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第十話 決着

驚きがあるから人生は楽しい。



第十話 決着



 リリカは目の前で繰り広げられる乱舞に目を丸くした。


 地面を這うようなクーヤの体移動。下段からの切り上げ。それを軽やかな足捌きでかわすミリィセ。

 ミリィセの打撃のような面打ち。それをクーヤは短剣で受け止める。空いた右手で刀を首元に振るった。ミリィセは体ごと長剣を押し込み、クーヤの体勢を崩す。それと共に押し返してきた短剣を弾き、後ろへ短く飛び退った。ミリィセの前髪が数本宙に舞う。


 ミリィセの突きがクーヤの腹部へ向かう。体を右に捻りながら短剣でその刃を反らし、回転を生かした肘鉄をミリィセの頭部へ向ける。ミリィセは頭を沈ませ肘を避け、その場で足を踏み込み長剣を切り上げた。クーヤも顔を反らすが、切っ先が頬をなぞる。左の頬から血が流れた。


 互いの力は拮抗している。

 リリカはミリィセとここまで戦える者を、自分達の団長以外見たことが無い。

 そして、その相手の動きにも驚愕する。先の動きを予想できない。緩やかに動いたと思えばいきなり加速する。体移動も直線的なものもあれば、滑る様に弧を描くものもある。その動きに対応出来るミリィセに感嘆する反面、自分の力不足が思い知らされる。


 本当に自分とやったときはお遊びだった、と悔しく思った。


 地面を蹴る音、刃物が振るわれる音、長剣と短剣がぶつかる金属音、そして飛び散る火花。そのどれもが遠い世界の出来事だった。

 一つの攻めに、一つの守りに、数々の動作にリリカは痛感する。これ程までに彼等とは差があったと。



 どちらが勝つかリリカにはわからない。

 だが、ミリィセには負けて欲しくないと思っている。ミリィセはリリカの憧れだ。


 ミリィセとはリリカが従騎士の頃からの関係だ。先輩騎士の後をついて身の回りの世話を行い、騎士としての心得を学んだ。

 凛とした立ち振る舞い。柔らかな物腰。騎士団長を父に持ち、最少年で女性初の隊長就任。女性騎士達の中で憧れている者は多い。まだ若くて自分の力を試したいのか、たまにこのように手合わせを申し出る事がある。そんな子供っぽい所もリリカには魅力的だった。


 男性騎士からは団長の贔屓だと陰口を言われるが、そんなのはただの僻みだ、とリリカは怒りを感じている。

 訓練の時も数人の騎士を相手にしても苦戦する事はない。他部隊の隊長とやっても負けないだろうと思っている。


 だからこそミリィセには負けて欲しくない。


(ミリィセ様、頑張って下さい!)


