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第二十七話 邂逅

第二十七話 カイコウ



 クーヤがログハウスへと戻ってくると、家の前には一台の馬車が止まっている。奴隷達を押し詰めた檻はその場に無く、傍にはアリスとイース達がクーヤの帰りを待っていた。


「イースさん、ショルさん、ウィムさんお疲れ」

「おう。どうだ? お前の要望どおりの物を運んできたぜ」


 食料と布で一杯になった荷台を掌で乱暴に叩く。

 果物と野菜ばかりの生活だったラビとアリスの目が飢えた獣のようにギラギラと怪しく光っていた。


「肉は!? お肉はあるの!?」

「小麦はあるのか? わ、私はパンが食べたいのだが……」

「ああ、両方ともちゃんとあるぜ」

「やたーー! にく~~~!」


 両手を挙げて歓声を上げるラビの横でアリスが「……サンドイッチ」と嬉しそうにつぶやいている。そんな二人を眺めるクーヤの表情も何処と無く嬉しそうだ。


「そんで……奴隷達は?」


 キョロキョロと辺りを伺うが、もう一つの目的である奴隷達が見当たらない。


「奴隷達の馬車は露天風呂の近くに止めておいたぞ。どうせ先に身体を流させるつもりだろ」

「さすがアリス、気が利くな」


 ガブールから奪った枷の鍵をラビに投げ渡す。


「ラビは奴隷達を風呂に入れてくれ」

「はいよー……って、男女は分けさせるわよね?」

「あー、そうか。もう一つ風呂作らなくちゃ不味いな。いや、仕切りを作ればいいか……」


 今まで女性と子供ばかりの兎獣人達のみであったが、これから男性も増えていくだろう。男女別にしなければ問題が出てくる。露店風呂の改造を考えながらラビへ指示を飛ばした。


「まずは女性優先で。男の方は俺がやるわ」

「わかった。やっとくわよ」

「湯船につかる前に身体洗うように言えよ」

「それもわかってるって」


 ラビが露天風呂へと駆けていく。

 濡れた布で垢や泥を落とし、湯船に浸かるだけでも汚れや臭いは消えるだろう。石鹸の数は少ないためあまり用いられていない。

 材料を手に入れる事が出来れば在庫を増やしておきたい所だが、現在は余裕がない。


「アリス冷蔵庫の具合はどうだ?」

「それぞれの部屋の温度調節に手間取ったが、今は大丈夫だ。すぐ使えるぞ」


 イース達が帰ってくる前に冷蔵庫と呼ばれる食料庫を建てた。構造は単純だ。食料庫としての倉を建て、その床に低温維持用の魔方陣を描いたものだ。倉の中は何部屋かに区切られており、それぞれの部屋で温度調節が異なっている。管理はアリスに任せた。


