表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/50

<第十八章 日常>

ちょっと今回は説明が多いです。すみません。

 旅行から帰ると俺の家が用意されていた。

 ホテルや船の暮らしに窮屈を感じていたので嬉しい。

 郊外にある一戸建てで周りは畑になっている。

 板塀で囲まれた家で小さな中庭がある。

 そこには大きな庭石が一つ置いてある。

 これは浮遊の練習に使えということか。

 ここに護衛の次郎と一緒に住むことになった。


 俺は半年前まで師匠と二人で暮らしていたのだ。

 男二人でも心配は無い。

 それに右隣の家に正一とハナの兄妹が住むことになっている。

 二人はこれからも俺の世話をしてくれるそうだ。


「世界一周もさせてもらったし、ここでユシウを見放すわけにはいかんだろう。

 乗りかかった船だ。ユシウの将来の目途が立つまで付き合うよ」と正一。

「兄ともどもよろしくお願いします」とハナ。


 その申し出をありがたく受けることにする。

 だが、あとで正一がこっそり教えてくれた。


「実家に帰るよりここでユシウの世話をした方が実入りが良いのだ。

 それに家で商売するより、こっちの方が楽だし面白そうだしな」


 これは聞かなかったことにしよう。



 しばらくすると俺の普段の生活が固まってきた。

 朝食の後は配達から始まる。

 まず自宅から外務省の俺専用の部屋へ転移する。

 そこには、在外公館あての書類が置いてあるので、それを持って各国を回る。

 行先はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、支那。

 支那はまだ首都南京へ行ってないので、代わりに上海へ飛ぶ。

 そこに書類を置き、日本宛の書類を持って帰る。

 慣れてきたので一か国一分少々で往復できる。

 全部回って十分もかからない。

 俺としては回る国をもっと増やしてくれてもかまわないのだが、秘密保持の為に制限しているのだ。

 それでもかなりの額の通信費とやらを削減できるそうだ。


 それから賢人会議指定の場所へ移動または転移して研究の手伝いをする。

 賢人会議とは俺をいかに効率良くこき使うかを考えている会だ。

 毅によると各勢力代表の偉い人達が集まって、ああでもないこうでもないと話し合っているそうだ。


「実を言うと義雄君の所属を巡ってもめてな。

 内務省は内務に関することだし、最初に報告を受けたのが傘下の神社局だということで優先権を主張した。

 宮内省は陛下のお言葉で義雄君は陛下の食客となった、だから我らが管轄するという。

 軍部は魔法は軍事利用が一番最適であると譲らない。

 結局、会議体を開いて義雄君にやってもらうことを決めることにしたのだ」

「そうですか」


 行先はたいていどこかの研究室で不純物の除去、特定物質の抽出や金属の融合を行うことが多い。

 俺の初級錬金術でもできる内容なので、それほど難しくない。


 昼には一旦家へ帰ってハナの用意している昼食を食べる。

 ホッと一息つく時間だ。


「東京は珍しいものがいっぱいです」


 とハナは美味しいものをいろいろ食べさせてくれる。


 昼食後は金鉱へ転移する。

 金の含有量が少なくなって廃坑になった場所だ。

 ここで低品位鉱から金の抽出をおこなう。

 俺が抽出すれば採算が取れるらしい。


 最初は一抱えほどの鉱石から一粒の金を取り出すのに、ウンウンうなって時間が掛かっていた。

 それも慣れるにしたがってどんどん早くなってきている。

 今ではトロッコ一杯の鉱石を処理するのも十秒足らずでできる。

 俺がレールの側に立っていると鉱石を満載したトロッコがガラガラと運ばれてくる。

 それに手を当て魔法を掛けると、ホワンと光って反対の手の平に金の粒ができる。


 ガラガラ、ホワン、ガラガラ、ホワン、ガラガラ、ホワン……。


 これを四時間もやるのだから、たまったもんじゃない。

 体力的にも精神的にもかなり疲れる。

 これも修行だと思い頑張っている。

 実際、日々実感できるほど魔法の腕が上がっている気がする。


 だが何と言おうが疲れるものは疲れる。

 何か役得が無いとやってられないので、俺は人の目を盗んで(きん)をちょろまかす。

 ほんの百分の一にも満たない量だ。

 それでも毎日のことになると結構な量になる。

 金は元の世界でも貴重品だったので帰ったら役に立つだろう。


 たまに金鉱の代わりにダイヤ製造のこともある。

 その日は当たりだ。

 炭をダイヤに変えるのは錬金魔法の初級なので俺も余裕でできる。

 ちょっと面倒なことに、似たようなダイヤばかり作ると色々問題があるそうだ。

 それで大きさや色や透明度を適当に変えながら作ることになる。

 それでも金の抽出よりはかなり楽だ。

 ちなみにダイヤはちょろまかしたりしてない。

 元の世界でダイヤはほとんど価値の無い石だったからだ。

 それにいつでも簡単に作れる。

 なのにこっちの世界ではかなり貴重だそうで小さな一粒で家族が一月は暮らせるというのだから驚きだ。


