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第三話 魔術とは


 ここに気狂いじみた理論がある。

 ただこの理論が正しいとされえるにはどれほど気狂いじみていればいいかが問題なのだ。



第三話 魔術とは


 魔術。

 かつては歴史の暗闇に身を潜めていたその技術は、長い年月が過ぎるのと共に人々へと浸透し表舞台へと立たされる事となった。

 誰がその技術を流出したのかは定かではない。

 初めは理解し難い人外の力と拒否されたことだろう、悪魔の技と罵られたかもしれない。しかしその技術はゆっくりと、そして確実にこの世界の常識として広められていった。


 魔術師とは、その魔術を使う者の総称。

 世界的に見て、その割合はそれほど多くはない。だが、少ないわけでもない。多くの国では魔術師達を集め、それを一つの部隊として成り立つ程度には存在している。

 魔術師になるには素質は必要だ。

 魔力は誰にでもある。しかし一般的な人々には極微量しか備わっていない。その量は指先に火を灯すどころか指先にそよ風を作るにも足りない量。それならば手で扇いで風を作った方が良い。

 つまり魔術師の基本資格とは、ある一定量の魔力を保有していなければならないということである。


 魔術を使うということは、ある程度の順序を理解しなければならない。

 まずその魔術がどのようなものかを理解し、

 体に巡る魔力の流れを読みとり、

 その魔術の方向性を想像し、

 詠唱という世界にアクセスする手順を辿り、

 その魔力を放出することで世界に歪んだ現象を起こす、ということを知らなければならない。

 詳しいことは割愛するが、この5つの段階を踏まないことには魔術を使うという結果は現実には反映されない。


「こんにちは。また来たよ」

「ち、近寄るな!」


 目の前が赤く染まる。

 昨日とまるで同じ光景を見るようにクーヤは苦笑した。昨日の今日でいきなり親しくなるとは思っていない。そもそも昨日は無理やりお互いの名前を名乗っただけだ。親しくなるはずもない。

 だからクーヤは話しかけることにした。


「へぇ、やっぱりすごいね」

「……えっ?」

 

 5つの段階の中で一番重要な行為が詠唱である。

 魔力とは魔術を使うためのエネルギー。魔術とは世界を歪める技術。そして詠唱とは自分と世界とを繋ぐ鍵。

 世界と接続しないことには、どんなに魔力があろうと、どんなに緻密な想像をしようと、どんなに魔力を放出しようと世界に現象を起こすことはできない。 無意味な想像をし、無意味に魔力を垂れ流すだけの結果となる。


「魔術が使われる所は見たことあるけれど、詠唱が無いのなんて初めて見るよ」


 ゆえに、詠唱を行わないということは世界を歪ませることは不可能とされている。


「……それはそうだ。この忌々しい力はそもそも魔術ではない……呪いだ」


 ラビとアリスの顔が歪む。認めたく無い事を口に出しているその痛々しい姿にクーヤの心もじくっと痛む。


「そうかな?僕にはその力は魔術に見えるんだけれど」

「ふざけないで!」

「そうだ、ふざけるな。この力が魔術であるのなら私達は……なぜ私達は魔女と呼ばれている!」

「それはそうなんだけれどね」


 激昂した彼女達に曖昧な言葉で返事を返す。

 クーヤの中に確信があるわけではない。しかし、自分の中ではその答えは肯定できた。


「まぁ、いいや。ところでお昼食べた?」


 背負っていたリュックから小さなバスケットを二つ取り出した。

 太陽は一番高い所を過ぎ、傾き始めている。

 この世界は基本的に食事は2食。一部の地域を除いて朝と夜だ。

 一部では朝に一食、昼と夜の間に一食となっている。明かりになる燃料が貴重な地域だ。ここも同じようなものだとクーヤは考えている。

 明かりがなければ暗闇ですることもなく、ただ睡眠を取ることしかできない。彼女達のような少女ならなお更だ。

 ラビの力は火を使えるらしいが、すべて一瞬のうちに消えている。持続は難しいのだろう、とクーヤは考えていた。


「作りすぎちゃってね。よかったら一緒にどう?」


 バスケットの中には様々な具材がパンに挟まれていた。所謂サンドイッチと呼ばれるものだが、彼女達はその料理を知らない。ただ、色とりどりに並べられたバスケットの中身が、まるで宝石のような眩さを感じていた。


