魔獣
魔獣は木々をバキバキとへし折りながら現れたゆっくりと歩み寄って来た。
背丈はナイトたちの3倍ほどあろうか。
体は余すとこなく毛で覆われている。
その奥の方、埋もれるように光る目は、明らかに二人を認識していた。
突如、その体をかがめたかと思うと、脅威の跳躍力で一気に二人の背後に回った。
ドスン、と着地の瞬間に大地が揺れる。
「このっ!」
新人ナイトは剣を抜き、威勢よく構えに入った。
振りかざした剣を巨体めがけて振り抜こうとしたその瞬間、
両の手から感覚が失われていることに気付く。
「あ、れ・・・?」
彼の剣は遠く森の方に飛んでいった。
魔獣が振りかざされた剣を素手で弾き飛ばしたのだ。
体毛に包まれた顔が、ニヤッと少し笑ったように見える。
その表情に得体の知れない恐れを抱いて、新人ナイトは一目散に逃げ出した。
縄を縛るのと逃げ足は速いらしい。
「え、ちょっとちょっと、縄とか僕の存在とか・・・」
すっかり忘れてるよ~~~という声も既に届かぬところまで、新人ナイトは去ってしまっている。
さすがの魔獣も呆気にとられたようだが、もう一人の獲物に照準を合わせるのに時間はかからなかった。
「えーと、ちょっと準備とかしてもいいかな・・・?」
魔獣が言葉を解すと聞いたことはない。
大きな口をあんぐりと開け、踊り食いの態勢に入った。
ナイトは思わず目をつぶった。
強い光が、頭上から舞い降りてくる。
不思議と、痛みはなかった。
死とは、穏やかなものなのか。
短い人生だったし、酷い最期だったけど、
痛みも感じず穏やかな気持で逝けたのなら・・・
「僕は、幸せだったのかも・・・」
「何言ってんの」
聞き覚えのある声に、ふと目を開くと、そこにはもう光が消え、
灼熱の炎に悶え苦しむ魔獣の姿があった。
「縄は焼いたわ。とどめヨロシク」
声の主の生意気な指示に、ナイトは苦笑しつつ、
自由になった右手を天にかざし、詠唱した。
「魔界の剣、グラディウス!」
時空が裂け、先程のような強い光が、ナイトの右手に収束する。
それは一瞬の後にナイトの背丈ほどの剣を模った。
「同胞の肉体よ、鎮まれっ」
魔獣の巨躯を軽々飛び越えるほど飛ぶと、
剣を魔獣の脳天に突き刺した。
光がほとばしり、悲鳴とも聞こえる雄叫びとともに、
魔獣の体は切り口に向かって収縮し、最後には跡形もなく消えていった。