迷惑なルーキー
北の森は、中核都市から3日ほど歩いたところにあった。
果てしなく見えた平原が、小さな川を渡ったところから急激に険しくなり、
アップダウンをしばらく繰り返した後、小さな丘の眼下に突如森が現れた。
鬱蒼とした気味の悪い感じはない。
人の手が入っていて、整備された森なのであろう。
森の付近には集落の一つと思しき家が2軒並んでいた。
しかし、人の気配は感じられなかったので、妙だな、とナイトは思った。
西の空に太陽が沈みかかっていた。
オレンジ色の光が木々を燃やすように染め、長く伸びた影は最後に一面の闇と同化する。
本来なら、魔女狩りも魔獣狩りも、魔力の弱い昼間に行われる。
逆に夜は、彼らの力が強くなる時間だ。
よって、夜は彼らが最も活発に活動する時間とも言えよう。
探すなら、彼らがじっと身を潜めている昼間ではなく、夜だ。
完全に陽が沈むのを待って、ナイトは森に足を踏み入れた・・・その時だった。
「何者だ」
背後から何者かがナイトに剣を突きつける。
ナイトは両手を上げ、敵意がないことを示しつつ、
「あ、怪しいものではありません」
と、オーソドックスに答えた。
「日没を待って神隠しの噂がある森に入るなど、怪しい匂いがプンプンする。貴様、魔女の手先じゃないのか」
帯刀しているということは、彼も同じナイトであろうことは想像できた。
しかし、経験あるナイトは魔女の気配を覚えるものだ。
声も若いので、まだ現場配属されたばかりの新人ナイトかもしれない。
「あのー、私こう見えましても一応ナイトの端くれでして・・・」
「何だと、剣も持っていないのに信じられるか!」
「ホントです、革の鞄にバッジが有るはずです」
やれやれ、どこかでしたやり取りだ、と剣を突きつけられながらため息をつく。
「見せてみろ」どん、と突き飛ばされた自称ナイトは、ガサガサと鞄をあさり始めた。
しかし、いくら小物が多いとは言え、なかなか出てこない。
そういえば、前回もバッジが見つからなかったような・・・
新人ナイトの苛立ちが隠しきれなくなってきている。
「ええい、まだ出てこないのか!」
「すみませんすみません、おかしいなぁ、確かに入れたんだけど」
焦ると声が上擦って、何とも情けない。
仕舞いには鞄をひっくり返しかけたので、さすがにそんな鈍臭い魔女の手下も居ないだろうと、
ようやく新人ナイトも諦めた。
「もういい、しかし怪しいことに変わりはない。このまま連行する」
気付くと後ろ手に縄がかけられている。手際だけは妙に良い。
「え、ちょ、それだけは・・・」
言いかけて、森の奥から感じられた生温い風に、ハッとそちらを振り返った。
新人ナイトも異臭に気づいたようだ。ガクガクと歯を震わせている。
この世のものとは思えぬ雄叫びが、周辺の空気をビリビリと震わせた。
「魔獣・・・!!」
森の奥から、猿のような獣がゆっくりと姿を現した。