Cream2
「よぅ。学校終わりに呼び立てて悪いな」
俺が席に着くと同時に、入口から入ってきた社長が気付いて手を挙げた。
社長は若い。
正式な年齢を聞いたことはないけれど、曾我さんよりも手嶋さんよりも、多分広野さんよりも若いと思う。
それでも、社長が一目置かれているのは明らかだった。
「おかえりなさい」
「車直りました?」
手嶋さんと曾我さんの言葉に、社長は僅かに眉を顰める。
「残念だが入院になった」
「それは困りましたね」
「そろそろ買い替えを検討した方が良いんじゃないですか?」
「何を言うか。俺のルートはまだ走るぞ」
ルートと言うのは社長の愛車だが、一体何年乗っているのか、良く走るなぁと思わされるような車だ。
話を聞く限り、どうやらとうとう修理に出されたらしい。
「あら、社長。おかえりなさい。社長も飲みます?」
給湯室から出てきた広野さんが、手嶋さんの机にマグカップを乗せてからこちらを振り返る。
けれど、社長は軽く手を振った。
「ありがとな、後でくれ。取り敢えず、阿木。ちょっと来い」
「はぁい」
社長室に招かれて扉が閉まると、途端に静けさが降ってくる。
ただ扉を隔てただけなのに、空気そのものが違うようだ。
「依頼もないのに呼び立てて悪かったな」
「何かあったんですか?」
電話があったのは放課後で、友人と街にでも繰り出そうかと話している最中だった。
だからと云って、別段問題はなかったが、電話口の社長の歯切れの悪さが気になっていた。
「厄介な話が持ち上がっててよ」
「厄介?」
「ちょっと面倒な釘の刺され方をされちまってな。先にお前に話しとく方が良いだろうと思った訳だ」
珍しく回りくどい言い回しで、社長は俺に椅子を勧めて、自分も向かいに腰を下ろす。
「何の話?」
「この仕事に学生を入れるなって云われた」
「…は?」
あまりに突拍子もない言葉で、反応が遅れたのは仕方ないと思う。
「何? 学生の何が悪いんだよ?」
現役高校生の身の上としては、その言葉に反論を禁じざるを得なかった。
社長自身の言葉ではないとはいえ、口調が恨みがましくなるのは仕方ない。
「学生どうこうと云うよりは、あいつのニュアンス的には」
「感情で動く社会性のない子ども、は不要。と正確にお伝えしたはずですが?」
開く音のしなかった扉を慌てて振り返ると、カッチリと音のしそうなほど隙なくスーツを着こなした男が眼鏡を押し上げた。