夢でみた話(仮)
初めての投稿です。根性が無いので、完結まで続かないおそれが多くあります・・・。いまのところ○○くんが疑惑を受け、メガネ女子が○○くんをとりあえず助けてくれるとこまでで、真犯人探しに乗り出す前なので、このまま謎が現れずほどかれないという消化不良で終わる恐れがございます・・・。
夢をみた。自分は高校生か中学生で、クラスの女の子の一人が僕に強姦されたと喚いて授業中にカッターで切りつけてくるのだ。見事に頸動脈を狙って切りつけてきたのだけど左の手の甲で咄嗟に庇う。それで僕は立ち上がってその子の両手をつかんで足を引っ掛けて床に倒し、マウントポジションをとる。ついでにその子の右手を床に軽く叩きつけて、カッターを離させる。女の子はまだわめいて暴れるが、マウントポジションは覆らない。でも次に女の子はまた僕に強姦された事について詳細を語りだして、「お前アンパンマンのお面被って、忘れないで僕の名前は○○だよ忘れないでつって言ったじゃねえか」と叫ぶ。とりあえず身に覚えがないし、アンパンマンのお面を被ってたんなら、犯人僕かどうかっていうか誰だかもよくわからないだろ、と思う。僕はひとまず、「先生警察呼びますか?ってか呼んでいいんですかね?」と教壇からこっちを見ている先生に呼び掛ける。この時、僕の頭には自分に降りかかった強姦疑惑やこの女の子の殺害未遂のことより、教育現場に警察が介入するのっていいのかな?というしょうもないことだったなぜか。そうしていたら、ふいに近くに黒髪ミディアムロングのメガネ女子が立っていて、僕の脇腹をこづく。で、「ねえ、△△さん。辛かったね。今からわたしがあなたの話を聞くよ。だから、ひとまず、○○くん殺そうとするの待って、わたしと話しよう。こいつあなたの上からどかすには、ちょっと△△さんも暴れるのやめなきゃ」みたいなことを言う。それで、僕を蚊帳の外に置いて説得が続いて、なんとか△△さんも大人しくなる。「じゃあ、○○くんどいて」とメガネ女子が言うので「え、でも、大丈夫かなまた切りつけてきそうなんだけど…」と僕が怯えてウジウジ言うのを最後まで聞かないで、メガネ女子はまた僕の脇腹をこづく。で、こんどはプラス睨んでくるので、今度は僕も黙ってそろりと女の子の上から体をどける。すると、僕がこわごわ脇に動いて△△さんが身を起こして、みんなが大丈夫かな~、とちょっと安心しかけた一拍の瞬間に△△さんは僕めがけて飛びかかってくる。やべっ、だから、言ったんじゃんと僕が身構えた時、△△さんの行動をちゃんと見越していたメガネ女子が△△さんの腰に飛びついて△△さんをとどまらせる。すごい…と僕は感心しかけたけれど、△△さんは暴れるのをやめないで、さっきより大きな声でわめきだす。「犯人お前だろーが!殺してやる!殺してやる!」と言って僕を睨んで腕を振り回す。その腕が、メガネ女子の目のあたりに当たって、メガネが吹き飛ぶ。顔には痣ができそうな感じでガツガツ△△さんの肘が当たって、メガネがなくなったメガネ女子も片目をつむってちょっと痛そうに顔をしかめている。「話を聞くから、ちょっと落ち着いて△△さん!○○くん殺す前に、ちょっと聞きたいことあるから!」と、メガネ女子は必死に△△さんの腰にしがみついて諭している。僕を殺す云々は△△さんの説得のための方便だよな…と思いながら、成り行きを見守る。で、しばらくすると△△さんはメガネ女子の話を聞く気になったのか大人しくなる。「○○くん、ちょっと教室から出てってくれるかな」と有無を言わせぬ口調と顔で言われ、「はい」とだけ返事して、僕は回れ右をして教室の後ろ扉に向かう。幸か不幸か僕も△△さんも席が一番後ろだったので、△△さんは僕をカッターで殺そうとするのに都合が良かったし、僕も教室から出て行くのに都合が良い。すると「あっ、ちょっと待って」とメガネ女子がハンカチをポケットから取り出して僕に渡そうとする。「傷口押さえた方がいいよ」言われて自分の左手が切られたことを思い出して「あっ」と痛みを思い出す。「いや、でもいいよハンカチ汚れるし…」と遠慮すると、メガネ女子は黙ってハンカチを差し出し続けるので、「はい、分かりました…。