「……っ」

「……ごくっ」


 自然と喉が鳴る。

 だが、彼女達は近づかない。クーヤに警戒心を向け、近寄ることを拒んでいる。


「ここに置いておくよ」


 そんな彼女達の様子に苦笑し、バスケットを一つ置き彼女達から遠ざかった。ある程度距離を取り、適度な大きさの石に座った後昼食を取り始めた。

 クーヤが食事を取る光景に、再び喉が鳴る。


 ついに食欲に負け、一歩また一歩とバスケットの置かれたところへ向かっていく。

 のそのそと警戒した足取りで近づき、足元に置かれたバスケットの蓋を開ける。

 瞬間。まるで一面に花が咲き誇るような幻覚に捕らわれた。

 様々な食材の香りが辺りに充満する。果物の香り、甘い香り、野菜の香り、燻製の香り。

 もう一度ごくっと喉を鳴らす。


 バスケットを開けたまま、アリスはクーヤの方へ顔を向け睨む。


「別に毒なんて入ってないよ」


 あまりの警戒心に、野生の動物を餌付けしているような感覚にクーヤは苦笑した。

 ラビが恐る恐るバスケットの中へと手を伸ばす。

 震える手でバスケットの中から一つサンドイッチを取り出し、口に近づけ、つぐみ、口を開け、つぐむ。

 何度か迷った後、意を決して口の中へと半分放り込む。甘い香りが鼻の奥をくすぐった。


「――おいしい」


 果物の甘みと酸味。蜂蜜の甘み。やわらかいパンの感触。それらが口いっぱいに広がった。何度も咀嚼し、その味を口の中で楽しむ。飲み込んだ後、もう半分をすぐに口の中へと入れた。


 その様子を隣で伺っていたアリスもついにサンドイッチを手に取り、口に入れる。驚いたように目を見開き、咀嚼した後飲み込んだ。


「――うまい」


 その後、彼女達の手は止まらなかった。

 口に含み、咀嚼して飲み込み。また手にとって口に入れ噛み喉の奥へと押し込む。誰に盗られてなるものかと手の速度は上がり、しかし噛むことと飲み込む速さはそれについていけず、やがて頬が膨らんできた。


