いつもきみのそばに・・・
これは、苺タルトが妄想で書いたものなので、事実とは全然違うことも書いてるに違いないのでご了承を。
妄想の世界ではなんでもありですから(笑)
名前や、劇団とかの名前も架空のものです!
いつもきみのそばに・・・
第一章 キズナ
いつもの朝・・・
いつもの街・・・
いつもの通学路・・・
いつもの教室・・・
毎日変わることのない学校生活。
私生活。
街の匂い。
赤い電車。
買い弁するコンビニ。
淡々と過ぎ行く時間。
友達と居てもつまらないとか、決してそうじゃない。
ただ・・・
なんとなく、退屈なんだ。
そして、いつもの・・・
「おはよー!聞いて聞いて!ビックニュース!」
朝からハイテンションなのは、元気娘“愛海”。
「おはよ、どうしたの?」
いつも聞き役、しっかり者の“千春”。
「おはぁ・・・」
某歌劇団の雑誌を見ながら、無愛想な返事をしたのは、“暁子”。
「うはのぉ〜・・・」
こちらも無愛想、朝から牛丼を食べているのは、この物語の主人公であろう、“舞輝”。
いつもの仲間・・・は、高校2年生。
「そんで?何よ、ビックニュースって。」
千春が聞いた。
「それがねぇ〜。」
愛海は、ニヤニヤしながらカバンから一枚の紙を取り出して、
「じゃ〜ん!こないだ、s-wingの番組に送ったうちらのダンスが、なんと!決勝大会まで残りましたぁ!」
と言って、満足気に机にと届いた通知を置いた。
その通知を見て、
「えーーーーーーーっ?」
と、3人は声を上げた。
「ま、まさか・・・」
暁子が言うと、愛海はニヤッと笑って
「生s-wingだよ!ねぇ、みんな行くよね?」
愛海の問いに、3人一斉に答えた。
暁子 「行くっ!」
千春 「あたしは・・・」
舞輝 「パス」
「・・・」
しばらく沈黙が流れた。
そして、愛海は何故か舞輝の胸ぐらを掴み、
「何で行かないって言うの(怒)行くって言いなさいよぉぉぉぉぉ!」
と言って、舞輝をブンブン振った。
「く、くるひぃ〜・・・はなひて〜・・・」
舞輝は、食べた吉牛を吐きそうだった。
それでも愛海は、「言えぇぇぇぇぇぇぇ〜」と、続ける。
「わかった!わかったから!行きます。」
と、舞輝は言った。
すると、さっきまでの怒り狂った愛海の顔が、ニコッとなり、
「わかればいいのよ。舞輝も行くって、こうなったら4人で行かないとね〜。」
と言った。
千春は舞輝と同様、渋々OKしたのだった。
いつもの教室・・・
いつもの仲間・・・
今日は、舞輝にとっていつもより新鮮な朝だった。
早速、放課後からダンスの練習は始まった。
愛海は、若干、スパルタである。
テレビに映るとなれば仕方ないだろう。
「覚えてないなんて言わせないわよっ!」
こんな調子。
舞輝は、少しだけ参加して、ダンススタジオに向った。
いつもの放課後・・・
舞輝は、ダンススタジオに通っている。
まもなくミュージカルのオーディションと、有名劇団の入団試験を控えて、ほぼ毎日通っているのだ。
本当なら収録に行ってる場合じゃない舞輝だが、
「最近、付き合い悪いぞ!」
と、愛海がむくれていた。
それに、ダンス漬けのほぼ1週間。
気晴らしになると思い、参加にOKしたのだ。
入団試験の倍率は20倍と言われている。
先生もかなり力が入っていた。
何枚あっても足りないレオタード、シューズ。
もう、何足トゥ・シューズを駄目にしたことか・・・。
そして足には肉刺。
一方、愛海の方は、帰宅して振り付けの見直しと調整をしていた。
愛海は、ダンス部部長。
文化祭や、地域のお祭り等に参加して、よく振り付けをする。
舞輝ほどダンス暦はないが、歌と踊りが大好きである。
これが、大ファンのs-wingの前で踊るとなれば、愛海の振り付けにも熱が入る。
最初で最後の大舞台!なんとしてでも成功させたい。
いろんな構成を考えながら、振り付けの調整は深夜まで続いた。
愛海が考えて考えて練った構成は、ダンス経験者の舞輝や自分と違って千春と暁子はほとんど経験がない。
覚えるスピード、技術的にも限界がある。
それを本人達はわかっているから、自ら後ろに引っ込み、踊りが小さくなってしまう。
前後が平等になるよう動きを入れ、2人が前にきてもプレッシャーにならないような振り付けを考えた。
愛海の良くしようと思う気持ちが、ひと波乱を起こそうとは思いもしなかった。
翌日。
舞輝が委員会で練習に遅れて行くと、
「もうあたしやんないっ!」
暁子の怒鳴る声がした。
慌てて教室に入ると、真っ赤な顔した暁子と、泣いている愛海、困り果てた千春がいた。
緊迫したムードの中、
「どーしたの?」
舞輝は千春に聞いた。
「それが・・・」
千春が事情を話そうとすると、
「愛海は自分が目立ちたいだけなのよ。あたしや千春が踊れないからって、ソロなんか入れちゃって。」
暁子は目に涙をいっぱいに溜めて言った。
愛海はただ泣くばかり。
「とりあえずさ、座って落ち着こう?」
舞輝は暁子を、千春は愛海を椅子に座らせ、舞輝達も座った。
舞輝は、愛海の振り付けノートを取り目を通した。
沈黙する教室・・・
舞輝は一通り目を通し終えると、
「愛海、伝えなきゃいけないことは、ちゃんと伝えないとわからないよ。」
舞輝は言った。
「ねぇ、暁子。」
「何。」
「もし、みんなにソロ入れたいって愛海が言ったらOKする?」
「・・・多分しない。」
暁子は言った。
「なんで?」
舞輝が聞くと、ムッとしたように口を尖らせて、
「だって、愛海や舞輝みたいに上手に踊れないもん。」
と言った。
「じゃ、千春もそう思う?」
「うん。」
千春は言った。
「だからあえて2人で踊るようになってんじゃない。」
「何言ってんのかわかんないよ。」
暁子は言った。
「愛海はね、今までの前後の入れ替えばかりじゃつまらないから、構成をいろいろ考えたの。
一人一人がs-wingに見てもらえるようにソロを入れたかったんだけど、暁子や千春が嫌がるんじゃないかって考えたの。
だから、二人でもめーいっぱい見てもらえるように、一人の持ち時間の倍を使って二人で踊ってもらうことにした。
プレッシャーかけるようで悪いけど、一番見られる大事な役ね。
ここで盛り上がって最後4人でサイコーのフィニッシュになるわけ!
一人より二人なら乗り切ってくれるって考えた結果なんだよ。
暁子がs-wingのこと大好きなのちゃんと考えて、フィニッシュは暁子と愛海が中央。あたしの見解は以上です。」
舞輝は軽くお辞儀をした。
「そうなの?愛海。」
暁子が聞いた。
「うん。」
愛海は小さい声で頷いた。
「そこまで考えていたとは思わなかった。」
暁子は俯いて言った。
「愛海はダンス部部長だよ?あたしなんかより振り付けや構成を考えるのは上手よ?」
舞輝は言った。
「ごめん・・・愛海。」
「ううん・・・私もごめん。」
愛海は言った。
「千春も納得?」
「あたしはみんなと踊れればいいから。」
千春は微笑んだ。
「よしっ!仲直り!」
舞輝に促されて、暁子と愛海は笑って握手をして仲直りをした。
毎日、少しでも時間があれば練習をした。
愛海の熱心な特訓は、たまに喧嘩に発展するものの、舞輝と千春の仲裁に入り練習を続けた。
ある休日、4人は原宿に来ていた。
「あんまりお金かけるわけにいかないし。」
本番に着る衣装の相談。
「例えば、オソロだけど、色違いでTシャツ買ってスパンコールのヘアゴムでウエスト絞ったり、中にロンT着てもいいと思う!両サイドに紐入れて絞ったり!」
暁子が案を出すと、一斉に拍手が沸いた。
「でも、今冬だよ・・・」
「だったら、メンズでロンT買えばいいんだよ!好きなように切っちゃえ♪」
暁子は、こういう服のリメイクが得意である。なんでもお洒落に着こなす凄腕の持ち主。
「賛成!」
全員一致で竹下通りを物色し始めた。
いいのがみつかり、暁子の提案でそのまま暁子の家に行ってリメイクすることになった。
暁子の家は、同じ神奈川だが東京寄り。
お菓子やらジュースやら買い込んで暁子の家に行った。
暁子の指導で買って来たロンTを破いたり、ミシンで縫ったり、それぞれのリメイク衣装が出来上がった。
準備は着々と進み、あっという間に収録の日となった。
収録当日。
舞輝は性格上、人は待っても待たせることは、舞輝のルールに反する。この日も、20分も前に到着していた。
吉牛でも行くかな・・・。
好物の吉牛を食べに歩き出すと、後ろからテンションの高いのに呼び止められた。
「舞輝ぃ〜!おはよっ!早いねぇ。気合いはいってんじゃん♪」
そぉ、愛海です。
低血圧の舞輝にはついていけない。
「あんたが早いのはs-wingに会える興奮から。どうせ、興奮して寝れなかったんじゃないの?あたしが早いのは、単にせっかちだから。あんたが一番知ってるでしょうが!」
舞輝は、言った。
「あはははははぁ〜。てか、楽しみだねぇ♪」
愛海のあまりにも高いテンションに、一緒にいるのが恥ずかしくなった舞輝は、「牛丼食べ行ってくるから。」と、愛海をおいて歩き出した。
「えぇ!待ってよぅ!」
愛海は慌てて追いかけた。
この二人、中学のときからの親友。家も近い。
なのに、なぜか行きだけは一緒に行かないのだ。
付き合いが4年以上になるのに未だに謎である。
千春と暁子は時間通りに到着し、揃ってテレビ局へ向った。
控え室に案内されると、すでに到着して準備に取り掛かっている決勝大会の出場者達がいた。
リハーサルもあるということで、緊張の面持ちで愛海達も仕度を始めた。
第二章 出会い
その頃、すでに楽屋入りしているs-wingの部屋では、台本に目を通し、決勝大会に残ったグループの投稿作品を再チェック。
これから愛海達のVTRを見るところだ。
「次は、あぁ、女子高生チームだよ。俺推薦の。」
と、言ったのはリーダーの廉。
「仲良し4人組だって!」
資料を見ながら解説中なのは、茶目っ気たっぷりの拓。
「おっ!ピッチピチだねぇ〜♪」
おっさんくさいのは、最年長の真人。
「なかなか揃ってていいじゃん!」
なんの個性もなく、いたって普通の青年、達弥。
今、一番人気のアイドルの素顔。
「自己紹介文読むよ!前列右の子が、リーダーの愛海ちゃん。ダンス部部長だって。後ろ右が、暁子ちゃんで、左が千春ちゃん。」
と、拓は読み上げた。すると廉が、
「ダンス経験ないんだろ?よく揃えてきたよ。」
と、感心。
「んで、このやたら動きのいい子は?」
真人が指差した。
「俺も気になるんだけど。」
達弥も言った。
「この子は、舞輝ちゃん。ダンス暦10年。」
と、拓は説明。
「どーりでいい動きしてるわけだ。」
達弥は興味深々。
なんとなく気になる・・・ダンスがうまいからかもしれない。
でも、この急に湧いた胸の違和感が、この後しばらくぶりの感情となって芽生える。
その頃、愛海達はリハーサルの順番一つ前になり、スタジオの端で待機していた。
前のグループのリハが終わると、愛海達が呼ばれた。
スタッフから細かな説明を聞く。
音出しの準備の間、各自ストレッチしたり、振りの練習をしたり・・・。
すると、最後にリハに入るs-wingがスタジオ入りしてきた。
愛海達にいち早く気づいたのは、若い子大好き真人。
「噂の女子高生じゃん♪」
と言って、愛海達に近づいていった。
誘導してきたスタッフが、
「s-wingが入りマース!」
と言ったので、ディレクターやスタッフ達が一斉に、おはようございます!と声をかけた。
もちろん、愛海達はs-wingに気づいた。
生s-wingに絶句の愛海と暁子。
そこにきて廉様スマイルで、「今日はよろしくね!」と、声をかけてきたのだ。
愛海と暁子は、今にも失神寸前で、
「よよよよよよよよよよ、よろしくお願いします!」
と、頭を下げた。
それを見て、廉はクスっと笑い、
「もっと肩の力抜いて。」
と、やさしく言った。
愛海の目は、間違いなく目がハートだったに違いない。
「ねぇ、この子動かないけど平気か?」
拓がしゃがみこんで言った。
千春が慌てて舞輝の体を揺さぶった。
「舞輝!・・・舞輝?・・・寝てる。」
千春が呆れて言った。
愛海が血相変えて、
「まぁ〜きぃ〜!起きなさい!」
と、怒鳴った。
すると、舞輝はムクっと起きて、
「ん?始まるの?」
と、言った。
「おはよ!ストレッチ、そんなに気持ちよかったんだね!」
と、拓は話しかけた。
「・・・はぁ。」
と、答えた舞輝に愛海は、
「はぁって・・・はぁ〜じゃないでしょ。」
と、怒鳴る。
そしてそれを千春がなだめる。
これがいつものパターンである。
怒る愛海を無視して、
「ねぇ、これいつ終わるの?お腹空いちゃった。」
と、千春に聞いた。
すると、廉が、
「夕方くらいまでかかちゃうと思うよ。朝食べてこなかったの?」
と、言った。
「この子、さっき牛丼屋で特盛食べてたよ・・・。」
と、呆れた愛海が言った。
すると、今まで黙っていた達弥が「ぷっ!」と、吹き出した。
舞輝は不愉快そうに、
「なんですか?(怒)」
と、達弥を睨んだ。
「ごめん!悪気はないんだよ。」
と、弁解。
「そうは思えません!」
舞輝はむくれて言った。
何、この人・・・初対面で笑うなんて。
失礼しちゃう。
ディレクターさんが「はじめまーす!」と、言って舞輝たちのリハーサルは始まった。
曲が始まって踊り出す4人。
「あれ?レベルアップしてないか?」
拓が言った。
「あぁ。」
達弥はうわ言のような返事をした。
達弥は目が離れなくなっていた。
さっきなんとなく気になってた舞輝に。
ストレッチしたまま寝て、無関心、無愛想な舞輝が、曲に入るとその世界に入ってしまう。
いい顔しておどっているのだ。
指先や、何から何まで神経が行き届いていて丁寧なダンスに魅力を感じてしまった。
キレイだ・・・。
4人はs-wingの歌のリハを見ることができた。
愛海と暁子は廉様に釘付け。
舞輝はs-wingをあまり知らない。
これを機にじっくり見とくかと、4人のダンスに見入っていた。
ルックス、歌、踊りと完璧な廉。
童顔な顔で軽快にブレイクダンスを踊る拓。
年を感じさせない真人のダンス。
特にかっこいいわけではない、サビをチョロっと歌うだけでなんのオーラも感じない達弥だけど、踊りがうまい。
群を抜いてうまかった。
体が柔らかいのだろう、ひとつひとつが確実なのだ。
すげ・・・。
舞輝の本心で出た言葉である。
そして、本番も無事に進行し、優勝は出来なかったものの、“気合い賞”をもらうことができた。誰よりも満足に違いないのは愛海だ。
収録後、愛海はとんでもない行動に出た。
「お疲れ様!」と、ゲストや出場者に声をかけるs-wingに、サインと握手をお願いしに行ったのだ。
愛海に気づいた廉が、
「お疲れ様、楽しかった?」
と、話しかけてきた。
愛海は緊張しながらも、
「あの・・サインと握手してもらえませんか?」
だめもとで聞いてみた。
祈るように返事を待つと、快く「いいよ!」と、言ってくれた。
そして、「そうだ!」と愛海の耳元に近づき、
「この後、一緒に食事でもしない?18時に***ってお店で待ってるからみんなでおいでよ。」
と、言われたのだった。
「はい!」と、愛海は即答してペコリと頭を下げスタジオを出た。
テレビ局の前。
ここでさっきの件について話し合いが始まった。
「サインが食事にまでなるなんて・・・。」
と、千春は心配そうに言った。
「もち行くでしょ?」
興奮気味の暁子が言った。愛海もノリノリだ。
「確かに、あたしたちにもあとでねっていってたけど・・・。」
と、千春。
「行くだけ行ってみれば?」
と言ったのは、舞輝。
それでみんなも納得した。
「じゃぁ、決まったことであたしは帰るよ。」
と、駅に向って歩き出した。
すると、腕を掴まれ、
「ダメよ。」
と、愛海が言った。
「なんで?行きたいのだけでいってきなよ。」
と、舞輝は言った。
「みんなできてって、廉君が言ってたもん。」
むくれた顔で愛海は抗議した。
「あたし、舞輝がくるから賛成したの。この二人、かなり乗り気だから興奮してなにやらかすかわからない。アイドルの誘いだよ、のこのこついてっていいもんか・・・。だから、舞輝みたいに冷たい目でみれる人が付いていたほうがいいと思うの。」
と千春は言った。
横で、愛海と暁子が「そうだ!そうだ!」と、言う。
「あのさ・・・真剣な目で結構傷つくこと言ってるよね。」
と、むくれた。
「なんかあったときに、冷静に行動できるの舞輝だけだから、あたしたちだけにしないで?ね!」
千春は真剣な目で懇願してきた。
若干、さっきの言葉が後味悪いが、友達思いの千春に胸を打たれ(?)