ありがとうございます」とハンカチを受け取って今度こそ教室から出ていく。で、僕が教室から出てったところで、メガネ女子と△△さんの対話が始まる。「今から話を聞きたいんだけど、場所変える?周りにみんないて嫌だったら」「…ううん、ここでいい…」「分かった。…ねえ、△△さん、辛かったね。犯人殺したいよね。△△さんをひどい目に遭わせたやつってどんな奴だったの?」「だから、アンパンマンのお面被って、僕のこと忘れないで僕の名前は○○だよ忘れないでって言ったんだよ」と△△さんの辛そうな声が聞こえる。「そいつの顔は見た?」「見てない」「そいつの服装覚えてる?」「暗くてよくわかんなかったけど、多分チェックの上着にローリングストーンズのTシャツ着てた」「ベロ出したやつ?」「そう」「そいつの髪型覚えてる?」「多分黒髪で短めでちょっとツンツンしてた、…わかんないけど」「声はどんなだった?○○くんの声と比べて高かった?低かった?」「…わかんない。たぶん同じくらいだった…」「なるほど。ところで、△△さんがひどい目に遭った場所と時間、分かるかな?」「…八時ちょっと過ぎのほにゃらら公園」「△△さんはどうしてその時間、その場所へ行ったの?」「その日、知らないアドレスから携帯にメールきて、『○○です。△△さんにどうしても伝えたいことがあります。今日の夜八時にほにゃらら公園に来てくれませんか?』って言われたから、話したこととかあんま無かったけど気になって…行ったの…」「…そっか。ねえ、そのやり取りしたメールって見せてもらえるかな?」「…ううん。その日帰ってすぐ、消去しちゃった。思い出すだけで、すごく気持ち悪くなるから…、あっでも、ちょっと待って。わたしが送ったのは残ってるかも」と△△さんは一度自分の席に戻って鞄から携帯を取り出してくる。「ちょっと借りていいかな」メガネ女子が携帯を借りて画面をスクロールしていく。で、運よく、その日△△さんが犯人と思しき男に送ったメールが見つかる。メガネ女子はそのメールの内容と日付けと時間を確認したかったのだろう。さっと目を通してから「ありがとう」と△△さんに携帯を返す。で、「話してくれてありがとう」と軽く△△さんの肩を抱く。「○○くん入って来て」と、扉のすぐ横に立っていた僕を見透かすようにメガネ女子が僕を呼ぶ。
「○○くん、一昨日の夜八時頃、どこで何してた?」僕が教室に入って来るやいなやメガネ女子が唐突に僕に質問を始める。質問というよりどう考えても尋問を始めるつもりだ。「一昨日の夜八時はたしか、部活から帰ってきて、ご飯食べて自分の部屋に居たと思う」「誰か確かにそうだったって言ってくれる人、いる?」「いや、家族くらいしかいない」「ふーん、そっか」なんだかまずい形勢だ。「部活って何時まで?」「えっ、たぶん六時半過ぎに終わって、七時位に電車乗って帰ったと思う。家には七時半過ぎに着いたと思う」「誰かと一緒に帰った?」「うん、同じ方向の部活仲間と」「友達いるんだ」…失礼なので無言を返す。「○○くん携帯貸して」断われる雰囲気じゃないので、素直に渡す。メガネ女子は黙ってしばらく携帯を調べ、「友達とのメールが異様に少ないね」と脈絡に絶対関係ないことを言って僕に携帯を返す。「話は大体分かった。犯人はまだ分からないけど、多分○○くんは犯人じゃないと思う。○○くん、後でさっき言ってた部活友達に紹介してね。それから△△さん。家、うんにゃらだよね。で、ほにゃらら公園ってその近く?」「うん」「そっか。じゃやっぱ○○くん犯人説は厳しいかも。○○くんの部活関係の人から話聞かないとまだはっきりとは言えないけど、○○くんの言ったことが正しければ、△△さんをその日その場所その時間にひどい目に遭わせるのは色々難しいよ」「………」「犯人、○○くんの名前を騙って○○くんのせいにしようとした卑怯者だね。ま、でもあとは警察に任せよう。△△さん。このメモ持ってって。ちょっとは役に立つはずだから」といつのまにか手帳に書いていたらしいメモを破いて△△さんに手渡す。「先生、警察まだですか?」