「魔力の残り残量は大丈夫か?」

「冷蔵庫の管理と結界を張るとなると結構消費する。派手な戦闘はあまり出来ないだろうな」

「そうか。そろそろ結界に頼らず、防壁を作って行きたい所だ」


 奴隷の中に兵士か魔術師の素質を持つ者が居ればいいが。例え居なくとも村に防壁を建てるのは前から考えている。人が増えれば作業は順調に進むだろう。


「どうするかは奴隷を見てから決める事とする。アリスは食料を冷蔵庫へ保管しておいてくれ」

「了解した」


 アリスが兎獣人達に声をかけ、荷台詰まれた品を下ろすよう指示し始める。新しく手に入った食料に、兎獣人達は嬉々として作業を進めていった。


「待たせて悪いな」

「気にすんな」

「さて、報酬の話だが……金じゃなくて本当にいいのか?」

「ああ。こいつも長年使ってきたが……そろそろ限界だ」


 イースは腰に差した長剣の柄を愛おしげに撫でた。男臭い笑みを浮かべながら、長い間日々を共にした相棒を労わる。

 長年使い続けた剣。愛着もある、命を助けてくれた事もある。それでも戦いに用いるには不安になってきた。別れの時だ。


「そうか。イースさん達に合った物を作れるよう、気合を入れる」

「どんな物が出来るか楽しみです」

「頼むっすよ」

「任せとけ」

「んじゃ、後は報告だな」


 イース達から外の情報が伝えられる。

 国の様子、近隣の村の様子。特にガブールについては詳しく聞くように頼んでおいた。彼自身というよりも、ガブールが所属する同業組合についてだ。

 奴隷商人の組合に関する情報を頭の中に叩き込む。そんな事聞いてどうするつもりだとイースは疑問に思うが、クーヤは真剣な表情で話を聞き続けた。


「――とまぁ、報告は以上だ」

「ああ、大体理解出来た。イースさんありがとう」


 思っていたよりも細かい内容にクーヤが感謝を述べる。

 情報を伝え終えると、イースが何かを思い出したように手を叩いた。


「ああ、そうそう。クーヤには個人的な品があったんだ」


 イースは荷物の中を漁り始める。

 目的の物が見つかったのか、袋から布に包まれた物をクーヤへと手渡した。


「これは?」

「葉巻だ。おっと、こいつは金を貰うぞ。結構高かったからな」


 受け取ったクーヤの手が震える。

 布を開くと、そこには数こそ少ないものの葉巻は確かにあった。クーヤが今まで用いていた物よりも太い。市販されているものであろう。この程度の量ならば周りが違和感を生じるという可能性も無い。


「大量に買うと足が着くかもしれないから土産程度の量で悪いが……」

「…………イースさん……」

「どうした?」


 喜びに満ちた顔でイースを拝める。野暮ったい中年男の背に後光が輝いているような気がした。


「あんた、神か?」

「もっと崇めろ」


 胸を反らしふんぞり返るイースに、クーヤは頭を低くして彼の偉業を称える。


 クーヤが平伏するという珍しい光景に、周りの者は何事かと目を丸くするばかりであった。





 ご満悦の表情でクーヤはイース達を連れて露天風呂の場所を訪れた。


 そこには子供からイースと同年代と思わしき者達がひしめいている。

 鉄の首輪をはめられ、手枷、足枷をされた男性の奴隷達だ。人間と亜人が混在しているが、それらは全て同じように感じた。皆が皆、同じ目をしている。

 感情の無い人形のような瞳。無気力、無感情、恐怖、諦め。痛みと暴力と死の影が常時隣にいた者達の瞳。垢にまみれ傷を負った者も多かった。


 そんな彼等に同情するでもなく、憐れむでもなく、クーヤは悪くない状態だと評価した。


 クーヤが何よりも不安だったのは、人間と亜人の関係だ。

 人間は亜人を一方的に嫌っている。そして亜人の方も人間に対して良い感情は持っていない。だがそれは、普通に生活している者達の感情だ。このように感情をそぎ落とされ、反抗の意思さえ取り払われた者達にはそんな気力すらない。


 クーヤが奴隷を望んだのにはそれなりに理由がある。

 仲間を集めようと探索してみたが、他の亜人を見つけられなかった事が一つ。亜人が大勢移動する時、奴隷という商品であれば気づかれ難いというのが一つ。奴隷という境遇から開放する事で好印象を与える事が一つ。主人という優位な関係に立つ事で、情報を引き出そうとするのが一つ。

 なにより同じ扱いを受けてきた奴隷同士ならば、亜人、人間という苦手意識は一般的な者よりも少ないだろうというのが一番の理由だ。


「クーヤ様、ラビ様からこれを預かりましたよ」

「ん、ありがと」


 兎獣人から奴隷の鍵を受け取ると、意気消沈した者達の前に立つ。

 女性陣はまだ入浴に時間がかかりそうだ。先に男性の奴隷に状況を軽く説明するのも悪くないだろうと考える。


「初めまして、同じ扱いを受けた奴隷達よ。俺はこの村の代表、名をクーヤと言う。お前達の主人であるガブールは俺が殺した」


 ざわざわと周囲に動揺が走る。


「俺が、殺した。つまりお前達の所有権は今、俺にある。どう扱おうがこちらの自由という事だ」


 主人が交代したという情報だけを伝える。お前達は自由になった、とは言わなかった。事実、自由になったとは言いがたい。今出来る事はいくつかの制約を外すだけだ。


 人間の奴隷を此処から逃がす気などまったく無かった。例え此処から近い場所に家があろうとオワゾの情報が漏れる危険性が有る。彼等には此処で生活する事を強制させるつもりだ。