「わかった。行くよ。たくさんいたほうが安全だもんね。」
と、OKしたのだ。
3人は舞輝に「ありがとう!舞輝ぃ〜♪」と言って抱きついた。
なんだかんだ付き合ってしまうんだな・・・あたし。
舞輝はちょっとため息交じりで微笑んだ。
まだ約束の時間まで余裕のあった4人は、プリクラを撮ったりして時間を潰して、待ち合わせのお店へ行った。
そこは、高そうなお店だった。高校生のお財布ではとても入れない・・・4人は誰一人として前に進むことができなかった。
呆然としていると、店から廉が出てきた。
「なんだ、来てたんじゃん!入りなよ。」
と、迎え入れてくれた。
すると、千春前に出て、
「あたしたち、そんなにお金持ってないんです、今日はこれで失礼します。」
と、しっかりした口調で言った。舞輝はさすが!と、心の中で拍手をしていた。
廉はにっこり笑って
「誘ったのはこっちだから、ごちそうするよ!」
と言った。
安堵の4人は、お店に入っていくとそこは綺麗な焼肉屋さん。座敷になっている個室に入ると、他のメンバーが「待ってたよ!」と、迎えてくれた。
席に着き、廉が
「ごめんな、俺の安易なひらめきで誘っちゃったから、緊張させたよな?」
と、謝ってきた。
「いえ!とんでもないです、嬉しかったですから。」
と、愛海は慌てて言った。
「安心してな!俺ら今夜は飲まないからさ。そろそろ注文しようか。」
と、廉が言った。
ソフトドリンクで乾杯し、食事が始まった。
話しは廉から切り出す。
「昔っから仲がいいの?」
廉の質問に答えるのはもちろん廉様命の愛海。
「高校に入ってからの親友です!」
「愛海ちゃんがムードメーカーだね!」得意の廉様スマイルで言った。
「そんなこと・・・」
愛海はテレながら言った。
愛海はふと視界に入った達弥のみつめる先を見た。
舞輝・・・。
黙々と食べ続ける舞輝をにこにこしながら見ているのだ。
「ちょっと、舞輝。さっきから黙々と食べてるけど、話し入ってきなさいよ(怒)」
愛海は言った。
舞輝は手を止めることなく、
「あんた、何年友達やってんのよ。あたしが食べ始めたらしゃべんないの知ってんでしょ。」
と、言い返した。
するとすかさず廉が、
「何年友達やってんの?」
と、聞いてきたから愛海は舞輝に突っかかるのをやめて廉との会話に戻った。
「やっとご飯食べれたね!おいしい?」
と、達弥が舞輝に話しかけた。
舞輝はさっきの事をまだ根にもっていたのか、
「ほっといてください。」
冷たく返した。
愛海は「舞輝!」と睨んだが、シカト。
一方、冷たくされてもにこにこしている達弥。
達弥は舞輝に気がある!と愛海は思った。
食事も済んでひと段落したとこで、廉が中庭に出ようと持ちかけ、みんなで出てみることにした。
舞輝はみんなと離れて、二階の中庭を一望できるベンチに腰掛けた。
舞輝は日本庭園や、寺を見たりするのが好きなのである。
廉と愛海が仲良く散歩している。
廉のお目にかかったとみた。
よかったね、愛海。
ボケッとしていると、「隣。いいですか?」と、声をかけられた。
振り返ると、達弥が立っていた。
断る理由もなかった舞輝は、
「どうぞ。」
と言った。
「つまらない?」
達弥は舞輝を見て言った。
「ううん、つまんなくない。」
「そっか、ならいいんだ。一人でいるからつまらないのかと思って。」
少し安心したような顔で言った。
少しだけ沈黙があった。
「あたしね、好きなの。風景が。寺巡りとか、海眺めるのとか。」
舞輝が話しだした。
「そうなんだ!よく出かけるの?」
「ダンスが忙しくてなかなか・・・だから、気使わないで、いつもこんなんよ。愛海達もよくわかってる。戻って。」
舞輝は言った。
「舞輝ちゃんがよければここに居たいんだけど、ダメ?」
と言う。
達弥の予想もしない返答に舞輝は面食らった。
「いいですけど、物好きなんですね。」
と言った。
達弥は苦笑いで、
「そうかも。」
と言った。
「今度・・・一緒に連れてってくれないか?舞輝ちゃんの好きな場所。」
と、続けた。
「結構、軽いんですね。」
真顔で舞輝は言った。
「素直な気持ちはちゃんと言わないと。舞輝ちゃんにまた会いたいって。」
「やっぱし物好き。」
舞輝は言った。
大人の男の人ってこんなもんなのかしら?
舞輝は思った。
でも、舞輝の心臓は意味不明の速さで鼓動を打っていた。
結局舞輝は、達弥の押しに負けてケータイの番号とアドレスを交換したのだった。
体が冷えてきた二人は部屋に戻った。
お店を出て、この日は解散となった。
帰り道、舞輝と愛海は家が近いことから、廉とのことを延々聞かされるのだった。
第三章挑戦
翌日、愛海が珍しく遅刻をしてきた。
「どうしたの?遅刻なんて珍しいじゃない。」
千春が心配そうに駆け寄った。
「うん、廉くんと朝まで電話してたの。」
欠伸をしながら机にカバンを置いた。
「ふ〜ん」と、3人は言って、「えーーーーーー?」と、叫んだ。
「あたしたち、結構遅くまで話してたよね?あの後電話したってこと?呆れた・・・。」
と、舞輝が言った。
すると、愛海がニヤけて、
「舞輝だって、達弥さんといい感じのくせに。」
と、言った。
さっきよりも絶叫の千春と暁子。
「番号交換したんだって!」
愛海は続けた。
「ま、舞輝が?男の人に番号・・・」
一番びっくりしているのは千春。
「そんで、メールきたの?」
愛海が聞いた。
「うん、無事に帰れたかって。」
「それで?」
千春と暁子が机に身を乗り出して聞いてくる。
「帰れたから、おやすみなさいって返したけど。」
「それだけ?」愛海が聞くと、「うん。」と答える舞輝。
千春と暁子は満足でないのか、「えー!」とブーイング。
舞輝はちょっとイラっときて、
「だから、それだけ!って言ってるじゃん。」
と、答えた。
「つまんないメール。」
暁子がむくれて言った。
「いや、舞輝がメール返しただけでも違う!教えただけでも奇跡!」
と、千春が目を輝かせて言った。
「どーゆー意味よ?」
と、舞輝はむくれた。
「舞輝の人見知りは最強よ。」
と、千春は言った。
「これを機に男嫌いが治るといいね。」
と、愛海は言った。
「え、舞輝って人見知りな上、男嫌いなの?かわいそう・・・。頑張れ!」
暁子が意味不明なエールを送った。
「ご心配ありがと(怒)」
舞輝は言った。
翌日から、舞輝は学校を休んでオーディションと入団試験のために稽古に励んだ。
達弥からのメールは頻繁にくるようになり、たわいもない内容のメールは、舞輝の警戒心を解いていった。
もっとも、疲れて返事はままならなかったが。
この週末は、ミュージカルのオーディション。
歌、演技などの試験を受け、見事に合格し役をもらうことができた。
次の週は、入団試験。
人気のあるTMC(東京ミュージカルカンパニー)という劇団。
倍率も高く厳しい試験となったが、なんとか合格できた。
この合格は、すなわち別れを意味する。
合格者は、TMA(東京ミュージカルアカデミー)で寮生活をしながら団員を目指しレッスンを受ける。
舞輝は学校を止めなければならない。
愛海たちは、なんて言うかな・・・。
笑いの絶えない友達といて、何が退屈なんだろうか・・・。
舞輝は、今の学校にうんざりしていた。
女子高とは、グループ社会。
必ずリーダー的存在と、その子を取り巻く仲間がいる。
なんの権限もないのに、自分の思い通りにならないことや、少しでも流行遅れの格好をすれば、たちまち彼女たちの悪口の対象となる。
ダンスができるだけで言われたこともあった。
愛海は持ち前の明るさで誰とでも仲良くできて、ダンス部を立ち上げたのも愛海だ。
学祭で踊ったりしてみんなは知っているが、舞輝のように、小さい頃から外で習ってやってたりすると、ひょんなことから踊れるとわかると、「踊れるからって〜」と、言われてしまう。
都合のいいときだけ「みんなで力合わせてやろうよ!」と言ったり、かかわりたくなくて避けると「お願い〜」と言う。
仕方なく引き受けていざ始まると、「できる人はいいよねぇ〜」と言われる。
リーダーが言えば、私達もそうなんだと自分の意思完全に無視状態。
違うと言えば仲間はずれにされるから。
こんな毎日に嫌気がさし、無駄な時間をダンスに使いたくて卒業まで待たずに入団試験を受け続けた。
愛海達に不満があるわけじゃない。
ただ・・・このままがいやだった。
2回目にして受かった自分の夢への第一歩。
絶対に逃したくはない。
舞輝が学校に来なくなって2週間が経った。
週明けの昼休み。
「舞輝、来ないね。」
心配そうに千春が言った。
「連絡もとれないし、何やってんだろ。」
愛海も続いた。
「家に行ってみた?」
暁子が愛海に聞いた。
「毎日は行かないんだけど、たまに寄ると、ダンス行ってるって。」
「そっか、じゃぁ生きてるんだ!」
暁子はホッと肩をなでおろし言った。
千春がハッとして、
「まさか、あの時舞輝が男にメアド教えたのは奇跡だって言って、みんなで大騒ぎしたときのことで怒ってたりして?」
途端に不安になってきた千春。
「まさかぁ!・・かなぁ?愛海ぃ〜」
暁子まで不安になってきた。
「違うと思うよ。もっとも、食べすぎで倒れてるんじゃないの?」
と、愛海は笑って言った。
「誰が食べ過ぎだって?」
聞き覚えのある声に3人は振り返ると、舞輝が立っていたのである。
相変わらず牛丼を持って。
3人は「舞輝ぃ〜!」と、声をあげた。
舞輝はシカトして自分の席に座ると、吉牛の特盛を食べ始めた。
「ちょっと、久々に来てそれはないんじゃない?今まで何してたのよ!」
と、愛海が言った。
「食べ過ぎて倒れてたの。」
舞輝は吉牛をほおばりながら言った。
「もう!舞輝は。冗談に決まってるでしょ。」
愛海はむくれて言った。
「ちょっとね、ダンスに打ち込んでたの。オーディションがあってさ。」
「そうだったの!で、結果は?」
暁子が聞いた。
「合格。夏の公演に出る。」
舞輝は真顔でVサインした。
「やったじゃん!おめでとう!」
3人はとても喜んでくれた。
「ありがと。見に来てね。」
舞輝は言って、それ以上は話さなかった。
TMAのことはもう少し後に話そう・・・。
牛丼を食べ終えた舞輝は、
「次、英語?あたし寝るね。」舞輝は机に伏せってしまった。
すると、誰かのケータイが鳴り出した。
「うっさい(怒)」
舞輝が言うと、愛海が「私だ!」と言って、電話に出た。
【もしもし?愛海ちゃん?】
「もしもし!どうしたんですか?こんな時間に廉くんから電話してくるなんて。」
【今日、仕事で愛海ちゃん達の学校のそばまで来てたんだ。授業終わったらドライブにでも行かない?】
「近くにいるんですか?」
愛海が聞くと、
【外みてごらん】
愛海は猛ダッシュで廊下に出た。
すると塀に横付けしたワンボックスカーから廉が手を振っていた。
【学校終わったらみんなで出ておいでよ!】
と、廉が言うと、愛海は
「あとでと言わず、今から行きます!」
と、言って電話を切り教室に戻って千春たちに小声で話し出した。
「ねぇ、廉くんが着てるの!ドライブ行こうって、行こうよ!」
「え?今から?授業は?」
と、千春は聞いた。
「一分でも長くいたいじゃん♪」
と、愛海。
暁子は行く気満々で、すでに準備を始めていた。
愛海は舞輝にも同じことを話した。
すると舞輝は、
「いってらっしゃい」
と、寝ぼけた声で手を振った。
「あんたもくるの!(怒)」
と、言って愛海は舞輝を無理矢理引っ張ってった。
「ちょっと(怒)まだきたばかりなんだけど!」
と、舞輝は抵抗したが愛海は動じない。
引っ張られるまま廉の車に乗り込むのだった。
出発した車中で、廉は心配そうに、
「大丈夫なのか?出てきちゃって。」
と、聞いた。
「はぃ!うちら結構優秀なんです、ねぇ?舞輝。」
と、愛海は調子よく答えた。
舞輝はシカト。
「機嫌悪いの?」
と、達弥が心配そうに聞いてきた。
舞輝は
「こいつが無理矢理…∞∴♂%#&*@″℃」
言おうとして愛海はすかさず舞輝の口をふさいだ。
「寝起き悪いんですよ、気にしないでくださいね♪」
と、答えた。
一時間のドライブで着いた所は海浜公園。
各々にバラけて散歩をしたり海で遊んだり。
舞輝は石段に腰をおろし海を眺めていた。
向こうで千春が「こっちおいでよ〜!」と言っているのを手を振って返す。
今日はとてもいい天気で子ども連れで散歩してたり、カップルがイチャついてたり。
冬の海は澄んでて空気もおいしい。
寒くなければもっとぃぃのに!
