第三十四話 野菜泥棒
第三十四話 野菜泥棒
人は信じられない状況を目の辺りにすると言葉を失う。
それは視覚で得た情報を脳内で処理しきれない場合や、脳で整理した情報を表現する言葉が見つからない場合。そんな時、人はただ口から空気を吐き出すだけの存在となる。
騒ぎの中心となった人物を複数の男達が取り囲む。その中の一人、蛇獣人の男は今まさにそんな状態であった。
今の状況を一言で済ませるならとてもシンプルだ。女が暴れている。
種族は人間。肩まで伸びた髪を乱雑に振り乱し、汚れが目立つ衣装を身に着けていた。暴れている女の近くには他に二人居る。垢や汚れでさらに黒ずんだ布を巻きつけ、互いの身を寄せ合い小刻みに震えていた。
みずぼらしい服装だけで判断すると、新しく連れて来た奴隷かと考えたが、奴隷達には昨日の内に真新しい服が支給されている。ボロボロの布を纏っている者など一人もいない。
彼が此処にやってきたのは、朝方に響いた女性の悲鳴を聞き入れたからである。作物が実る畑の一角へと駆けつけると男達数人がすでに女を取り囲み、「侵入者か!?」「野菜泥棒!?」と騒いでいた。
信じられない事であるが、連れて来た奴隷とは別にこのオワゾへやって来たという事実だけ、頭の中で理解した。
「近寄んな!」
この状況を説明する二言目には無双。
捕らえようと飛び掛った蛇獣人の仲間が吹き飛ばされ、地面に転がる。地面に横たえた者はこれで何人目になるだろう。仰向けに転がる者達の口からうめき声が漏れていた。
足に力が入っていないふらふらとしたその姿で、身体能力に勝っている亜人達を圧倒している。他者を寄せ付けないその振る舞いに、彼は唾を飲み込んだ。
鍛え始めたばかりであるが、この村の長が戦士の素質があると判断した者達だ。熟練度はまだまだ足りないが、基礎的な身体能力は単なる人間に劣る事は無い。それが今や、人間のしかも女性に手を焼いている。屈強な男達が疲労の伺える女を取り囲むので精一杯であった。
その女も何処かおかしい。
疲労が目に見えて分かるが、呼吸だけは乱さずに一定を保っている。弱々しくも見えるその姿で、不用意に近づけない威圧感を身体から放っている。女を取り囲む男達の顔にも困惑の色が浮かんでいた。
せめて包囲網だけは広げないよう、じりっと足を前に出した。女の鋭い眼光が蛇獣人を捕らえる。身体を強張らせ、次の瞬間に彼は恐怖に負けて飛び出していた。掲げた剣は振り下ろす、そしてピタリと止まった。
先程から、不可思議な事象が続いている。攻撃を仕掛けようとするとこの様に身体が硬直するのだ。女の威圧感によるものかと思っていたが、何か違う。
「はっ!」
不可解な事態にうろたえる彼の前で、女が地面を踏み込んだ。足首を捻り、腰を捻り、腕を捻り、開いた掌を突き出してくる。衝撃は背中の裏側まで突き抜けた。
内蔵が裏返って口から出るような錯覚を受け、肺に溜まった空気を吐きつくす。体が宙に浮く。景色は前へと流れていき、女との距離が高速で離されていった。
彼が一番信じられない事はこの力だ。目前の無双は、全て素手で行われていた。人が飛ばされる光景はこのオワゾでそれ程珍しくもないが、それは魔術によるもの。女の細腕のどこに、これほどの腕力があるのか理解する事が出来ない。これではまるで魔女か悪魔だ。
「大丈夫か?」
後に来る衝撃に供え、目をきつく瞑った彼に声がかけられた。
背中に受ける感触は硬い地面のモノではなく、誰かにささえられるやんわりとした掌だった。
「あぐ……クーヤ、様……」
「状況は?」
この状況を説明しろと言われて、上手く言葉に表現する事が出来なかった。痛みに呻く声を出すので精一杯だ。言葉にする事が出来ないと知ると、自分から視線を外し騒ぎの現場をじっと眺める。