 声をかけるのも憚られる緊迫した状況の中、リリカは心の中で必死に声援を送っていた。



 幾度目かの刃が交わされる。

 すでに日は沈み、闇が訪れている。周りの者は押し黙ったまま立ち合いの行く末を見守っていた。


「あ~、疲れてきたんだが……俺の負けでいいからそろそろ終わらないか?」

「わざと負けるっていうの?それなら最後の刃は止めないわ」

「おっかねぇな」

「そうね……こちらが勝ったら付き合うって条件を足すならいいわよ」

「あんたは結構好みだが……遠慮しとく。後が怖そうだ」

「あら、残念」


 ラビもアリスも声に出さず応援している。イース達は彼等の動きに驚き、声も出なかった。皆がその攻防を見逃さぬよう真剣に眺めていた。

 そして感じる。

 そろそろ終わりが近づいていると。


「楽しい、本当に楽しいわ」

「そうかい、それはよかったな」

「いつまでも続けたいわね」

「俺はとっとと終わりたいがな」

「それなら」

「勝つしかないってか」

「ええ」


 ミリィセが笑う。本当に楽しそうに微笑んだ。

 間隔の短いミリィセの攻撃が続く。避けられるものは避け、無理なものは短剣で防御する。金属のぶつかる音が幾重にも鳴り続けた。


 ミリィセの下段からの打ち上げ。回避不可能と判断したクーヤは短剣で押し込むように防御した。


 ミリィセがその場で踏み込む。クーヤの短剣を捕らえたまま、力を込めて振り上げる。短剣が空へと飛ばされた。弾かれた反動でクーヤの体勢が崩れる。


 両手に力を入れ、柄を握り締めた。

 残るは防御に不向きな刀。全身全霊の一撃を込め、長剣を振り下ろした。


「――っ!」


 周囲から短い悲鳴が聞こえる。

 そして長剣がクーヤの目の前でピタリと止まった。


 静寂に包まれる。

 夜風が緩やかに流れる。葉と葉の擦れる音がざわざわと漏れ出した。

 キーンとした音が耳にいつまでも残る。誰も声を発しない。

 ぽつんと灯る焚き火の炎がユラユラ揺れていた。先程まで焚き火の上に乗っていた鍋はいつの間にか地面に置かれている。


 木の弾ける音がする。

 火の粉が空へと駆け上り、すぐに消えた。


「――なっ」


 焚き火の明かりに、皆の驚いた表情が浮かび上がっていた。

 炎が揺れるのと共に、伸びた影も揺れる。長く伸びた二人の影。クーヤとミリィセの間に2本の線が交差されていた。


「悪いな――」


 クーヤが掌底を叩き込む。ミリィセは驚愕で反応が遅れ、急いで回避を試みるが間に合わない。左手がミリィセの顎を捉え、衝撃が頭の中を駆け巡った。

 頭蓋の中にある脳が揺さぶられる。痺れた手の中からガランと長剣が地に落ちた。ガクガクと膝が笑い出し、やがて崩れ落ちる。


 倒れこむミリィセの体をクーヤが受け止めた。


「ま、面白かったぜ」


 揺れる視界の中、ミリィセはこの詐欺師と悪態をつきながら気を失った。




「あー、やっぱり欠けてやがる……研磨しないとな。まぁ、刃に歪みが無いのは上出来か」


 地面に横たえたミリィセが目を覚ました。クーヤの周りにはラビ達五人が集って息が続く限り賞賛の言葉をかけていた。クーヤはその言葉に曖昧な返事をしながら刃の状態を気にしている。

 心配そうなリリカの顔を隣に見つけ、今の状況を悟った。


「お、目が覚めたか」


 状況を把握したミリィセがクーヤに苦い表情を向ける。


「打ち合ったら折れるって言ってなかった?」

「おいおい、鍛えられた金属だぞ」


 一度ぶつかっただけで折れたら鍛冶屋の名折れだ、とクーヤは零す。悪びれる素振りも見せず、淡々と説明した。


「刃が固定されて置かれてるわけでもない。手に持ってれば衝撃は腕を通して分散される。戦いをよく知る者なら尚更だ。衝撃の抑え方が上手く出来ると思わないか?」


 剣も同じだ。刀で金属を切るためには、タイミングと角度、切る為に必要な力が合わさらなければならない。

 単純な金属同士の衝突ではない。互いに技量の高い者同士。拮抗する業と業のぶつかり合い。今回クーヤが勝利を収めたのは情報戦による所が大きい。


「貴方……吃驚するほど嘘つきね」

「いや、敵の言葉をそこまで素直に聞き入れるあんたに吃驚だ。結構純粋なんだな」


 どれ程皮肉を言おうにも、それ以上の刃で返してくる。ミリィセは深いため息をついて目の前の詐欺師を睨んだ。


「人が悪いわね……動きが全然違うじゃない。なに?最初にやった時はやっぱり手を抜いていたの?」

「いんや、あれはあれで必死だったぞ。あんたにもわかっただろ」

「じゃぁ、どうして……」

「俺の獲物はこの刀だ、これは剣を使う時とは動きが別だ」

「それじゃ、貴方は……」

「慣れない武器で――剣術という戦い方で相手したってことだな」


 アリスが口を挟む。

 クーヤが何故その選択をしたのか、その裏にある事情を理解した。あの場では最良の行動をとった事を知り、アリスは満足気に頷いた。


「ま、限定された条件だったが必死でやったぞ。つまりは剣術ならあんたが上ってことさ」

「ふふっ。お世辞をどうもありがとう。本当に貴方って嘘つきなのね」


 ミリィセが嬉しそうに笑う。

 目の前の男はまだ全てを出したわけではないと、ミリィセは感じている。今回もその限定された条件の下で戦ったのだろう。そう思うとミリィセは嬉しく思った。

 自分の父親以外でこれ程渡りあえた者は居ない。そしてその相手はまだ底を見せていない。世界は広い。そう感じる事が出来てミリィセは満足だった。


「こんなの……違う」

 