舞輝は夏より冬の方が好きなのだ。
はたから見れば、ボォ〜っとしているように見えるが、実はこうすることで舞輝の心も頭もリセットされている。
だから、風景が好きなのかもしれない。
ほっぺたに温かいものが当たった。
見上げると、達弥がココアを持って立っていた。
「横、いい?」
「どうぞ。」
舞輝は少しずれてあげた。
「ホントに好きなんだね!眺めているのが。」
ココアを渡しながら達弥は言った。
「うん、スッキリするの、頭も心もリセットされてるような気がして。いただきます。」
と言ってココアを一口飲んだ。
「あったかぁい。」
舞輝はこんなにおいしいもんかと思った。
視線を感じて横を見ると、達弥が微笑んでいた。
舞輝はパッと顔を正面に戻した。
ヤダ・・・何、顔熱くなってんの?
向こうでは、何やら鬼ごっこが始まっていた。みんなキャッキャッ言いながら走り回っている。
「ねぇ、ホントにあたしのことは気にしなくていいから行って?」
舞輝は言った。
「俺はここにいたいから居るんだけど。」
「ふーん。」
舞輝は少し温くなって飲みやすくなったココアをグイっと飲んだ。
「なんで、あたしなの?つまらないじゃない、無口で無愛想で。」
舞輝が言うと、達弥は笑い出した。
「ホントはもっと笑えるんじゃないの?笑ったらきっとかわいいと思うんだけど。」
と言った。
「ナンパですか?」
舞輝は眉間にシワを寄せて言った。
「ナンパじゃないよ、舞輝ちゃんが気になって仕方ないんだよ。」
達弥の言葉に舞輝はドキッとした。
「多分・・・好きなんだよ、舞輝ちゃんのこと。」
達弥は舞輝をまっすぐ見て言った。
いきなりすぎて言葉がなにも出てこなかった。
「で、でも、こないだ会ったばっかで番号聞いてくるし、今日は何言い出すかと思えば好きとか言うし。ナンパだよ!」
舞輝はむくれて反抗した。
「そうだよな。でも、俺は真剣なんだけど。返事はいつでもいいよ。」
達弥は言った。
突然の達弥からの告白に状況がまったくつかめない。
何?好きって。
何?時間かけてって・・・。
返事いつでもいいって・・・。
「ねぇ、あたし夢があるの。その夢叶えたいの。だから、いつになるかわからない。」
舞輝はパニくってる中、精一杯言葉を探して達弥に言った。
「それでも待つ。夢を邪魔するつもりはないよ、頑張ってね!でもさ、デートくらいはしてくれる?」
達弥の笑みは優しく、舞輝の胸はドキドキしていた。
どうしよ・・・あたし!!!!!
その後も達弥からは献身的なメールが毎日届いた。
舞輝の心はグラついていた・・・
恐怖と生まれ変わりたい自分と・・・・
第四章 旅立ち・新たな挑戦
あっという間に高校2年生も終了。
そして、舞輝の高校生活も最後なのだ。
結局舞輝は3人に話すことができなかった。
修了式が終わり、教室に帰りみんなでおしゃべりをしていた。
今日の舞輝はよく笑っていた。
千春や暁子は気づいていないが、愛海だけは舞輝の異変に気づいていた。
「舞輝、よく笑ってるね?なんかあった?」
愛海は舞輝に聞いてみた。しかし、舞輝は「そう?」と、答えただけだった。
「始めるぞー!」
担任が入ってきてHRが始まった。
新年度の話し、成績表の配布、先生からの最後の挨拶があった。
「最後に、もう一人挨拶する人がいる。」
担任は舞輝を前に呼んだ。
席を立ち前へ向う舞輝。
愛海は、「舞輝?」と、不安げに声をかけたが、舞輝はニッと笑うだけ。
「秦野だが、今日で学校を辞めることになった。」
担任の言葉に3人は驚き立ち上がった。
担任は辞める事情を説明した。
舞輝がみんなに挨拶して席に戻ると、3人が舞輝をみていた。
愛海はすでに泣きそうである。
「後で話すから。」
舞輝は言って、3人を前へ向かせた。
放課後・・・静まり返った教室で舞輝はみんなに今までのことを話した。
3人は黙って舞輝の話しを聞いていた。
全て話し終えると、
「何も黙ってなくたっていいじゃない(怒)」
愛海は猛抗議してきた。
「ごめん。もうすぐお別れだねって、そんな話ししたくなくて。」
「あたしは応援するよ!寂しくなっちゃうけど、友達辞めるわけじゃないんだし。」
千春は笑顔で言ってくれた。
「それにさぁ、あのTMCの予科生でしょ?あんな有名な劇団に入ったなんて鼻高いし!」
暁子が言った。
二人とも、あえて精一杯明るく振舞った。
愛海が一番寂しいのを知っているからだ。
「ありがと。」舞輝は、二人に言った。
「愛海、愛海はなんかないの?舞輝が一番応援して欲しいのは、愛海なんじゃない?」
愛海の背中を擦りながら千春が言った。
愛海はグショグショになった顔を上げて、
「舞台があるときに呼んでよね。」
「うん。」
「連絡してこなかったら許さないんだから。」
「うん、わかった。必ずする。」
舞輝は言うと、また愛海は俯いてしまった。
「愛海?」
「ん?」
「ありがと!」
舞輝が笑っていた。
「うん、頑張ってね!」
愛海は言ったのだった。
帰りの電車の中。
「ねぇ、舞輝。」
「ん?」
「達弥さんってこのこと・・・」
「知らないよ。愛海達に言わないで達弥さんに言うと思う?」
舞輝は言った。
その通りである。舞輝はそういう子だ。
「思ったんだけど、達弥さんって舞輝のこと好きなんだと思う。」
「知ってる。」
意外な舞輝の返答に愛海はびっくりした。
「知ってるって?」
「海にドライブ行ったときに言われた。」
「ホントに?返事は?してないよね・・・」
舞輝が言うわけがない。
「言ってない。」
「達弥さんなら、大丈夫だと思う。ネガティブに考えないで進んでみてもいいと思う。誰でもいいってわけじゃないんだよ、でも、いい機会だし・・・」
「愛海、ありがと。心配してくれてるんでしょ?俊太のこと。」
愛海の言葉を遮って舞輝は言った。
「・・・うん。」
「もう、俊太のことは平気だよ。たださ・・・」
「同じことを繰り返すのが怖い。」
「うん、そう。」
舞輝はため息をついてシートに寄りかかった。
“俊太”とは、舞輝の前の彼。
すごく仲が良かった二人は、クラス公認のカップルだった。
しかし、俊太の裏切りは舞輝の心を深く傷つけた。
それが、舞輝のトラウマ。
達弥の気持ちは嫌じゃなかった。
初めての印象はともかく、まっすぐ見てくる瞳は引き込まれそうになる。
ドキッとするたびに、なんかの間違いだと言い聞かせてきた。
それに・・・
今は、優先したいことがある。
愛海は舞輝の今の気持ちを知って、少しずつでも舞輝が変わってってくれるならそれもありだと思った。
時間をかけて舞輝が達弥さんに心を許してくれたら・・・
舞輝が劇団の寮に入るまでのわずかな時間で、4人は旅行に行ったり遊びに行ってプリクラをたくさん撮った。
そして、舞輝はみんなに見送られて東京へ出発した。
これから始まる2年間は、劇団に入るまでの予科生として勉強をする。
1年目は寮生活、2年目は、通学となる。
寮は学校からすぐのところにある。
部屋は2人部屋だが、広く作られている。
一間に勉強机と2段ベッドがある。
ルームメイトは、年上だが同期。
人見知りする舞輝だが、共通の仲間であるからすぐになじむことができた。
夏に出る舞台のデモテープも届き、普段の稽古とは別に個人レッスンを受け、準備を整えた。
こうして舞輝のように、授業を受けながら外の舞台に出て経験を積む者もいれば、そうでない者もいて、割と自由である。
毎日が楽しかった。
好きな踊りが出来て、演技の勉強が出来て。
達弥とのメールも続いていた。
寮に入ってから学校を辞め、今の劇団の予科生になったことを知らせた。
初めはビックリしていたが、舞輝の話しを聞いて、舞輝の夢を応援すると言ってくれた。
6月からは授業を休んで出演する舞台の稽古に入った。
初めてのことばかりで無我夢中だった。
顔合わせや、台本読み、歌のレコーディング。
パンフの写真撮りも、顔だけじゃなく、衣装を身に付けた全身写真だったり。
緊張の連続だった。
発表会には何度も出ているから、場当たりやゲネプロは難なくこなせた。
初日を迎えるまであっという間だった。
初日。
地方公演から始まり、残り千秋楽を含む1ヶ月に及ぶメインステージは東京。
幕が上がり、舞輝の初舞台の幕も上がった。
メインの東京公演を迎えるまでに、舞輝はドンドン成長をしていった。
それは他の出演者の誰が見てもわかる成長ぶりだった。
メインステージの東京。
ここでのステージも中盤を迎えていた。
今日は昼の公演のみ。
愛海達が来てくれることになっている。
舞輝のメイクにも力が入る。
公演が終わったら食事に行くことになっていた。
愛海達と久々の再会、胸は高まるばかりである。
開場したロビーでは、愛海、千春、暁子の3人が集まっていた。
「お待たせ!」入り口から手を上げてこちらに向ってくるのは、廉と達弥だ。
愛海がこっそり呼んでいたのだ。
「間に合ってよかった!パンフ買ったの、席で見ようよ!」
愛海はみんなを引き連れて客席に向った。
全員着席して、パンフを一枚一枚めくっていく。
「あ、舞輝!」と、愛海が指した。
そこには、今までに見たことのない舞輝が写っていた。
衣装を身に着けた舞輝。
素顔の舞輝。
愛海の知っているホントの舞輝がいた。
一緒に見ていた達弥も声には出さないが驚いていた。
やっぱり、笑ったほうがかわいいじゃないか。
びっくりするのはこれからである。
舞台を観にきたのだから当たり前だが、舞輝が歌って、踊って、演技をしている。
いつも教室にいたあの時の舞輝じゃない。
こんな生き生きした舞輝を誰も見たことがなかったのだ。
カーテンコールでは、出演者に声援を送る者がいた。
愛海たちも舞輝に声援を送ろうと話し合った。
そして、舞輝が出てくると、すごい声援が上がった。
圧倒されながらも、愛海たちも精一杯の声を出して舞輝を呼んだ。
客席に手を振る舞輝。
愛海たちにも気づいて大きく手を振った。
終演後、愛海たちが向うのは楽屋。
そこには既に出待ちをする人でごった返していた。
掻き分けて入り口に向うと、「誰の知り合いだろ?」と、羨ましそうに見られていた。
途中、廉に気づき少しざわついたが、なんとか楽屋口に入り回避した。
愛海が受付で舞輝を呼んでもらうと、5分くらいして舞輝が出てきた。
「舞輝ぃ〜!」
3人が駆け寄り抱きついた。
「みんな来てくれてありがとう!」
舞輝も一緒になって飛び跳ねた。
「これ、あたし達から。」
と、千春は花束を渡した。
「ありがとう!嬉しい♪」
はしゃいでいると、舞輝の視界に達弥の姿が入った。
舞輝は愛海の方を見ると、
「驚かそうと思って、内緒で呼んじゃった。」
愛海はペロッと舌を出して言った。
「お疲れ様!すごいよかったよ!」
と廉が言った。
「ありがとうございます。」
舞輝は頭を下げた。
「これ、俺達から!」
達弥は花束を舞輝に渡した。
「嬉しいです。びっくりしました、一緒に来てるって聞いてなかったんで。」
舞輝は言った。
「愛海ちゃんらしいね!」
廉は笑って言った。
「こんなとこで長話もなんだから、ご飯行こうよ♪」
と、愛海が言った。
「じゃ、支度してくるよ。」
舞輝は楽屋に戻っていった。
「舞輝が明るくなってる・・・。」
暁子は言った。
「あれがホントの舞輝なのかもよ?」
千春は暁子に言った。
「昔はもっと笑ってたよ。舞輝は。」
愛海が思い出すように言った。
「そうなんだ、まだまだ知らないことがたくさんあるんだね、あたしたち。」
千春が言った。
達弥も同じこと思っていた。
30分ほどで支度を済ませ、他の出演者に挨拶をして楽屋をでた。
愛海たちと楽屋口から出ると、「舞輝ちゃんが出てきた!」と大騒ぎ。
握手・サイン・写真と求められ、エレベーターに乗り込むまで30分もかかってしまった。
それでも笑顔で応える舞輝。
エレベーターの扉がしまった途端、全員で「はぁ〜」と疲れ果てていた。
「ごめんね〜、時間かかちゃって。」
と、舞輝は言った。
「いつもは出待ちしてる立場だけど、出演者の気持ちが分かった気がする。」
暁子が言った。
「俺達も捉まっちゃうとこんなもんだよな?」
廉が達弥に振った。
「そうだよ。気にすることないよ!」
達弥が言った。
向ったところは、愛海と廉のお勧めのレストラン。
食事をしながら、近況報告などで盛り上がった。
一段落したところで愛海が動き出した。
「あっ、あたしこれから用あるんだよね。悪いけど帰るね!」
と、愛海は言い出した。すると、「あたしも。」と言って、千春や暁子まで支度を始めた。
舞輝も一緒に帰ろうと席を立つと、
「舞輝はまだいなよ。せっかく達弥さんに久々に会えたんだから!」と愛海が言って舞輝を座らせた。
「でもぉ・・・」と、舞輝は言ったが、愛海たちは「じゃぁ〜ねぇ〜」と、帰ってしまった。
廉も駅まで送ってくると言って行ってしまった。
「なにも、みんなして帰らなくたって。」
舞輝はむくれて言った。
すると、達弥はクスッと笑った。
「はめられたかな。」
「はめられた?」
舞輝は首をかしげた。
「わざわざ二人にしてくれたんだよ。廉も一緒になって。」
と、達弥は言った。
「なるほどね。だから落ち着きがなかったのか。」
舞輝は納得した。
急に二人っきりにされて何話していいかわからず、、、
「無理やり連れてこられたんじゃないんですか?だったらごめんなさい。」
舞輝は謝った。
「なんで謝るんだよ、愛海ちゃんから聞いて俺から頼んだんだよ。」
達弥は言った。
「それならいいんですけど。」
「まぁ、それで廉と今回のことを仕組んだんだろうな。」
達弥は笑った。
「まったく愛海は。」
舞輝は呟いたのだった。
余計緊張すんじゃない!