 彼女達のそんな様子を、まるでリスのようだと思い微笑ましくなった。

 そんな視線に気づかず、彼女達はただ無心にバスケットの中身を減らしていく。

 クーヤも食事を再開する。今日の食事は一人で食べるよりもおいしく感じられた。



「ごちそうさまでした。あ、バスケットはそこに置いておいていいから」


 彼女達は空になったバスケットを残念そうに眺めていた。だが、クーヤが近づくと急いで踵を返し、距離をとる。

 そんな様子に再び苦笑し、地面に置かれたバスケットをリュックにしまう。


「…………」


 顔を上げたとき、その視線の先に彼女達の気まずそうな、何か言いたそうな表情があった。

 何か話すのかとしばらく待ってみたが、結局彼女達は口を閉ざし、しゃべることはなかった。


「お粗末さま。それじゃ今日はこれで帰るよ」

「……」

「またね」

「……」


 彼女達に背を向け、町への道を歩き出す。

 再開を望む言葉に拒否の言葉が返されることはなかった。




 次の日も、その次の日も彼女達の元へと足を伸ばした。そして今日もまた同じ時刻にこの場所へと訪れる。


「や、元気?」

「ち、近寄るな」


 いつも通りの拒絶の言葉。

 だが、丸っきり同じというわけではない。この頃は目の前に炎の壁が出ることも、足元に氷の槍が刺さることもなかった。

 そして数日前に拒絶された場所よりもほんの数歩近寄ることができた。その事実に自然と笑顔が浮かんでくる。


「ここに置いとくね」


 そう言い残し、彼女達との距離を空けた。


 ここ数日と同じような食事風景が繰り返される。彼女達は無心食べ続け、クーヤはその様子を見て微笑む。


 やがて双方が食事を終える。残念そうに空のバスケットを眺める彼女達にクーヤは声をかけた。


「あ、そうそう。今日はプレゼントがあるんだ。そこにある包みを開けてみて」


 サンドイッチに夢中だった彼女達は近くにあった包みに気づいていなかった。びくっと体を揺らし、一歩後ずさる。


 別に変なものは入ってないよ。とクーヤが話しかけるが、彼女達は恐る恐るといった様子で近づいていく。つま先で蹴ってみたりし、中身の様子を探っていた。

 ラビが危険そうなものは無いと確認した後、包みを開ける。

 中から出てきた物に、彼女達の驚いた様子が伺えた。


「これは……布?」


 包みの中には赤と青に染められた布が収められていた。手にとって広げてみると、ワンピース状の形に整えられた服であった。コットという庶民から貴族まで親しまれる服だ。

 あまり上質な布ではない。しかし、現在彼女達がその身に着けているかなり汚れ、ボロボロの布よりも質がよさそうだ。


「気が向いたら着てみてね」


 腰を上げ、彼女達の方へと近づいた。近づいた距離の分だけ彼女達が逃げていく。その手には握り締められたコットがあった。


「それじゃ、今日はこれで」


 片手を挙げ、背を向けて歩き出そうとする。その背に声がかけられた。


「ま、……待って!」

「……どうしたの?」


 不思議そうな顔をして振り返る。視線が合ったがラビは口をぱくぱくとするだけで声は漏れなかった。最後には唇をきつく閉ざし、くやしそうに下を向く。


「……どうして私達に構う」


 その後の言葉をアリスが代わりに聞く。


「どうしてって、仲良くなりたいからだよ」

「嘘だ」

「なんでそう思うの?」

「私達と……魔女と進んで関わろうなんてヤツはいない」

「それじゃ僕は進んで関わろうとする奇妙なヤツだね」

「……何か目的があるのか?」

「目的はアリスとラビの友達になること」

「だからそれは――」

「嘘だ、と思うならそう思っていてもいいよ。でも僕は――」


 否定しようとした言葉をクーヤが先に言葉を発し押し止める。その真剣な視線にアリスは飲み込まれた。


「君達が僕と同じと思ったから友達になりたいんだ」

「っ!」


 言いたいことは言い終え、これ以上話すことはないと踵を返す。


「ま、待って。それはどういう……」

「またね」


 静止の声を振り切って、クーヤは町へと向かっていく。残された彼女達はその言葉の意味を考えてみるが、結局それらしい答えを得ることはできなかった。




「ただいまお父さん」

「クーヤ見ろ!鉱石が手に入ったぞ!」


 クーヤが帰った時にはすでに父親が宿屋で息子の帰りを待っていた。意気揚々と目的の鉱石を目の前に押し付けてくる。


「よかったね。どんな鉱石なの?」

「ああこれは、魔吸石と呼ばれる鉱石らしい。名称の通り、魔力を吸収する石だ」

「魔力……それはマナ?それともオド?」

「マナは周囲から観測されたから、オドの方だと思う」

「オドを封じるって……そんなの持ってても大丈夫なの?」

