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<第十一章 拝謁>

「しばらく、席を開けるのでここで休んでいて欲しい。

 お茶でも持ってこさせよう。

 また、後で戻る」


 そう言い残して男は部屋を出ていった。


「ユシウ殿、誰に魔法を見せたのだ」

「ナイカク? カクリョウ? 十人位」

「ということは総理大臣もいたのかな」

「そうかもしれん。ワシの考えていた以上に話が大きくなってしもうたようだ」

「それは御大が神社局へ知らせたからでしょう」

「魔法を使える人間がいるなんてこと、秘密にしておけるわけがないだろう。

 もし話が漏れたら、なぜ隠していたとワシが責められるぞ」

「こんなことなら見せる魔法をもっと考えておけばよかった。

 特に転移を見せるんじゃなかった」

「あれは凄いの。世の中を変える力があろうかと思う」


 途中運ばれてきたお茶とお菓子を取りながら老人と正一が話をする。


 一時間以上過ぎてから男が戻ってきた。

 そして我々を着席させて言った。


「待たせたな。今日は大変ご苦労だった。

 それで明日のことなんだが、ユシウ殿は天皇陛下に拝謁していただくことになった」


 正一と老人が固まる。


 ついに来た。

 王様に見せるのだ。

 都へ行くと聞いた時からひょっとしたらあるかもしれないとは思っていた。

 胸の鼓動が一気に早くなる。

 これは絶対に失敗が許されない。

 それに王様に見せてがっかりされるのはくやしい。

 今日やったのだけではなくて、もっと驚きそうなのもやったほうが良いだろう。

 簡単で見た目が分かりやすい錬金魔法と雑務魔法もやろうじゃないか。


「用意、お願いします」


 いつか見せてやろうと考えていた魔法がある。

 その為のものを男に用意してもらうことにした。



 翌日連れられて行った部屋の中には二十人ばかりの人が居た。

 昨日の魔法披露の時に居た人も居る。

 俺の反対側には半透明の幕みたいなものが降ろされていて、その奥に人が居ることがかろうじて分かる。

 多分、あの人が天皇陛下なのだろう。


 正一や宇佐の年寄りは天皇の前へ出ることが許されないらしく今日は一緒に来ていない。

 昨日みたいに宇佐に来たあの男が説明をするようだ。


 俺は緊張どころの状態ではなかった。

 もし粗相でもしたら正一の家は取り潰しになるのではないかと心配だし、緊張のし過ぎで力加減を間違えて魔法が失敗しないか不安で一杯だ。


「それでは、ユシウ殿、お願いします」


 おやっ、陛下の前では言葉遣いが丁寧なんだな。

 そんなことを考えたら、少し緊張が薄れてた。

 よしっ、やるぞ。

 そして、いつもみたいに魔法を始めた。


 今まで以上に丁寧に魔法を掛ける。

 抽出から始まり、浮遊、転移とここまではいつも通り。

 手が震えそうになるのを頑張って心を落ち着かせて成功させた。

 それで今日はここからが違う。


 俺が合図すると木炭が数本運ばれてきた。

 純度が高いものが良いのだが説明が難しかったので煙が少ないものを選んでもらった。


「これはご覧のとおり木炭です。

 この者によると高級な品ほど良い結果が出るということなので、煙の少ない備長炭を用意しました」


 男が説明する。

 それで俺は木炭へ念入りに魔法を掛ける。

 すると木炭が一瞬光った後、親指の先ほどのダイヤモンドに変わった。

 錬金魔法の変態だ。


「炭をダイヤに変える魔法です。どうぞ手に取ってお確かめください」


 炭をダイヤに変えるのは錬金術で初歩の魔法とされている。

 見た目が大きく変わり成功失敗が一目で分かるからだ。

 それで錬金術の初歩として学ばれる。

 だが用途が非常に限られていて、ダイヤモンドを作る時くらいしか使われない。


 ダイヤが出席者の間で回される。

 ちょっと白く濁っているが間違いなくダイヤだ。

 もっと手間を掛けて不純物を減らして整形したら、もう少し綺麗に輝いたものができる。

 今日は時間が限られているので、こんなものだろう。


「炭とダイヤはどちらも炭素からできており、状態を変えることで性質が大きく変わります」


 出席者はダイヤを光にかざしたり、叩いたりして確かめている。

 ほぉ、とか、んん、とか小声が聞こえてくる。

 次に運ばれてきたのは土が入った鉢だ。


「鉢の中には普通の土が入っており、その中に種が植えてあります」


 俺が魔法を掛けるとゆっくりと芽が出てきた。

 雑務魔法の成長だ。

 普通に種を撒くよりも発芽率が良いので広く使われる魔法である。

 俺もよく使っていた。


「種から芽を出す魔法です。

 季節に関係無く芽を出すことができるそうです。

 魔法は以上でございます」


 男が鉢を出席者へ回すのを見ながら、俺は体から力が抜けて行くのを感じていた。

 成功して本当に良かった。

 出席者達は小声で隣とひそひそ話をしている。


 その時、幕の向こうから声が聞こえた。


「我が国は――」


 この国の王が話し始めると一斉に全員が立ち上がり姿勢をただした。

 直立して話を聞いている。

 俺は突然のみんなの動きに慌てたが、とりあえず同じ姿勢になった。


「前年の世界的な不況により経済は厳しさを増し、民の暮らしも苦しくなっていると聞く。

 このままでは我が国の将来が危うい。

 世界の列強から遅れを取り差を付けられ始めている。

 大国に飲み込まれてしまうやもしれぬ。

 異国の方よ、どうか我々に手を貸してくれぬか。

 貴殿のその不思議な力で我が国を助けて欲しい。

 もちろん、貴方が元の世界へ戻る術を見つけるまでで良い。

 生活に不自由がないように計らうし、必要な物があれば用意しよう。

 十分な礼もする。

 なにとぞよろしく頼む」


 姿無き主の声に列席者一同が頭を垂れ、中には肩を震わせている者も居る。

 有無を言わせぬ空気が場を支配している。


「はい……」


 俺はそう言うしかなかった。

 ここで否定しようものなら即座に首をはねられそうな雰囲気だ。


 こうして俺はなし崩しでこの国の手助けをすることになってしまった。

 見も知らぬ俺を助けてくれた恩もあるし、他に行く当てもない。

 いざとなったら、正一とハナを抱えて転移で逃げてやる。

 そんな感じで俺は少し気楽に考えていた。

次回更新は明日2/14(日)19時予約投稿の予定です。

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