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第1章 金色の髪をした少女

──中学1年──




入学式の朝。

嬉しくて仕方ないのに、セーラー服を着れない、あたしがいる。

鏡の前に立って、じっと睨み合う。

「リナ。何してるんだ」

と、兄。

この街で有名なヤンキーのクセに、あたしにはめっちゃくちゃ甘い。

「お兄ちゃん!勝手に入って来ないで!!」

と、あたし。

まったく、人の部屋に入る時はノックぐらいしてよ!

一応、女の子なんだよ。

と、思いつつも言えない。

駿壱は、怒ると怖い。

ケンカなんかしても勝てない。



「入学式に遅れるぞ」

兄はそう言って家を出ていく。

どーせ、ゲーセンにでも行くんだろうな。

高校2年生の兄は、成績は良いが出席日数が足りなくなる程、学校をサボる。

「イヤミだよ。頭が良い不良なんて」

独り言を言ってあたしはため息を吐く。



部屋を出て、リビングに行く。

既にこの家には誰もいない。

テーブルの上には、ママが用意していった朝食がある。


「はぁ……」

入学式なのに、今日は忙しいママは来ない。

この家の人間がまともに顔を合わせて朝食を取った試しがない。

まともに一緒に過ごした試しがない。

それは仕方ないことだけど、少し寂しく思う。

そんなことを考えながらテーブルの上の朝食を食べて、家を出る。



少し、戸惑いながら。

少し、不安を抱きながら。

少し、期待を抱きながら。

学校へと向かった。



「リナー!」

学校に着くと、パッと明るい声と笑顔で迎えてくれたのは、小学校の時からの親友・亜紀。

あたしの一番の理解者。

そんなアキにあたしは駆け寄る。


「おはよ。リナ」

「おはよ。クラス見た?」

あたしはアキにそう笑顔を返す。

ふたりで掲示板を見に行く。

掲示板の前にはたくさんの新入生達が群がっていた。




え…と。

アキヅキ……。




掲示板を見上げなら歩いていく。







ドン!



「イタッ!」

「イテッ!」



あたしはぶつかってしまった人を見る。




「「あ……」」




ふたり、立ち止まってしまった。

あたしがぶつかった人は、小学校のクラスメイトの佐々木浩介だった。

佐々木は小学校の時、あたしをイジメてた。

でもアキに言わせると“虐めてる”んじゃなく“弄ってる”んだって言う。

あたしにはそう思えない。

だから新学期早々、会いたくなかった。



「おい。リナ」

逃げようとしたあたしに、佐々木は声を掛けてきた。

「何で逃げる」

何でって、当たり前でしょ。

「俺達、今年も同じクラスだからな」

「え」

「5組だよ。ちなみにアキは1組だからよ」

と。

佐々木はさっさと教室へ入って行った。




佐々木は黙ってれば、カッコイイ奴なんだけどな…。

いつも一言、余計な事を言ってくる。

 



でも、

何で?

何で、アイツは声を掛けてきた?

あたしとは話したくない筈だよ。

じゃないと、虐めないでしょ。







「リナ!」

ポンと。

クラス表を見終わったアキが肩を叩く。

そこには心配そうな顔をしているアキがいる。


「コウと何話してた?」

「あ……。佐々木と同じクラス」

「え」

アキは本気で驚き、本気で心配した。


「大丈夫?先生に掛け合おうか?」

アキのそんな心遣いが嬉しい。

「リナ。頑張れ。小学校の時のリナを知らない奴もいるんだ。そいつ等を味方にしてやれ」

と、アキ。

教室に入る前、そう背中を押した。

ありがと、アキ。

あたし、負けない。



アキに心配かけないように、精一杯の笑顔を向けた。

アキもあたしに笑顔を向けてくれた。






「佐々木浩介です。特技はスポーツ全般です!」

と、元気に言ったのはアイツ。

何か、学ランなんて着てるせいか、大人っぽく見える。

小学校の時のあのガキっぽさがない。





「秋月理菜です。えーっと、日本人とアメリカ人のハーフなんですが、突然変異かなんかでこんな姿です」

それを言った途端、クラス中が騒がしくなった。

一応言わないと、とんでもない事になるからね。



あたしの髪の色は金色。 瞳の色はブルー。

普通ハーフでも、こんな事にならないと思うんだけど、なぜかあたしはこんな容姿。

こんな姿のせいで、毎日イジメにあっていた。

そして、これからも……。





この姿は私にとって最大のコンプレックスだ。






「リナ。お前にさ、言わないといけない事が……」

中学最初の放課後。

佐々木はあたしに声を掛けてきた。

でもあたしは、そんな佐々木の言葉をムシして教室を出ていく。



あまり。

話したくない。




小学校の時、何があったと思ってるの!

ついこの間まで、あたしに何をしたって思ってるの!

そんな急に。

普通に話す事なんて出来ないよ。




アイツが何を考えてるのか、理解出来ない。

そう思うあたしを寂しそうな目で佐々木が見ていたなんて思わなかった。

この時のあたしは佐々木のことを思う余裕はなかったんだと思う。








「アキ!帰ろ」

と、1組の教室に行き、大声で叫んだ。

アキは、もうすでにクラスの子達と仲良く話してた。



「ごめん。今日、皆と約束しちゃった」

アキはそう答える。

アキはいいコだ。

すぐまわりの空気に溶け込める。

そんなアキの性格が羨ましい。

あたしには到底無理だ。



「そっか。じゃ、またね」

そう言って帰ろうとした。

そんなあたしにアキが声をかけて来た。


「リナ!アイツ、何か言ってきた?」

振り返りあたしはアキに向かって言った。

「何も」

「そう」

「じゃ、明日ね」

あたしはそう言って、アキに手を振った。



昇降口へ向かい、自分の下駄箱からスニーカーを出す。

正直、ちゃんとやっていけるのか不安だった。

アキとクラスが離れたこと、佐々木と同じクラスだってこと。

そのふたつが不安にさせていた。



学校を出たあたし。

このまま家に帰っても誰もいないしつまらない。

そう思ったあたしはひとりで街をブラつくことにした。




あたしは知らなかった。

今日までごく普通の女の子をしていたあたしがあんな目に遭うなんて。




あたしの人生を変えてしまう事件が待ち受けていること。

その時のあたしは思いもしなかった。







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