釣られて顔を上げると、霞む視界の先には女の囲む男達の中にイース達の姿があった。自分達を指導してくれている頼りになる男達だ。相変わらず攻撃しようと身体が硬直する不思議な現象は起こっているが、他の二人の連携で女を牽制し近寄らせない。女が捕まるのも時間の問題だろうと考えた。
しかし数分経とうと、女が捕まる様子は一向になかった。三人の動きがどこかぎこちない。特にウィムの様子がおかしい。
「姉さん……足元に風の魔術」
魔術を放とうとする姿勢でウィムがビクリと身体を震わせた。
逡巡した分タイミングが少し遅れ、風の塊は女の横を通り過ぎる。体制を崩そうと幾度も放たれた魔術は女に当たる事はなかった。
「……ふむ、なるほど」
一体この短い時間で何処まで理解したのか。この村で一番頼りになる人物が諍いの中心部へと歩みを進めていった。まだ霞む視界の中で、クーヤの背中はさらに朧気な印象を受ける。
「はい、そこまで」
その場に響く拍手は侵入者三人以外の周囲にも驚愕を与えた。
クーヤの後姿を追っていたはずの蛇獣人にも、どうやって女の近くで震えている二人の後ろに回ったのか理解出来ず、ただ呆然と成り行きを見守っていた。
「んな……いつの間に――」
隙を見せた女にイースとショルが飛び掛る。地面に押し倒された女が抵抗を試みるが、屈強な男二人に押さえられ満足に身動きが取れなかった。解せない。先程自分を吹き飛ばした人物とは思えない腕力だ。
「くっ、 離せ! 離せよ。ティナ達に近寄んな!!」
「ったく、手間をかけさせるな――って痛っ、いで、いだだだだだ」
「お、お姉ちゃんを放して下さい!」
女の頭を押させていたイースの腕が不自然に歪んでいく。まるで見えない腕に掴まれたように頭を押さえていた腕がそこから離れ、宙で小刻みに震えている。
「おい、下手な行動は控えろ」
「ひっ」
「下手な考えも止めておけ。これ以上この村に害を与える者は――子供だろうが、女だろうが、無抵抗だろうが、友人だろうが――俺が殺す」
「ティナ! サエッタ! お前、二人を傷つけたら許さないからな!」
クーヤが腰から刀を抜き放ち、傍らで震える一人へと刃を向けた。髪の短いその女性は凶器を首筋に添えられながら、懇願の視線を彼へと向けている。いつの間にか開放されていた腕をイースが不思議そうに揺らしていた。
「あ、あの……食べ物を盗もうとしたのは謝ります。謝りますから……どうか」
「なんだ、腹が減ってるのか。それじゃ飯でも食うか?」
「……えっ?」
「エリーナは居るか」
「はい、此処に」
「こいつ等に少し聞きたい事がある。家に連れて行くから湯を沸かしておいてくれ」
「わかりました」
「皆もこの件は俺に任せて欲しい。手の空いてる者は負傷者をアムさんの診療所へ連れて行くように。その後は各自仕事だ。アッガー、後は頼んだぞ」
「畏まりました」
クーヤが何を思ったのか、蛇獣人にはよく解らない。良く解らない思いは残っていたが、彼に任せておけば心配は無いだろう。そんな安堵に包まれた彼はアムの診療所へと向かう前に気を失うのであった。
一体何が起きたのか女はこの状況を理解出来なかった。
突然やって来た男の言葉に、自分を囲んでいた人間と亜人達は解散していく。自分を捕らえていたがたいの良い男はため息をつき、極めていた腕を開放した。
「俺の名はクーヤ。お前達はなんて言う名だ?」
「ティ、ティナです」
「…………サエッタ」
「…………ふん」
「一人だんまりか。なら侵入者Aとしておこう」
「変な名で呼ぶな……フィズだよ」
「んじゃ、名前も分かった事だし、飯を食いに行くか。イースさん達もどうだ?」
「お、いいねぇ。邪魔するぜ」
ティナを脅していた細い刃物を鞘へと収めると、フィズを捕らえていた男達と共に歩き出した。
背を向けた男が一体何を考えているかフィズには解らない。解らないからこそ、彼女は隣に居るサエッタの方を振り向いた。フィズが自分に視線を向けているのに気づくと、ボソボソと聞き取り難い声で喋りだす。
