望愛の想い
本日2話目ですm(__)m
龍賀くんはすごく険しい表情をしていた。
でも、彼の視線は男の人達を真っ直ぐに捉えていて、私は全然怖くなかった。
そして、底冷えするような声で放った、たった一言で追い払ってくれた。
私は龍賀くんを見ていることしかできなかった。ううん、違う。龍賀くんから目を離すことができなかった。
男の人の一人が逃げるとき、ぶつかられてしまってバランスを崩して倒れそうになった私を龍賀くんが抱き締めてくれた。
一瞬の出来事だったから、すぐには状況を理解できなかったけど、わかった瞬間、鼓動が速くなって顔が熱くなるのがわかった。
力強く太い腕、厚い胸板。
龍賀くんが私の全身を包み込んでくれているような安心感……。
だから、龍賀くんと目が合った瞬間、恥ずかしくて目を逸らしてしまった。
そんな私を気にかけてくれた龍賀くんが突然変な声を出して、私はようやく自分の胸元が透けていることに気づいた。
咄嗟に隠したら、龍賀くんは自分のせいだと言って、そっと着ていたシャツを私に羽織らせてくれた。
すごく紳士的だった。
言葉も行動もすべてが優しく感じられて、彼のシャツは体だけじゃなく、まるで心まで包んでくれているような気がした。
それに今思えば、私の胸元を見て、慌てて顔を逸らす龍賀くんは正直可愛いかった。
ふふっ、思い出すだけでキュンってなるわね。
でも、このときの私は本当に弱っていて……、昇くんに言われた「だらしない」っていう言葉がフラッシュバックした。
だから、見苦しいものを見せてしまったと龍賀くんに謝った。
今考えてみても、すごく自虐的な言い方になってしまったと思う。
そんな私に、龍賀くんが言った言葉は一言一句憶えている。
「桃瀬みたいな可愛くてスタイルも良い女、魅力的だと思いこそすれ、見苦しいところなんて全くないと思うぞ?それとも……そうやって俺を誘ってんのか?今すぐ体でわからせてやろうか?」
前半は、困ったような、諭すような、優しい口調ですごく、本当にすごく嬉しかった。
後半は……、ちょっと意地悪な感じで、囁かれた瞬間、体に電気が走ったような感覚がした。それは全然嫌なものじゃなくて、むしろ……。
でも、あのときの私は言葉の意味をすぐに理解できなくて、反応が遅れてしまったのが悔しい。
昇くんに傷つけられた女としてのプライドを龍賀くんの言葉が癒してくれたのに。
その後すぐ、龍賀くんは私を気遣ってくれながらも、私が龍賀くんを怖がってるなんていうあり得ない勘違いをして去っていこうとした。
そこでようやく私はお礼も言っていないことに気づいて、慌ててお礼を伝えたんだけど、振り向いた龍賀くんの笑顔に照れて、また顔を逸らしてしまった。
だって、男らしくて、かっこよくて、柔らくて、それにちょっぴり子供みたいで可愛い笑顔を急に見せてくるなんて、反則だわ……。
「噂なんて本当に当てにならないものね……。龍賀くんは優しい人だわ。……昇くんよりもずっと」
今日だって、学校で普通に話しかけたけど、やっぱり怖さなんてなかった。
それどころか、もっと彼と話したい、もっと彼のことが知りたいって気持ちが溢れてきていた。
でも、龍賀くんが私と昇くんの仲を気遣ってくれたことで、残念ながら中断してしまった。
幼馴染だってことは別に隠してないから龍賀くんも知ってたんだと思う。
私達が付き合っていることはまだ知らないみたいだったけど……。
人のことをよく見ていて、気にかけられる龍賀くんはやっぱり優しい。
席に戻った後、友達にすごく心配されてしまったけど……。
「それに、すごく逞しい腕よね……」
抱き締めてもらったときのことを思い出してしまう。
比較してはいけないことだけど、昇くんとは全然違う。
無意識に、羽織っていた龍賀くんのシャツの襟元を掴んで、体を締め付けるようにギュッと引っ張ていた。
その締め付けを、あの太い腕に抱かれていると想像してしまって、体が熱を持ってくる。
「可愛い」「スタイルもいい」「魅力的」、そして……「体でわからせてやろうか?」そんな龍賀くんの言葉の数々が頭の中で繰り返し再生されて、心の奥がじゅんと熱くなるような感覚を覚える。
自分の意思とは関係なく、手の平が大きく育った膨らみに触れた。
ビクッと震える体、僅かに固くなったものを感じたところで、ハッと我に返った。
「わ、私、何を……っ!?」
自分が今していたことに困惑した。どういう意味の行為か知識はあっても、したことなんて今までなかったから。
けど、決して嫌ではなかった。
さっき感じた甘美な刺激に、考えが上手く纏まらない。
