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第1章 鋭い目をしたふたりの男

学校帰り。

あたしにとって最大の、不幸な事件が迫っていた。





ひとり。

街をぶらぶらして暗い道を歩いていた。





…………。





何かイヤな予感。

誰かつけて来てる。

しかも数人。





──逃げなきゃ……っ!






そう思った瞬間、後ろからはがい締めにされ路地へと引きずられた。





「……………っ!」




一瞬、何が起こったのか分からなくなった。

でも口を塞がれたのを感じた。

それと同時に恐怖が襲い掛かる。



目に見えたのは3人の男。

大学生風の男が3人。

不敵な笑みを浮かべている。




何をされているのか頭の中は真っ白になりながら感じていた。





ビリッ!!





制服のブラウスを破られ抵抗は出来ず、あたしは男達にされるがまま。

スカートの中に男達の手が入って来た。






気持ち悪い。

離して……っ!





「……っ!」






塞がれているから声は出せない。

助けを求めることも出来ない。




何度も何度も。

男達が入れ代わりに、あたしの中に入ってくる。



何度も何度も。

出来ない抵抗をする。



その度に男達に殴られる。

そして更に男達の気持ち悪い手が身体中を触りまくる。






何度も何度も男たちはあたしの中に入る。







声が出ない。

怖くて声が出ない。






──助けて!







声にならない叫び。

こんな路地に、誰も来るワケない。

分かってる。

だけど……。




誰か……!

誰か……っ!








ドカッ!




殴るような音がした。

目を開けると金色の髪をした男が、あたしを襲った男達を蹴り飛ばしていた。

あたしはもう何が何だか、分からない状態だった。





痛っ!






頭に激痛が走る。

殴られて血が出てる。

目の前で、数人の男達が殴り合いのケンカをしてる。

そのケンカを見ながら、あたしは意識を失った……。





「……」

気がついたらベットの上。

しかも、見覚えのない部屋。





どこ?

ここは?

あたしは、一体……。




ぼーとした頭で数時間前に起こった出来事のことを思い出してぞっとした。

あたしは、レイプされたんだ。



自分の身体を抱きしめ、涙を堪える。

なんであんな目に遭わなきゃいけなかったのか分からない。

それがなんであたしなのか分からない。




顔を上げて回りを見渡した。

ここは……?




首を傾げては思い出そうとする。

だけど、気を失っていたから思い出せないでいた。





カチャ。

部屋の扉が開き、高校生くらいの男が入ってきた。

その男は背は高く、だけど頭は金髪で。

あたしのとは違う、明らかに染めたっていう金髪。

眉は細くこっちを見る目は鋭い。



「気がついたか?」

よく見るとその人は、綺麗な顔をした人だった。

「覚えてる?何があったか」

あたしが寝かされていたベットの傍まで来るとあたしに目線を合わせるようにして言った。

あたしは彼の言葉に頷いた。


「そっか。あ、制服。破れてダメになった」

その言葉にとっさに自分を確かめた。



服、着てる。

誰の?



「姉のだよ。心配しないで。姉貴に着せてもらったんだ」

良かった。

……なんて、安心してる場合じゃない。

あたし……。

このままじゃ、帰れない。





「君、名前は?」

その人は言う。



「理菜。秋月……理菜」

名前を言った途端、その人は驚いた顔をしてみせた。

そして、その人は言ったんだ。





「秋月駿壱の妹……か???」






って。

あたしもかなり驚いた。

目の前にいる、この人が。

あたしを助けてくれた人が、兄の親友の林良樹さんだったなんて。

しかもこの人が、この街で一番有名な暴走族、黒龍の

リーダーだなんて思わなかった。




その後バタバタとヨシキさんとヨシキさんのお姉さんである、百合さんがどこかに電話していた。


そのうちの1本は、兄の駿壱にだと思う。

ユリさんが「駿!」と叫んでいたのが聞こえたから。


 


