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【短編・ネタ】世界は萌えとファンタジーで動いてる

作者: 倉橋雅弥

世界観は思いついたものの、ストーリーが浮かばなかったので単発ネタです。

 幻想が幻想でなくなってから、十年。今この世を動かすのは萌えとファンタジーだった。


 マンションの高層階には鴉天狗が宅配便の荷を運び、一反木綿が背に客を乗せて空飛ぶタクシーを営業し、競馬の代わりにドラゴンライダーによる空中レースが大人気。テレビをつければネコミミの美少女ばかりを集めたアイドルグループが画面を賑わせ、萌え美少女擬人化した神話の怪物のキャラクターグッズが店先に並ぶ。


 文字通り「世界が変わった」十年前には到底想像できなかったらしいが、今となっては当たり前の光景だ。


 もっとも、あの時には既に常識や価値観の固まった「大人」だった今の三十代以上の者たちは未だに違和感が拭えていないものの、そういうものだとある種の諦観が世に蔓延り、当時は子供だった二十代以下の若者は「ゲームやアニメが現実になった」とすんなりと「世界の変化」を受け入れた。

 逆に、それよりも年下の、生まれたときから「この世界」の子供たちにとっては、「変わる前の世界」が映像資料や親世代の話はあるが、実感としては想像できないらしい。


 俺たちの世代は両方を知っているが、当時は文字通り子供だったから、そんな世界に馴染んで、むしろ満喫して今の世界に「変わって」よかったとすら思っている。


 それはいい。それはいいんだが、帰宅部で学校からまっすぐ帰ってくると、部屋に不法侵入者が居た。


 寝転がり勝手にテレビを見ている後姿でもわかる長身で、黒髪の間から犬っぽいミミが突き出ている。

 見知った顔だが、なぜこいつがここにいる。


「何しに来た?というか、どうやって入った?」

「ん?ちょっとまったり休憩するために。ここのテレビデカいし。入る方法はほら、オレっていろいろできるから」


 悪びれる様子も無いイヌミミの男は、ランディル・ストルズ。見ての通り十年前に現れた「人間以外の存在」のひとりで、あの時の直後に知り合い、付き合いの長い腐れ縁ともいえる関係だ。

 多くの「人間以外の存在」が人間社会に溶け込んで生活しているように、ランディルも近所の大学に通っている。


 しかしそれはさておいて


「帰れ。ここは俺の部屋だ」

「おいおい。将来は義理の兄弟となるオレに対して随分な言葉じやないか」

「お。ついに姉貴の尻に敷かれる覚悟ができたのか?姉貴は見た目はそこそこだが中身はアレだから苦労すると思うが、祝福するぞ。というか、俺の部屋にいないで姉貴のとこに行けよ」


 こいつは同じ大学に通う姉貴に毎日言い寄られている。

 見た目だけならお似合いのふたりだが、弟の俺が言うのもナンだが、姉貴は中身が非常に残念な人だ。普段は面倒見がよく、明るく笑顔の似合う人なんだが、なにかでスイッチが入るともう駄目。ネガティブに陥って愚痴をこぼし、そこにアルコールが入ればさらに手が付けられない。というか近づきたくない。なにしろ、俺にも絡みながら「どうせ私はダメ女です~」と泣き言を言うようになって始末に困る。