 亜人の方は逃がしてあげたいと思うが、折角手に入れた奴隷を只で逃がす余裕などクーヤには無い。存分にオワゾの役に立った後は好きにさせる予定だ。


「此処はハーグの森に作ったオワゾという村だ」


 そこで一旦言葉を区切り、奴隷達の目を一人一人伺っていった。


「ハーグ……」


 この場所が何処であるかを聞いた奴隷達の一部が、その生気を失った目の色を変える。絶望色の中に僅かに生まれた希望の色。その変化を敏感に察知したクーヤは唇端を微かに上げた。その色は彼にとっても待ち望んだ希望なのだ。


「今からお前達の枷を外していくが、逃げないほうが身のためだ。死ぬ事になる」


 一人一人枷を外していく。

 クーヤの予想に反して、枷を解いた途端飛び掛って来る者や、逃げ出そうとする者は居なかった。長い間自分を繋いでいた鎖があっさりと外れた箇所を唖然と見つめている。

 ガブールを殺したと伝えられたばかりで逃走という危険を冒す事に萎縮しているのか、此処から逃げ出すとして何処へ向かうえばいいのかが分からないのか、ただ単純に主人の命令に反する行動を取らないだけか。


 だが一部には虎視眈々と逃走の機会をうかがっている者もいるだろう。胸の中に燻った恨みが再燃する場合も考えられる。しかしそれこそがクーヤの求めるモノだ。

 感情の無い人形など必要ない、言う事を聞くだけの奴隷も意味が無い。例えそれが負の感情であろうと、相手が口を閉ざしたままでは関係は何も進まない。


 クーヤの望む物は対話だ。

 そしてそれは関係改善のきっかけとなる。彼が亜人の奴隷達に望む物は、情報、労力、そして手土産という役割だ。


「さて、次の指示だが。女性陣が入浴を終えたら次はお前達の番だ。それまでは好きにしろ」


 目の前の男は何を言い出したのか。その言葉を奴隷達が理解する前に、クーヤは近くにあった大きめの石に腰をかけた。


「自由にしろと言っているんだ。だが、外に逃げ出そうとするなよ」


 クーヤが早速イースから買った葉巻を取り出した。使っていたものよりも太いので半分に切断し、切り口の反対側に火をつける。イース達も自由にしろと言った途端、風呂場を覗こうと囲われた木の壁を必死に登ろうとしていた。本当に欲望に忠実な行動にクーヤは呆れるばかりである。


 監視とは言えない彼等の態度。今まで行動を制限されてきた者達にとって、久々に訪れた自由。だがそれでも、ほとんどの者が立ち尽くしたままどうすればいいのか迷っていた。

 反抗の意思が無いのは此処で生活するには悪くない状態だが、あまりに無気力すぎるのも考え物である。


「うわっち! 熱っ、あつ!」


 動こうとしない奴隷達に紫煙を伴うため息を吐き出していると、囲いを登り上げたイースが火達磨になっていた。覗きがばれて、ラビに折檻されたのだろう。


 悲鳴を聞いて一斉にそちらを向く。その中で一人、一団の中から飛び出した。


「なんだ、元気な奴もいるじゃないか」


 男は一直線に外へと走る。

 顔はイース達の方を向けたまま、奴隷達の様子を横目で観察していたクーヤは逃げ出した者に逸早く気づき追いかけた。

 傷を負っているのか、長い奴隷生活で疲労しているのか走る速度は遅い。必死に逃げる男にクーヤは直ぐに追いついて立ちふさがった。立ち止まったその男がうろたえているのが分かる。