第五章 恋
舞輝と達弥は店を出て少し歩くことにした。
外はもう真っ暗だ。
しばらく黙ったまま歩いた。
隣に舞輝がいる。
たった数ヶ月なのに、随分大人っぽくなった。
いつもメールしてるのに、何を話したらいいか言葉を捜した。
「今度、デートしてくれる?って聞いたの覚えてる?」
達弥は言った。
「うん。覚えてる。」
「また、海行こうよ。」
「うん。じゃ、この舞台終わったら。」
「そうだね、落ち着いたら行こう!」
達弥は言った。
少し歩くつもりが、そのまま駅に行ってしまい短い散歩になってしまった。
舞輝は、千秋楽が終わったら連絡すると言って達弥と別れた。
「デート・・・か。」
デートなんてどんくらいしてないだろ?
もう、しないと思ってた。
まだ17なのに!!!
無事に千秋楽を終えることのできた舞輝。
それは一生心に残るものとなった。
しばらくぶりの授業は、みんなも夏休み明け。
それでも、溜まった一般教養の宿題などの遅れを取り戻すのに大忙しだった。
仲間に助けられ、なんとか終わらすことができたのだった。
このせいで、なかなか連絡できなかった達弥にメールをした。
すると、すぐに達弥から着信がきた。
ちょうどお互いに空いている時間が合い、明日会うことになった。
時間と、待ち合わせ場所を決めて電話を切った。
ちょっと楽しみだなっと思った心躍る舞輝なのでした。
翌日。
授業を終え、寮に帰る支度をしていた。
「なぁ、さっきの振り納得いかないんだ、付き合ってくれないか?」
と、声をかけてきたのは、同期の早瀬翔。
翔の入寮の日に、荷物に足を引っ掛けて舞輝とぶつかったのがきっかけで話すようになった。
「ごめん、これから約束があるの。一度寮に帰るんだ!」
と、舞輝は言った。
「そっか。じゃ、俺も帰るか。」
と、支度を始めた。
「他あたりなよ。」
舞輝は言った。
「いや、秦野が一番やりやすいからさ。」
「ダメじゃん。なんの稽古にもなりゃしない。」
舞輝は翔をつついてやった。
「まぁな。」
翔と舞輝はスタジオを出た。
寮まで数分のため上着を羽織るだけ。
二人は寮のエントランスで別れ部屋に戻った。
舞輝は急いでシャワーを浴び、着ていく服を選んだ。
こう見えて女の子である。
普段はまったくしないメイクも少ししてみた。
部屋を飛び出しエントランスに向う。
女子寮の入り口を出たところで翔とぶつかった。
「ひっ」
「うわっ」
ぶつかって倒れたのは翔だった。
「いってぇ〜・・・」
「早瀬くん、ごめん、急いでたから。」
舞輝は手を差し出した。
「あぁ、いいよ。たいしたことないから。ホントよくぶつかるよなぁ・・・」
翔は舞輝の手を借りて立ち上がった。
「急いでんだろ?行け・・・」
言いかけて止まってしまった。
「ん?」
舞輝は言った。
「お前、いつもと違うじゃん。」
「そぉ?あっ、電車!行くね!」
舞輝は寮を飛び出していった。
翔は舞輝が出て行ったエントランスをみつまたまま動かなかった。
なんとか5分前には待ち合わせ場所に到着できて達弥も同時に到着した。
「ごめん、待たせた?」
「いえ、私も今着たとこです。」
「行こうか!」
舞輝は達弥の後についていった。
無人運転の電車に乗って、海浜公園のある駅で降りた。
「久しぶりに来た!」
舞輝は嬉しそうに言った。
「花火持ってきたんだ、暗くなったらやろう。」
達弥がカバンから花火セットを出して見せてくれた。
「いいですね!やりましょう!」
「もう少ししないと暗くならないかな。先ご飯食べる?」
「はい。」
二人は、近くのイタリアンレストランに入った。
達弥のお勧めでコースにすることになり、好きなパスタとジュースを選んだ。
「なんか、いつもと違う感じがするね?」
と、達弥が言った。
「そうですか?時間があったから化粧してみたんです。」
嘘ばっか!
舞輝は思いながら言った。
「いいと思うよ!」
達弥はにっこり笑って言った。
舞輝は照れを隠すように俯いて「どうも。」と言った。
そうこうしていると、前菜が運ばれてきた。
舞輝は一口食べると、「おいひぃ〜」と言って目を輝かせ、あっという間に皿を空にしてしまった。
舞輝はハッとした。
しまった・・・コース料理だった。
達弥の視線を感じ、達弥の方を見るとニコニコしてこっちを見ていた。
「あたしったら、また黙々と・・・」
舞輝が言うと、
「いいんだよ!そういうとこが!」
と、達弥は言った。
「そうですか?食い意地ばっかで・・・」
照れ隠しを言った。
「最近の若い子ってあんまり食べないだろ?偏食だし。おいしいもんを幸せそうに食べる子って貴重だと思うんだ。」
「達弥さんって、結構おじさんですよね。」
舞輝は笑っていった。
「失礼だな。」
「言ってることが古い人みたいだもん。」
舞輝はケラケラ笑っている。
「まぁ、いいや。舞輝ちゃんが笑ってるし。おじさんはよく食べる子が好きなんだ。」
達弥はふざけて言った。
舞輝はさらに爆笑し、腹をかかえている。
達弥は少し嬉しくなった。
「笑うようになったね。」
達弥が嬉しそうに言う。
「確かに、昔より笑うようになったかも。」
「TMCのアカデミーの入ったからだね。」
「うん。全部愛海たちのおかげ。受かったこと言えずに修了式になっちゃったの。それでも怒らないで背中押してくれた。それにね、志しが同じ仲間に出会えて毎日楽しいの。」
と、舞輝は語った。
「よかったね!笑ってる方がいいよ、舞輝ちゃんは。こないだの舞台でみんな感動してたよ。」
と、達弥は言った。
「ありがとう。」
食事が済む頃、外は暗くなっていた。二人は海浜公園に戻り、持ってきた花火を始めた。
「キレイ!」舞輝がはしゃいでいる。
17歳とは思えないくらい大人びてる舞輝。
花火しているときは、普通の17歳の女の子だった。
無邪気な17歳を隠す何かがあるんだ・・・・?
昔、笑えなくなっちゃうくらいの過去があったの・・・?
舞輝ちゃんをもっと知りたい・・・
花火はあっという間になくなり、二人は待ち合わせした駅に戻ることにした。
達弥は、あまり遅くまで連れまわしたくなかったからここで別れることにした。
「今日はご馳走様でした。」
舞輝は、楽しかったことを伝えた。
「俺も、楽しかった。来てくれてありがと。また連絡するよ。」
「おやすみなさい。」
舞輝はペコリと頭を下げ歩き出した。
もう少し一緒にいたかったかも・・・。
舞輝は少し名残惜しい気持ちでいた。
すると、突然腕を掴まれ舞輝は振り返ると、そこには達弥がいた。
達弥は、無意識に歩き出す舞輝を追いかけ腕を掴んでいた。
「達弥さん・・・。」
舞輝はびっくりして言った。
「ごめん・・・。まだ一緒にいたいって思ったら体が勝手に。何してんだろうな、俺。」
「私はまだ大丈夫なので、かまいませんよ。」
「いや、ダメだよ。今日は帰ろう。」
達弥はグッと堪えて言ったのだった。
帰りの電車。
舞輝は、達弥の行動に自分を大事に想ってくれていることを感じていた。
無理して紳士的にしなくてもいいのに・・・真面目なんだから。
この恋を進展させるには、自分にある”トラウマ“を引きずっていたらいけない・・・。
舞輝は思うのだった。
途中から雨が降り出した。
舞輝は、ツイてないわと思いながら、駅からダッシュを考えていた。
改札をでると、翔が立っていた。
「早瀬くん。」
舞輝の声に気づき、
「おかえり。」
翔は言った。
「ただいま。何してるの?」
舞輝は聞いた。
「秦野を迎えに着たんだよ。雨が降ってきたから。」
と言って、傘を持ち上げて見せた。
あたしを迎えに・・・?