それなのに、もっと味わいたい衝動にかられた私は、今度はパジャマの中に手を入れ、直接触れようとして―――。
そこで私のスマホが震えた。
「昇くん……」
画面を見ると、昇くんからの電話だった。
少しおかしくなっていたところを冷静に戻してくれてよかったという安堵と、タイミングの悪さを恨めしく思う気持ちの両方を抱えながら、私は電話に出た。
けど、ちょうどいい機会なのかもしれない。
ラブホテルでの一件から話していなかったけど、私の思いを、気づいてしまった本当の気持ちを伝えるなら早い方がいい。
「もしもし?」
『もしもし、望愛?ちょっと話があるんだけど、今いいかな?』
「……ええ。何?」
何事もなかったかのような昇くんの声と話し方にモヤっとして、思わず冷たい声になってしまった。
『……今日さ、あいつ……龍賀と話してただろ?まさか、脅されてたりしてないよな?』
そう言えば、龍賀くんの連絡先知らないな。教えてもらえないかな。
そんなことを考えていた私は、続けられた昇くんの言葉に思わず、スマホを握る手に力が入った。
「……脅されてなんていないわ。龍賀くんはいい人よ。すごく優しい人だし、この前だって―――」
『いやいや、何言ってんだよ。あいつは色んな女をとっかえひっかえしてるって噂なんだぞ?それに、気に食わないってだけで躊躇いなく暴力を振るうって話、望愛も知ってるだろ?授業だってサボりまくって、先生への態度だって悪いじゃん。そんな奴が優しいなんてある訳ないだろ』
「もういいわ……。話はそれだけ?」
龍賀くんのことを知ろうともしない、私の言葉を聞こうともしない昇くんとこれ以上龍賀くんの話をしたくなかった。
『……なあ、さっきからなんだよ、その素っ気ない感じ。もしかしてこの間のこと気にしてるのか?今度は俺が頑張るって言ったろ?もういいじゃん。それにこれは望愛のことを想って言ってるんだぞ?だからもうあんな奴と関わっちゃ駄目だ』
無神経過ぎるわ。
私がどれだけ傷ついたと思ってるのよ。
反射的にそう言い返してやりたくなった。
それに、嘘ばっかり。
龍賀くんのおかげで立ち直れた私は、昨日ネットで調べることにした。
そうしたら、男性の中には緊張のあまり、その……反応しなくなることがあるってわかった。
思い返せば確かに大きくなってはいなかったように思う。
真実はわからないけど、直前まであんなに欲情していたのに、急にやめるのは、冷静に考えればやっぱりおかしい。
それを誤魔化すためだけに、私にあんなひどいことを言ったと思うとどうしても許せない。
結果的にはそのおかげで私の初めては守られたわけだけど……。
今日の教室でのこともそう。
龍賀くんは昇くんが心配してるって言ってたけど、あれは心配してたんじゃない。ただ不機嫌になってただけ。昇くんは私と付き合ってたって自由に女子と話して仲良くしてたくせに。
昇くんがこんな人だったって今さらながらに思い知る。
でも、そんなことを言い合っても仕方ない。
今するべき話は―――。
「もういいわ。それより私からも話したいことがあるの。いいかしら?」
『っ、……いや、悪いけど実は俺まだやることがあるんだ。だからもう切らないと。いいな?もうあいつと関わるなよ。それじゃあな』
「え?あ、ちょっと―――!」
昇くんは一方的に言いたいことを言って本当に電話を切ってしまった。
自分から電話をかけておいていったい何なの?
「はぁ……本当に自分勝手だわ」
私は釈然としない思いを抱えながらも、次こそはちゃんと話そうと気持ちを切り替えた。
「そんなことより明日からのことよね」
今はそれよりも優先度の高いことがあるから。
本当に明日からどうしようかしら。
もっと仲良くなりたいけど、あまりグイグイいって、嫌われたくはない。
龍賀くんの好みがわかればいいのに……。
こんなことで悩んで迷うなんて初めてのことで戸惑いが大きい。異性相手というのが尚更。
ゆっくり距離を縮めていけたら……。
そういう意味では今日もあれくらいで話を終えたのはよかったのかもしれない。
幸いにも、と言っていいかわからないけど、龍賀くんが優しいいい人だって知っているのは私だけみたいだし、きっと時間はたっぷりある。
でも、チャンスがあったらそのときは―――。
「ふふっ。学校に行くのがこんなに楽しみになるなんてね」
あれこれと考えていたら、龍賀くんのシャツを羽織ったまま、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
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