夕暮れ時の会議室
「…あーあ、こういうのって、あたしたちがやらなきゃなんですか?」
「うーん。ほんとに面倒だよね。あたしたちはこんなことするために…って思っちゃう」
「だいたい、こんな時間から会議って何を考えてるんだか」
「まぁ、しょーがないんだけどねぇ」
「…あ、その資料はもう置いときましたよ」
「ああ、ごめん、ごめん」
「って、先輩。なにやってるんですか」
「ちょっと、ここの眺めっていいなってね」
「あー。主任の席ですか?」
「そう。菜奈も座ってみたら?」
「遠慮します」
「なーんでよ。まだ時間はあるよ?」
「いいですって」
「ちぇっ。それじゃあ、せめて、もうちょっとここにいよう?」
「…どーしたんですか? 先輩らしくない」
「だってさ、あたし、今日はただ資料の整理とかしに来ただけなのにさ、主任の目に留まったからって…」
「じゃあ、ぱっぱと終わらせて帰ればいいんじゃないですか?」
「…そうもいかないの。あのね、菜奈、あたしはあなたに話しがあるわけよ」
「え? なんですか、改まっちゃって」
「昨日ね、彼とデートに行ったわけ。そこでね、もしかしたらなんだけど…この前の人を見た…」
「この前の人? …もしかして、先輩と一緒に朝日を見に行った?」
「うん。たぶん、違うと思うけど、なんかそうかもしれない」
「どっちですか? っていうか、大丈夫ですか?」
「なんかよくわかんないよ。埼玉に越したから、どうなんだろ? でも、あたしも上京したし、東京にいてもおかしくないよね?」
「うーん。そうですねぇ」
「じゃあ、やっぱり、本人なのかな…」
「先輩は、彼といたんですよね?」
「そうだよ」
「じゃあ、話しかけにくいですね」
「向こうも奥さんみたいな人と一緒だった。子どもはいないみたいだったけどね」
「あ、っていうか、それ彼には言ってないんですか?」
「うん。なんとなく、言いづらいんだ。ちょっとはその人のこと、話したりしたけどね」
「じゃあ、逢っちゃえばいいじゃないですか」
「内緒で?」
「それは…もし、先輩がちょっとでも不安だったり、やっぱり気が引けるなら話すべきだと思います」
「なんだか、今日の菜奈はいつも以上にはっきりとしてるね」
「なんだか、ちょっと嬉しかったりもするんですよ、先輩が悩んでると。いや、悪い意味じゃなくて、そうすればあたしに頼ってくれるじゃないですか、それってあたしが必要ってことですよね。それがなんか、嬉しいですよ…って、ごめんなさい」
「いつも先輩って言ってくれてるけどさ、菜奈はけっこう頼りになるんだね」
「えぇ? そうですか? だったら嬉しいです」
「そーだよ。仕事も心もしっかりしてるよ。菜奈に相談してよかったな」
「へへ、それじゃあ、戻りましょうか」
「うん、やっと帰れるよ」
「またいつでも言ってくださいね」
「うん、ありがとう」