「え、あ、さっき職員室行ったから、じき来ると思う」「じゃあ、ちょっと、誰か△△さんについて行ってあげて。あ、□□ちゃん、いいかな?」「うん、分かった。△△ちゃん。行こ」「で、○○くんは保健室行ったら?」「あ、はい」なんだかよく分からない内にメガネ女子が全てを取り仕切り、事態は収束に向かう。で、なぜか、保健室に向かう僕にメガネ女子がついてくる。「えっと、ハンカチは洗って返すんで…」「血の付いたハンカチくらいあげるわ」「…部活仲間には今日の放課後ちゃんと紹介するんで…」「分かった」でも、まだメガネ女子はついてくる。頭の中がハテナと恐怖でみたされたまま、保健室に入るが、メガネ女子も一緒に入ってくる。「なんでついてくるんでしょうか。」「ん、わたし、保険委員だからさ」あ、なるほど。
「☆☆先生ー、クラスの子が手の甲怪我したので、消毒して下さい」「お、ヤマちゃんいらっしゃい。で、どこ怪我したって?」「この子の左手の甲に切り傷です」「はいはい、じゃ君そこ座って」さすが保険委員と保険の先生で、僕はするする話の流れに乗せられて消毒される。「んー、山村さん?この子はなんでこんなところに刃物で切られたような傷をこさえたのかな?」鋭い保健室の先生の問いに、メガネ女子こと山村さんは「ちょっと喧嘩で」と涼しい顔で微妙なウソをつく。「担任の先生はこれ知ってる?」「ああ、先生の目の前で起きましたから」「あっそう。ならいいか」よくねえよ。「はい、消毒終わり。ちょっとそこの紙に君の名前とクラス番号書いてってくれるかな」と脇の机を指差す。が、既に山村さんが紙をボードに挟んで持っていて僕にボールペンと一緒に手渡してくれる。名前と番号を記入して先生に渡し、先生がチェックし、お礼を言って教室に帰ろうと椅子から立ち上がる。「ところで、○○くんが持ってるその血塗られたハンカチって、ヤマちゃんの?」血塗られたって…「ああ、そうです。山村さんに借りました」「借りたっつってもそんなの返されても困るよね」と先生は面白い冗談を言ってるような顔をする。「あ、そうですね。じゃあ、今度新しいハンカチ買って返すことにします」「女の子にハンカチもらってハンカチ返すのー?」「えっ、はい…」何が言いたいのか、分からない。倍返しが必要だとか?「なんか、ご飯とか、映画とか誘ったらー?」思わず先生、ではなく、山村さんの顔を見てしまう。で、冷ややかな視線を浴びる。僕は言う。「あっ、山村さん、右目が腫れてる」「こっち見ないで」山村さんは手を上げて、サッとメガネの上から右目を隠す。☆☆先生はそれを聞いて、「なになに、顔にケガだって~?」などと言って仰々しい顔をして、勢いこんで、山村さんの顔を覗き込む。そしてついでと言った感じで、僕の方を振り向き、「君は早く教室に戻りなさい」と興味を失ったかのように告げる。
教室に戻ると、さっきまでの興奮というか非日常の浮遊感みたいな空気がまだ少し教室内に漂っていて、好奇心の混じった居心地のわるい視線が、ちらほら僕に向けられる。そこに先生が「○○は今からちょっと職員室に来てくれるか、もう、今日は授業も自習にしたから」と僕に言う。で、ついていくと、応接室というプレートのかかった部屋に連れて行かれ、先生と一緒に警察の人に話を聞かれることになる。警官は40手前といった印象で、小太りで人の良さそうな顔つきをしている。わざわざソファーから立ち上がって僕を笑顔で迎えてくれるが、全体的に制服が似合っていない。「わざわざ来てもらってごめんね。クラスメイトにカッターで切られたんだって?大丈夫だった?」と開口一番に心配される。「あ、はい。大したことはなかったです。手の甲切られただけだし、保健室にも行きましたから」と少し緊張しながら答える。「そうか、でも危ない目にあったね。二人は普段仲悪かったの?」「いや、そんなことはないと思います。そもそも話したこともほとんどないので」「なんでカッターで切られたか、本人から理由聞いてる?」「あー、僕が△△さんを強姦したって考えてやったっていうのは聞きましたけど…」「疑うわけじゃないけど、そういうことは特にあったわけじゃないよね?」