青髪ヒロインが現れた
俺がこの漫画の世界に転生し、毎日ちゃんと学校に行くようになって、早くも金曜日を迎えていた。
この間、特に変わったことはない……とは言えなかった。
あれから一日に一度は望愛が声を掛けてくるようになったのだ。
さすがに、俺から声を掛けることはしなかったが、望愛は、朝、教室に入った俺を見つけるとすぐに寄ってきて、おはようと声を掛けてくる。
そして、他愛もない話を少しだけして戻っていくのだ。
こんな俺と関わってもいいことなんてないのだから、正直どうしたらいいのかわからない、というのが本音だった。
と、何だかんだ言ったが、こっちはまあ問題ないっちゃ問題ない。
それよりも、破滅フラグをぶっ壊すという決意の方で俺は今少々焦っていた。
漫画の中で、時系列的に最初にヤバいことになるヒロインのタイムリミットが迫っているのだ。
もちろんそれは望愛じゃない。
そのヒロインの現状を探りたいのだが、如何せんそのきっかけがない。
と言うか、望愛が例外なだけで、他の生徒は男女関係なく、俺が近づいただけで、目を逸らし逃げるように離れていくのだ。
怖い。怖いんだろうなぁ。うん、俺ってば人相極悪だしな。それはわかるんだけどさぁ。
少し前までの俺とは中身大分違うよ、と言いたい。
いや、本当に言ったら今よりもっとヤバい奴になっちまうけども。
冗談はこれくらいにして、そういことで、全然状況が掴めていないし、未然に防ぐとかってことも当然できてない。
どうしたものか、とすでに昼休みが始まっているのに、席に座って悩んでいたそのときだった。
「君、少しいいかな?」
突然背後から声をかけられた。
どこかで聞いたことがあるような……?
低めの、どこか凛としていてかっこいい感じのする女性の声だ。
「あん……?」
振り向き、その女性を見て驚きを表情に出さなかった自分を褒めてやりたい。
俺の後ろに立っていたのは、正に今、俺が探りたいと思っていたヒロインだったのだ。
「知っているかもしれないが、はじめましてだからな。一応自己紹介しておこう。私は三年の青葉美涼。生徒会長をしている」
もちろん知ってる。声を聞いたことがあるのも当然だった。
ポニーテールにしている青髪、そして、女子としては結構高い170cmを超える身長。
さらに、制服の上からでも分かるくらい胸部に張りがある。つまりは巨乳で、漫画の登場人物紹介で書かれていたスリーサイズでは、望愛よりも大きい。
まるで欧米人のようなメリハリボディの持ち主なのだ。
それら外見的特徴と内面から滲み出るものによるのだろう、凛々しく大人っぽい雰囲気の頼れるお姉さんタイプといった印象の美少女だった。
「……生徒会長さんが何の用っすか?」
せっかくの機会だが、わざわざ出向いてきたくらいだからな。
まずはその用件を聞くことにした。
「ここじゃ目立つからな。ちょっと場所を変えようか」
そう言って連れてこられたのは生徒会室。
俺はつい呆れた目を向けてしまった。
自分で言うのも何だが、この女、話したこともないこんな不良野郎とよく二人っきりになんてなれるな、と。
普通、もう少し危機意識を持つものじゃないのか?
そんなだから……。
「さて、それでは早速だが、君はこれまであまり学校には来ていなかったのに、今週になって毎日登校するようになったそうだね?」
「そぉっすけど、それが何か?」
「いや、それ自体はいいことだと思う。だが、君が女子生徒を脅しているというのが私の耳に届いてね。そうなると話は変わってくる」
美涼は俺を射貫かんばかりに視線を鋭くした。
気の弱い生徒だったらビビってしまいそうだ。
まあ、そんな顔されても俺は美人だなぁと思うくらいで、何ともないんだが。
それよりも―――。
「……んなことしてねえよ」
ちょっとイラっとした。
やっててもおかしくない奴、ってか本来ならやるような奴ってのは自分でも認めるが、今の俺はやっていない。
「そうなのかい?なら、今週毎日君に話しかけている女子がいるというのも間違いなのかな?」
「はぁ……。その女の方から話しかけてるんすよね?それって脅してるってことになるんすか?」
そういうことか。
望愛のことを言ってるってことはわかった。
けど、いったい誰が美涼にこんな話をしたのか。
望愛の友達か?