「……大丈夫……だと思う」
サエッタにしては曖昧な言葉にフィズは怪訝な表情をとった。
開放されてからは、特に縛られる事もなく、監視が付けられている様子もない。このまま逃げ出した方が良いのでは、という考えがフィズに過ぎる。
「……逃げるの、危険」
隣でサエッタがふるふると首を横に振る。
確かに自分一人ならまだしも、この二人を連れて逃げ出すのは難しいかもしれない。何を思って開放したか解らないが、逃げ出してまた捕まりでもしたら今度こそ命が無いだろう。ティナに刃物を向けた時の目は本気であった。
しかし、あの男を捕まえて人質にすれば、とフィズは再び考える。クーヤと名乗った男は此処の重要人物らしい事は彼女にも解った。そんな人物は見るからに隙だらけで、疲弊した彼女でも容易に捕らえる事が出来そうだ。
「ダメ……一番、危険」
「えっ?」
「どうした、早くついて来い」
クーヤ達は少し離れた所でフィズ達を待っていた。まるで、逃げたいのならどうぞ、と言わんばかりの微妙な距離だ。
フィズには二つの選択肢で迷っていた。このまま逃げ出すか、そのまま着いて行くか。サエッタが言った言葉が引っかかる。一番危険、と。男に手を出すのは危険と言いたいのだろうが、そんな男に着いて行くのは危険ではないのだろうか。
考えがまとまらない苛立ち、焦るばかりの心、短い逡巡。葛藤。
「……大丈夫」
サエッタがフィズの汚れた服の裾を掴んで、首を縦に振る。
結局フィズは、そのまま一歩足を前へと進めた。
黙って着いて行くと、辿り着いた場所は真新しいログハウスの前。そしてその扉がクーヤによって開かれた。
「ようこそ、遠慮せずに上がってくれ。ああ、土足は禁止な」
ボロボロで靴としての機能は果たしていない物を脱ぐ。言われるがままに扉の奥へと入って行くと、開かれた扉から木の香り、そして嗅ぎなれない臭いが漂っている。一体何の臭いかは解らない。だがどこか安らぐ臭いに、心が癒される感覚を覚えた。
「エリーナ、湯は沸いてるか?」
「もう少々お待ちください。まだ鍋をかけたばかりですので」
「身体を拭く用だからぬるま湯でいいぞ」
「はい……では貴方達こちらへ」
部屋の床には見たことのない火床があった。水が満たされた鍋から軽く湯気が立ち上がると、その前に座っていた兎の亜人が立ち上がりフィズ達を部屋の奥へと招く仕草を取っている。
相変わらず訳が解らない。
亜人の女性は先程からクーヤと名乗った男の言いなりだが、奴隷なのだろうか。しかしそれにしては身なりが整っている。自分達を囲んだ他の亜人達もそうだ。全てあのクーヤという男の奴隷なのか、そんな考えがぐるぐるとフィズの頭の中を巡る。
「何をしてるのですか、早くして下さい。心配せずとも、貴方達が危害を加えようとしなければ、こちらが危害を加える事はしません」
「お、お姉ちゃん。とりあえず、いこう」
ティナがフィズの裾を掴んで軽く引っ張る。
ここまで来て考えても仕方が無いと区切りをつけ、フィズは言われるがままにその部屋の中へと入っていった。そこは人の体がすっぽりと入るような広い桶がある空間。見慣れないその空間を眺めていると、亜人の女性が鍋の中身を手桶へと移していた。
「クーヤ様の前でそんな汚れた姿は遠慮して貰います。ですから、まずは身を清めましょう」
「身を清める……まさかあの男――」
「下衆な勘ぐりはそこまでで止めてください」
兎っぽい顔をした女性がきつく睨んだ視線をフィズへと向ける。
「どういった思惑がクーヤ様にあるか解りませんが、今はその言葉に従っていただきます。とっととその汚れを落として下さい」
「……大丈夫。身体、拭こ」
大丈夫だと念を押したサエッタが早速汚らしい服を脱いで身体を拭き始めた。
「あら、貴方男の子でしたか」
