旅の始まりは情報屋から
ここはとある世界のとある大陸
そのまたとある中核都市に、一人のナイトがいた
彼は「人探し」ならぬ「猫探し」をして、世界各地を転々としていた
「あの~すみません・・・」
「いらっしゃい、何の情報が欲しいんだ」
ぶっきらぼうな様子の情報屋に、彼は少したじろいだ。
時に危険をおかして情報を収集することを生業としているだけあって、
情報を求める客に対しても上から目線の情報屋は多い。
「魔女を探しているんですが、何か情報入ってないですか」
ナイトの一言に情報屋の太い眉が動いた。
「・・・魔女の情報はナイトにしか売れねぇ」
威圧的な声が、一層低く響く。
ナイトは魔女や魔獣を討伐するエキスパートだ。
厳しい訓練で屈強な者が多いし、帯刀も許されている。
しかし、この客はそんなイメージとは対極で、ヒョロくて剣も持っていない。
「あ、申し遅れました。私こういう者でして」
言いながら使い込んだ革の鞄をゴソゴソするが、
小物が多くてなかなか出てこない。
気不味い空気が2人の間に流れる。
ナイトは焦る、焦るとナイトを証明するバッジが余計に出てこない。
あれ、おかしいな、と言いながらナイトが荷物を床に広げ始めたところで、
痺れを切らした情報屋が、ため息混じりに言った。
「おい、もういい。もういいってば」
しゃがみこんで小さくなったナイトの手が止まり、情報屋を見上げた。
「金さえ払ってくれりゃ俺としてはいいのさ。あんたがナイトであろうがなかろうがな。金はあるんだろ」
「は、はい・・・いくらかは」
ナイトは上ずった声で何とか返事をした。
「北の森で最近妙な噂がある。この街と交流のある小さな集落がいくつかあるんだが、最近そこからの農産物が止まっちまってるって話だ」
「神隠し、ですか」
魔女は人間を捕まえて魔界に送り、魔獣にして人間界に戻すと言われている。
魔界に連れられて人間が消える現象を「神隠し」と言い、魔女の痕跡であると考えられている。
「もしくは魔獣が出て壊滅させられたか、だな。どっちにせよ、剣も持たない自称ナイトさんには荷が重い話さ。ま、お代は頂くがな」
そう言って差し出された熊のような手に、ナイトはおどおどしながら札束を出した。
「ありがとうございます、足りますか?」
相場の10倍はあろうその対価に、逆に威圧されたのは情報屋の方だった。
たじろぎながらコクリと頷くと「良かった。では、有益な情報ありがとうございました」と声をかけ、
”自称”ナイトは店を出て行った。
「なんじゃあ、あいつは・・・」
情報屋は、先ほどまで”自称”ナイトが立っていた空間を呆然と見ていた。
その足元だった場所に、ナイトを証明する金色のバッジが転がっていた。