花やしき
「久しぶりだね」
「何が?」
「こうやってデートするのだよ」
「ああ、そっか。結婚してからは何回かしか行ってないもんね」
「そーだよ。修二、仕事仕事って、それも嬉しいけどさ」
「ごめん」
「その分、あれ乗るよ?」
「ええ! いや、僕高いところとか苦手だし…」
「あたし一人にしないでよね」
「…じゃあ、一回だけだよ?」
「うん」
「あ、でもすごい列。待つ時間もったいないからやめよう」
「やめないよ」
「あー、怖い」
「大丈夫だってば。あたしも怖いから」
「じゃあ、なおさら引き返そうよ」
「いや、怖いもの見たさみたいな…怖いもの乗りたさ? だよ」
「なんだか不思議なこと言うね」
「そんなことないよ。スリルを楽しむっていうことだよ」
「なんかそれはいやだな」
「え? どうして?」
「暮らしにはりがないって聞こえた」
「被害妄想だよ」
「まさか、浮気とかしないでよ?」
「ばか」
「ごめん」
「ばか」
「…ごめん」
「二回乗ろっか」
「え! …あ、はい…」
「よろしい」
「でもさー、ほんとこれ、大丈夫か?」
「絶叫っていうか、古さが怖いらしいよ」
「どんなスリル? ほら、あそこのカップルなんて彼氏、顔引きつってるよ」
「はは、弱虫だね」
「うーん…彼の気持ちはよくわかるなぁ」
「全く、ほんと修二は弱いよね」
「君が強すぎる」
「バランスはいい」
「そういうこと」
「あ、キスしたよ。あのカップル」
「うう、ほんとだ。…ってまさか?」
「冗談だよ。やだよ、こんなとこで」
「あとでいっぱいしてやるよ」
「乗った後も同じこと言える?」
「うぅーん…」