サエッタはまだまだ幼い子供である。少女と間違えそうな整った顔をしているが、れっきとした少年だ。
どうしましょう、と頬に手を添えて考える亜人の女性は扉を少し開き声をかけた。遠くから男の声が聞こえる。
「クーヤ様、一人男の子が居るのですがいかがしますか?」
「ああ、知ってる。でもまだ子供だ。気にする必要ないだろう」
「もう、知ってたのなら教えて下さい。デリカシーが足りませんよ」
「悪いな。無礼なのは今に始まった事じゃない」
「あたし達は気にしないよ。サエッタはまだ子供だし、それなりに知ってる仲だから」
「そうですか。でしたら早く汚れを落として下さい」
薄汚れた服を脱ぎ、暖かいお湯に浸した布を手にとって身体を拭う。皮膚にこびりついた垢や汚れが落ちていく久しぶりの感触がとても心地よく、フィズは知らぬ間に安堵の息を吐き出していた。
「貴方達に忠告をしておく事があります」
フィズ達が身体を拭いていると、浴場と居間を繋ぐ扉の前で兎顔の亜人――エリーナと呼ばれていた女性が真剣な表情で彼女達を見つめた。
「一つ、クーヤ様への侮辱は私を含め、村の皆が許しません」
やはり亜人達は彼の奴隷なのだろうか、と再び思考しようとしたフィズは考えを押し留める。今はただ、自分の身が綺麗にする事が先決だ。
「そしてもう一つ。クーヤ様の前で嘘を吐かないように。嘘ばかり吐いて怒らせば、貴方達の命の保障は出来ません」
手桶の水が真っ黒に染まった。汚れが落ちきった身体は何時振りだろう。
エリーナから新しい服が手渡され、少し迷った後フィズは頭から服を被った。清々しい清涼感が彼女達の身を包む。エリーナの言葉は、頭の片隅へと置いておく事にした。クーヤと呼ばれる男は得体が知れない。
「ではどうぞ――」
エリーナが扉を開けると、フィズ達の鼻腔に木の香りと不思議な香り、そしてそれ以上に濃厚な食物が焼ける香りが漂う。
「よう、さっぱりしたか? お前達の席はそこだ」
手招きをしたクーヤが、火床の一辺を指差した。場所は彼の左側。入り口に近い一辺には三人組みが座っている。
指定された場所へと座ると、その前には湯気の立つ野菜たっぷりのスープ、少し焼き目のついたパン。そして火床には串を通した魚がつきたてられている。どれもこれも食欲をそそる香りを存分に放っていた。
ここ数日まともな物を喉に通していない彼女達にとって、その香りは魅惑を通り越しまるで麻薬めいていた。本能を刺激する香りに胃袋が大きい音を立てて鳴る。恥ずかしげにフィズは顔を俯かせた。
「それじゃ、頂くとするか」
イースと呼ばれた男達は待ってましたとばかりに、香り立つ食事へと手を付けていく。クーヤとエリーナも食事を始めるが、フィズ達三人はこの中の誰よりも空腹であるにも関わらず、手をつけようとしない。本当に食べて良いのか迷っている。
「どうした? 冷めても上手いが、暖かいほうがさらに上手いぞ」
「……状況が理解出来ない」
「理解する必要あるのか? 腹が減ってるんだから飯を食う。ただそれだけだ」
「あたし達が食料を盗みに来たのは知ってんだろ。そんな盗人になんで食事を出すんよ。馬鹿げてる」
「食後に話を聞かせてもらう。要らないならそのまま待て。ああ、逃げる事は許さん」
事もあろうか、目の前の男は自分達が上手そうに食事をしているのを見せ付けて、待てと言う。
「性格わっるいなお前は」
「クーヤだ。名前くらい覚えろ侵入者A」
「お前が言うな!」
「煩い。食事中に怒鳴り声を出すな。食わないなら黙ってろ。邪魔だ」
「ほんっと、性格悪いな」
「ああ、よく言われる」
ああ、グーで殴りたい。フィズの中で占める感情はただそれだけだった。
拳を握りぶるぶると震わせていると、また一つ腹の虫が鳴る。空腹時に怒りは更なる飢餓へと導く行為だ。
フィズがいまだに迷っていると、隣のティナが二の腕をつついてきた。彼女は、もう我慢できないという表情をしている。さらに奥のサエッタはすでに食事を始めていた。
