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第六話 再会

 時は巡りやがて季節は陽光に輝きだす

 その時どのような世界に立ち

 そして誰がこの手を握ってくれているのだろうか


第六話 再会


「そ、粗茶ですが……どうぞ」

「ああ、悪いな」


 コトッと朽ちかけたテーブルの上に木製のカップが置かれる。

 再開を喜び合った後、今日の寝床を決めていないと言うクーヤを家の中へ招いた。

 クーヤの向かい側にはラビとアリスが腰を下ろしている。成人を過ぎた女性が大泣きするという醜態を晒した手前、二人ともとても気まずそうだ。クーヤも無言のまま置かれた茶に口をつけている。


「……」

「……」


 薄暗い部屋の中。クーヤの茶を啜る音だけが響く。


「…………ちょ、ちょっとタイム!」

「ん、ごゆっくり」


 彼女達が背を向け、お互いの顔を近づけて話し合う。

 目の前で囁かれる内緒話はクーヤの耳にも届いたが、聞こえないふりをしておいた。


「何か話しなさいよ」

「無茶言うな。い、今にも心臓が飛び出そうなんだぞ。ラビこそ何か話せばいいじゃないか」

「む、無理無理無理。顔から火が吹き出そうよ」

「おい落ち着け、本当に火が漏れてるぞ」

「あわ、わわわわ」


 バタバタと揺れる彼女達の様子に、クーヤは声を押し殺して笑っていた。


「それならこうしよう。ラビが会話を切り出して、私がその援護に回るということでどうだ?」

「狩りでの分担作業みたいなものね、よしそれでいこう」


 話し合いが終わり、くるりと体をクーヤの方へ向けてラビが話し始めた。


「い、いい天気ね!」

「外真っ暗だけれどな」

「ラビ、それはない」

「援護するって言ったでしょー!」

「……すまん、今のはフォローできない」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐラビに謝罪の言葉を告げるアリス。その掛け合いがあまりにも可笑しくクーヤはついに噴出した。


「ぷっ、くくくっ」

「っ!クーヤに笑われちゃったじゃない!」

「だからすまないと言っているだろう」

「くくっ、いや悪い。あんまりにも可愛らしい仕草だったもんでな」


 可愛いという言葉に二人とも顔を赤くする。中身が半分ほど減ったカップをテーブルに置き、クーヤは会話を切り出した。


「久しぶり過ぎてお互い何を話したらいいかわからないな。とりあえず過去の、そして今の状態を話してみないか?」


 クーヤの提案に二人とも頷いた。


「その前にせっかく会えたのに、顔もよく見えない暗がりは許せないな」

「すまない、明かりに使える程の燃料が無くて」

「気にするな」


 あまり使われていない暖炉へと移動し、暖炉の中へと体を潜り込ませて文字を書く。


「よし、こんなものか。ラビ悪いけれどここに魔力を注いでくれないか?」

「……え?魔方陣?――クーヤ、魔術を使えるようになったの!?」

「お前達に比べたらちっぽけな魔力だけれどな」


 言われた通りにラビは暖炉の中に書かれた魔方陣に魔力を注ぐ。煌々と燃える暖炉の火に3人の顔が映し出された。彼等はポツリポツリと話を始める。


 彼女達は話す。クーヤと別れた後の事を。今までどう過ごしてきたかの事を。クルツに教わった事を。森の中で助けた男達の事を。力がどこまで使えるようになったかという事を。


 クーヤは話す。エトワールを出た後の事を。所々ぼかしたが、先生と融合した事を。手紙には書ききれなかった内容を。どんな国を回ってきたかという事を。そして、父親が亡くなった事を。




 父親の最期は鍛冶場で見送った。

 世界を回っていた父親はその途中で病に犯された。日に日に弱っていく父親。床に伏せる日々が多くなっていく。そんな病が蝕む体を引きずり、父親は工房へと足を向ける。クーヤの制止の言葉を振り切り、最後の作品を創り上げた。