「ありがと。待ったんじゃない?」
「そぉでもねぇよ。ただな、一つしか持ってきてないんだ。慌てて出てきたから。」
優しい奴。
舞輝は少し胸がキュンとした。
この世はまだまだ捨てたもんじゃないかも。
「一緒に入ればいいじゃない。」
舞輝の言葉に少しポッとなり、
「そうだな、行くか。」
思ったより雨脚が多く、一つの傘ではあまり役にたたなかった。
「若い女がこんな時間まで遊んでるなよな。」
と、翔は言った。
「早く返してくれたの。あたしは別に平気だったんだけど。」
「男か・・・・やっぱし。」
「うん。高校のときに知り合った友達。」
「そっか。」
「なんで?」
「だって、いつもよりお洒落してたからさ。好きな奴なんじゃないかなって思って。」
「うん。・・・・・・・・好きな人かもね。でも、そんなにお洒落してた?」
舞輝は聞いた。
「うん。してた。」
しばらく黙ったまま歩いた。
小さいビニール傘に二人。
翔は舞輝の方に手を回し自分に引き寄せた。
「濡れるぞ。」
照れくさかった翔は、すぐに手を離してしまった。
「早瀬くんもね。」
「翔でいいよ。」
「じゃ、舞輝でいいよ。」
「あぁ。」
寮に着き、翔は、
「よく温まれよ、また明日な。」
と言って、男子寮に帰っていった。
「ありがとね!迎えにきてくれて。」
舞輝は言った。
翔は手だけ振って答えた。
舞輝も部屋に戻り、達弥にメールをすると、すぐに返事が着た。
《今日は楽しかった!また遊ぼうな!》
舞輝は、また誘ってくださいと返事を送った。
明日も早い舞輝はシャワーを浴び、ベッドに入るとすぐに眠りにつくのだった。
シャワーを浴びて出てきた達弥はケータイに入っているメールをチェックした。
《また誘ってください!おやすみなさい。》
自然に顔がほころびる。
こうしてまた人を好きになることができた。
3年前・・・達弥には同い年の彼女がいた。
彼女がホントに好きだった。
でも、ちょうどs-wingとしてデビューが決まって忙しくなっていた頃で、彼女に寂しい想いをさせてしまったのか、高校卒業と同時に振られてしまった。
なかなか彼女との別れを受け入れられず、達弥は自分から人を好きになることができなくなっていた。
芸能界へ入って、誰かの紹介や告白されて付き合ったりしていたが、寂しさを埋めることはできなかった。
舞輝との出会いは、運命だと思った。
こんなに惹かれて、愛おしいと思える。
しばらくぶりの感覚だった。
「たっちゃんお兄。」
「何?」
「ちょっとコンビニ行ってくる。」
「今から?車出すよ。」
「悪いよ、疲れてるんだし。」
「今日は休みだから。行くぞ」
「うん。」
達弥は車のキーを持って従兄弟と家をでた。
それが事件を呼ぶとは誰も思わなかった・・・
しばらくの間、達弥と舞輝の予定が合わず、会うことが出来なかった。
そうこうしているうちに、初舞台となった作品の冬公演の出演が決まった。
年明けから、また前回の役を務める。
今回は翔や、アカデミーの仲間も駆けつけてくれることになっている。
いつもの授業が終わり、寮に帰ると「聞いてよ!」と、先に帰っていたルームメイトの恵美が雑誌を持ってきた。
『s-wing 達弥!タレントと熱愛発覚!』
達弥と、女性がコンビニからでてくるとこを撮られたらしい。
隣に写っているのは舞輝じゃない。
チクチク・・・
なんだろ、胸が痛い・・・。
舞輝はしばらく外に出ることにした。
頭の中を整理するためだ。
考えてみれば、なんであたしなんだろう?
ただのロリコンだったとか・・・芸能人だからいろんな子に手を出すとか・・・。
ボォーっとしていると、達弥から着信が入った。
出るのにためらってしまったが出てみることにした。
何か言い訳がしたいのかもしれない。
「ハイ・・・」
【もしもし。舞輝ちゃん?元気してた?】
何事もない態度だった。
元気してるわけないでしょ。
「・・・・・・・・・。」
【舞輝ちゃん?】
いつもと変わらない達弥に腹が立った。
「何よ・・・・」
言葉が涙で詰まった。
【どーした?今どこ?行くよ。】
「来ないで・・・あたし、自分に腹立ってきたの。人気アイドルの一人が私みたいな一般人となんて遊びだって気づけなかったのが。」
震える声で精一杯話した。
【読んだのか?】
「・・・・・。」
【あれは、違うんだ!会って話そう?どこにいる?寮か?】
「来ないでっ!もう、かけてこないで・・・。」
舞輝から一方的に切ってしまった。
涙が止まらなかった。
次から次へと溢れてくる。
「舞輝?」後ろから声がした。
翔である。
見られたくなくて何も答えず俯いていると、翔はしゃがんで下から覗き込んだ。
黙って舞輝だと確認すると、隣に座って頭をナデナデして自分の胸に引き寄せた。
黙って舞輝が落ち着くまでずっとそばにいた。
鳴り続ける着信。
“達弥さん”と表示されている。
なんかあったな・・・・。
しばらくすると、エッグエッグいっていた舞輝が落ち着きを取り戻して翔から離れた。
「翔、ごめんね、ありがとう。」
「あぁ。電話鳴ってたけどいいのか?」
「うん。」
「俺が口出すことじゃないけどさ、ちゃんと話し合えよ。思い違いだってあるかもしれないだろ?」
「もう、いいの。」
「舞輝・・・。」
「ちょっと浮かれてたかも。彼女気分だったんだよね、きっと。」
舞輝は無理に笑ってみせた。
「翔、ありがと。部屋に戻るね。」
舞輝は立ち上がって部屋に戻っていった。
引き止めて、「俺にしろよ」って言いたかった。
でも、翔にはできなかった。
くそっ、泣いてる舞輝なんてみたくねぇ。
部屋に戻ってからも、達弥と愛海からとひっきりなしにかけてくる。
舞輝は電源ごと切ってしまった。
それから1週間してからだろうか、愛海の電話に出たのは。
愛海がいくら違う、達弥が好きなのは舞輝だからと言っても聞く耳をもたなかった。
冬公演の稽古に入り、気が紛れたのが幸いだった。
友達も増えた。
お稽古のあとみんなでお茶したり、食事に行ったり。
達弥のことは忘れていられた。
達弥と連絡を絶ってから1ヶ月が過ぎた。
達弥からもかかってこなくなった。
それでも、毎日が充実していた。
公演は始まっていたからだ。
やはり、舞台に立っているときは楽しくて仕方がない。
今日は、愛海が来る日。
愛海のことだから、達弥さんにも声をかけただろう。
来るわけないよね・・・。
翔たちも同じ時間の公演に来ることになっていたからメイクに力が入ってしまった。
トントン・・・
「どうぞ。」
「失礼しまーす。秦野舞輝さんにお花です。」
「ご苦労様!」
冬公演始まってから、毎日届く同じ花束。
カードに“頑張ってください。応援しています。”とだけ書かれている。
誰だろ?
アドリブも冴え、何事もなく終演し、楽屋に戻って部屋着になった。
お茶を飲んでると、スタッフがアカデミーの人が来ていると伝えに来てくれた。
礼を言って舞輝は楽屋口に向った。
ドアを開け、ひょっこり顔を出すと、翔たちが舞輝に気づき手を振った。
「みんな〜!」と、舞輝が駆け寄ると、ちょうど、愛海と達弥が楽屋口に入ってきた。
舞輝が他の面会者と話しているので端っこで待つことにした。
愛海は今回は呼ぶつもりがなかったが、達弥の方から直々に頼まれて一緒にきたのだ。
仲直りには、会って話すのが一番である。
向こうでは、舞輝と他の面会者が楽しげに話している。
「舞輝、お前サイコー!」
と、言って抱きつく男がいた。
「わかったから、離して翔(怒)」
舞輝も楽しそうである。
「ねぇ、買いに行きたい物があるんだ。あとで舞輝ちゃんと駅前の喫茶店にいてくれないか?」
と達弥が急に言いだした。
「え?今から?」
「舞輝ちゃんに渡したい物があって。」
「わかった。じゃ、後で。」
愛海が言うと、楽屋口から出てってしまった。
ありゃ、ヤキモチ妬いてるな(笑)
舞輝が愛海に気づき手を振ってきた。
「ごめん、友達待ってるからさ、そろそろ!」
と言って出入り口まで見送った。
「舞輝、飯でも食いに行こうぜ!」
翔が言った。
「友達と約束あるから、帰ったら連絡するよ!食堂で飯食おう(笑)」
「なんだよ、食堂って。」
翔はむくれた。
「いいから行くぞ!」
聡太が翔を無理やり引きずりだした。
「じゃぁ〜ねぇ〜」
舞輝は笑って見送ると、愛海のほうへ行った。
「おまたせぇ〜、いつ来たの?」
「さっき!先に支度してきちゃいなよ!待ってるから。お茶しよ。」
「わかった。先に行っててもいいよ?」
「じゃ、そうする。駅前の喫茶店わかる?そこにいるね。」
愛海は楽屋口から出て行った。
急いで支度をして駅前の喫茶店に行った。
愛海が一人で座って紅茶を飲んでいる。
「お待たせ!」
舞輝も紅茶を買って席についた。
「お疲れ様!今日もよかったよぉ!」
「ホント?嬉しいな。」
「うん、生き生きしてる。初めはあっちに行っちゃうの嫌だったけど、今は行かせてよかったって思ってる。」
「ありがと。」
舞輝は愛海にそう言われるのが一番嬉しいのである。
「ねぇ、達弥さんとはどうなってるの?」
そうくると思っていた。
「連絡取ってない・・・。」
愛海はため息をついた。
「舞輝、あんたの気持ちわかるけどさ、これじゃいつまで経っても前に進まないじゃない!」
「いいよ、もう。」
舞輝は紅茶を一口飲んだ。
「よくないよ。」
聞き覚えのある声に後ろを振り返ると、達弥が立っていた。
「達弥さん・・・。」
「達弥さん遅い!舞輝、あたし帰るから、ちゃんと仲直りするんだよ、いい?」
と言って愛海は席を立った。
「え?帰っちゃうの?」
「二人で話し合ったほうがいいよ。」
「ありがと、愛海ちゃん。」
「二人のためなら全然です。」
愛海はコートを羽織、店を出た。
頑張れ、舞輝!
「なんでここに・・・・」
舞輝は言った。
「愛海ちゃんに頼んでセッティングしてもらったんだ。はい、これ。」
達弥は花束を渡した。
「これ・・・。」
楽屋に毎日くる花束。
「少しでも舞輝ちゃんと繋がっていたくて。」
達弥は俯いて言った。
達弥の言葉に、胸がキュンとなった。
「・・・ありがとう。」
舞輝と達弥は、ぎこちない感じのまま席についた。
「ごめん、傷つけて。」
達弥は頭を下げて謝った。
今回のことを初めから話した。
「私もすみません。ちゃんと話しも聞かずにムキになってしまって。」
「いや、ちゃんと話さなかった俺がいけないんだ。嫌われても仕方ないと思ってる。でも、ちゃんと話しがしたかったんだ。」
「私は・・・そう思えなかったことが恥ずかしいです。」
「そんなことないよ。」
読者には、簡単に説明しよう。
タレントとよく歩いている情報をキャッチした記者は、達弥をマンションの前でいつも張っていた。
マンションから出てくる女性はタレントで、達也の部屋を出入りしているのは確か。
しかし、そのタレントは達弥の従兄弟だった。
ファンに家まで押しかけてこられて、従兄弟である達弥のとこに、新しい部屋を見つけるまで居候しているのだそうだ。
でも、またファンが押しかけてこないように従兄弟とは未だ公表していないのだそうだ。
「そうだったんですか・・・ごめんなさい、何も知らないで。」
舞輝は謝った。
「いいんだ。舞輝ちゃんにもあの時は話すことができなかったから。メンバーですら知らなかったんだ。」
「今はいいんですか?」
「いや、ホントは・・・いい部屋がなかなか見つからないらしいんだ。そんなことより、舞輝ちゃんにあの時ちゃんと話していたらって、ずっと後悔していた。」
達弥は肩を落として言った。
「やっぱ、嫌いにならないで・・・すげぇツライよ。」
達弥の目はとても悲しそうだった。
少しだけ沈黙が流れた。
「次・・・」
「え?」
「次、いつ食事にいきます?」
舞輝は笑顔で言った。
「舞輝ちゃん」
「仲直り。」
舞輝は手を出した。
「仲直り!」
達弥はしっかり舞輝の手を取って握手した。
帰って愛海に電話で報告したら安心していた。
「人騒がせね!」って。
翔にも、お礼言わなきゃ。
翔にエントランスにでてきてもらった。
「ごめん、急に呼び出して。」
「いいよ、どした?話し合ったか?」
こないだのことを気にしてくれている。
舞輝は仲直りしたことを話した。
「よかったじゃん。」
「うん、翔の言うとおり、思い違いだった。ありがとね!」
舞輝は微笑んでいる。
ちょっと悔しいけど、泣いてる舞輝を見るくらいなら他の誰かのことで笑っていてくれたほうがいい・・・。
「舞輝は笑ってなきゃ舞輝じゃないよ。」
舞輝は照れ笑いをした。
「翔に逢うまでは笑うことあんまりなかった。」
「なんでだよ?」
「いろいろあってね。」
「そっか。」
それ以上聞かなかった。
「舞輝、飯食った?」
「あっ、食べてない・・・」
舞輝のお腹がグゥ〜っと鳴った。
思わず二人で吹き出してしまった。
「行こうぜ!」
「うん。」
二人は食堂に行っておいしいご飯にありつけた。
あとで聡太も合流した。
「お前ら相変わらずよく食うな。」
お皿いっぱいに盛ったご飯に二人の食いっぷりを見て呆れている。
「食う子は育つ!」
翔は言った。
「寝る子だよ・・・」
舞輝が突っ込む。
「お前ら、いいコンビだ。」
「サンキュー」
二人は口を揃えて言った。
あまりの息の合いかたに聡太は苦笑いするしかなかった。
第六章 三人の想い
3月。
舞輝は、愛海たちの卒業を祝うために高校へやってきた。
1年ぶりの学校。
門では卒業生とその親で賑わっていた。
門をくぐり、愛海たちを探した。
キョロキョロしていると、後ろから「わっ!」と、驚かされた。
びっくりして振り返ると、愛海たちがニヤリと笑って立っていた。
「もう、びっくりするじゃん!みんなおめでとう!」
と言って愛海たちに抱きついた。
最寄の駅前のファーストフード店で4人でお祝いをした。
愛海は大学に、千春は専門へ、暁子は就職が決まっていた。
ホントの意味で、みんな別れ別れ違う道へ進む。
「舞輝もあと1年だね!」
千春が言った。
「そうだね、みんなも頑張ってね!」
舞輝は言った。
この春から、舞輝は予科生の2年。
新入生が入ってくるので、寮を出なくてはならない。
翔は田舎から出てきており、遠方からや、事情があって仕送りが少ない者だけが寮に残れる。
舞輝家は、ちょっとしたお金持ち。
実家から通うこともできたが、無理を言ってアカデミーの近くに部屋を借りてもらったのだ。
新居も決まって、引越しをするだけ。
初舞台の作品で、夏の新作の出演が決まっていて、出先は好調だ。
引越しの日。
近所のスーパーから借りてきた台車を使って翔に手伝ってもらい、寮から、数分歩いたとこにある新居に荷物を運ぶ。
一つ台車を押して、先に鍵を開けにマンションに向った。
舞輝の住むマンションの隣でも、引越しなのかトラックが停まっていた。
ここも引越しか。
春だねぇ〜。
すると、トラックの方から「舞輝ちゃん?」と、声がした。
トラックを見ると、真人(s-wing最年長若い子大好き)がひょっこり顔を出して手を振っていた。
「こんにちは。」
舞輝は軽く会釈した。
「おぅ、手伝いに来たの?」
「なんのですか?」
「違うの?」
「違います。」
「おーい!達弥!舞輝ちゃんがいるぞ。」
