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<第二五章 探査 後編>

「義雄君、実は問題が発覚したのだ」


 それは、教授と二回目の探査の打ち合わせをする日のことだった。

 教授はいつもと違って元気が無かった。


「どうしました」

「場所のな、特定がな……、できんのだ」


 教授が珍しく口ごもっている。


「何度も飛んだ。写真も撮った」

「それはそうなんだ。そうなんだが。

 写真を現像して、さあどこだとなったんだが、これがさっぱり分からん。

 写真には木ばっかり写っていて目標物が無いから、地図と見比べても場所が分からんのだ。

 せっかく苦労してもらったのに実際の鉱区との照合ができんかった。

 すまん。この通りだ」


 教授が頭を下げた。珍しいことだ。

 でも俺はそれほど気にならない。

 探査魔法の実践ができたのだからそれで良い。


「問題ありません」

「そう言ってくれると助かる。

 この件は私が何とかする。

 だがな、もう一つ問題があってな」

「何ですか」

「あの後、鉱山会社の人間と話したのだ。

 何か参考になるかと実際に掘る時の話を聞いておこうと思ってな。

 するとな、深さはどのくらいですかと聞かれたのだ。

 深さが分からないと掘るのが難しいと。

 私は深さのことをすっかり忘れていた。

 二次元で考えてしまっていた」


 あぁ、なるほど。

 確かに深さが分からないと難しそうだ。

 俺もすっかり忘れていた。


「これは私の勇み足だった。

 事前に鉱山会社の人間によく話を聞いておけば避けられた問題だ。

 場所さえ分かれば策が無いわけでもない。

 試掘すれば良いらしい。

 ただ、試掘と簡単に行ってもそれが道の無い山の中ということになると試掘も簡単じゃないそうだ。

 それで、相談なんだが探査の時に深さは分からないだろうか」

「難しいです」


 探査魔法の最大の欠点は距離が分からないことなのだ。

 探知のほうは方角と距離が分かるというか、だいたいの場所が頭に浮かぶ。

 それに比べて探査は方角しか分からない。

 なぜそうなっているのか分からない。

 大昔の大魔法時代に探査魔法を開発した人がそういう魔法を開発したからだ。

 では、ツユアツの人はどうやって深さを調べていたか。

 よくよく思い出してみると複数地点での観測という話だった気がする。

 その結果から三角関数を利用してだいたいの深さを求めていた。

 後は掘っている途中でも探査して、もう少し上とかいう感じで調整したらしい。

 俺はそのことを教授に説明した。


「ならば、だいたいの場所を調べるまでは空からやって、詳しい場所は現地へ出向いて再度探査すれば良いということだな。

 それなら何とかなる。

 新しい鉱山が見つかる数は少ないだろう。

 そう何度も現地へ行くわけではない。

 それに義雄君は転移が使えるしな。

 ちなみに、空から見た場所へも転移できるのか」