 満足したミリィセとは裏腹に、ぶるぶると震えるリリカから低い声が漏れた。


「こんなの認められない!!」

「リリカ、黙りなさい」


 真剣勝負の結果に水を差す言葉に、ミリィセも怒りをあらわにした。ミリィセの拒否に信じられないと顔を歪ませ吼える。


「ミリィセ様は納得出来るんですか!あの男は卑怯にも嘘ばかり吐いていたのですよ!」

「都合の良いモノばかり見ていると自分の目を曇らせるだけ、いつも言っているはずよ。今回、身をもってその言葉の意味がよくわかったわ」


 彼女が頑固な事は昔から知っている。リリカはミリィセの説得を諦め、鋭い視線をクーヤに向けて睨みを利かせた。


「おい貴様。卑怯な勝ち方しておいて、いい気になるなよ」

「止めなさい」

「ミリィセ様が魔術を使わなかった事に感謝するんだな、使えば貴様のような下衆など……」

「リリカ!」


「ラビ、アリス止めろ」


 この場が一瞬で明るくなる。ミリィセ達はその光景に目を見開いた。

 騎士達の周囲をぐるりと囲む炎の壁。そしてリリカの首を四方に囲む、尖った刃。どちらとも彼女達の目前で止まり、被害には及ばない。ラビとアリスは不満そうに拗ねた顔をクーヤに向けていた。


「人が折角不殺でカタつけたのにお前らがやるなよ」

「別にいいじゃないかこんなヤツ」

「とりあえず落ち着け」

「だって……」

「いいから、な?」


 クーヤが僅かに微笑むと、二人ともしぶしぶと力を収める。消え去った炎と氷が消えた先に驚いた表情の騎士達がいた。


「魔女の……力」

「あんたもその空っぽの頭でもう少し状況を考えてくれ。あんたを殺すのはどうでもないが、その場合ミリィセ隊長も始末しなくちゃならん」


 本当にどうでもいいような口調で告げる。リリカを始末したとなれば、ミリィセも黙ってはいないだろう。その場合口封じにミリィセにも手をかけなくてはならない。

 クーヤはミリィセの事を高く評価しているので殺すには惜しい。


「そ、そんな事したら、他の騎士が黙って……」

「んで?誰がその事実を伝えるんだ?あんたらどうせ此処に来るって言ってないだろ」


 リリカが言葉に詰まる

 確かに彼女達はこの場所に来る事を伝えていない。今はまだ魔女の討伐命令は出ておらず、仮に出たとしても彼女達二人でやってくる事はない。軍を率いて挑む事だろう。

 隊長格が手合わせをする為という理由は流石に言えず、適当な理由の述べて日が落ち始めた町を抜け出してきていた。


「これ以上暴言吐くなら――今度は止めない」


 何も言えず、リリカは押し黙る。

 自らの言葉で自分はまだしも、先輩騎士にあたるミリィセまで巻き込んでしまう状況をやっと理解した。しかし、リリカは納得していない。ミリィセが魔術を使っていればこんな男に負ける筈がない、と歯を軋ませる。