真人が叫ぶと、ドタっと音がして、その後達弥がすっ飛んでやっていきた。
「やぁ!何してんの?こんなところで。」
どこかにぶつけたのか、笑っているけど痛そうである。
「私も引越しなんです。」
「そうなんだ!台車で運ぶってことは、この辺?」
「はい、ここです。」
「ん?どこ?」
「ここです。」
舞輝は指を指した。
達弥と真人は舞輝の指差す方へ目を向けた。
「ここって・・・ここ?」
「そうです。」
達弥が引っ越してきたマンションのとなりのマンションだった。
すると、舞輝より重い台車を押して汗びっしょりの翔が到着して、「鍵あけたかぁ?」と、叫んでいる。
「ごめん、まだぁ!」
と、叫び、
「行きますね。」
と言ってマンションに入っていった。
みんなバイトやレッスンで手伝えないため、翔と二人だけ。
達弥は少し嫌な気分だった。
鍵を開け、外に戻ってきた舞輝と楽しそうに運び込んでいる。
「ライバル登場だな。」
真人が言った。
「そうみたい。」
と、言った。
舞輝が部屋の窓を開けると、向かいのマンションのベランダがある。
ちょうど出てきた達弥と目が合った。
「達弥さん!」
「舞輝ちゃん?」
お互いに吹き出してしまった。
「よろしくね、お向かいさん」
「こちらこそ!」
舞輝も笑って言った。
近いね!なんて話していると、「おぃ。」と、翔が舞輝に声をかけた。
「あっ、翔。紹介するね、こちら達弥さん。アカデミーの同期の翔です。」
舞輝に紹介され、黙ったまま頭を下げる二人。
「誰もいなくて手伝ってもらってるんです。」
「そうなんだ。ご苦労様。」
達弥は言った。
「いえ、舞輝の頼みならこんなの楽勝です。」
翔は言った。
達弥は苦笑いをした。
「言ってくれたらトラック出したのに!」
「そんな荷物なかったんで。忙しいんだろうし。」
「舞輝、早く運んじゃおうぜ。」
舞輝の手を掴んで外に連れ出した。
「なんか、怒ってる?」
舞輝は聞いた。
「別に・・・知り合い?」
「前に話した、私の好きな人。」
翔は舞輝に背を向けたまま、
「よかったな。いつでもあえるじゃん。」
と言った。
「そだね。」
舞輝は笑って言った。
全ての荷物を運び込み、二人は食事をしに外に出た。
ちょうど達弥たちも出てきてばったり会った。
「お疲れ!終わった?」
と、達弥は聞いた。
「はい。終わりました。」
「俺達これから飯行くけど、一緒にどう?」
「あぁ、翔どうする?」
舞輝は翔に聞いた。
「どっちでもいいよ。」
「翔くんがよければ。」
達弥は余裕の笑顔を見せてきた。
翔も、恋敵に余裕の顔をして見せて、
「じゃ、一緒にいきます。」
言った。
向った先は、焼肉屋。
飲み物だけ選んで、達弥たちにお任せした。
「あれ?ジュースでいいの?」
達弥が聞いた。
「俺、まだ18っすから。」
「そうだったんだ!ごめん。」
「いや、別に・・・。」
翔は言った。
翔は舞輝の耳元に近づき、小声で
「なぁ、この人たちってさ、まさかs-wingじゃないよな?」
と、聞いた。
「うん、そだよ。」
舞輝はあっさり答えた。
「なんで知り合いなんだよ!」
「今度話してあげる。」
飲み物が運ばれてきてた。全員グラスを持つと、「じゃ、お疲れ!」と言って乾杯した。
野菜や、肉も運ばれてきて、舞輝の目は輝きだした。
「わぁ!おいしそう♪」
「ほんとだ!うまそぉ!!!!!」
目を輝かす二人に達弥は「ぷっ」と吹き出した。
「またぁ〜(怒)」
舞輝がむくれた。
「これが見たくて舞輝ちゃんを食事に誘うんだ。」
達弥は言った。
それを聞いた翔は、
「3食とも一緒に食うけど、舞輝はホントにいつもうまそうに食うもんな。」
対抗してみた。
「そうなんだ!最近は牛丼の特盛食べてないの?毎日食べてたんだろ?」
「全然食べてない!恋しいです。毎朝あれが日課だった。」
舞輝は肉をほお張り「おいひぃ〜!」と言った。
なんだか対抗するのに疲れた翔は一緒になって話しの輪に入っていった。
達弥も翔を悪い印象を持ってないし、翔も達弥を嫌いにはなれなかった。
舞輝が好きな人だからな・・・。
「そういえば、廉さんと、拓さんは?」
舞輝が言った。
「廉は愛海ちゃんとデートだって。」
達弥はビールを飲んだ。
「うまくいってるみたいですね!」
「廉が結構押したからな。」
真人は言った。
「押さなくても、愛海ならコロッといったでしょう!」
舞輝は笑って言った。
ひととおりデザートまでしかっり食べ終えた4人は食事をお開きにし、店を出た。
真人は駅に向かうと言って別れた。
翔は、コンビにに寄ると言って途中で別れた。
二人で家に向かって歩いていった。
別れ道はお互いのマンションの前。
「誘ってくれてありがとうございまいした。」
舞輝は礼を言った。
「翔くんに悪いことしちゃったかな。」
「なんで?」
「知らない人と交じって食事をするって、結構気ぃ使うだろ?それに・・・」
「それに?」
「舞輝ちゃんと二人で食べたかったんじゃないかなって。邪魔しちゃった。」
達弥は肩を落として言った。
「うちら、そんな関係じゃないですよ。」
「舞輝ちゃんはそう思ってても、翔くんはどうかな。」
「・・・考えたことなかった。」
舞輝は俯いて言った。
達弥は舞輝を抱き寄せた。
ドキン・・・
「好きになっちゃったりしないでね。」
達弥は舞輝を強く抱きしめた。
「え?」
「俺より翔くんと一緒にいる時間長いだろ?俺は毎日メールもできないし、引越しすることすら知らなかった。
もっと俺を頼ってよ。」
舞輝の胸の鼓動が早くなっていた。
「返事はまだもらえない?」
達弥が言った。
好きだけど・・・好きだけど・・・
「ごめんなさい・・あたし達弥さんのこと好きです。でも・・・」
舞輝は言った。
「でも?」
意外な返答に達弥は驚いた。
「怖いんです。」
「怖い?」
「達弥さんのこと、好きです。でも、好き以上を超えるのが怖いんです。」
そう言って舞輝は小走りに部屋に帰ってしまった。
「舞輝ちゃん!」
どういう意味だろう?
何が怖いのか・・・。
舞輝は部屋に入り、玄関に座り込んでしまった。
男の人の温もり・・・久しぶりだ。
達弥さんの言葉や、温もり、心臓の音・・・匂い。
全部に反応しちゃう。
なかなかドキドキが止まらない。
苦しいよ・・・。
せっかく舞輝と近くになれたというのに、収録や、ライブで帰ることができなかった。しかし、舞輝とのメールは合間をぬってかかさなかった。
いつもと変わらない舞輝からのメール。
舞輝はあまり自分のこと話さない・・・。
メールうちながらため息。
「いろいろ大変そうだな。」
「廉。まぁな。」
廉が控え室に入ると、ケータイを見つめたままため息つく達弥がいた。
「誰にだって過去はあるよ。達弥にだってあるだろ?」
「あぁ。」
「達弥が忘れさせてやればいいと思う。時間かかっても。舞輝ちゃんがお前を過去から引きずりだしたように。」
「あぁ。」
「ライバルもいるんだってな?」
「真人か?あのおしゃべり。」
「ハハハ!いいじゃねぇか。一難さってまた一難。頑張れよ、俺は応援してんだぜ二人を。」
「サンキュ。」
廉もおかげで気持ちが軽くなったような気がした。
やっとできた休みで舞輝と会うことになった。
待ち合わせは夕方17時、新宿駅改札。
達弥は少し早めに着いていた。
それが思わぬとこを目撃することになる。
舞輝も午後から新宿に来ていた。
使い古したトゥ・シューズの買い替えに翔と来ていた。
達弥との待ち合わせの時間に合わせ、舞輝は駅に戻ってきた。
「これから用があるの。先帰って?」
舞輝は言った。
翔は察しがついたようで、
「あの人と?」
達弥のことである。
いくら、嫌いじゃなくても恋敵。
気に入らなかった。
「うん。じゃぁ、また明日ね!」
舞輝は歩き出した。
翔の足は自然と舞輝を追いかけていた。
まだ付き合っていないんだよな、二人は。
今日のデートで付き合うことになるかもしれない。
嫌だ・・・俺だって舞輝が・・・
「舞輝!」
舞輝の腕を掴み、振り返った舞輝にキスをした。
“舞輝”と呼ぶ声が聞こえ、達弥は呼ぶ方を探した。
舞輝と翔がキスをしているのが目に飛び込んできた。
舞輝は、翔から無理やり離れて頬を引っ叩いた。
「いってぇ。」
翔は頬を押さえ言った。
「いってぇじゃないわよ!いきなり何すんのよ。」
舞輝は怒鳴った。
「好きだからだよ・・・。」
「え?」
「好きなんだよ!舞輝のことが。」
翔は言った。
「だからって、いきなりキスなんかしないでしょ?バカっ!」
舞輝は走って行ってしまった。
走り去っていく舞輝を見ながら、「くそったれ」と言ってその場に立ち尽くした。
その場面を見ていた達弥は、舞輝を追いかけていった。
駅の外にあるベンチでうずくまって泣いてた。
達弥は自販機でココアを買って舞輝のいるベンチに座った。
「はい、どーぞ。」
舞輝にココアを渡した。
「達弥さん・・・」
「言ったろ?舞輝ちゃんは思ってなくても、翔くんはどうだろって。」
缶コーヒーを一口飲んだ。
「怒ってる?あたしや翔のこと」
「怒ってないよ。でも、すげぇ悔しい。こんなキモチは初めてだよ。」
達弥は悲しい目で舞輝を見た。
“ズキン・・”
わかる気がする・・・あたしもそぉだった・・・
翔のバカ・・・
「でも、ちゃんと仲直りするんだぞ。大事な友達なんだろ?」
「ん。」
舞輝が落ちつくのを待って、この日は帰ることにした。
久しぶりに舞輝ちゃんの笑顔がみれると思ったのに、とんだハプニングだ。
達弥は思い、肩をおとすのだった。
第七章 特別な友情・舞輝のトラウマ
翌日。
廊下で翔とすれ違った。
舞輝と目が合った翔が「おはよ、舞輝。」と声をかけたが、舞輝は目を反らして行ってしまった。
一緒にいた聡太は、
「おいおい、どうしたんだよ?喧嘩でもしたのか?」
と、聞いた。
翔は昨日の出来事を話した。
「そりゃぁ、怒るよ!強引すぎ。」
と、聡太に言われてますます凹んでしまった。
自分と違って、達弥の方が大人で包容力がある。
舞輝にすりゃ自分なんてお子様かもしれない。
だから余計に達弥の存在が悔しかった。
強引にキスしたことは、今は後悔している。
でも、俺だって舞輝のこと誰にも取られたくないんだ。
舞輝の踊りは、丁寧で綺麗だ。
初めて授業で舞輝を見たとき一目惚れをした。
初めは無愛想だった舞輝も、時間が経つにつれて笑うようになった。一緒にいて楽しかった。
「はい、セカンド。」
音楽が流れ出す。
踊りだす翔。
でも、舞輝が視界に入ると集中できない。
すると、重心を崩して倒れてしまった。
「いってぇ〜」
舞輝がすぐに飛んできて、
「大丈夫?ねぇ、翔を医務室に運ぶから手を貸して。」
舞輝が素早く指示して、聡太と舞輝と仲間で抱えて医務室に向かった。
「ごめん、迷惑かけて。」
「集中しないで考え事してるからよ。」
「ごめん・・・」
医務室に着き、翔をベッドに座らせると、
「あとは、あたしが先生を呼びに行くから、授業戻って。ありがと。」
と、舞輝は仲間に言った。
「先生呼びに行ってくるから、おとなしくしててね。」
舞輝は医務室を出ようとすると、「舞輝。」翔が言った。
舞輝が振り返ると、
「昨日は、ごめん。」
舞輝は黙っていた。
「舞輝にシカトされたら、俺どうかなっちゃいそうだよ。」
「あたし、翔のこと大好きだよ。でも、友達として。」
舞輝は言った。
「親友にね、愛海っているんだけど、翔といると、その子といるみたいで楽しいの。あたし、愛海がいないと笑えなかったの。いろいろあって。
その愛海からも離れてここにきて正直不安だった。でも、翔と出会って、毎日が楽しくて、気づいたらここでの不安がどっかいっちゃってて。
翔は私の大事な友達なの。嫌いになんかなれないし、怪我したらほっとけない。」
「友達か・・・」
翔は笑って呟いた。
「でも、俺は舞輝にとって友達でも特別なら嬉しいよ。」
と、翔は言った。
舞輝は翔の前にしゃがみ、昨日叩いた頬に手を当てた。
「痛かったでしょ?叩いてごめんね。」
翔は横に首を振り舞輝の手に触れた。
「俺、初めての授業で舞輝に一目惚れしたんだ。踊りが丁寧で綺麗で。」
「ありがと。」
「一緒に組むようになってから、毎日好きになってって。」
「ん。」
舞輝は頷いた。
「・・・フラれるんだよな?」
「・・・ごめん。」
舞輝は悲しそうな目で言った。
舞輝にこんな顔させちゃいけない、翔は思った。
「ごめん、そんな顔すんなよ。俺、笑った舞輝が好きなんだ。昨日、あんなことしちゃったけど、これからも友達してくれるか?」
翔は聞いた。
「うん。大事な友達だから。」
舞輝は微笑んだ。
舞輝は、医務室の先生を呼んできて、翔の足を診てもらった。
幸い軽い捻挫ですみ、2ヶ月後の卒業公演の配役オーディションに間に合いそうだという。
舞輝も翔もホッとした。
授業を終えた仲間が荷物を持ってきてくれたので、仲間に翔を送るように頼み舞輝も早々帰った。
ベランダに出て、お向かいさんの窓を長い棒で突いた。
すると、達弥が出てきて「お帰り。」と、言った。
「ただいま!翔と仲直りしたよ。」
舞輝は嬉しそうに言った。
「よかったな!ねぇ、昨日のやり直ししないか?ご飯でも食いに行こう。」
「はい!」
舞輝はシャワーを浴びに部屋に戻った。
支度を済ませて外に出ると、達弥が車を出して待っていた。
「おまたせ。」
「待ってないよ。どうぞ。」
達弥は助手席のドアを開けた。
「失礼します。」
舞輝は助手席に座った。
「どこ行こうか?」
達弥は車を発進させた。
「達弥さんにおまかせします。あっ、ご飯が食べたい!」
「お米ね。和食でいい?」
「いいですね!」
「じゃ、決定!」
達弥たちは、近くにある和食のレストランに入って食事をした。
舞輝は、翔と仲直りした詳細を話した。
「舞輝ちゃんにとって翔くんは愛海ちゃんみたいな存在か・・・。」
達弥は言った。
「アカデミーに入ってルームメイト以外で初めて友達になったのが翔なの。翔が入寮の日、転んで倒れてきた翔の下敷きになって。なんとなく笑いのツボ一緒だし、気が合うの。」
「そっか。羨ましいよ、翔くんが。」
達弥は言った。
「あたしたちって、そんなに遠い仲ですか?」
「俺にはまだ舞輝ちゃんのこと知らな過ぎるような気がする。」
「翔だって知らない。」
「毎日いれば、俺以上に舞輝ちゃんを知ってるよ。舞輝ちゃんがどんなことで笑って、稽古場でどんな感じの舞輝ちゃんがいるのか、俺は知らない。」
達弥の言葉に舞輝は黙ってしまった。
そうだよね、日常のあたしを毎日見てるのは翔だ。
「昔・・・なんかあった?この前、怖いって・・・」
達弥は言った。
「あっ・・・。」
そんなこと言ったっけ。
「ごめん、話せないならいいんだ。」
「傷つくのが怖いんです。」
舞輝は小さな声で言った。
「え?」
「昔、付き合っていた彼に裏切られちゃって。」
「それがトラウマになった。」
舞輝は頷いた。
「もうあんな思いしたくないの。」
「何があった?」
達弥の問いにそれ以上舞輝は答えなかった。
廉を通じて愛海に会って聞いてみた。
「ごめんなさい、あたしの口からは言えないです。」
と言われてしまった。
何があったんだろう・・・?
