レストラン倉敷
「こんな隠れたお店があったんだー」
「ああ、親父が浅草生まれでさ、たまに連れて来てもらったんだよね、ココ」
「あたしなんか、実家は港町でお魚は美味しかったけど、それ以外になーんにもないんだよね」
「はは、でもそーいう田舎もいいんじゃない?」
「あたしはこういうのに憧れてるなぁ、下町とか、なんかいいよね」
「まぁ、わからないこともないけどね」
「…それにしても、面白かったなー、花やしき」
「それにしても、怖かった」
「…頼りないなぁ、孝、ずっと顔ひきつってたよ」
「いや、それは…だって、いきなりキスしてくるなよな」
「違うよ、あれはさ、少しでも安心させてあげようと思ったんだよ」
「ふぅん。まぁ、いっか」
「あ、そーだ。昨日ね、ほら、菜奈っているでしょ? その子に彼氏、羨ましいって言われた」
「何で?」
「お金持ちだからだよ」
「おお、まったく愛情がないね、ゆかりには」
「もう! 違うよ、この話には続きがあんの!」
「え?」
「あたしはお金で決めてないよって言ったの」
「はは、それならありがとうだ」
「でしょう?」
「菜奈の彼氏はニートなんだってさぁ」
「でも好きなんだ?」
「らしいよ、やっぱり愛ってすごいね」
「そーいうもんでしょ」
「そうなのかな」
「だってさ、お金は表現にすぎないんだって。なんていうの、ほら、どのくらい好き? って聞かれてさ、言葉だと言い切れないじゃん? だからさ、こんな大金もはたいてやる、それを稼ぐ労力もお前のためならっていう行動ね」
「おおー語るね」
「愛はもっともっと大きな何か。それはタダで生まれてくる。二人がいればね」
「なるほどなるほど」
「…つーことでタダでかつ二人いればできることしようぜ?」
「え! なに今のそれのための前フリなの?」
「そ」
「ほんとは恥ずかしいんでしょ?」
「バレたか」
「顔真っ赤だよ」
「うわ、だせぇ俺」
「かわいい」
「あほっ」
「へへへ。…ねぇ、ここからならあたしの家が近いよ」
「じゃあ、そろそろ行くか」
「ごちそうさまです」
「お金で決めないんじゃないのかよ」
「今日は孝の番だよ」
「いつもじゃん」
「ごめーん、ごめーん」
「まったくもー」