「持っていても疲れる事もないから、放出したオドを吸収する効果があるかもしれないな。いや、とにかく調べてみないと確かな事は言えないか」


 魔力には大別してオドとマナの二種類がある。

 オドが小源、マナが大源。

 オドは生物自身が内包する魔力。精神力と捉えてもいい。

 マナは星という生命が発している魔力。自然のまたは精霊の力。


 オドは個人で保有するガソリン。

 魔術を行使するには、そのガソリンをエンジンと言える術式に流し込むことで現実を侵食し発現する。

 マナは世界に満ちる無尽蔵といえる量を誇る。

 しかしその本質は例えるなら原油だ。オドとは同一のようで、似て異なるものである。ゆえにそのままでは魔力として人が使う事は出来ない。


「ふ~ん、詳しい事がわかったらまた教えてね」

「ああもちろんだ。俺は早速この鉱石を調べる事にする。遅くなると思うからもう寝なさい」

「ねぇちょっとその鉱石貰ってもいい?」

「少しくらいかまわないが……どうするんだ?」

「試してみたいことがあってね」


 もしかしたらこれは使えるかもしれない。クーヤはこれをどう使えばいいか考えながら眠りについた。




「こんにち……は……――へぇ」

「な、なによ」


 今日もこの場所へ来た。

 最近では見慣れてきた風景。だが、今日はその景色に二つの色が加えられていた。

 その色はクーヤが町で見た色。

 彼女達の服が昨日まで身に纏っていた薄汚れた布ではなく、クーヤが渡したコットを着ていた。ラビが赤、アリスが青を着ている。


「うん……うん。よく似合ってるね。可愛いよ」

「っ!」


 ボッ、という音が聞こえた気がする。

 彼女達の顔が真っ赤に染まった。次第にではなく、一瞬で。耳も頬も顔も、肌全体が赤く染まっていた。


「う、うるさいうるさいうるさいうるさい!」

「そんなに怒っても僕の意見は変わらないよ。実際可愛いし」


 捲くし立てるラビに平静な対応をとる。年はそれほど離れていないが、傍から見れば子供を嗜める親のように見えた。


「っ!うるさい!もう喋るなぁ!」


 目の前に炎が現れる。

 なんだか久しぶりな感じだなぁと、感慨深くどこか外れた事を感じていた。

 壁が晴れた後、いつも通りのこちらを睨む顔を苦笑で受け止めようと考えていた。

 

 だが、炎が消えた後見たことのない奇妙な光景に目を丸くした。


「熱っ……あつ……熱い」

「ラビ落ち着け!今冷やしてやる」


 視線の先に火の塊がある。先程までラビがいた所だ。

 隣にいるアリスも慌てた様子で自らの力をその火の塊に注ぎ始めた。

 焦げた臭いがここまで漂ってくる。何が起こっているのかわからない。

 クーヤはあまりの事態に驚愕し、動けないでいた。


「……はぁはぁ。ア、アリスありがとう」

「もう大丈夫そうだな」


 ラビの無事を確認し、アリスはクーヤの方へ振り返った。


「これが私達の呪いだ」

「……」

「私達の力は詠唱も無しに発動し、感情の起伏でも発動する……そして、その力で自分自身を傷つける……こんな力が魔術と本当に言えるのか?」


 本来生物は自分の身を傷つける為の武器を持っていない。

 毒蛇が自らの毒で死なないように、魔術も自身を傷つける術は存在しない。自分を犠牲にする魔術は存在するが、自分を傷つける事を目的とした術は存在していなかった。


「いやぁ。驚いたよ……ラビ、大丈夫?」

「え?……あ、うん」

「そうか、よかった」

「――あ……服焦がしちゃった」

「服は消耗品だよ。ラビが無事ならそれでいいよ」

「あ……う……。そ、その……ご、ごめん」

「気にしなくてい――」

「私を無視するな!」


 ラビへの返事はアリスによって遮られた。ふぅ、と息を吐いてアリスへと向き直る。


「ごめんごめん、それでその力が魔術か……という事だっけ」

「そうだ」

「僕の意見は変わらないね。その力は魔術だと思ってるよ」

「っ!なぜそう思う」

「ん~、僕は魔術師じゃないから詳しい事はわからないよ……そう感じてるとしか……」

「話にならないな。適当な事を言って私達を馬鹿にしてるんじゃないのか」

「そんなことないって―――あ、先生が何か言いたいみたい」


 突然目を瞑るクーヤに不思議そうな顔をして二人は顔を見合わせる。


「……先生?」


 ぽつりと声をもらす。

 その疑問にクーヤからの返答はなかった。


「まず、結論から言わせてもらうと……お前達の力は魔術だと考えている」

「「……!」」

「視覚からの情報のみという事も言っておこう。魔術を語るに視覚のみでは不安かもしれないが、なに視覚情報も馬鹿にならない。そもそも人類はその情報を大半が視覚から得ているんだ」


