次回はできれば4/23か24の土日に更新したいと思います。

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