暫くして、兄のシュンイチが部屋に飛び込んで来た。

「リナ!」

抱きつき、あたしを落ち着かせるように背中を擦る。

昔、よくして貰ったように。





「お兄ちゃん。大丈夫だよ」

あたしは笑って見せた。

でも、本当は。




そう思った途端、涙が溢れて止まらなかった。

辛くて、苦しくて……。



なんであたしなのって。




助けて欲しい。

この状態から……。



お兄ちゃんはヨシキさんとユリさんに何か話をしてあたしを連れて帰った。

久しぶりに、お兄ちゃんと手を繋いで歩いて帰った。

家に着くまでの間、何もしゃべることも出来ないで、ただ手を繋いで歩いていた。






次の日。

あたしは学校へは行かなかった。




違う。

行けなかった……。




こんな状態で行けない。

怖くて行けない。

家にひとりでいることも出来ない。




昨日、帰ってから母とお兄ちゃんが何かリビングで話していた。

部屋の中で布団に包まりながら、微かに聞こえてきた声。

でも耳には何を言っているのかまるで入って来なくて。

ただ、ひとりが怖くてベットの中で泣いていた。






「リナ、おはよう」

と、母。

今日の朝はママがまだいた。

弁護士をしている母。

いつも何か仕事を抱えている。

今日も仕事、あった筈。

でも、今日は……。



「ママ。お兄ちゃんから何て聞いたの?」

あたし。

答えないママ。

見上げるとママは泣いていた。





母を悲しませてしまった。

そのことに罪悪感を覚えた。






「ごめんね。ママ……」

あたしはママにそう言った。

ママはあたしの手を握り締めて笑った。


「いいから早く学校に行きなさい」

そう言われて、制服に着替えた。

制服がダメになってしまったあたし。

昨日、ユリさんに制服を貰った。

うちの学校の卒業生で、まだ持っていたから。




「リナ。またあとで新しい制服買いに行こうね」

家を出る時、ママはそう言った。

その言葉にあたしは頷いた。





家を出たあたしは、学校とは逆の方向に歩いていた。

なんとなく学校には行けなかった。

ブラブラと歩いて、時間をやり過ごした。

でもひとりではいられなくてポケットの中に入ってる携帯を取り出した。



中学入学祝いに買ってもらった白い携帯。

その中のある番号を押していた。



『……もしもし』

電話の向こうの機嫌が悪い声。

お兄ちゃんは何やらご機嫌ナナメのようで、声が怖かった。



「……お兄ちゃん」

そう呟くように言うと『ああ』と電話の向こうで答えた。

『どうした?』

その声は機嫌が悪いながらもあたしのことを心配してくれてるようで、でも、手が震えて何も言えないでいた。



『リナ』

あたしは電話を持つ手が震えていた。

自分の兄に電話しているのに、どうしてこんなにも震えてるんだろう。


『お前、学校どうした』

電話の向こうの声はだんだんと優しくなっていき、あたしはほっとした。




「お兄ちゃん……」

あたしはそう呟くように言うと、大きく息を吸った。

「今、どこ……?」

『今?一応、学校にいるぞ』

「……そっち、行っていい?」

その問いかけに兄は不審に思い『なにかあったのか』と聞いてきた。

あたしは何もないと答えて電話を切った。




向かった先はお兄ちゃんが通う鷹丘高。

レベルが高い鷹丘高だけど、その分、不良たちも多い。

頭がいい学校のわりに不良が多いのは入ってからレベルについていけなくなって、不良化する人がいるらしい。




お兄ちゃんは元から不良だったけど。





鷹丘高に着くと、校門の前にお兄ちゃんがいた。

あたしの顔を見ると、こっちに近付いて来た。


「リナ。お前学校は?」

その問いに首を横に振る。

その行動にお兄ちゃんは「はぁ……」と深いため息を吐く。


「なにやってるんだよ」

あたしは何も言えない。

あんなことがあった後に、何もなかったかのように学校に行く事が出来なかった。

ひとりでいられなかった。

あのクラスに溶け込む勇気がなかった。





人と接するこが怖くなっていた。




そんなあたしに気付いているのか、気付かないでいるのか。

お兄ちゃんはあたしを鷹丘高の中へと連れて行った。




部外者が入っちゃダメなんじゃないの!?




そう思うけど、お兄ちゃんに何も言えない。

言ったら怒鳴られる。

それが怖い。



昇降口でお兄ちゃんはこっちを振り向き、「ここにいろ」と言うので黙って頷いた。

そして廊下を歩いて行く。

昇降口から見えるお兄ちゃんの後ろ姿にあたしは不安になった。




ひとりでいることが不安。

また何か起こるんじゃないかって不安。




どうしようもなく、怖くてその場にしゃがみ込んでしまった。

しゃがみ込んだまま、涙を堪えていた。






どうしてこんな思いをしなきゃいけないの。

なんであたしだったの。



そんな考えがグルグルと頭の中を回る。

でもいくら考えても答えなんか出ない。

それは分かってる。


「リナ」

顔を上げるとそこにお兄ちゃんがいた。

そしてその隣にはヨシキさんがいた。

そしてもうひとり、ヨシキさんと同じ顔をした人が立っていた。

その人を見てあたしは怯えた顔をしていたんだと思う。

お兄ちゃんがあたしの傍に立っていてくれた。



「一樹。俺の妹だ」

カズキと呼ばれたのはヨシキさんの双子の弟らしかった。



「似てねーな」

「煩せぇよ」

そう言ってあたしを立たせる。

そしてあたしをちらっと見て頭に手を置く。

そのまま、あたしの肩を抱いて歩いて行く。





校門の前には一台の車。

見るからに高級そうなそしてヤバそうな車。

お兄ちゃんはその車のドアを開けるとあたしを押し込んだ。



ワケが分からない状態のあたし。

それなのに、何も言ってくれない。

あたしの後にお兄ちゃんが乗って来て、その隣にヨシキさん。助手席にはカズキさんが乗った。



「出せ」

ヨシキさんがそう言うと、車はゆっくりと動き出した。



相変わらず何も言ってくれないお兄ちゃんに不安になった。

だけど、お兄ちゃんの手はあたしの肩を抱いたまま。

その力は強くてそして優しい。




お兄ちゃんの手の熱があたしを少し安心させてくれてる。

それでも何か言って欲しくて言って欲しくて。

あたしは下を俯いていて、唇を噛んでいた。



無理やりお兄ちゃんのところに来たことを怒っているのか、それとも他に何かあるからなのか。

不機嫌なお兄ちゃんが隣にいる。


それが他の人にも伝わっているのか、空気が重い。

そんな空気を打ち破ったのは助手席に座っているカズキさんだった。





「しかしよー……」

その声に顔を上げると、カズキさんが煙草を吸いながらこっちを振り返っていた。



「ほんとに金色なんだな。目も青だし」

あたしの容姿のことを言ってる。

あたしはこの容姿のことを言われるのが好きじゃない。

カズキさんの言葉に不機嫌になった。

その顔を見てカズキさんは笑った。



「言われるの、嫌なの?」

そう言うと、あたしは頷いた。

「でもなんで?」

今度はお兄ちゃんの隣から聞こえた。




声だけ聞いてると全く判別つかない。

もちろん、顔も似ているんだけど、髪形のせいで判別がつく。



ヨシキさんは金色の髪をしている。

カズキさんは銀色の髪をしている。

そしてふたり共、鋭い目付きをしていた。


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