時の波
はい、第三話になります。
段々描写等がテキトーになってるように感じるかもしれませんが、これでも真面目に考えているつもりなんですよー!?
そこは皆様のお広い心で受け止めて頂けると幸いです。
今回の話は書きながら、「もし自分に娘が出来て、お嫁に行かれたら」と思いながら書いてみました。
霖之助の複雑な心情をわかり易く書いて見たつもりなのですが、伝わりにくかったらすみません。
「久しぶりだな、こーりん」
そう言って現れた金髪の女性。その正体は「魔理沙」だった。
僕は突然の事に驚きを隠せずに目を点にしていた。僕はチラッと魅魔の方を見ると、魅魔は眉間に皺を寄せて小刻みに震えていた。その表情は何かを恐れている様だった。
「ん? こーりん、どうしたんだ? 誰かそこにいるのか?」
魔理沙は不思議そうに僕の顔をのぞき込む。僕は慌てて魔理沙に言う。
「な、何言っているんだい? ここに君の師匠の魅魔が……」
僕は魅魔を指差しながら魔理沙に言う。すると、魔理沙は首を傾げながら言った。
「魅魔って誰だ?」
僕はその言葉に衝撃を受けた。その衝撃は今まで受けた事もない衝撃だった。まるで僕の身体より何十倍とある大きさの岩を身体全身で受け止めるのと同じくらいの衝撃だった。
僕の頭は珍しく混乱していた。
魔理沙が嘘をつくとも思えない。だが、僕には魅魔の姿が見えている。これは一体どういう事なのだろうか?
「まあ、そんなことよりさこーりん。大切な話があるんたぜ」
そう言って魔理沙は家の入口の扉を開けると、そこから里の人間と思われる格好をした爽やかな雰囲気を放つ青年が立っていた。
パッと見魔理沙と同い年め20代だろう。里の人男は僕を見るなり膝を地に着き、頭を深々と下げた。
「霖之助さん! 僕に魔理沙さんを下さい!」
どうしてなのか、僕は魔理沙が嫁に行かれてしまう事に余り衝撃を受けなかった。寧ろ、魔理沙が魅魔の存在を忘れてしまっている事の方が衝撃だった。
「魅魔……キミは……」
僕はどうして魔理沙が現れたのと同時に眉間に皺を寄せたのか察した気がした。もし僕の察した通りならば、なんて酷い事だろう。
魔理沙は過去の事、つまり僕と再会するまでの記憶が無いのかも知れない。だとすれば、魅魔の記憶がなくても理解できる。だとしたら、魔理沙はどうにやって僕の元へ帰ってきたのだと言うのだろうか?
僕の思考はぐるぐると駆け巡った。気が付くと僕は静かに頷いていた。
すると、里の男はたいそう嬉しそうに顔を上げた。
「ありがとうございます!」
どうやら、僕が頷いたのを「結婚してもいい」と解釈してしまった様で、目をキラキラさせて僕の姿を見る。
「いや、ちがっ──」
僕は遅れて誤解を問こうとするが、男は既にその気になっていて、僕の話を聞こうとはしない。僕は無性に腹が立って思わず髪の毛を掻き毟った。乱雑に掻き毟ったせいで髪の毛の何本かが指先に絡みつきブチブチッという音と共に抜ける。
何故なのか、僕は痛かった。心がなのか、身体なのか分からない。
「こーりん……今までサンキューな」
魔理沙は潤む瞳で僕に頭を下げる。どうやら魔理沙も誤解してる様で僕は魔理沙に誤解を問こうと説明しようとするが、僕の左肩にポンッと誰かの手が置かれた。勿論その手の持ち主は魅魔だ。
魅魔は静かに首を横に振った。
「霖之助……」
僕は歯を食いしばると同時に僕の心にどす黒い塊が浮き上がって来た。
けれど、何故かそのどす黒い塊は魔理沙を見ると少しだけ心の奥底に沈んで行った。
魔理沙は男の右腕に両腕を絡めながら満面の笑みを見せる。男も、不安な表情と喜びの表情の入り混じる複雑な表情をしていた。
そうか……魔理沙。
キミが、キミがそんなに幸せそうな顔をするから……
僕はそれ以上何も言わなかった。いや、それ以上言えなかった。
「魔理沙……後は君の好きにしなさい。君の人生だ」
その数分後、魔理沙と男は香霖堂を後にし彼らの帰るべき愛の巣へと帰って行った。
取り残された僕は溜息を着きながら眼鏡を外した。その瞬間、掛け時計の針が9時になったのを知らせる為に、ボオオォンと鈍い音が香霖堂に響き渡った。それと同時に僕の頬に一筋の涙が伝った。魔理沙達が居る間、僕は無意識の内に涙を堪えていた様だった。そして、魔理沙達が帰って気が緩んみ涙が零れてしまったのだ。
「くッ……ぅ…うう…うう……」
僕は必死に泣き叫びそうだったのを堪えていた。男だから、という訳ではない。近所迷惑になるからでもない。ただ単に、悔しかったのだ。自分の意志をハッキリと言えなかった自分が……。
その時だった。再び香霖堂の入口の扉がコンコンッと叩かれた。
僕は扉を開ける気になれず、居留守を使おうと考えた。しかし、僕の思考とは裏腹に魅魔が扉を開けてしまった。
僕は少しキレた口調で魅魔に言う。
「魅魔ッ! お前は一体何を考えているんだ!! 僕は今商売をする気にもならないし、人に会う気にもなれないのにッ! 何故扉を開けた!」
そう言うと、コツコツと足音わ立てながら紫色のワンピースを身に着けた女性……八雲紫が現れた。
紫は境界を操る力がある故に、よく僕の店に外の道具を売りに来たりお得意さまなのだ。
「魅魔、魔理沙の事はお気の毒でしたね」
紫は少し眉を下げながら言った。その瞬間、魅魔は目くじらを立てながら言った。
「そんな気休め聞きたくないッ! 私は……私は…ぅうぅ…」
魅魔の瞳から大粒の涙がボロボロと零れていた。その姿はまるで娘との別れを嘆き悲しむ母親の様な姿だった。
その姿を見て、紫はまるで僕達に言い聞かせる様に言った。
「魔理沙はもう少女ではない。時間の流れが、少女から一人の女性にしたのです」
僕は思わず呟き返した。
「時間の流れが……魔理沙を…女性に……」