「逃げ出すなと忠告したよな?」

「ど、どいてくれ!」

「外に出れば死ぬと言っただろ」

「う、うう……がああああああ!」


 叫び声と共にその者は拳を握り締めた。

 周りの者が目の前の光景に愕然とする。男の肉体が急激に膨れ上がってく。


 筋肉が脈動する。

 腕の筋肉が隆起し袖がはちきれんばかりに張り詰める。皮膚からは体毛が異常に伸びていき、逞しい筋肉を隠していった。その変化は全身に及んで行く。足が、腹が、胸が、顔が。膨れ上がり、体毛で覆われる。

 元々犬のような外見を残していた亜人が二頭身の狼へと姿を変えていった。


「ほう、変化か」


 驚愕に動けない奴隷達やイース達とは裏腹に、クーヤは落ち着いたまま男との距離をつめる。


「変形じゃないな。魔力も少ないから幻術でもない。膨張だな」

「邪魔するな! 殺すぞ」

「俺は弱いんだ。お手柔らかにな」


 喉の奥を鳴らして威嚇する。

 目は血走り、むき出しになった歯を軋ませる。太く尖った犬歯が震えた。


「どけぇ!!」

「やってみろ」


 身を屈め、次の瞬間には地を蹴った。

 野太い指に生える鋭い爪が獲物を狙う。狩人が駆ける。巨体が空気の壁を押し広げ、一直線にやってくる。数歩あった間が消える。鋭い爪がクーヤの胸元を狙った。クーヤは葉巻を口に咥えながらその様子をじっと見る。


「速い……が、直線じゃ駄目だ」


 左手を前に突き出し、手の甲で迫り来る腕を軽く退かす。そのまま左手を捻り、男の手首を掴んで下に引き寄せる。身体を反転させ潜り込み、右手で男の二の腕を掴んだ。左手を押し出し、右手を引いて腕を固定する。


「歯ぁ食いしばれ」


 男の腕を極めたまま、背中を男の腹へと押し付けて腰で持ち上げる。お辞儀をすると、クーヤの二周りは大きいその巨体が空中で倒立する。手首は掴んだまま、二の腕を掴んでいた右手を離した。


「雷が落ちるぞ」


 落雷のような地響きが鳴る。

 男の全身に今まで感じた事の無い衝撃が走った。肺が押しつぶされ、中に溜まっていた空気が吐き尽くされる。


「がっ――は」


 視界が点滅した。

 内臓が仰天し今にも吐き出しそうだ。背中から登ってくる痛みで脳が混乱する。体が痙攣し、膨れ上がった筋肉が萎んでいく。身体を覆っていた体毛が死滅するように抜け落ち消える。男は指一つ動かせそうになかった。


「暫く痛みは引かないだろう。逃げ出そうとした罰だ。治るまでそのままで居るんだな」

「ぐっ、が……お、俺を殺すの、か?」


 喋る事もままならないと思っていたが、意外と頑丈なようだ。兵士の資質があると評価を下す。早くも兵士予定の人材が見つかり、無表情ながらもクーヤは歓喜した。


「殺すなら、殺せ。もう奴隷なぞ真っ平だ」

「殺す? 誰が? 何故?」

「言ったではないか……逃げ出そうとすれば死ぬ、と」

「そりゃそうだ。俺程度に足止めされる奴が森の魔獣達相手にどうして生きられる?」

「な、に」


 手負いの獣は危険だが、衰弱した獣なら捕らえる事は難しくない。この者も万全の体勢ならば強いだろうと感じていた。だが、弱りきったその身体では自分の身を守る事すら出来ない。


