弟子入り
ティムは夢を見ていた。
内容は覚えていないが、
多分、忘れたい方の夢だ。
枕に染み込んだ大量の汗が、その夢の内容を暗示している。
昔の夢だったんだ、とティムは悟った。
過去は魂の奥底で、地下のマグマとなってティムの中に流れていた。
普段それは姿を隠しているが、時折夢や現実の苦しみとなって、
静かな噴火を試みるのであった。
体を起こし、夢の余韻が体から抜けきるまで、ティムは目を閉じて待った。
深い呼吸が震える魂を鎮めていく。
すると、昨日の出来事が脳裏に蘇った。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
リリィの言う通り、村人を襲った魔女の気配を感じたティムは、
彼女に見付からないよう姿を隠した。
集落には神隠しに遭ったはずの人々の姿が戻っていた。
リリィが姿を消した後に降り注いだ光は、どこか異界に退避していた集落の人々が、
元の世界に舞い降りた光だった。
魔獣を送り込んだ魔女も、そこで起こったことをすぐに理解したようだ。
力の差を正確に把握したからであろう、魔女の気配は直ぐに消えた。
ティムはそれを確認してから、夜の平原を中核都市に向かって歩き出した。
それにしても、あれだけの数の人間を退避させるとは、
リリィの魔力が戻りつつあるのかも知れない。
「急がないと・・・」
その言葉の先は、平穏な夜の空に消えた。
少なくとも今晩は、血なまぐさいことは起こらなさそうだった。
中核都市に着いたティムを待っていたのは、
戦闘の直前、彼を後ろ手にふん縛った新人ナイトのピートだった。
「師匠、信じてました!!」
「し、師匠?」
初対面とは別人のような対応に、ティムは困惑を隠しきれない。
「あの魔獣、やっつけたんですよね?!見た目が貧相なんで魔獣のディナーにされたと思ってましたが、人は見かけによらないんですね!!」
信じてた人の言葉とは思えない。
「いやー何かの間違いじゃないかな。気絶してるうちに、誰かが退治してくれたみたいで・・・」
「ご謙遜を!じゃあこれは何ですか!紛れもなくナイトの証!!」
ピートが持っていたのは、失くしたと思っていたナイトを証明する金のバッジだ。
「情報屋が持ってましてね、持ち主に返すと言って預かってきたんです。これ先輩のでしょ」
持っていたのは紛れもなくティムのバッジだった。
「あ、情報屋で落としたのか~ありがとう」
「やっぱ先輩が魔獣を倒したんですね!そうと分かれば改めて・・・」
ピートは仰々しく土下座しながら、「僕を弟子にして下さい!」と叫んだ。
道行く人の視線がティムに突き刺さる。これでは自分が悪いことしているみたいだ。
「えー、と、僕は弟子とかそういうのは・・・」
「お願いしますっ!」再びアタマを地面に付ける。
「つ、疲れてるから、一晩考えさせてくれないかな~・・・なんてね・・・とりあえず、アタマ上げてくれないかなぁ~ほら、皆見てるし・・・」
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
結局その場を逃げるようにして立ち去り、回答はうやむやのまま、街を出ることにしたのだった。
悪夢の正体はこれだったのかもと、直面している課題を思い出したティムは苦笑した。
「とにかく、さっさと宿を出ないと・・・」
ティムは慌てて荷物をまとめ、眠気眼の主人に宿代を支払うと、そそくさと街を出た。
一息ついたのも束の間、門で待ち伏せしていたピートの姿を見て、
ティムは再び溜息をついた。