「多分できない。地上の景色と空から見た景色は違う」

「そうか、それは残念だ。

 だが、近くの知ったところまでは転移できるのだから、東京から汽車で行くのよりは簡単だな。

 よしそれでいこう」


 早くも教授が元気になっている。


「前回は急ぐあまりに計画がずさんだった。

 これまで順調に進んでいたので油断していた。

 今後気を付けるから、これからもよろしく頼むぞ」


 教授が握手を求めてきた。

 さっきまで落ち込んでいたのに、すっかりやる気を出していて俺は苦笑してしまう。

 でも、教授でも失敗することがあると分かったし落ち込む姿が見れたので、ちょっと良い気分になった。



 九月、二回目の探査実験が行われることとなった。

 場所は九州の串木野。今は閉山中の鉱山だ。


「今から行くところは、金、銀、銅、鉛、亜鉛、この五種類の内のどれかの鉱山だ。

 義雄君は探査でこれを当ててもらいたい。

 合わせて大川君には地図との照合作業をおこなってもらうのでよろしく」


 前回の探査で写真では場所が分からないということで、今回は地図と見比べながら探査を行うとなった。

 誰がやるかとなると教授か次郎しかいないが、軍隊経験がある(俺は知らなかった)ことから次郎がやることになった。

 それで次郎は離陸前からかなり緊張していた。

 今は山の峰と谷を書き込んだ地図を片手に必死になって窓の外を見ている。



「後十分か十五分で現地に着くぞ。用意はいいか」


 機長から現在地を聞いてきた教授が言った。

 次郎は返事をする余裕も無いのか窓の外をにらんだままだ。

 今回は観光と次郎の練習を兼ねて、福岡から阿蘇山を経由してずっと山沿いに飛んできている。

 おかげで凄い景色を見られて俺は少し機嫌が良かった。


 飛行機でもたまには良いことがあるな。よし、本番前に一回練習しておくか。

 そんな軽い気持ちで、普段ならしないのに俺は練習で探査魔法を掛けた。

 今回対象の五種類が目標だ。


 その瞬間、けっこう強い反応が返ってきた。

 なんだ、これは銀か、いや、金だ。

 金と銀の反応は似ているので間違いやすいが、これは金だ。

 しかも強い。


 すぐさま教授を呼ぶ


「教授、(きん)、金の反応、大きい、近い」

「何っ、金だと、どこだ」

「左、左、左前」

「左だな」


 教授が機長へ声を掛ける。


「機長、左だ、飛行機を少し左へ向けろ。予定変更だ。高度と速度をギリギリまで落とせ」


 飛行機が少し傾き向きを変える。

 同時にエンジン音が少しだけ小さくなる。


「もう少し、もう少しだけ、左」

「機長、もう少し左だ。大川ぁー、現在地の確認だぁ」


 教授が機長に指示しながら次郎へ怒鳴る。

 次郎は窓に顔をこすりつけながら外の景色を確認する。


「少し左…………、行き過ぎ、ほんの少し戻して、はい、そのまま……、そのまま、まっすぐ…………、近いっ。もうすぐ、来る、来る、来るっ、来たっ、ここ、ここです! あぁ、通り過ぎた」


