無駄な買い物、有益な情報
情報屋を出たナイトは、早速北に向かった。
北へ向かう道は平坦で、時々旅の商人とすれ違った。
荷車には色とりどりの織物や面白い形の陶器が多く積まれていた。
彼らはこれから中核都市で商売をする気なのだろうが、道行くナイトにも営業を欠かさなかった。
旅するナイトには不要なので、買う気はさらさら無く、
適当に愛想笑いしてやり過ごしていたのだが、
ある一段と弁の立つ商人の話を聞いているうちに、
結局買わされる羽目になってしまった。
ナイトは断れない男だった。。。
「いやーお客さんお目が高いよ。練魔綿を東ノ国の人間国宝が編んだ羽織だからね、これからの季節、重宝するよ」
その話は耳にたこができるほど聞いたが、ナイトは愛想笑いを欠かさなかった。
今となっては話の真偽も怪しいものだ。
「北に向かうなら欠かせないよ~。ところであんた、北のどこに行くんだい」
「えーと、北の森に集落があると聞いたので、そちらに」
北の森、という言葉に商人が反応した。
開きっぱなしの口がよそよそしく閉じられたので、これは逆に何も聞かないわけにはいかないな、とナイトは思った。
「僕の行き先に、何か・・・」
「北の森はやめときな。お客さんだから言うけどね、あそこは神隠しがあったんだ」
ナイトの言葉に被せるように、商人は再び口を開いたが、そこには営業トークの時の滑らかさはなかった。
「神隠し、ですか」
「しかも100人の住民が一人残らず、だ。むごい話さ」
魔女は転移魔法で人間を魔界に連れ去るが、上位の魔女でもせいぜい5人送るのが精一杯だと言われている。
しかも転移は「重い」魔法で、送るのに時間が掛かる。
100人の住民が一度にいなくなる神隠しなど、古い文献にも滅多に見られない。
「魔獣にやられたってこともありえるんじゃないですか」
「可能性はあるが、低いだろうな。あいつらの仕業なら周辺を食い散らかすから必ず痕跡が残る」
ナイトはその地獄のような光景を見たことがある。
魔獣が放つ異様な臭気と相まって、到底見過ごすような痕跡ではない。
「それに、100人を残らず襲うことは出来ないだろう。逃げ延びる人間だっているはずだが、そんな話は聞いていない。証言が得られれば、すぐに討伐隊が組まれるはずだが、ナイトが動いたという話は聞かないからな」
魔獣の噂が確認されれば、有力なナイトを招集し、討伐隊が組まれる。
魔獣は人間を餌として生きているので、食料を求めて都市に侵攻する可能性があるからだ。
危険はすぐに排除されなければならない。
が、今のところその気配はないということだ。
「なるほど、有益な情報をありがとうございました。で、道はこっちで合ってるんですかね。結構歩いたつもりなんですが、森どころか木もまばらにしか見えなくて、道間違えたかな~なんて思ってたところでして」
ナイトの言葉に商人は呆れるしかなかった。
「人の話、聞いてたのか?そっちは魔界に通じる道かも知れないんだぜ?」
脅しのつもりが、ナイトは何でもないように言った。
「ええ、それが私の探している道です」