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赤い、紅い

作者: 雲丹

 自分の中で、持て余してしまう。

 ふと、気がつくと、それは私の得体のしれないモノになって、お腹の底にずしりね寝ころんでいた。我が物顔で、退く気配すらない。厄介で厄介で、どうしようもない。そんな感情を、私は得た。底抜けのループ。日々を「消費」するようになったのはいつからであろうか。

 もう何日も、外に出ていない。


 右サイドの、たしかパソコンの隣あたり。そこらへんに、シャープペンシルは転がっていたはずだ。そちらも見ずに手を伸ばす。手応えがないや。更に奥まで手を伸ばすと、ぬちゃり。冷たくて纏わりつくようないやな感触。

 焦って手を引き抜くと、何か形容しがたい糸を引いた塊が私の右人差し指と中指に、突き刺さっていた。

ーーーーーー赤い。

 それは、とてもとても醜い赤をしていた。所々黒ずみ、異臭がする。ところどころ鮮烈に白く、ずっと見ていると不思議なことに、不安と喪失感におそわれた。

 何だろう、これ。こんなもの、うちにあっだろうか。と、いうか、これはどこからでてきたんだっけ? そこまで考えて初めて、私は思い当たる。

 右サイド、パソコン、その、隣は。透明な、そう容器があって。それで、あの透明な容器の中には、何が入っていた?

「うあああああ!!」

 私はその答えにたどり着いて、たまらず叫び声を上げた。指を勢いよく振る。気持ちが悪い。嫌だ。さっきまで、ううん、いままでずっと感覚が麻痺していたように気にならなかった臭いが、鼻について、離れない。

 何度もなんども、ついには腕ごと振り切ると、それはようやく、指から離れた。

 あんまり勢いよく振ったものだから、それは床に跳ねて得体の知れない液体を撒き散らした。臭いがむっと強くなる。触れていた部分が痒い。

「なんで、なんでなんでなんで……」

 床に転がっているそれを見つめて、肩を左手で押さえつけた。

 まるきり面影なんてなかったけれど、たしかに私はそれをしっていた。かろうじて残る尾鰭。昔は美しかったであろう、白とあかの斑尾模様。溶けかけの、鱗。

ーーーーきん、ぎょ。

 ひらひらと舞う姿を私は覚えている。夏祭りの、あの時の。

「……は、ぁっ。ああああああ!!」

 私はいつからこれの存在を忘れていたのだろう。いつ、こんな溶けかけるまで。


 持て余す程の感情が、私の中には詰まっていた。今も、まだ。 

 正常に五感が働かないくらいにそれは私を侵していた。

 だけど。

 叫び声に気づいた母親の、この惨状を見たその顔が、そして何よりも金魚の死骸が、今の私を責めているような、そんな気がした。

 残骸を、全て取り払っても、ずっと。

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