「お前達にも言っておく。此処から逃げ出したいなら力を蓄えろ、腕を磨け。この村の中はある程度安全だが、外には魔獣がひしめいている。半端な腕じゃ生き残れない」


 今の状態ではこのオワゾから出たとしても魔獣に食われるのがオチだ。


「――だが、この森の中に帰る場所があるのなら送ってやろう。まぁ、移動するための体力くらいは欲しいがな」

「な……か、帰れるの、か」

「……ほう」


 ちらりと仰向けに横たわる男を見た。クーヤの唇の端があがり、にやりと笑う。


「お前の故郷はこのハーグの森か?」


 男はまだ起き上がれず、身体を震わせながらこくりと頷いた。


「それは久しぶりに良い情報だな。お前の名は?」

「……シルバ」

「シルバ。お前を故郷に帰す事を約束しよう。お前達の中にもハーグに故郷があるやつは俺に言え、そこに戻そう」


 立ち尽くす奴隷達へと視線を向け、ここに故郷へ帰す事を宣言する。限定的な帰郷の約束。それでも微かな希望を灯した者が幾人かうかがえる。


「俺は、約束は守る方だ」


 そう言って真剣な眼差しを奴隷達へと向けた。

 それがクーヤにとって利となる事を彼等はまだわからない。





 約束の取り付けが終わると、イース達はクーヤの元へと集まってくる。先程目の当たりにした光景に興奮気味に話しかけてきた。


「いやぁ、驚きましたね。亜人の中に変化する者が居ると聞いてはいましたが」

「吃驚したっすよ。こう、ぶわわ~っと変わっちゃって」

「膨張は変化の中で最も一般的だがな」

「膨張、とは?」

「変化の種類さ。膨張、幻術、変形がある」


 変化には三種類に分類されるというのが彼の考えだ。


 一つ目が筋肉の膨張と回復。


 二つ目が自己暗示と周囲への幻覚。


 そして変化の中でも珍しい三つ目が――。


「ちょ、ちょっとこらー! 待ちなさい!」


 露天風呂の中から慌しいラビの声が聞こえてくる。

 その扉から二人の女性が飛び出してきた。猫っぽい少女と、同じように猫顔の女性が走り難そうに外へと向かっていく。遅れて飛び出したラビは二人の女性に追いつき逃走を遮る。


「待ちなさいったら!」

「どいて、どいて下さい!」

「別に危害を加えるつもりは無いわよ」

「くっ、母さん下がって」


 猫っぽい少女が手に力を込めると、筋肉の収縮により指の中に収めていた爪が飛び出してくる。伸びた爪と少女の鋭い目つきがラビを睨んだ。


「そう威嚇しないの。本当に悪いよう……に、は……」


 その爪の先端がやがて交わり、溶け合う。

 合わさった爪は次々と連鎖し、指までもが混ざり合う。溶け合い、交じり合い、体積も質感も周囲の想像も無視したまま、鋭い一本の刃物へと形を変える。

 変化は留まる事を知らず、ついに腕までもが金属光沢が煌めく刃となっていった。


「なん――だ、ありゃ。あれも、変化……か?」

「あれは……変形だな。俺も見たのは一度だけだ――」


 変形は変化の中でも特異なものである。それは類稀なる力で、とても有用で、世界の法則も捻じ曲げ、だけれども科学の範疇で、応用に限りがない錬金術の領域。

 彼でも今まで一度しか見た事が無いその力。


 腕を刃物へと変形させた少女がその先端をラビへと向けていた。クーヤは歩き出し、諍いの場所へと向かっていく。


「どかないというのなら、排除します」

「えっ……ちょっ――まっ」

「いきます」

「はい、そこまで」


 掌を打ち合う音がその場に満ちた空気を掃った。空気が破裂するような音に少女の耳がビクリと震える。音の響いた方向へと少女が腕を伸ばす。


 正面から見る少女の顔はやはり猫っぽい。

 猫亜人、いやエリーナの情報によるなら猫獣人と呼ばれる種族だろう。隣にいた猫顔の女性がクーヤの顔を見て驚きと懐かしさを合わせ持つ表情をしていた。


「いよう、久しぶりだなルーシィ」

「えっ……あ」


 敵意を向けてきた鋭い目つきが大きく見開かれる。


 昔の記憶を思い出す。

 思い起こせば最初に会った時と同じだ。彼女との出会いも、逃げながら母親を守ろうとしていた。


「クーヤ――兄さん」




「しょっぱなから慌しいな」

「賑やかでいいじゃないか」

「僕としては変化について詳しく知りたいのですが」

「変化について文章書いたら増えるばかりだったもんでな。それほど重要な設定でもないし。切り取って、講座の方に置いておこうと思う」

「んで? 誰が弱いって?」

「さぁ? どっかの嘘吐きの戯言じゃねぇか?」


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