誰もが俺を危険視しているだろうから候補者が多すぎる。自分で言ってて悲しくなるが、これが現実なんだからしょうがない。
そもそもこんなやり取り、漫画にはない。
漫画で、玲旺と美涼の間に接点はなかったんだ。
玲旺が望愛を寝取るのは夏休み直前のことだし、もうすぐ美涼には、こんなことに構っている余裕なんてなくなるから。
「君が話しかけるように脅しているんじゃないのかい?」
「何のために、んな無駄なことを?」
「それは……」
「会長さん、人を見た目で判断するのは良くないっすよ」
「それはそうだが……、いや、しかし……」
この程度の反論で言い淀むなんて、俺なんかの言葉でも真剣に捉えてくれているということなんだろう。この件に関しては、間違ったことを言ってないから当然と言えば当然かもしれないが、俺には信用ってやつが足りてない、どころか全くないだろうからな。
正義感が強くて、実直な性格なんだと思う。
それに、これは漫画でわかってることだが、美涼は一度自分の内側に入れた人間のことを信用し過ぎる。字面だけなら美点と言えなくもないが、今後の展開を知っている俺からすれば、これは間違いなく欠点だった。
なぜなら、そのせいで美涼は破滅の道を進むことになるんだから。
「ってか、いったい誰からんな話聞いたんすか?」
すぐに言葉が出てこない美涼を見て、俺は、自分で考えてもわからないことを直接訊くことにした。
「それは私の彼…!?ん、んんっ!わ、私の知り合いの友人が話してくれたんだよ」
「焦り過ぎだろ……」
「な、何がだ!?私は焦ってなんていないぞ!?」
「はいはい。彼氏のお友達から聞いたってことっすね」
「…君が何を言ってるのかわからないな」
真面目過ぎるっていうか、隠し事ができないっていうか……。
誤魔化し方も下手ってレベルじゃねえぞ。
目線逸らしてバレバレだろうが。
「そっすか」
けど、今ので十中八九決まりだな。
これ言ったの、たぶん昇だわ。
美涼が動揺してるうちにちゃんと確認しとくか。
「久住と付き合ってるって噂聞いたことあるんすけど、本当だったんすね。さっきの女子の話も、たぶん桃瀬のことっすよね?ってことは、会長さんに話したのは浅野あたりっすか?」
「なっ!?な、なんで、どうしてわかっ!?い、いや、そうじゃなくて!私は誰とも付き合ってないし、勝手な憶測で相談者を特定しようとするのはやめてほしいな」
「……すんません」
笑いを堪えるのだって大変なんだから勘弁してほしい。
いかにもできる女って雰囲気なのに、このポンコツぶり。
何この女?
だんだん面白くなってきちまったじゃねえか。
まあ、聞きたいことは聞けたし、美涼を揶揄って遊ぶつもりなんてないが。
今、目の前にいる美涼にも彼氏がいた。そして、それは漫画と同じで、俺と同級生の久住慎也だった。この感じだと、慎也からの提案で二人は付き合っていることを周囲に隠しているところも漫画と一緒なんだろう。
加えて、漫画には本当に僅かだが、慎也と昇が友人だという描写があったのだ。
だから、鎌をかけてみた訳だが、どうやら正解だった。
全く嬉しくない正解だけどな……。
ってか、昇も昇だぞ。マジかよ、あいつ。
俺を睨むだけじゃ何の解決にもならないのはそのとおりだが、先輩で生徒会長とはいえ、こんなことで女に泣きつくなんて普通思わねえって。
自分の好きな女のことくらい自分で解決しろっての。
「「…………」」
少し沈黙の時間が流れ、何だか、ちょっと気まずい妙な雰囲気になってしまったため、俺は話を切り上げることにした。
「じゃ、話はもう終わりってことでいいっすかね?俺昼飯まだなんで」
「あ、あぁ!そうだね。すまなかった。けど、もしも今回の件が真実だったときには―――」
「わかってるっすよ」
美涼も俺の言葉に乗っかってきたが、そのくせまだ念押ししようとしてきたので、俺は美涼の言葉を遮り、右手をヒラヒラと軽く振りながら素っ気ない返事をして、生徒会室を後にした。
それから教室に戻った俺は、昼飯のコンビニ弁当を持って屋上に行った。
夏以外、昼食はいつもここで、他に人はいない。
って、もうすぐここで飯食うのは無理だろうなぁ。
暑さに耐えられなくなったら屋上前にある階段の踊り場でボッチ飯だ。
「……いただきます」
腹が減っていたのに、美涼との予期せぬやり取りで疲れてしまったため、とりあえず余計なことは考えず弁当を食べることにした。
うん、やっぱ唐揚げ弁当はうまい。
唐揚げ五個とご飯、申し訳程度の漬物というシンプルな組み合わせだが、それがいい。
毎日でも食べ飽きないだろうし、実際、高校に入ってから、コンビニで弁当を買うときは毎回これだ。
弁当以外だと総菜パンを買うが、お気に入りは焼きそばパンとソーセージパンで、前世の俺と玲旺は食事の好みが結構合っていたりする。
正直意外だった。
「……ごちそうさまでした」
夢中で食べ終えてようやく一息吐く。
昼休みの終わりまでにはまだ余裕があった。
俺は美涼のことを考える。
美涼の現状が漫画どおりということは、彼女は今破滅への道を進んでいるということだ。
俺の知っていることをすべて美涼に伝える?
信じる訳がない。
まだ起きてないことだし、話すのが俺では信憑性がなさ過ぎる。
……やっぱ、元凶を潰すしかないか。
そんな風に考えに耽っているときだった。
「あれ?誰もいないと思ってたけど、先客がいたなんてね」
屋上の扉が開く音の後、そんな声が耳に届いた。
「久住……」
そこにいたのは、ついさっきはっきりした美涼の彼氏、慎也だった。
柔和そうな笑みを浮かべながら真っ直ぐ俺に近づいてくる。
「僕のことを知ってくれてるのかい?嬉しいね。僕も君のことは知ってるよ、龍賀君。君は有名だからね」
見た目は優男。成績優秀で、品行方正。こいつは、絵にかいたような優等生、を演じてるクズ野郎だ。
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