 反応がだんだん小さくなっていく。

 突然の出来事が終わり緊張が解けて体中から力が抜けていく。


「大川君、場所は、ここはどこだ」

「えっと、人吉の南を抜けて、鉄道を越えましたから……、大口(おおくち)とかいう町の近くです」

「よし、分かった。義雄君、反応はどうだった」

「とても、強い」

「何、そうか。

 なら今日は予定を変更してここを重点的に探査してみよう」

「串木野は?」

「新しい鉱山が見つかるのなら串木野はどうでも良い。

 あそこは閉山中の場所だ。

 おーい、機長、逆戻りして同じところを飛んでくれ」


 教授が予定変更を伝えに行く。

 そして、その日は串木野行きを止めて、そこを詳しく調べることとなった。

 何度も飛んで場所を特定する。

 なおその場所は後で分かったが伊佐郡菱刈村という場所だった。



 菱刈探査から帰ってしばらくして教授が興奮しながらやってきた。


「義雄君、凄いことが分かったぞ。

 この前探査した場所、昔は金山だったらしい。

 これは現地へ行って確かめてみないといけないぞ。

 来週にでも行ってみようではないか。

 ひょっとしたら本当に金が出るかもしれんぞ」


 教授の興奮とは反対に俺は冷静だ。

 あれだけ強い反応があったのだからかなり有望な金鉱山のはずだ。

 それを信じてなかったとは少し悲しい。

 もう、これは金が出るまでやってやろう。

 俺は静かに闘志を燃やした。


 後日、俺達は再び菱刈へ向かった。

 向かうのは俺と教授と本郷中佐と松浦さん。

 本来なら毅に商工省の役人を紹介してもらい付いてきてもらうのが良い。

 鉱山は商工省の管轄だ。

 だが、毅が商工省に借りを作りたくないということで本郷中佐になった。

 陸軍なら地図も読めるし簡単な測量もできるし村の役人を黙らせることができるという訳だ。

 それに中佐なら恩着せがましいことは言わないだろうというのもある。

 本郷中佐なら話してもかまわないということで菱刈のいきさつを話すと、


「それは凄い。

 五条通殿は探鉱までできるのですか。

 それは良い話を聞きました」


 と、予想以上に話に食いついてきた。


「何が良いのですかな」と教授。

「いや、今は話せませんが、戻り次第参謀総長と相談してご連絡させていただきます。

 軍の情報は私の一存で勝手に漏らすわけにはいきませんので」


 駄目だ。これは絶対仕事が増えるやつだ。

 こういったことに関して俺の勘は当たるのだ。


「それは、楽しみに待つことにしましょう」


 教授がニヤリとした。



 現地での探査は少し大変だった。

 村の役場で案内人を用意させ(日当は教授が出した)、まずは昔の金山跡まで案内させる。

 そこからは、空から目星を付けたあたりまで道なき道を進む。

 松浦さんが先頭になり鉈で藪を切り開き、本郷中佐、俺、教授、次郎と続いていく。

 周りは笹、笹、笹、笹だらけだ。

 木々の間が笹で埋まっている。

 斜面でけもの道さえ無い所を進む。

 そして、適当なところで探査をする。

 それを磁石と歩測(歩数で距離を測る)と地図で場所を特定し鉱脈の方角を記録していく。

 これの繰り返しだ。


 その結果、鉱脈は帯状というかひも状にかなり長い距離つながっていることが分かった。


「義雄君、これは有望かもしれんぞ。

 だが、問題は鉱石の品質なのだ。

 鉱山会社の人間に聞いた話では、いくら鉱脈があっても含まれる金が少なければ採算が取れない。

 うちには義雄君が居るとはいえ、含有量が多いに越したことはない。

 義雄君の仕事をこれ以上増やすのは忍びないしな」

「えっ」


 俺は一仕事終えてすっかり気を抜いていたので驚いた。

 仕事が増える可能性もあるのか。

 馬鹿だった。また後から気付くとは。

 でもここは大丈夫なはずだ。

 俺抜きでもいけるはずだ。魔法を信じよう。


 この後は、毅の手に移ることになっている。

 関係各省と折衝し、資金を確保し、業者を選定し、試掘をして、開発するかの是非を判断する。

 俺は大丈夫だと確信しているが、教授はまだ不安そうだ。

 結果が分かるのは半年か一年先とのことなので、それまでのお楽しみだ。



 そして九月下旬から毎週一回飛行機での鉱山探査が行われることとなった。

 まずは東京から半径二百キロの範囲。次に大阪、福岡。

 これで福島、新潟から鹿児島までをだいたい調べられる。

 飛行場が整備されていない北海道、東北、沖縄、台湾、樺太は後回しで先に朝鮮半島の予定となっている。

 残ったところは飛行場整備後に行われることとなる。


 探査の日の俺の行動は、朝食後次郎と松浦さんの三人で各地の飛行場へ連結・転移する。

 地図を見るのは現役軍人である松浦さんのほうが上手いということで、菱刈の現地調査以来松浦さんに地図係をお願いしている。

 飛行場には既に飛行機が待っているので、それに乗って探査開始。

 昼には給油整備と昼食のため一旦飛行場へ戻る。

 昼から探査再開。

 夕方ようやく終わり帰宅となる。

 探査がある日は本当に疲れる。

 身も心もくたくただ。

 飛行機の移動時間を除いて四、五時間魔法を掛けっぱなしなのだ。

 途中甘い物で栄養補給するのが唯一の楽しみになっている。

 これはハナが毎回考えて持たせてくれる。

 羊羹、果物の缶詰、チョコレート、キャラメル等々。

 このおかげで俺はすっかり甘い物に目覚めてしまった。


次回更新は明日2/28(日)19時頃投稿の予定です。

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