「えっ、そういうことって…、学校でも二人きりになった記憶はないですけど…」「うん、失礼なこと聞いてごめんね。あなたも大変だったしね。△△さんの話を聞いた子が書いたってメモちょっとみせてもらったけど、そこには○○くんにはアリバイがあると書いてあったしね」とわざとらしくアリバイという言葉をつかって笑いかける警察官は雰囲気を和ませることに失敗している。「また話を聞くこともあるかもしれないけど、今日は災難だったね。お大事にね」と警察官が言って話は終わる。部屋からでて廊下に立ったとき「やな感じだったな」と先生が独り言のようにつぶやいた。
で、週末になぜか山村さんと僕は同じ電車に乗っている。通学に利用する電車だが学校に行くわけではないので、お互いに私服。山村さんはいつもと同じ黒いふちの細身のメガネをかけ、髪型も学校のあるときと同じでただ下ろしている。白シャツに無地で灰色のニットをあわせ、黒のパンツルックで、黒のブーツを履いている。鞄は通学用。ぱっと見はラフだけど知的でクールな印象を受ける。ただ、右目に眼帯がついている。包帯の白と髪の黒の対称に色気を感じる。眼帯は昨日△△さんに肘鉄を受けてできた怪我のためなのだろうけど、腫れは一日二日では引かなかったようだ。あるいは、保健室の先生が大げさにしたのかもしれない。席は空いているのに座ろうとしない山村さんにつきあって僕たちはつり革に揺られている。
「今日はまず、ほにゃらら公園に行く」と窓の外に視線をやりながら、山村さんが突然僕に告げる。「てっきりこれはデートになるのだと思ってた」と僕は冗談半分に返す。「君の友達の話を信じるなら、君はあの日ちゃんと友達と同じ駅で降りて帰りの道も分かれるところまで一緒だったということだから、その後すぐに駅に引き返して電車に飛び乗り、どこかで着替えてほにゃらら公園に行ったとして、今日の行程で君が電車を使った場合にほにゃらら公園まで実際にどのくらいの時間がかかり、あの日君が犯行可能だったかは大体わかるわ。もちろんぜんぜん厳密じゃないから、これはあなたとわたしが納得するための儀式のようなもので、この電車のダイヤは平日と休日で変わったり、夜と昼で変わったりはしないけれど、疑り深い人からみれば君はまだ怪しいかも。まぁ今日は休日だから、運がよければ近所の人が公園にいてあの日の話も聞けるかもしれない。△△さんの狂言じゃないってこともわたしたちは納得しなきゃいけない」「彼女にあったことについては僕は狂言の可能性は低いとおもうけど。△△さんの僕に対する殺人未遂だって軽い罪じゃないし、なんだか本気で僕を恨んでる様子だった」「まぁ狂言じゃないでしょうね。君が△△さんのリコーダーを隠れてなめてたとか△△さんの狙ってた購買のパンの最後のひとつをいつも横からかっさらっていたとかそういう私怨があって、今回のカッター切りつけにつながったかもしれないけれど」「僕はそんなことやってないし、それとてもしょうもない理由じゃないですか・・・」「人は思いもよらぬ理由で人を貶めたりするんだよ?○○くん」はあ、そうなんですか。
黙っていると、山村さんもしゃべらなくなる。やがて、うんにゃら駅に到着して山村さんに促されながら電車を降りる。駅員さんに切符を切られ、改札を抜け、「こっちだよ」という山村さんの案内で僕たちはほにゃらら公園まで歩く。山村さんは迷う様子がなく、公園は普通に歩いて7,8分のこじんまりとした風情でそこにある。別に異様な雰囲気もなく、目立たない印象だが、誰も居ないので寂れた感じを受ける。「ちなみに、昨日六時くらいまでそこのブランコで遊んだけれど、人は来なかったよ。周りの家に子供は住んでいないのかもね」と山村さんはブランコを指差した後、少し首を動かして周りを見渡す。公園の片側には三軒ほど小さな家が隣接している。僕たちが立っているのは反対側の道路で、僕たちの後ろにも家があり、少し離れたところは畑になっている。「ずいぶん見晴らしがいいけれど、街灯はそこにあるやつ一本で、六時頃になるともうブランコの鎖も見えにくくなるくらいだったから、公園の中に人がいてもぱっと見ではわからないかもしれない。