「後は、お前の好きにするといい……」


 生涯最後の作品を手がけた父親は笑顔のままこの世を去る。

 父親の最期の作品は今までで一番出来が悪く、今までの中で一番美しかった。

 クーヤは父親の亡骸と最期の作品を母親が眠る場所の隣へと埋めた。二人の冥福を祈り、その場を後にする。

 そうして旅を続ける目的が無くなり、自由の身となったクーヤはエトワールへと足を運んだのだ。




「えっと、なんて言ったら……」

「こんな時どんな言葉をかければいいか……」

「気にしなくていい。父さんの最期は満足のいくものだと思ってる。……さて、すっかり遅くなったな。そろそろ寝るとしようか」


 馬車の荷台から布団を持ってきて寝る支度をする。

 クーヤの持ってきたふかふかな布団に彼女達は驚き、クーヤがその布団を使えばいいという申し出を彼女達は慌てて断る。結局3人で川の字で寝ることとなり、再開の日の夜は過ぎていった。

 安心しきって眠る彼女達の寝顔をいつまでも眺めていた。




「朝だぞ、そろそろ起きたらどうだ」

「クーヤ朝よ朝。ほら早く起きる」

「ん……おはようアリス、ラビ」


 のそのそと布団から這い出る寝ぼすけに彼女達は微笑んだ。


「やっと起きた」

「おはようクーヤ。すぐに朝食の支度をするからな」

「腕によりをかけるから楽しみにしててね」


 調理場へと向かう二人。欠伸を一つかみ締めてその様子を伺う。

 女性が二人、調理をする姿はとても絵になっていた。まるで一枚の絵画を見ているような光景にクーヤは自然と笑顔を浮かべる。


「どうした?」

「いや……なんかいいな、と思ってね」

「変なの」


 朝食は質素な物だったが、彼女達が出来る限りの食事を出した。

 調味料があまり使われてなかったので味は薄い。それでも素材そのものの味を楽しめた。



 川辺で昨晩の話の続きをする。

 昨日のような硬さはもう無い。10年溜まった内容はとても多く、一晩で話しきれるものではなかった。

 気づけば時刻は昼過ぎとなっている。一息つこうという事となり、お茶の支度を始めた。


 アリスが力を使って目の前に流れる川から水を近くに集めだす。まるで見えない桶に汲まれたかのように、一塊の水が宙に浮かんでいた。

 その塊の下にラビが炎を出し、水を炙る。火に直接晒された水はすぐにこぽこぽと気泡を出し始めた。その様子を確認してから茶葉を水の中へと放り込む。

 やがて水の色が薄い茶色に染まっていく。

 空中で茶を沸かす不思議な光景をクーヤは驚いた表情で眺めていた。


「力使うの上手くなったな」

「でしょう?頑張ったんだから」

「まだまだ覚束無い所もあるけれどな」


 ラビがカップを持ちながら近づくと、蛇口を捻ったかのように茶色に染まった液体が注がれる。大きめの石に3人が寄り添うように座り、カップに口をつけていく。

 ほぅ、と息が漏れた。

 川のせせらぎを聞き、風が吹く度に掠れる木の葉の音を聞く。自然が奏でる音に耳を傾けながら、時がゆっくりと過ぎる。誰も話しをすることはなかった。静寂が心地よい。

 注がれた茶がなくなる頃、クーヤが話を再開した。


「そういえば、そのネックレス……魔吸石が無くなってるな。やっぱ、壊れたか?」

「そうそう、言い忘れてたけれど、魔吸石が変なの」

「今持ってくる。ちょっと待っててくれ」


 アリスが地面にコップを置き、家の中へと進んでいく。アリスが帰ってくるまで暇だったクーヤはラビに尋ねた。


「一体どうなったんだ?」

「ん~、見てもらった方がわかると思う」

「そか。んで、それなりに使えたか?」

「それなりなんて物じゃないわよ。すっごく助かったんだから」


 力の篭った返事が返ってきた。

 言葉だけじゃ足りないとばかりに、身振り手振りを加えてどれだけ魔吸石の存在がありがたかったを伝える。


「強くなろうって思ったんだけれどね、そんなすぐ強くなれるものでもないじゃない。力の制御も昔は全然出来なくてさ、何度も何度も失敗して、その度に力は暴走しようとするし、これは火達磨になるかな?って、感じても燃えないじゃない。魔吸石が……このネックレスがあったおかげで今日まで一度も私の力で体が燃えた事ないのよ。ああ、またクーヤが守ってくれたんだな、って思って――」