 正直。見るに耐えん。

 はっきり言って、さっさとこのイヌミミ男が引き取ってくれないかと、常日頃から思っている。


 しかし、このイヌミミ男も、こいつはこいつで問題がある。


「アホか。誰が地雷女のカスミンだと言った?ぷりてぃーできゅーとな瑞希ちゃんに決まっているだろう」

「いっぺん死んどけ」


 思わず近くにあった分厚い本、某シミュレーションゲームの攻略本を投げつけたが、オレは悪くない。何しろ瑞希は俺の妹だが、まだ十四歳だ。

 それにしても姉貴は地雷扱いか。まあ、本性を知っていれば仕方がないか。


「なぜ攻撃するっ?さては貴様シスコンか!?」

「んなわけあるか。つーか、中学生に欲情するロリコン大学生に鉄槌を下すのは正常だ」


 瑞希自身もこのイヌミミ男には懐いているから、あと何年か経ってもこいつも瑞希も望むのなら好きにすればいいと思うが、大学生と中学生はいくらなんでもヤバいだろ。

 しかし、もしそれでこのイヌミミ男が瑞希とくっついたら、姉貴は完全に売れ残りだ。……不憫な。


 それにしても男のケモミミなんか誰得だ?こいつのは正確にはイヌミミというよりオオカミミミらしいが。


「つーか。おまえ、北欧系なんだっけ?」

「おう。俺はかのヴァナルガンド、フェンリルの系譜だ」

「って事は、おまえの祖先っつーかオリジナルを辿ればあのロキにたどり着くのか。なるほど。ならそのケッタイな性格も頷ける」

「かのトリックスターにして主神を害するために策謀を巡らす悪神をケッタイで済ませるか。この世に現出したオリジナルが聞けば大笑いするぞ」


 十年前に起きた「幻想事変」あるいは「ファンタズム・インパクト」と呼ばれる世界規模のあの大事件。知らないものは居ないだろう。なにしろ教科書にも大々的に載っている。


 グリニッジ標準時7月17日の午前4時34分。日本時間では同日午後1時34分に全世界で同時に発生したソレは最初は人類には「地震」として認識された。


 だが、揺れを感じたのは人間のみ。コップの水すら揺れず、建物への被害など何も起きない。被害といえるものは、揺れに驚いた人間が階段で足を踏み外したとか、ドライバーの急ブレーキや運転ミスによる交通事故によるものぐらいだった。

 体感で震度7を越えていたであろう揺れのわりには驚くべき事態だろう。


 いや、それ以前に「全世界が同時に揺れが感じられた」事、そして「物理的には何も起きていなかった」事。このふたつの事実に比べれば驚くようなものではないのかもしれない。


 しかし、それは「その後の世界」の「開幕ベル」でしかなかった。


 発生直後、すべての人間が揺れを感じたのに、観測機器になにも記録されていないという奇妙な事態に、情報収集を始めつつも混乱していた各国の政府や自治体の責任者たちのところに、いよいよ自分たち、あるいは報告者の正気度を疑うような情報が飛び込んできた。


 世界各地に今まで存在しなかったものが存在しているというのだ。

 それは、魔物や妖怪と言ったモンスターであり、多神教の神々であった。


 現代であればアニメやマンガの中の存在であり、古くは神話や伝説に描かれている、とにかく、ファンタジーでフィクションな幻想存在であるそれらが、現実に現れた。


 そんな報告を聞いた政府要人が、実際に窓の外を飛ぶバカでかい鳥や、ドラゴンにしか見えない「空飛ぶ爬虫類」などという生物学と物理学に真正面からケンカを売っている光景を実際に目にするまで、報告してきた部下に「さっきの揺れで頭を打ったのかね?」とか「残念だよ。君はもっと優秀だと思っていたのだが」などと言って本気に取り合わなかったのも仕方のない事だろう。


 もっとも、どんなに現実離れしていようとも事実は事実であった。


 その直後に起きた全世界規模でのパニックは言うまでも無いだろう。


 せっかく、世界同時の「揺れ」、後に「世界震」と呼ばれた現象でもビックリしてコケたり階段から落ちたほかには、交通事故ぐらいしか被害が出なかったというのに、魔物や妖怪、後に「幻想種」と総称される存在との接触で人的、物理的、経済的な被害はかつてない規模で発生する事になった。


 とある国では、なにを思ったのか「悪魔は滅ぼせー」と中世のようなことを宣言して幻想種を駆逐しようとして、返り討ちに遭って結果的に神話の被害を再現してしまったし、他には何を勘違いしたのか幻想種を政府の管理下に置こうとして大失敗して、逆に吸血種などの高い知性のある幻想種の支配地域になってしまった国や、無謀と言うかバチあたりというか多神教の神々を支配しようとして、実行前にその多神教の信者である国民からの反発で政府機構そのものが崩壊した国もある。

 あるいは、幻想種への対応どころか、混乱する国内の統治もできずに結果として無政府状態になって崩壊した国、挙句の果てには、幻想種や神々同士の縄張り争いに巻き込まれて崩壊どころか物理的に消滅した国まで存在する。


 世界全体での意見を総評すると「オーディンとロキのケンカ、イコール終末戦争」とか「インドの神々は歩く危険物格納庫」とか、そんな感じ。比喩でもなんでもなく本当の意味で「触らぬ神に祟りなし」ってところだな。


 もっとも、それらは極端な例で、大半の国は知性がありコミュニケーションが可能な種とは交渉したり、そんな彼らの協力も得て非知性種を保護区という名の広い檻に追い込んだりしてなんとか混乱を凌いでいた。


 ハッキリ言って、幻想種や神々と全面戦争なんかになったら人間が滅びるのは目に見えているので、ほどほどに混ざり合って社会を形成するぐらいで丁度良い。


 もちろん、幻想種や神々の支配下になった国や、今でも幻想種を相手にミサイルと魔法を打ち合っている国も少なくない。


 しかし、そんな状況になっても人間同士の戦争が無くならないというのは、いかにも人間らしい。

 つまるところ、「どこまでいっても人間の敵は人間」なのだろう。


 それはともかく、幻想事変の煽りで物理法則無視の連中が現れたために廃業してしまった物理学者の皆さんには同情できるが、論理的に魔法を研究する魔法学者に鞍替えした連中はたくましいと思う。