 そんなリリカを見てアリスが口を出した。


「それに魔術を使ったとしたらさらに勝つのは難しくなるだろうな」

「えっ?」

「クーヤも魔術を使えるからな。手数が増えて、追い込まれるのはそちらの方だと思うぞ」


 リリカは唖然と口を開き、ミリィセも驚いた表情でクーヤの様子を窺った。イース達も初めて知る事実に驚きを隠せない。ウィムが代表してクーヤに尋ねてみた。


「本当に?」

「魔力量は少ないけれどな」


 クーヤの肯定に、イース達がいきなり騒ぎ立て始めた。突然の歓声にクーヤは耳を塞いで騒音を遮断する。あまり効果はなかったが。


「旨い飯が作れて、騎士団隊長に勝てる体術を持って、魔術も使える……」


 ぶつぶつとイースが呟く。突然肩を掴んで叫んだ。


「クーヤ!俺達のチームに入ってくれ!」

「断る」

「なら俺の師匠になって欲しいっす!」

「なんとなく断る」

「僕と結婚して下さい」

「断じて断る」

「なっなら、私とけっ、こ、けっこ、けここ……」

「鶏の物まねか?」


 ギャーギャーとした喧騒が煩わしいとばかりにクーヤの反応は薄かった。赤面するラビの頭を撫でるのと共に、ミリィセ達の様子を窺えば、肩を震わせているミリィセがいた。


「ぷっ……くくく。あははははははっ」


 突然笑い声をあげるミリィセに周囲が何事かと振り返った。隣にいるリリカもミリィセの笑う姿にどう声をかけていいのか悩んでいる。


「ミ、ミリィセ様?」

「はー、まったく。食えない人よね、貴方って」


 一頻り笑って満足したミリィセは目尻に溜まった涙を拭い、クーヤに笑顔を向ける。


「まだなにか隠していると思ったけど、魔術まで使えるとはね」

「それはあんたも同じだろう」


 魔力の保有量でミリィセが魔術を使えるかもしれないと予想したクーヤは、最初の一撃目で喉を潰しにかかっていた。避けられてしまったが、その後もミリィセが魔術を使う素振りを見せなかったのでクーヤも使用を控えていた。


「隠しているのはその腰の後ろにあるものだと思っていたわ。……ねぇ、その得物ってどんなものなの?」


 アリスから渡されたクーヤの武器。左右の腰に差した刃物と後ろの腰に差した金属の塊。一見ブーメランのような形状にも見えるが、あまりにも分厚すぎてまともに放物線を描くとは思えない。


「それを使う所、見せていただけないかしら?」


 ラビとアリスもその武器の使用方法は聞いていたが、金がかかるという一言で切り捨てられ実際に見た事は無い。ミリィセの提案にラビ達はクーヤに希望の眼差しを向ける。


「無理だ、金がかかる」


 同じようにばっさりと切り捨てた。落胆の息がそこかしこから漏れるが、クーヤは意見を変える事はない。金がかかる事も確かだが、それ以外の部分でもこれは知られたくない。


「そう……それなら」


 ミリィセの腰にぶら下がる袋をベルトから外し、放り投げる。


「食事を邪魔した迷惑料も含めてこれでどうかしら?」


 硬貨の入った袋がクーヤに投げ渡された。硬貨同士が擦れる音がクーヤの手の中で聞こえる。袋の重さを感じながら、紐を解いて中の様子を覗いて見た。銀色に輝く硬貨も何枚か確認できる。


「悪いな……やはり教えるつもりは無い。単純な金の問題でもないんだ」

「どうして?奥の手とでも言うの?」

「そういう部分もあるが……これは――この世界には早すぎる」


 一体その言葉にどれ程の意味が込められているのか。苦渋の表情をするクーヤからその思惑は読み取れない。いつも飄々としていて、表情の起伏に乏しいクーヤがあらわにしたその感情。誰も何も言えなかった。


 でも、だからこそ――。


「ねぇ、使う所だけ見てみたい」


 ラビはクーヤの苦悩を少しでも減らしたくて、そう提案した。

 造って、後悔して、でも破壊しようとしない。それは作品への拘りか、遅れた世界への苛立ちか、詳しい心境まではわからない。


「詳しい機構等の説明は無しならいいんじゃないか?」


 アリスもクーヤの精神的負担を減らそうと呟く。

 クーヤの知識は遥か先の時代にいる。

 知識はある、広めていきたいと思っている、だが時代が追いついていない。いつまでもそんなジレンマを抱え込まないで、少しはさらけ出して楽になればいい。


「そう――だな」


 二人の意図を飲んで、クーヤは心の中で礼を言う。


「詳しい説明は無しだ、使う所だけ見せよう」

「ええ、それで構わないわ」

「これを貰ってもいいか?」


 地面に転がったままの折れた剣と半分になった盾を拾い上げ、ミリィセに許可を願う。


「馬鹿なそれは騎士の――」

「もう修復も出来ないでしょうし、いいわよ」

「ミ、ミリィセ様!?」


 リリカの反論は無視し、クーヤは離れた場所に剣と盾を地面に突き立てる。十分に固定されているのを確認後、どのくらい距離をとろうかと悩み、とりあえず20メートル程度の距離を空けた。


