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<第十四章 飛行機>

 地図で台湾を確認すると、東京からだと宇佐より遠く倍以上離れている。

 毅はなぜか急いでいるみたいで、宇佐の実験の翌日に俺と毅は飛行機に乗っていた。


 初めて飛行機に乗る時には生きた心地がしなかった。


「そんな緊張するな。めったに落ちはせん」


 と毅は言ったが、それは無理ってものだ。

 まず、金属の乗り物が空を飛ぶことが信じられない。

 しかも魔法を使わず石油で飛ぶというのだ。

 原理が全く理解できない。


 飛び立つ時はものすごい速さで飛行機が動き出した。

 汽車よりも早い。

 未体験の速さだ。

 そして、飛ぶ瞬間、死んだと思った。

 股間がヒヤッとして、背中がゾクッとして、恐怖に体がすくんだ。

 だが、飛行機は落ちることなくどんどん上がっていく。

 窓から見える地上の景色がどんどん小さくなっていく。

 空高く上がって落ち着いたと思ったら、たまに揺れたりちょっと落ちたりして、その度に肝が冷えた。


 度重なる恐ろしさに疲れ切った頃、飛行機はようやく地上に着いた。

 離陸の時よりはましだったが、降りる途中も何度かフワフワしたりで怖いことに変わりなかった。

 そこで俺はようやく着いたと思い気を抜いていた。

 そうしたら毅がとんでもないことを言いだした。


「ここで次の飛行機に乗り換えるぞ」

「えっ、次。また飛行機。聞いてない」

「言ってなかったか。

 当たり前すぎて言ってなかったかもしれん。

 この飛行機は一度に台湾まで飛べんのだ。

 それで、途中で乗り換える必要がある。

 これでも、軍に無理を言って特別に乗せてもらっているのだ。

 贅沢を言ってはいかん」


 俺は引きずられるようにして飛行機に乗せられた。

 結局途中で二回乗り換え三回目の飛行でようやく台湾に着いた。

 その時はもう俺は疲れ果ててフラフラの状態だ。

 そんな俺の様子にはお構いなしで、すぐに車でとある建物へ連れていかれた。


「ここで連結と転移を試してもらう。

 場所は東京の義雄君が住んでいる部屋だ。

 向こうでは宮鳴君が待機している。

 よろしく頼む」


 こんなヘロヘロの状態で魔法が成功するかなと思う。

 それに俺が試したことのない距離だ。

 空間魔法に距離は関係ないという師匠の言葉を信じるしかない。

 疑いながら魔法を掛けると失敗することがある。

 絶対つながる、絶対つながると頭の中で念じながら魔法を練った。

 そして魔法を発動すると、連結の輪が現れ大きくなっていく。


 成功だ。

 輪の向こうにはいつもの部屋と正一が見える。

 一日もたってないのに少し懐かしく感じる。


 毅が輪をのぞき込む。


「おお、宮鳴君。そこは東京なんだな」

「はい、いつものホテルです」

「成功だ。いいぞ。すこぶるよろしい。

 義雄君、転移も試してみようじゃないか」


 なぜか毅の機嫌が良い。


 俺は念のためにその辺にあった椅子を輪の中に通してみる。

 少し高低差がある感じだが、このくらいなら問題無いだろう。

 俺は連結を閉じ、転移の魔法を唱えた。


 一瞬でいつもの部屋へ飛んだ。

 成功だ。

 体の疲れはほとんどない。


「本当に来たな。

 大丈夫だとは思っていたが、外地からとは驚きだな」


 転移を何度も見ている正一が感心している。

 すぐに転移して毅の元へ戻る。


「どうだ、義雄君。成功か」

「大丈夫です」

「体の調子はどうだ。疲れは無いか」

「大丈夫です」

「それはよろしい。いいぞ、いいぞ、素晴らしい。

 さっそく報告せねばならんな。

 よし、東京へ戻ろう。

 義雄君、すまんがもう一度東京とつなげてもらえるか。

 そのまま東京へ帰ろう。

