埼京線上り
「穂奈美さ、大丈夫?」
「ん…、なんとか」
「別に一緒に来なくてもよかったのに」
「いやだよ、どうせあたし、池袋に用事があるんだからいいじゃんか」
「そうだけど、人が多いからさ」
「修二が守ってよね」
「なんかあったら言えよ?」
「ありがと。…まだかな」
「まだ赤羽でたばっかりじゃん」
「ははは、大変だぁー」
「だよね。…あ、そうだ。今日の朝さ、なんか読んでなかった?」
「なんか? ああ、赤ちゃんの名前のやつ?」
「あ、うん」
「ごめん、ごめん。別に…おっと…意味はないんだ。妄想」
「吊革届かないなら僕掴んでれば? でもびっくりしたよ」
「ありがと。だけどあたしね、海っていう字を入れたいなって思ってるんだ」
「すごくいいね」
「でしょ? 修二も絶対いいって言うと思った」
「海はいいよー、綺麗で雄大で」
「男の子でも女の子でもいいね」
「うん」
「海斗くんとかね、海波ちゃんとかたくさんあったよ」
「僕は海だけでもいいと思うなぁ」
「ああ、それもあるかも」
「でも海斗もいいなぁ」
「…ほんとにできたら大変だね」
「それまでに絞っておかなきゃだ」
「幸せな悩みだよね」
「まぁ、満員電車で話してるとクールダウンだけど」
「そぉ? ほら、窓からあんなに綺麗な朝日が見えてるよ?」
「あ、本当だ。…まぶしいね」
「うん。すごい温かいね」
「…そうだね。あ、太洋って名前、いいかも。太平洋の太洋」
「太陽と海?」
「そう」
「じゃあ、男の子ならね」
「うん」
「意外とすぐに決まったね」
「だね」
「うわっ」
「どしたの?」
「今、幸せって、急に思った」
「なんだそりゃ」