 皆今か今かと興味津々にその様子を見守る。


「まずはこっちから」


 後ろの腰から一つL字型の金属を取り出し、短い柄の方を右手で掴み構えた。


「始めるぞ」


 暗がりに霞む盾を見つめる。クーヤの手が握られる。瞬間、昼間のような明るさが辺りを照らす。


 閃光と轟音。

 空気が震えた。


「なっ――」


 いきなりの騒音に何事かと立ち上がる一同。突如の発光に目が眩み目標物を見失う。クーヤだけが命中を確認する。

 立てられた盾がなくなっている。甲高い音と共に地面に固定された盾が消えていた。


 暗闇の向こう側から金属が跳ね回る騒がしい音が響いてくる。


「な、な――」

「それじゃもう一つ」


 周りの反応は無視し、クーヤはただ作業をこなしていく。

 左手で腰の後ろにあるもう一つの金属に近づけ、そのままの体勢でぼんやりと浮かぶ剣に狙いを定めた。


「抜き撃ち」


 再び轟音と閃光が一つ。

 先程ものよりも光量も騒音も若干少なく感じるが、初めて見聞きする周囲の者にはその光と音はたまったものではない。


 光に眩む視線を瞬かせれば、地面に埋まった剣の長さが短くなっていた。

 クーヤの左手が腰元に位置し、その手には金属が握られている。その金属に右手が添えられた。


「ファニング」


 光は二度瞬き、轟音は短い間隔で二つ轟いた。

 剣がさらに短くなり、一部分が砕けて欠片が散らばった。


「スポットバースト」


 連続した光の瞬き、音はすでに何回鳴ったのか聞き取れない。

 剣はさらに二箇所の部分が砕かれ、欠けている。


「ちっ、最近サボってたからな。一発外したか」

「な――な、なっ」

「とまぁ、しまらない結果になったが……以上だ」

「なんじゃそりゃーー!!」


 イース達の悲鳴のような叫び声が森の中に木霊した。




「おいクーヤそれは一体なんなんだ!」

「う~、まだ耳が痛い」

「なんすかそれ!盾が吹っ飛んだっすよ!剣が遠くで砕けたっすよ!」

「目がチカチカするな」

「弓ではない新しい飛び道具……ふふふふふ」

「詳しい説明をするつもりはない。ついでにウィムさんあんた怖いぞ」


 狂喜乱舞する男達は置いておき、ミリィセ達に顔を向ける。彼女達も今だ信じられない光景を目の当たりにし、呆気に取られていた。


「……それは……なに?」

「質問は受け付けないつもりだが?」

「少しくらいいいじゃない。お金は払ったわ」


 ふぅ、と息を吐き、暫しの間黙考する。どこまで説明していいものかを線引きすると、かなり低いところで線が引かれた。本当にさわりだけ。


「これは拳銃――銃というものだ。簡単に説明すると、金属の筒から小さい金属――弾丸、弾を飛ばすものだ」


 そして黙る。

 構造も火薬も製作方法も、詳しい事は何一つ説明しない。

 威力重視の単発式拳銃(シングルショット)であるコンテンダーという名称も伝えない。

 速射重視の回転式拳銃(リボルバー)であるコルトSAAという名称も教えない。


 クーヤの口からこれ以上説明がされない事を知ると、諦めた表情でクーヤに伝える。


「いい余興を見せてもらったわ。お礼に一つ良い事教えてあげる」

「なんだ?」

「……そろそろ嵐が来るわ。冬を越す支度をした方が良さそうよ」

「何を言っている?秋が来たばかりだぞ」


 アリスの言葉にミリィセは何も答えない。ただじっと、クーヤの瞳を見つめる。

 クーヤはミリィセに目を合わせ続け、その真意を探った。ミリィセの言葉をクーヤはどのように取ったのか、目を瞑りながら頭を下げた。


「ご忠告感謝する。ミリィセ隊長」

「いいえ、それじゃまたいつか」


 その会話に何の意味があったのか、それは二人にしかわからなかった。


「そろそろチートというタグを付けてもいい気がする」

「俺はお前達みたいな力は無いぞ」

「クーヤの知識と技術は反則なのよ」

「技術的には比較的簡単なものを選んだつもりだが」

「金属の加工技術はまだまだ拙い世界だしな」

「……本当はオートマを造りたかった」



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