「舞輝ちゃんになにがしてあげられるだろ?」
達弥は肩を落として言った。
「今は、いつもどおりに舞輝のそばに居てあげてください。時間かかってるけど、舞輝は立ち直ろうとしています。舞輝はあれで素直で優しい子がから、傷つきやすい子なんです。」
と、愛海は言った。
夏の舞台が終わり、卒業公演のオーディションも終わり配役も決まった。
お芝居では、女子の主役に抜擢。
ダンスショーでは、メインダンサーチームに翔と共に入った。
しかも、バレエの古典と、モダンで翔と組む。
しばらく達弥ともベランダでしか会えない。
それならと、達弥は椅子を買ってきてくれた。お互い時間のあるときにベランダで話そうと用意してくれたのだ。
苦手なHIP-HOPの演目は夜の公演に行き、達弥に指導してもらった。
達弥はs-wingのバックダンサー。
実は歌も上手だが、ダンスはべらぼう上手い。
12月。
明日はイヴだというのに稽古があった。
達弥にX’masプレゼントを買いにきた。
舞輝はあまり得意でない。
「舞輝ぃ〜!」
改札から出てきたのは愛海。
プレゼント選びに付き合ってもらうのだ。
「久しぶり。」
舞輝は愛海に手を振った。
「ホントに久しぶりだね!元気してた?」
二人は歩き出した。
いろいろお店を物色していると、かわいいTシャツをみつけた。
急遽、翔に卒業公演の成功を願ってお揃いで買った。
しかし、達弥に送るプレゼントがなかなか決まらなかった。
親の仕送りで生活をしている舞輝には、買うものにも限界があった。
でも、ちゃんとしたものをプレゼントしたかった。
愛海とブラブラとしていると、帽子が目に入った。
達弥に似合いそうなキャップ。
値は少し張ったが、絶対に似合うと確信した舞輝は即決で買ってしまった。
愛海は廉に手編みのマフラーをあげると言って、ラッピングの材料を買っていた。
歩き疲れた二人は、カフェに入った。
「よかったね、いいのみつかって。」
「うん、何あげたらいいかわかんなくて困った。付き合ってくれてありがと。」
愛海は一口紅茶を飲んで一息つくと、
「ねぇ、もう少し肩の力抜いていいと思う。達弥さんに寄りかかっていいと思うな。」
と、言った。
「何?急に。」
「達弥さん、凄く気にしてたよ、舞輝に何があったんだろうって。」
舞輝は俯いた。
「達弥さんのこと好きなんでしょ?」
「うん。」
「頑張りなよ。達弥さんはしっかり舞輝を受け止めてくれる人だから。舞輝のトラウマなんか達弥さんが無くしてくれる。」
愛海は微笑んで言った。
「ありがと。」
舞輝はウルッときたのを堪えて言った。
次の日。
稽古場に行くと、翔はもう来ていた。
「メリクリ!」
舞輝は持ってきたTシャツを翔に渡した。
「俺に?」
包みを開けると、舞輝が着ているTシャツと同じのが入っていた。
「卒業公演の成功祈って!」
舞輝が笑顔で言うと、翔は舞輝に抱きつき、「お前サイコー!サンキュー。」と言って、早速Tシャツを着た。
他の仲間にはX’mas仕様のチョコを渡した。
大好きな舞輝にもらったおそろいのT-シャツのおかげで稽古にも熱が入り、二人の息はピッタシだった。
昼間の休憩でうちに帰ったら連絡くださいと、達弥にメールを入れておいた。
夜、そんなに遅くない時間に着信が入った。
お互いベランダに出て「メリークリスマス!」と言った。
舞輝がプレゼントを渡すと、達弥は嬉しそうに包みを開けた。
入っていた帽子に感激し、かぶって見せてくれた。
想像通りよく似合っていた。
「似合います。」
舞輝は笑顔で言った。
達弥もプレゼント用意していた。
中身はオルゴール。
小さなバレリーナがアチチュードをして回る。
奏でる音はくるみ割り人形。
「ありがとうございます!」
嬉しそうにオルゴールを見る舞輝を見て、達弥は嬉しかった。
舞輝は部屋に戻ると、オルゴールをテーブルにおいて何回も回した。
達弥のことを考えながら。
気づいたらそのまま眠りについてしまった。
年も明け、三元日を実家でゆっくり過ごし、帰ってすぐ稽古が始まった。
残り2ヶ月を通し稽古でかためる。
翔との自主練も欠かさず、着々と準備を整えていった。
愛海や、千春・暁子・廉に、達弥・拓・真人も来てくれることになっている。
中退してまで入ったこの劇団。
愛海達には半端なものは見せられない。
公演前日。
稽古を終え、翔と練習して、元担ぎに大好きな牛丼で夕食を済ませて帰るとこ。
翔は冷える手に息を吹きかけながら、
「いよいよ明日だな。」
と言った。
「うん、後はよく眠るだけ。」
「おれ、舞輝と組めて嬉しいよ。ずっと組めたらなって思ったから。」
「あたしも嬉しいよ。翔のリフトは女の子思いだから、みんな組みたいはずよ。」
「そうかな、舞輝だからだよ。」
舞輝は笑った。
「いや、ホントに!」
翔は言った。
「そうなの?じゃぁ、他の女の子にも優しくして?」
分かれ道。
「家まで送らなくていいのか?」
「いいよ、早く帰ってゆっくり休んで。」
「あぁ、舞輝もな。」
「うん。」
二人は家に向かって歩き出した。
舞輝は足を止めて振り返り、「翔!」と、呼んだ。
翔は振り返ると、走ってきた舞輝に抱きつかれキスをされた。
翔の顔は真っ赤になってびっくりして目を見開いた、舞輝の唇の感触・・・・。
翔はゆっくり目を閉じ舞輝を強く抱きしめた。
舞輝は翔から離れ「やっぱこれだ。」と言った。
「え?」
「モダンのFOREVER LOVE。」
「あぁ・・・」
なんだ・・・。
「何が足りないかずっと考えていたの。これですっきりした。明日だけ許してあげる。」
「限定の恋人か・・・。」
残念。自分に振り向いてくれたのかと思った。
「私も翔のこと好きになる。最高のパートナーだから最高の一曲にしたいの。」
「舞輝のプロ根性には負けるよ。」
翔は笑って言った。
舞輝はニッコリ笑って「じゃぁね」と言って帰っていった。
達弥さん、ヤキモチ妬いちゃうかしら?