 んんっ、義雄君、連結といいうのは義雄君自身も通れるものなのか」

「連結消す。私、転移する」

「おお、そうか、そうだな。義雄君は転移すれば問題無いな。

 では、義雄君、頼む」


 毅を東京へ送り、俺は転移で戻った。


「では私は報告へ行ってくる。

 今日はこれでお終いだ。

 疲れただろう。ゆっくり休んでくれたまえ。

 それでは、また明日」


 毅は急いで出ていった。

 とても嬉しそうだ。

 俺も師匠の言葉に間違いは無かったことが分かり嬉しい。



 翌日俺の部屋に六人が集まった。

 俺、正一、ハナ、毅、静子、次郎だ。


「以前言ったように世界一周旅行が決まった。

 出発は六日後だ。

 行くのはこの六人。三か月から四か月になる予定だ。

 詳しいことはまた連絡するので各自遺漏の無いよう準備をしてくれ」


 転移や連結は距離や緯度経度の制限はなさそうなので世界旅行へ行くことに決まったのだ。

 俺は国内で問題を起こし、ほとぼりが冷めるまで外国を回ることになった華族の放蕩息子を演じる。

 正一とハナは付き人、毅は父が外務省にゴリ押しで用意させた案内人兼通訳、静子は毅の付添人、次郎は五条通家が雇った用心棒。

 この役割で見物旅行を装う。


「先に言っておくが今回の旅行は遊びじゃない。

 目的は義雄君に各国にある在外公館の場所を覚えてもらうことだ。

 ついでとして各国の軍事基地もいくつか訪れる。

 これはあまり多く回り不審に思われてはいかんので、道すがらにありかつ重要な所だけだ」


 毅が皆を見回す。


「はい」


 誰も言わないので、俺が返事した。


「移動中義雄君には勉強をしてもらう。

 基礎教育と英語を静子に、歴史地理政治経済は私が、日常生活に関することは宮鳴君に頼む。

 時間割は国語を主にして残りの時間で残りをやるようにしよう。

 とりあえずしばらくやってみてから様子を見て、また考えようと思う」

「はい」

「何か質問はあるかね」

「あの、日常生活とは何を教えれば良いのでしょうか」


 正一が手を上げて聞いた。


「普通の日本人なら知っていること全てだ、と言いたいところだが、そう言われても困るだろう。

 まずは朝起きてから夜寝るまで一日の生活を思い出して日常の作法を教えてくれ。

 食事の作法、挨拶の仕方。

 時計の見方や家長制度なども教えた方がいいな。

 それが済んだら、暦を見ながら一年の行事を教えてくれ。

 義雄君が他人と話して不審に思われないようになって欲しいのだ」

「分かりました」

「義雄君は偶然か日本人とあまり変わらない顔立ちをしている。

 少し色が白いが華族の隠し子ならそれほどおかしくは無い。

 言葉さえ話せれば十分日本人で通じる」

「私は何を」


 今度は次郎が手を挙げた。


「好きに過ごしてもらってかまわんが、不審者がいないかたまにそれとなく見回ってくれればよい。

 何なら義雄君と一緒に勉強してもいいぞ。

 大川君は英語が話せんのだろう。

 これを機に覚えてみたらどうか

 出世につながるかもしれんぞ」

「はぁ……」

「宮鳴君も同じだ。空いた時間は好きに過ごしてくれ。

 ハナさんは面倒だが皆の身の回りの世話を頼む。

 といっても船では洗濯も掃除も配膳も必要が無いから、やることは少ないだろう。

 旅を楽しんでくれれば良い」


 俺には心配事が一つあるので聞いてみた。


「飛行機、ある?」

「心配するな。使うのは船と汽車だ。飛行機は使わない」


 それを聞いて安心した。

 もう飛行機に乗るのはこりごりだ。

 決めた。もう二度と飛行機には乗らない。

 そう俺は固く決心した。


次回更新は明日2/17(水)19時頃投稿の予定です。

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