たとえばそこの滑り台の影でじっとしていれば、ここから目を凝らしても気づかない可能性はある」僕たちから向かって左にブランコがあり、その向かいの10歩ほどの場所に滑り台がある。街灯は僕たちの傍らに立っている。「でも、たとえば犯人に滑り台の影に引きずりこまれたとしたって、△△さんだってまったく抵抗しなかったはずはないし、不穏な物音に周りの家の人たちが気づかなかったなんて考えにくいと思うんだけど」「教室では聞けなかったことだけど、△△さんは滑り台の影に引きずりこまれたわけじゃないって言ってたわ」教室で聞いてはいないけれど、メールか電話をしたかで聞いたのだろう。△△さんは、あの日からこの週末まで登校していない。「友達からアドレス聞いて、メールしたんだよ」と山村さんは答えるように答えてくれる。「わたし友達いるからさ」と余計な口をきく。
街灯のすぐそばに立っているものの、周りは真っ暗といってもいい暗さなので、若干の心細さを紛らわそうと「これからどうしようか」と僕が聞くと、「どうしたらいいと思う」と無表情で聞き返された。「…とりあえず、この公園まで来るのに一時間弱かかってるし、僕のアリバイは証明されたと思うけど」「そうだね、○○くんが利用する駅からここまで来るのに少なくとも三十分では足りないだろうね。で、どうしたらいいと思うかな」「…えーと、マクドナルドにでも寄って帰ろうか。モスバーガーでもいいけれど」「わたしはもう一箇所寄りたいところがあるんだけど、○○くん、おなか空いたなら帰っていいよ。わたし一人でも平気だから」と言う。そうか、一人でも平気だというのならお言葉に甘えてハンバーガーでも買い食いして帰ろうかなと思ったけれども、山村さんの左目は僕をじっとみつめたまま離さないので、女の子のウソは言葉にちりばめられているけれど目にはないみたいなことをどこかで聞いた気がしたので、僕は山村さんの左目をみつめ返して「いや、やっぱりもう少し山村さんに付き合うよ」ときっぱりと答える。「そう、じゃ付いてきて」と山村さんはそっけなく言ってさっと身を翻す。
で、山村さんの少し後ろについて公園から五分ほど歩いたところの小さなアパートの前で、前を歩いていた山村さんが急に立ち止まる。どうしたのかと思って横に立って話し掛けようとしたら、前から歩いてきた人がいて、暗いので一応警戒して目を向けていると「あ、この間はどーもね」とこちらに気づいた先方から話しかけられる。で、近くで顔を見れば先日学校で会った小太り四十の警官だった。着ているパーカーが妙に似合っていて、警察の制服を着ているよりもずっとしっくりくる様相だったので、最初の悪印象を忘れて僕はくすりと笑いそうになって少しだけにやけてしまう。「あ、どーもです」と軽く頭を下げて挨拶すると、警官は僕から目を転じて首を亀のように斜めに伸ばすようなそぶりとともに「そちらは彼女さんかな」と僕らのどちらともなしに問う。問われて初めて警官の存在に気づいたように山村さんは警官に目を向け、「違います。失礼ですがどちら様ですか」と警官にいぶかしげな顔を向ける。「この人、△△さんの話聞いた警官だよ」と横から僕が口を挟むと、「今日は非番だから一般の人だけどね」と面白い冗談でも言ったようにニカッと歯を見せる。「ああ、そうなんだ」と山村さんはそっけない。「もしかして、君にアリバイがあるってメモを書いて君をかばった子かな」と意外にするどい質問に「あ、そうです。この子に助けてもらったんです」と僕が答える。「そうかそうか、ま、青春もいいけど、もう暗いから早く帰りなさいね。このあたりもぶっそうだから」と一人でうんうん頷きながら説教じみたことを言ってくる。どうやら僕らが歩きだすまでこの場に立ち止まっているつもりのようだった。「えっと、山村さん、そろそろ帰ろうか」となんだか考えにふけっているような隣のメガネ女子の肩をつつき「ああ、そうね」という声を合図に歩き出す。角を曲がるまで僕らの後姿に向けて警官が視線を送っているような気がした。