 午後の作業が終わると自宅に帰って夕食だ。

 夕食もハナが作ってくれてる。


「おかえりなさい。今日もご苦労様でした。

 ユシウさんは麺がお好きなので、山梨の"ほうとう"を習ってきました」


 とか


「今日は昼間暑かったので素麺にしてみました」


 と工夫して毎日違う物を出してくれる。

 本当にこの時が至福の一時だ。


 料理は俺の好みで麺類が多い。ツユアツの主食だ。

 一緒に塩漬け肉も食べたいのだが、東京では手に入らないみたいで残念だ。

 代わりに多少似ているハムや肉の缶詰、腸詰を出してくれたり生肉を焼いたり煮たりしてくれる。

 日本の人はあまり肉を食べないらしいので、とてもありがたい。


 ちなみに夕食は正一、次郎と一緒に取る。


 夕食の後もやる事が続く。

 静子の授業だ。

 この国の子供が八年かけて教わることをたった三年で詰め込むのだから、それは厳しい。

 しかも夕食後の時間だけでだ。

 ちょっと無理なのではと思う。

 だから最近の静子の口癖は


「予定より遅れています」


 になっている。

 二時間休み無しで一対一の授業をみっちり受けると、ハナにもらった元気を使い果たしてしまう。

 さらに静子は帰り際に追い打ちを掛けてくる。


「これが宿題です。明日までにお願いします。

 それでは、大変お疲れ様でした」


 と言って帰る。


 それからやっと入浴。

 この国に来て良かったことは毎日風呂に入れることだ。

 ツユアツでは湯をかぶることはあっても風呂に入ることは無かった。

 慣れるといいものだ。

 毎日王様気分を味わえる。

 もう風呂無しの生活は考えられないくらいだ。


 その後がようやく自由時間になる。

 独自の魔法の研究と練習をする。

 それと仕方なく静子の宿題もやる。


 魔法の目標は元の世界へ戻ること。

 師匠が何十年も研究したものをすぐに俺が見つけられるとは思ってない。

 かといって何もしなければ一生帰れない。

 幸いなことにこの世界には地力が満ちている。

 おそらく誰も魔法を使わないから減ることなく増え続けているのだろう。

 何しろ魔法発動の時間が短いので回数を重ねられるから効率は良い。

 魔法の腕が上がっていくのを実感できるのはとてもはげみになる。


 休みは週に一回、日曜日だけ。

 その日は大いに遊ぶ。

 俺、正一、次郎の三人で東京見物に行くことが多い。

 たまにハナも付いてくる。

 東京暮らしが長い次郎の案内で東京の名所を回る。

 新しいもの、珍しいものを見て、美味しいものを食べる。

 そして月に一回、独身男三人で大人の世界へ行く。


 俺としては月に二回でも良いと思う。

 ただ、次郎が


「上の人から月に一回にしておけと釘を刺されているんだ」


 というので月一にしている。

 今後の交渉条件にしよう。


 三人は文字通りの兄弟になったので以前よりも親しくなった。

 最初は堅物だった次郎ともとても仲良くなれた。

 次郎さん、義雄と呼び合う仲だ。

 元からそれほど年が離れていなかったし、気の良い男だから当然の成り行きだった。


 毅はというと月に何度か突然やって来る。

 そして、政府からの連絡を伝え(たいした内容ではない)、ついでに世界情勢など色々教えてくれる。


 俺に関する特別な会計のことも毅から聞いた。

 俺が稼いだり節約した金は一旦皇族資産となり、そこから会議の会計へ移される。

 俺や宮鳴兄妹の生活費・給金などはそこから支払われ、残りは会議の決定に従って使われたり将来の研究開発費として溜められる。


 世の中はかなりの不景気だが、俺は多少この国の役に立っているようだ。

 それもそうだろう。

 毎月約五十キロの金塊と無尽蔵のダイヤモンドが手にはいる訳だから。

 特に最初の頃はダイヤで荒稼ぎしたそうだ。

 俺が作り溜めたダイヤを市場に放出したのだ。

 ダイヤは当初外国から売りとほぼ全量の買いが入っていたが、しばらくするとそれは止まり、同時に大暴落が始まった。

 外国の企業が買い支えようとしたのだが、俺が作るダイヤの数の暴力に耐えきれなかったのだ。

 その企業は莫大な借金を残して倒産した。

 結果半年で国家予算の約二百分の一ものお金が手に入った。

 今ではダイヤは他の宝石より安いくらいの値段になっている。

 来年からはこうはいかないが今後も少ないながらも工業用ダイヤとして輸出するそうだ。


 金は毎月少しずつ生産量が増えている。

 俺の魔法が速すぎて採掘が間に合わなくなってきている。

 それで俺が行く金鉱を増やそうという話になっている。


 ちなみに次郎が移籍になった。

 俺達の護衛をするのは今まで通りだが所属が変わった。

 皇宮警察から警視庁の公衆安全課に移った。

 俺を警護したり、俺に関連する人の身辺調査、俺に接近しようとする人の調査を行う部署だ。

 もちろんそれは秘密のことで表向きは外国人犯罪を取り扱う専門部署となっている。


次回更新は多分明日2/21(日)19時頃投稿の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