「お姉ちゃん、頂こう。ね?」
「くぅ~~~。わかった、わかったよ。食べりゃいいんだろー」
「素直なのが一番だ」
「子ども扱いすんな」
ようやくフィズ達も手を付け始めた。
目の前に並ぶ食事を一心不乱に口に押し込んでいく。一度動き出すと手は止まらなかった。味わうという事はせず、口に食事を詰め込んで行く。味のついた物が、暖かい物が、ただ美味しい。
隣のティナとサエッタを横目で眺めると、二人とも目尻に涙を溜めている。彼等にとって、こんなに食事らしい食事は初めての物かもしれない。本当に、本当に久しぶりの人間らしい食事は感動を覚えるほどに美味しかった。
「さて……喰いながらでいい。少し話をさせてもらおう」
一足先に食事を終えたクーヤが語りだす。
お代わりも許されたのでフィズ達は遠慮なく食事を続けていた。久しぶりの食事で手が止まらない。
「個性というのは大事だが、その個性が他人に許容出来ないモノであればあるほど、自分と他人との境界は広がっていく。それゆえに、孤独という立場を味わうだろう」
食事の合間に交わす雑談としては、やや哲学的な小難しい話だった。
しかしフィズにとって今重要なのは、手にした焼き魚を頭からかぶりつくか、胴体からかぶりつくかという事だ。クーヤの言葉は彼女の横を綺麗に素通りしていく。
「類は友を呼ぶ、異端な者は惹かれあうとはよく言われる。だが結局の所、異端な存在は、自分以外の同族を本能的に探しているという事だと思わないか?」
エリーナに開いた椀を渡すと、暖かいスープが満たされて返ってきた。具材の中には、小さいながらも肉が入っている事にフィズは嬉しくなった。小難しい話を喋り続ける彼の声を右耳から入れ、頭の中で微かに残し、左耳から垂れ流す。
「もちろん、それだけで説明出来ない事象も存在する。なんの脈絡もなく、互いが出会う事も時にあるだろう。まるで運命に導かれるような感じでな。だが、根底にはそんな感情があるのだろうという考えだ」
運命のような曖昧な物、彼女は信じていなかった。信じてしまったら、自分達をこんな境遇に追い込んだ神という存在を恨まずにはいられない。
だが、こんな美味しい食事にありつける運命なら信じたかった。スープをすすると、じんわりと口の中に味が広がる。
「状況によっては自分と同じ者に出会っても、同族嫌悪を示す事もあるだろう。自分は他人と違う事に優越感を覚えていたり、まるで鏡に別の人物が写ったような感覚で素直になれない場合もある」
彼が何を言いたいのか解らない。理解は出来ないが、何か引っかかる所がある。食事をする速度は先程よりも遅くなっていた。彼女が満足してきた訳ではない。気になる単語が先程から頭の片隅に引っ付いて離れない。
「ここはオワゾという村だ。故郷を造ろうと、俺が始めた村」
齧っていたパンを口から離し、食事に向けていた視線を上げ、真っ直ぐとこちらを見るクーヤの視線と合わせた。口の中に溜まった物はもぐもぐと咀嚼し続ける。
「ここは人間、様々な種族の亜人。そして――魔女との共存を目指している場所だ」
んぐっ、とフィズが喉にパンを詰まらせた。
むせ返る彼女に対し、クーヤが水を手渡すとひったくって喉を鳴らして胃に流す。隣に座るティナも手にしていた焼き魚を床へと落としていた。サエッタはじっとクーヤの瞳を覗き込んでいる。
一気に水を飲み咳が収まると、フィズは信じられないという感情に満ち溢れた視線をクーヤへと投げ飛ばした。
「ようこそオワゾへ。魔女および転生者よ」
「さて、今回の話で丁度一年経つが、何か感想は?」
「一年経ってまだここか……」
「内容も今よりもっとスカスカで、ストーリーをどんどん進めていく予定だったみたいね」
「筆が遅いのが、一番の理由だろうがな」
「完成するのは何時になることやら」