「わかった、わかった」


 力一杯に説明を続けるラビ。

 あまりの絶賛に気恥ずかしくなったクーヤはまだまだ続きそうな言葉を止める。唇を尖らせて不満そうなラビの顔が可笑しくて、わずかに微笑んだ。


「持ってきたぞ」


 戻ってきたアリスの両手には二色の鉱石があった。


「こんな風に変色してしまったんだ」


 無色透明だった魔吸石の色が、まるでサファイアやルビーのように蒼く紅く染まっている。

 アリスは壊れ物を扱うようにそっとクーヤに手渡す。鮮やかに染まった鉱石を受け取ったクーヤは驚きを隠さずその魔吸石を見つめた。

 魔吸石がこの様に変化した所を見た事がない。


「これは……」

「身に着けてから3年程経った頃だったか……私の魔吸石は青く、ラビのは赤い色が付いていたんだ」


 クーヤはアリスの話に耳を傾けながら、手に取った鉱石を光に翳している。


「これ以上魔力を注いだら壊れてしまいそうでな、折角クーヤから貰った贈り物を壊したくなかったから、ネックレスから外して閉まっておいたんだが……どうした?」


 魔吸石を見つめたまま一向に動こうとせず固まっている。心配になって声をかけようとしたが、その真剣な様子に声をかけて邪魔になる事を躊躇った。


「オドが浸食されている……いや、違う……属性が決められたオドがそのまま保存されているんだ……一系統のみこのような変化を?多系統は?……無理だな、反発しあうだけだ……この魔力を取り出す事は可か否か……方法はどうする?式か陣か……いや、詠唱でも……」


 クーヤの口からブツブツと独り言が漏れている。

 さすがに声をかけようと思った矢先、観察をし終えたクーヤが二人に顔を向けた。


「――面白い」


 疑問符を浮かべる二人にニヤリと笑う。


「頼みがあるんだが……いいか?」

「え……あ、うん」

「なんでも言ってくれ」

「今度魔吸石を仕入れてくるから実験に付き合って欲しい」

「いいけど」

「そのくらい何でもないな」

「ありがとう、二人とも」


 何かわかったのかと二人が聞いても、曖昧な答えを返すばかりで結局答えを知る事はなかった。今は話す気がないと諦め、彼女達は再び茶を淹れてのどかに過ごしていた。



 太陽が落ち始めてからしばらく経ち、夕方になろうとした頃彼等は現れた。


「よう、嬢ちゃん達元気にしてるか?」

「あ、イースさん」

「俺達もいるっすよ、ラビっち、アリスっち」

「こんにちは。ラビさん、アリスさん」

「誰だ?」

「森の中で助けた人達だ」


 30代半ばと思わしき男達が3人クーヤ達の近くにやってくる。男達はクーヤに懸念の表情を向けた。


「ん?初めて見るやつがいるな」

「クーヤよ。ほら、前に散々話したでしょ、子供の頃に助けてくれた人」

「私達の恩人だ」

「ああ、あの……」


 先頭に立っていた男が一歩前にでて、じっとクーヤの顔を観察する。返すようにクーヤも男の様子を見る。

 男は鍛えているようで、全体的に筋肉質だった。無精髭を生やした頬には古い傷痕がある。腰に帯びた剣にも年季が入っており、かもし出す雰囲気はまるで獣のよう。クーヤを観察する目は獲物を物色する獣そのものだった。