 先程までの柔らかい感じを含んでいた口調が、どこか冷めた、突き放すような口調に彼女達は驚愕した。


「あんた……誰?」


 そして疑問を口にする。

 このような状態のクーヤはいままで――いや一度だけある。

 その時はあまりの出来事に疑問すら浮かばなかった。その会話の後で言われた『先生』という単語も今思い出した。


「お前達には二つの選択肢がある。一つはその力が魔術だという推測を聞くこと、もう一つはこの会話を切り上げること。どちらを選ぶ?」

「「……」」


 彼女達はお互いの顔を見合わせ、押し黙った。沈黙を前者と受け取ったクーヤは一つ頷き、続きを話した。


「その前に呪いの力である事に否定的な所から話をしようか。お前達は力が自分を傷つけるとき、どんな状況なんだ?」

「……えっと」


 自分が傷ついた過去を思い出し、顔が苦痛で歪んだ。


「泣いたり、怒ったりするとき……」

「感情の爆発か。暴走にはよくある状態だな。他には?」

「…………特に無いな」

「力を使った時にどこか痛む場所はあるか?例えば頭とか」

「……特に無いわ。あ、ちょっと体がだるいくらい」

「その力を初めて使ったのはいつだ?」

「気づいた時にはもう……多分生まれた時に……」


 ふむ、と一言区切り再び話し出した。


「お前達はその力を呪いだとしたいらしいが、呪いというものは常日頃からその者を蝕むものだ。日常生活を送るなんてとんでもない。命に関わる事だ。

 そして超能力等の……ってわからないか。魔術以外の不思議な力というものは自分を傷つけるようなものではない。

 暴発した場合周囲には甚大な被害が起こるが、自身は無傷という場合がほとんどだ。毒を持つ生物が自分の毒で死なないように」


 まぁ、力に精神が耐え切れず自らの命を絶つ事もあるけれど。と彼女達には聞こえない程度の声量で言葉を漏らした。


「そもそも魔術だって本来生物自身が持つ力ではない。後に覚える技術だ。やりようによっては、自身を傷つける。

 例えば自分の真上に氷を作ってみればいい、真上に発現すればあとは自由落下で自身に降り注ぐ。間接的にではあるが、自分を傷つける事は可能だ」


 それはそうだろうが、それでは直接自身を傷つける力はやはり呪いだろう。それに私達は後で覚えてない、生まれ持ったものだ。という疑問が浮かぶ。言葉に出そうとした時、クーヤは次の言葉を発した。


「だがお前達のは少々勝手が違う。ラビが燃えた理由は、憶測ではあるが魔術の暴発だな。つまり失敗ということだ」

「……え?」

「魔術の失敗とはそのほとんどが何も発動しないという結果に終わる。

 魔術を理解していないことには何も現象は起こせない。

 想像はある程度のものでも発動するがあまりに突拍子もないとやはり発動しない。

 詠唱を間違えれば世界と接続できず魔術は行使できない。

 注ぐ魔力が少ないと世界を騙す力は足りない。とまぁ、魔術の失敗は何も起こらないというのがほとんどだ――だが、例外はある」


 クーヤは次々と話を続ける。


「注ぐ魔力があまりに多すぎる場合だ」


 色々な疑問が彼女達の頭のなかで駆け巡る。否定の言葉を出そうにも考えはまとまらず、結局口から出なかった。


「容量過多――とでも言おうか。知っての通り魔術には下級、中級、上級がある。

 下級に中級で使う魔力を注いでもその過剰分は世界に分散されて自身に被害を及ぼすこともない。しかし下級に上級で使う魔力を注いでみたら……分散する速度は間に合わず、その魔力に引火する。

 上級魔術を使えるヤツがあまりいないからあまり知られていないがな。それに上級を使える大抵の魔術師ならば注ぐ魔力も理解しているし、無駄な魔力を注いで暴発……なんてことはならない。

 まぁ、わかりやすく言うとお前達は魔力の制御が不安定ということだな」


 一息に話し終え、一口水を飲むと軽く息を吐き出した。


「呪いという事も、他の不思議な力という事もまだ否定できないが……その力は魔術である可能性が一番高い、という事だ――って先生は言ってる」

「…………」

「話疲れちゃった。とりあえずお昼にして休もうよ」

「ま、待て」

「なに?」

「お前は、何なんだ?」

「……僕が昨日、君達と同じって言ったよね」

「ああ……」


 結局彼女達はその意味が理解出来ていなかったが。


「その意味は二つあるんだ。一個目は僕もお父さんしか家族がいないし、親しい人も他にいない。そしてもう一個は――」


 指を一つ立て、その意味を話していく。そして二つめの指が立てられた。


「――僕と同じ転生体という存在」


 突拍子も無い事をいうクーヤにアリス達はきょとん、とした表情を示していた。その顔をみてクーヤはニヤリと笑った。



「説明が長いわ!」

「ファンタジー物は最初に大きい戦闘シーンを入れて、こういう話は補足説明として後で入れるのが普通じゃないか?」

「この章はまだプロローグのようなものだ」

「……長いプロローグね」

「前奏が長い曲は結構良曲が多いぞ?」

「ではこの話は後で面白くなると?」

「それはどうだかわからない」


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