早く帰って寝よ。
当日。
入りをして、稽古着に着替えをしてメイクから始めた。
発声や、ウォームアップをし、軽い昼食。
リハーサルをし、開演を待つ。
劇団の所有する劇場ロビー。
愛海たちと達弥たちもすでに揃っていた。
席は前から5列目中央とかなりいい場所。
「さすが舞輝!」
舞台鑑賞が趣味の暁子が大感激中。
一人一人に渡されたパンフを見た。
「舞輝主役じゃん!」
千春が言った。
「お前知ってたんだろ?」
廉が達弥に尋ねた。
「いや、知らないよ。ただ、翔くんと踊るからヤキモチ妬かないでくれって。」
「舞輝のことだから、誰にも話してないと思う。私も知らなかったし。」
愛海が笑って言った。
開演を合図するベルが鳴った。
ロビーにいる人たちが席につく。 愛海たちも、なんとなく緊張してきて背筋をピンと張った。
徐々に会場が暗くなる。音楽が流れ出した。
「本日は、TMCアカデミー第10期生、卒業公演にお越しいただきまして誠にありがとうございます。第1部ミュージカル 聖剣伝説 開演いたします。」
幕が上がり拍手が沸く。
舞輝はある国のお姫様の役。
平和だった聖剣を持つ王の時代、反乱軍に襲撃されその剣を国ごと奪われた。
今その国を支配している新しい王は、国民からひっぱった税で裕福な暮らしをしていた。
舞輝姫が暮らす国は、何かと王の政治に口をはさみ国民を守っている。
王はその国が邪魔でならなかった。
そこで、王は舞輝姫を城に招いた。
使者の迎えで乳母と旅に出発する舞輝姫。
舞輝姫の夢では、白馬に乗った騎士が迎えにくるはずだった。
なのに・・・
迎えに来たのは徒歩できたのは、金と権力が全ての馬に乗れない騎士。
この旅の行く手に何が待っているのか・・・。
途中、休憩をとる森で舞輝姫は散歩にでた。
そこで出会った青年と恋に落ちる。
二人は時間を忘れて語らっていると、青年の仲間が森の守り神が馬に乗れない騎士によって奪われたと伝えられた。
舞輝姫はその騎士の客人、青年の仲間によって二人は引き離されてしまう。
城に到着すると、王は滞在の記念にと、舞輝姫に森の守り神が渡された。
聖剣をもってるから何をしてもいいのかと、青年のいる森に返すように要求。
生意気な姫に怒った王が王子と結婚させるために招いたことを明かし城に閉じ込められてしまう。
結婚式は7日後。
婚礼を祝う祭典で、青年が舞輝姫に会いに行く。
隙をみて青年は姫に近づき、再会に二人は口づけを交わす。
そのまま逃走を試みるが、兵士に囲まれてしまう。
舞輝姫は青年を追わないのなら城に戻ると交換条件を呑み、馬に乗れない王子との結婚式の準備を黙って行う。
一方、青年は自分の身代わりになってくれた姫を助けに行くべくして、仲間を密かに集め始めた。
そのことを伝えに、城の窓から青年は現れた。
必ず助けに行くから待っててくれと。
今まで見たコスプレちっくな格好ではなく、ドレスに身を包みグッと大人っぽさをだしていた。
舞輝姫と青年の踊りではこっちがキュンとなってしまった。
本当に愛し合っているかのように、短い時間で愛を伝え合う青年とのダンス、演技とは思えないほど舞輝姫は幸せそうだった。
ハッピーエンドで幕はおり、休憩を挟んで第2部。
今度はダンスばかりのショー。
「メインダンサーチームにいるよ。凄いなぁ!」
と、興奮気味の廉。
幕開け、黒い帽子にタキシード姿で登場。ステッキを持って軽快に踊る。
生き生き踊る舞輝を見て、
これがホントの舞輝・・・。
少し距離を感じてしまった。
バレエのシーンでは、ドンキ・ホーテ。
赤と黒のチュチュに扇子を持って踊る。
舞輝のソロと、翔のソロの後、二人の踊り。二人の息はぴったりだった。
モダンのシーンでは、テーマは「FOREVER LOVE」。
舞輝と翔がメインで進んでいく。
しっとりとした曲に淡いピンクの衣装。
惹かれあうふたり。
翔が高度なリフトやジャンプで愛を伝える。
それに応える舞輝。
いつしか二人の気持ちは一つになり、口づけをする。
曲も変調し、さらに盛り上がりをみせた。
愛海の目から自然に涙がこぼれた。
達弥も涙がこぼれていた。
二人が見せる愛に感動していたのだ。
互いを信頼しあっているあの二人だからこそできたにちがいない。
曲が終わると、凄い拍手が会場を包んだ。
照明が落ち、上手に引っ込んだ舞輝と翔はなかなか収まらない拍手に抱き合って喜んだ。
フィナーレまではテンポよく演目が進み、フィナーレのエトワールは舞輝だった。
素晴らしい歌声で始まったフィナーレ。
全員が達成感に満ちた顔でお辞儀をしていく。
終演したロビーでは、「今年のは、今まで一番よかった」と、口々に聞こえてきた。
広場に出演者が出てきたというアナウンスが流れ、みんなで向かった。
広場に行くと、たくさんの人でごった返していた。
舞輝を探すと、翔や仲間とふざけあっていた。
「舞輝!」
愛海が呼ぶと、舞輝は駆け寄ってきて抱きついた。
「何!びっくりすんじゃん。よく頑張ったね!感動したよ。」
愛海も舞輝をギュっとした。
翔が達弥に近づき、
「あの、達弥さん・・・」
「ん?」
「すみませんでした!」
と、深く頭を下げた。
「おいおい!なんのことだよ?」
達弥は言った。
「その・・舞輝とキス・・・・ホントにすみません!」
「今回だけじゃないだろ?」
と、達弥は突いてやった。
「いや!あの、それは・・・」
焦っている翔。
「いいよ、まだ舞輝ちゃんに片思い中だから。絞めてやろうかとは思ったけどな。」
達弥は笑って言った。
「それに、さっきのはホントに感動したよ!翔くんと舞輝ちゃんの信頼関係にはかなわないよ。」
と、続けた。
達弥の言葉に翔はホッとした。
突然、「マイ!」と言いながら舞輝の輪に近づく男が現れた。
舞輝の顔が硬直した。
「俊・・・太。」
「あんた・・・・何しにきたのよ?」
と、愛海も気づいて言った。
「なんだ、お前もいたのかよ。」
俊太は言って舞輝に近づき、
「マイに会いたかった。」
廉たちを掻き分けて舞輝を抱きしめた。
全員があんぐり口を開けて見ていた。
「俊太、どの面下げてこんなとこにいんのよ。」
愛海は言った。
「相変わらずうるさい奴だな。かぁさんに聞いたんだよ。」
「愛海に向かってそういうこと言わないで。」
舞輝が怒った。
「マイ、なんで怒ってんだよ?マイを迎えにきたんだ。」
「は?」
舞輝は目を丸くしている。
達弥と翔は顔を見合わせた。
「俺達、やり直そう。」
俊太が言った。
「何を言ってるの?」
「やっぱ俺には、マイしかいないよ。」
「俊太・・・・(怒)」
今にもプッツンきそうな愛海を舞輝は止めた。
「愛海、落ち着いて。俊太、あっちで話し聞くから。」
舞輝は俊太を連れて端のほうへ行った。
廉は興奮する愛海を落ち着かせた。
「誰?」
「昔の彼氏。それ以上は言えない。」
「達弥がいるから?」
愛海は首を横に振った。
「達弥さんと出会って、ようやく舞輝が過去から立ち直ろうとしてるの。そうすれば舞輝の口から達弥さんに話すと思うの。
それなのに・・・それなのに・・・あのバカ!こんなときに。」
達弥は舞輝たちの方を見た。
俊太という奴が舞輝にベタベタしている。
「迎えに来たって?」
舞輝は俊太に聞いた。
「俺、貯金したんだ。これで式あげられる。マイ戻ってきてくれるよな?」
「なに言ってるの。自分から出て行ったくせに。」
「あれからよく考えたんだ。どんな女と付き合ってもうまくいかないんだ。マイにふさわしい男になって帰ってきた。」
「あたしはもう、俊太とは・・・」
「時間かけてまたマイに振り向いてもらう。また連絡するよ。」
そう言って俊太は帰っていった。
「連絡するったって、番号知ってるの?」
舞輝は呟いた。
「ごめん!しらけちゃったよね?写真撮ろうよ!」
明るく振舞う舞輝。
一瞬みんなは戸惑ったが、愛海も舞輝のテンションに合わせ始めた。
すると、みんなも順に合わせてきた。
翔も面会者が来てそっちに行ってしまったが、舞輝のことが気になって仕方がなかった。
「じゃ、そろそろ!親たち来てるから。行ってくる。」
舞輝はみんなと近々食事することを約束して別れた。
閉館になって、翔は舞輝を迎えに行った。
「舞輝行こうぜ。」
「うん。」
親と別れて翔と楽屋に向かった。
翔はなんて声かけたらいいかわからず沈黙が続いた。
それを察した舞輝が口を開いた。
「マジチューしてよかったね。」
「あぁ、達弥さん怒ってなかったよ。」
「その心配しかしてなかったの?感想は?」
「サイコーだった。」
翔は照れながら言った。
「するしないですげぇ感情の入り方が違った。」
「同感。いくら稽古しても物足りなくて、導き出した答えがマジになること。ぶっつけ本番だったけど、正解だった!」
舞輝は満足げに言った。
「なぁ聞いていいか?」
「ん?」
「さっきの奴なんなんだ?馴れ馴れしかった。」
舞輝の顔から一瞬笑顔が消えた。
でも、またニコッとして
「ヤキモチ?」
「ばっ、違うよ。」
「昔の友達だよ。」
舞輝はそれだけ言って黙ってしまった。
舞輝は楽屋に戻って支度を済ましてキャリーバックを引いて外にでた。
翔や聡太は重い機材を片すために残っている。
門を出て、横断歩道を渡ろうと右を見ると、歩道に横付けした車と達弥が立っていた。
「達弥さん。」
「ごめん、勝手に待ってた。一緒に帰らない?」
「はい。」
舞輝は達弥の前で足を止めた。
「ずっと待っててくれたんですか?」
「あぁ。」
達弥は舞輝の顔を見たら抱きしめずにいられなかった。
舞輝も達弥の胸に顔を埋めたかった。
寄りかかりたかった。
「達弥さん、ここはマズイです。」
と言って達弥から離れた。
「ごめん・・。」
達弥は舞輝を助手席に乗せて荷物をトランクに入れると、車を発進させた。
「この後何もない?」
達弥は聞いた。
「ありません。」
「このままドライブしてかない?ご飯食べて。」
「いいですよ。明日も休みだし。」
「じゃ、決まり。着いたら起こすから寝てていいからね。」
達弥は嬉しそうだった。
走っている間はドライブを楽しんでいた舞輝だったが、渋滞にハマってしばらくすると寝てしまっていた。
達弥は舞輝の寝顔を見た。
俊太のとこに戻るなんてないだろうか・・・
渋滞を抜け、目的地に着くと、達弥は舞輝を起こした。
「やだ、あたし寝ちゃった。」
慌てて起きた。
「いいんだよ、疲れてるんだから。つき合わせてごめんな。」
「そんな、全然・・・」
舞輝は達弥に続いて車をでた。
「ここ、みんなできた海。」
「うん。懐かしいだろ?その後夏にも来た。」
「花火したね。」
「したした。」
達弥が石段に座ると、舞輝も座った。
達弥さんはココアを持ってあたしの隣に座ったんだっけ。
好きだって言ってくれたのもここ。
あれから2年・・・。
しばらく夜の海を眺めた。
浜に座ってるカップルや、月夜に照らされキスをする恋人。
ちょっと写真に撮りたいなんて思ったりした。
「ねぇ・・・」
「ん?」
「あの、俊太って人・・・愛海ちゃんが昔の彼氏だって。こないだ言ってた“怖い”ってのとなんか関係あるんじゃないのか?」
「うん。一歩前に出れない原因作った張本人。」
「やり直そうって・・・」
「笑っちゃうよね。自分から出てった癖に。」
舞輝は遠くを見ていた。
「婚約者だったんです。」
「婚約者?」
「あたし、15で妊娠しちゃって。」
舞輝は過去にあったことを話しはじめた。
「結婚できないでしょ。15じゃ。中学卒業して、親に用意してもらった部屋で二人で暮らして、俊太は働いて、あたしも高校には行かないで俊太と生まれる子供と一緒に暮らす準備をしてたの。・・・・でもだんだん帰りが遅くなってきた。帰らない日も増えてきた。
話しかけても返事してくれない・・・それでも我慢してきた。
ある夜ね、久しぶりに早く帰ってきたと思ったら荷物まとめだしたの。
何も言わないで玄関に行く俊太を引き止めた。
そしたらね、今はお前といるのが耐えられない・・・・重いよ・・・って言って出て行っちゃった。
その日から連絡取れなくなって、俊太の親は大騒ぎ!
しばらくしてだったかな・・・俊太みかけたの。
女の子と楽しそうに歩いてた。15の俊太には妊婦は重荷だったのかなって思った。
でも、許せなくてさ。俊太のこと追いかけたの。
そしてら急にお腹痛くなって・・・・救急車で運ばれた病院で流産しちゃった。」
舞輝の目から涙が落ちた。
自然にお腹をさすっていた。
「辛かったなぁ・・・ごめんね・・・死なせるつもりはなかったんだよ・・・。俊太がいなくならなきゃ、赤ちゃんもいなくならくてすんだのに。
そのまま俊太とは音信不通で終わったの。」
話し終えて達弥を見ると達弥の目からも涙が出ていた。
月に照らされ涙が光って見えてわかった。
「達弥さん、大丈夫ですか?」
舞輝はハンカチを渡した。
達弥はハンカチを持つ舞輝の手を掴んだ。
「行くなよ。」
達弥は舞輝を抱き寄せた。
「あいつのとこになんか行かせない。」
「達弥さん。」
「俺じゃダメ?舞輝ちゃんが好きなんだ。いつも舞輝ちゃんのそばにいたい。」
強く抱きしめる達弥の脇から舞輝は手を回した。
「あたしも達弥さんが大好きです。」
「舞輝ちゃん。」
「返事、遅くなってごめんなさい。達弥さんはいつも私のそばにいてくれましたよ。あたしが今、一番そばにいたいのは達弥さんです。」
舞輝の目は真っ直ぐ達弥を見ていた。
「舞輝ちゃん・・・」
達弥が言うと、舞輝は笑顔を見せた。
「俺の好きな顔。」
達弥は舞輝の頬をつたう涙を拭うと、優しく舞輝にキスをした。
まばゆいばかりの月と星たちは、海にキラキラと輝きを与え、二人を祝福しているようだった。
しばしの春休み。
お世話になったダンススタジオに顔を出してレッスンをしいr、達弥とデートに行ったり。
充実した休みを過ごした。
休み明けは、卒業生の集まり。
「よっ!舞輝。」
翔が声をかけてきた。
「よっ!」
舞輝も言った。
「元気か?」
「何?どしたの?」
舞輝は眉にシワを寄せた。
「ほら、変な奴きて落ち込んでたじゃねぇか。」
「心配してくれてたんだ?」
舞輝は翔の顔を覗き込んだ。
翔は少し顔を赤らめた。
「そりゃ、大事な友達だからな。」
「ありがと。翔大好き!」
舞輝は翔に抱きついた。
「あっ、友達としてね。」
と、補足した。
「いい加減、達弥さんの気持ちに答えてやれよ。マジ舞輝に惚れてるから。」
真面目な顔で言う翔に舞輝は吹き出して、あの夜のことを話した。
「そうだったのか!よかったな。っていうかさ、笑いすぎ。」
舞輝はまだ笑い転げていた。
「だって、翔が真面目な顔で・・・・あははは」
「なんだ?たのしそうじゃねぇか。」
聡太が到着。
「聡太!おはよ。」
「おぅ。」
「来るの遅い!聡太にも見せたかった!翔の顔。」
「おぃ、言うなよ!」
「なんのこっちゃい。」
集まりでは、入団式の説明とその後の予定の振り分けが行われた。
舞輝と翔は二人して夏に公演が決まっている新作に出ることになった。
卒業公演での二人のダンスが評価され、新作の出演が決まったそうだ。
もちろん聡太も。
その後、食堂で3人でお祝いをしたのは言うまでもない。
桜満開の春。
休日の舞輝は陽気に誘われて公園へ散歩に来ていた。
愛海に達弥とのことを報告したら抱きついて喜んでいた。
「舞輝偉い!」
だって(笑)
振り返れば、愛海が無理やりテレビ局や、その後誘われた食事、ドライブに引っ張って連れて行かなかったら、まだ恋なんてすることなかったかもしれない。
達弥さんと出会えたから、翔や聡太と仲良くなれた。
達弥さんと出会えたから、引きずる過去から抜け出すことができた。
達弥はゆっくり時間をかけて舞輝向き合った。
一番大事に舞輝を想っている。
今の舞輝には達弥を一番大事に想うことができる。
木陰のベンチに腰を下ろして、桜を見ながらそんなこと考えていた。
ほっぺに冷たいものがあたった。
振り返ると、達弥がジュースを持って微笑んでいた。
「おまたせ!」
舞輝の顔が自然に笑顔になる。
今日はどこへ行こうか?
綺麗な桜が見えるとこ!
鎌倉でも行く?
素敵!
これからは二人で綺麗な風景を探しに散歩しようね。
終わり
結末は”ハッピーエンド”これ当たり前です。
主役は死なないのと一緒で。
これが苺タルトのスタイルであります。
これは、苺タルトが高校生のときに書いたお話です。
何度も何度も書き直して、今日ここに投稿しました。
これでもまだ足りないかもしれない・・・でも、大事な作品です!