 一頻りクーヤの様子を見ていた男が急にニカッ、と男くさい笑みを浮かべる。


「いい面構えだ」

「どうも」

「俺はイースって名だ。冒険者を生業としてる。嬢ちゃん達には腕試しで入った森で助けられた。よろしくな!」

「クーヤといいます。ここには昨日着いたばかりです。こちらこそよろしく」


 ごつごつした剣タコまみれの手を差し出して来たので、クーヤはその手を握り返した。イースが力強く握ってきたので、同じように力を込めて握り返した。そのまま数度握手を交わす。

 握手を終え、後ろにいた他の二人を親指で指し示した。


「んで、後ろにいる軽そうなヤツがショル。見た目も頭も軽いが身のこなしも軽いぞ」

「ちょ、イースさんそれはあんまりじゃないっすか?」

「そんでこっちのなよっちいヤツがウィム。俺達の中で唯一魔術を使えるヤツだ。おとなしそうだが、戦闘となると敵を滅多切りにしてこえぇぞ」

「イースさん変な紹介しないで下さい!」


 二人の抗議がイースを攻める。それにイースは笑って返した。そんなやり取りがとても自然で、いつもこんな感じなんだろうな。とクーヤは考えていた。


「まったく……ああ、すいません。初めましてウィムと言います」

「よろしく」

「俺もよろしくだぜ、クーヤ」


 それぞれに握手を交わす。握手をした後、ショルがクーヤの顔を覗き込んできた。


「しっかしクーヤ、なんか疲れた目してねぇ?眠いのか?」

「おいおい、わかりきった事聞くなよ。嬢ちゃん達の愛しい人が帰ってきたんだぞ。色々あるだろうさ」

「……ああ!なるほど、そりゃ疲れてるわなぁ」


 イースとショルがにやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。


「な、なに?」


 訳の分からない邪悪な笑顔に、ラビの背筋にゾクリと寒気が走った。


「昨晩はお楽しみでしたか?」


 ウィムの放った言葉にクーヤ達はそれぞれの反応を示す。

 クーヤは茶を啜り無反応。アリスは頬を染めつつも、やれやれと声を零して溜息をついた。そしてラビは、その言葉の意味を理解するやいなや茹でたタコの如く全身を赤くした。


「なっ、な、な……」


 邪悪な笑みにウィムも加わり、邪な一団は相も変わらずニヤニヤと彼女達を眺め続けた。


「ち、違う違う違う!」

「またまた、そんなこと言って」

「クーヤが羨ましい!」

「いやー、若いっていいですねぇ」

「そんな事まだしてない!」

「ほぉ、まだ……ね」

「これからって事っすか」

「お邪魔でしょうから今日は帰りましょうか」

「違うって……言ってんでしょうがああああああ!!」


 怒りに猛り狂ったラビは魔術をイース達へと放つ。

 邪な塊は蜘蛛の子を散らすように分散して逃げ始めた。連携の取れたいい動きをするな、とどこか的外れな感想がクーヤの口から漏れる。


「燃やす、絶対燃やす。てか殺す」

「お~、怖い怖い」

「鬼さんこっちら~」

「風よ、風よ。我の足に宿り一陣の風と化せ」

「逃げるなぁああああああああああ!」


 追いかけっこを始めた彼等を遠い目でクーヤは眺める。


「まったく、イースさん達にも困ったものだ」

「面白い奴等だな」

「機会を見つけては、こうして私達をからかうけどな」


 それでも昔の状況を今の光景に鑑みると、魔女と呼ばれる者に冗談を言える人との関係が築けた。その事実がクーヤにとって、とても嬉しかった。

 たびたび燃え上がる風景を見ながら、これも彼等のコミュニケーションの一種なんだろうな、と思いふけっていた。


「良い人と出会えたな」

「これもクーヤのおかげだ」


 地面から火柱が立ち上がる。

 空に飛ばされた人は誰だろうか。クーヤは心の中で合掌し、黙祷を捧げる。

 そうして日は落ちていった。



「新しい章が始まったな」

「こんな日々もいいものだ」

「そして3バカ登場!」

「新しい人物も出てきたな」

「まだまだ出したいのはいるけれどな。いつになることやら」

「いつか決着つける!」

「まぁ、その……なんだ。がんばれ」


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