「それにしても、この国は一神教圏と比べて変わってるよな。ここまで人外に寛容なんて一神教の勢力圏じゃありえない」

「なにしろ大岩でも大木でも、ちょっとすごいものや不思議なものはなんでも敬って祭る文化だぜ?それに、他所では悪魔や魔物として討伐するようなモノをも畏れ祀って神にするほどだ。その結果が八百万(ヤオヨロズ)なんだろうけど、やっぱいろいろと他の文化圏とは感性が違うさ」


 ちなみにこの国では出雲に「八岐大蛇」が姿を現したときは本気で国を挙げての大騒ぎになったけど、なぜかすぐに擬人化美少女萌えキャラ「おろちちゃん」に姿を変えていた。


 正直わけがわからない。


 それでもすぐに関連グッズの商売が始まったから、商売人はたくましい。

 売り上げの二割の上納金で本人?が納得しているらしいし、上納金を誤魔化したり、無届で製造販売する「不正商品」の会社は祟りで責任者や発案者に不幸な事故が起きたりして会社は潰れるから、それほど混乱は起きなかった。


 ほかには、毎年十月に出雲で「八百万の神々」が神様サミットしてるし、マスコミは毎年それを生中継してる。

 やっぱりこの国は国際標準から比べると少しおかしいのかもしれない。平和的でいいと思うけど。


 もっとも、「ネコミミ少女は世界の宝です」とか「ドラゴンを調教してドラゴンライダーになる」とか非常に前向きな連中も「オタク文化」が根付いて居る地域を中心に世界中で多数確認されているが。

 かく言う俺も「幻想事変」の直後は、ゲームやアニメでしか見た事が無い存在が現実に存在することになって、当時は文字通り子供だったが、興奮し、無邪気にはしゃいたものだ。


 あれから十年経った今では、この国では他所では見られない密度と規模で人間と幻想種が入り混じって暮らしている。


 幻想種の分布と言うのは、神話や伝説の分布と重なっているらしく、日本には土着の妖怪が多いが、ゲームやアニメの影響でヨーロッパ圏のモンスターも多数居住、あるいは生息している。


 北欧あたりはリアルに「ラグナロク」の危機が数年前にあったらしいが、日本の妖怪と言うのは人を食い殺すような存在も少なくないが、愛すべきイタズラ者が多いのも人間が彼らを受け入れた理由のひとつだろう。

 もっとも、江戸時代から続くオタク文化的な感性は日本人に遺伝子レベルで染み付いているので、そういうものに対して恐怖よりも興味が優先されているという可能性も否定できない。おかげでオタク文化、特にゲームやコスプレ文化が一気に市民権を得てメジャーになったのは、なるべくしてなったという事なのだろう。


「というか、この国に現出した幻想種の大半がゆるキャラや萌えキャラ、挙句は美少女になってるのはなんなんだ?」

「そりゃ、そういう文化としか言えないな。ま、一番の要因はアニメやラノベ、ゲームだとは思うが」

「神話のあり様すら捻じ曲げて男神どころか凶悪な魔物すら萌え萌え擬人化美少女にするとは、オタク文化パねぇ。しかしその人外に寛容なこの国の文化や民族性はオレにとってもありがたいが」

「だからと言って、フェンリルの系譜に連なる人狼がロリコン野郎になるのはどうかと思うぞ」

「オレはロリコンじゃない。好きになった女が中学生だっただけだ」


 寝転がってネコミミアイドルが映っているテレビから視線を変えずに言い張るこのイヌミミだかオオカミミミだかの男はいろいろと手遅れだろう。こんなのが、かの悪神ロキの子供であるフェンリルから派生した存在だなんて、なにかが間違っている。


 ま、東欧由来の伝統的吸血鬼ともあろう者が、一目惚れした相手に「趣味じゃない」ってバッサリフラれたらストーカーになったっていう話も聞いた事がある。だからと言って、ロリコンもストーカーも褒められたことではないけどな。


 そういう意味では幻想種も人間とメンタル的にはあんまり変わらないのかもしれない。

 そしてこんな会話も、萌えとファンタジーが動かしている現代では、そんなに珍しいことではないのかもしれない。


この世界観で何か書きたいという人(億が一居たら)は活動報告の方にでも一言ください。基本的にはオッケーなので。

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