放っておけない
本日、[日間]現実世界(恋愛) 連載中 2位 になりました!読者の皆様、本当にありがとうございます!!!m(__)m驚きとそれ以上の喜びでいっぱいです。これからもお楽しみいただけますよう頑張ります!
そうして、俺達は屋上へとやって来た。
俺が思いつく限り、ここならほぼ確実に、この後の望愛を誰にも見られずにすむと思ったのだ。
「悪いな。こんなとこまで引っ張てきちまって」
「ううん。私……あそこから動けなくなっていたから……」
「そうか……」
望愛の声は微かに震えており、奥歯を強く噛んでいるのか、唇も僅かに震えていた。
俺は望愛の頭に手を伸ばし、そっと撫でた。それを繰り返す。
「ここは誰も来ないから、もう我慢しなくていいぞ?泣きたいときは、泣いていいんだ」
状況的に、理由は十中八九昇だと思うが、今はそんな確認なんてどうでもよかった。
らしくねえことしてるって自分でもわかってるが、体も口も、考えるより前に勝手に動いちまったんだから仕方がない。
「っ……」
俺の言動がきっかけかになったのかはわからないが、望愛の目から涙が零れ落ちた。
そして、一度溢れてしまった涙は、とめどなく望愛の頬を濡らしていく。
「玲旺くん……!」
すると、突然望愛が鞄から手を離し、胸に飛び込んできたが、俺はそれをふわりと受け止めた。
そのまま、左手で肩を抱き、右手は優しく頭を撫で続ける。
「う、うぅ……っ…くぅ……っ……ひっ、く……」
望愛は、身体を小刻みに震わせながら、か細い声を詰まらせている。
もしかすると、俺に涙を見られたくなかったから胸に飛び込んできたのだろうか。
だって、今の望愛は、泣くのを必死に堪えようとしているのに、それでも涙が止まってくれない、そんな風に見えるから。
だから―――。
「我慢しなくていい。思いきり泣いていいんだ」
俺は左腕を望愛の背中に回し、優しく、けれど少し強めに抱きしめた。
俺の胸に顔を埋めさせて、泣き声が漏れてしまわないように。
望愛が俺の胸元をギュッと両手で握り締める。
数瞬後、屋上には、俺の胸の中でくぐもった、望愛の我慢を止めた泣き声だけが小さく響き、遠くから聞こえてくる部活や下校する生徒達の喧騒に混ざって、消えていく、そんな時間がしばらく流れた。
胸元が徐々に濡れていく感覚に、やりきれない気持ちでいっぱいになったが、俺はただ黙って、左手で背中を、右手で頭をあやすように撫で続ける。
どれくらいそうしていただろうか。
長い、長い時間が経ったようにも感じるが、実際は数分といったところか。
望愛の泣き声が治まってきた。
すると、俺の胸にかかっていた圧も少し弱まる。
「……私、ね……。玲旺くんが、教室を出て行くのを見て、一人で、図書室に行っちゃうんじゃないかと思ってね……、慌てて、廊下に出たのよ。すぐに、玲旺くんの背中を見つけて、荷物を、持って、いなかったから、図書室に、行こうとしてる、訳じゃないんだって、わかって、教室に、戻ろうと思ったの……。でも、そのとき……、昇くんの、話声が、聞こえて、私の、名前が出て、きたから、咄嗟に、隠れてしまったのよ。……そしたら、昇くんが、友達に、あんな話を、してて……」
俺は、相づちを打ちながら望愛の言葉をしっかり聴く。
俺が一声かければよかったのか……。
ってか、そのタイミングだと俺よりも早い段階からあいつらの会話を聞いてたってことだよな。
……最悪だな。
「……わりい。俺がちゃんと、ちょっとトイレに行ってくるから待っててくれって、望愛に言っておけばよかったな」
「ううん、玲旺くんは、悪くないわ。私が、早とちりした、だけだもの。それに、玲旺くんは、昇くん達に怒ってくれたわ。声だけだったけど、玲旺くんが、すごく怒ってるのは、わかったから」
「偶然あいつらの会話が聞こえちまって、どうしても我慢ならなくてな」
「ありがとう、玲旺くん。すごく、嬉しかったわ。本当よ?……でも、どうして昇くんはあんな嘘ばかり……?私、本当に苦しくて、悲しくて……」
以前、別れるつもりと言っていたが、幼馴染としての信頼は未だあったのだろう。そんな奴が、自分のセクシャルな部分を楽しげに話していたのだ。それも嘘の内容ばかり。そのショックはどれほどのものだったことか計り知れない。
「ああ。苦しいのも悲しいのも当然だ。……たくさん傷ついちまったよな。あいつはきっと、望愛みたいないい女が彼女だってことを自慢したかったんだろうぜ。そのやり方が致命的に間違ってたがな」
あらためて実感する。今腕の中にいる望愛は、エロ漫画に出てくるヒロインなんかじゃない。この世界にご都合展開なんてなくて、望愛は、こういうことで傷ついてしまう、普通の女の子なんだ。
「あんなこと、色々なところで、言われてるのかもって思ったら、私……」
「気にするな……ってのが無理なことはわかってるんだが、頼む、気にし過ぎないようにしてくれ。男なんてバカばっかだからよ。きっとその場のノリだけで、本気にしてなかったり、すぐに忘れちまったりすると思うんだ。……それに、少なくとも俺は、あいつの言ったことが全部嘘だってちゃんと知ってるから。だから、頼む」
くそっ、何の説得力もねえ。
言いながら、こんなことしか言えない自分に腹が立つ。
男ってのはバカで、こういうネタが好きだ。いつ、どこで、昇と望愛がヤってるって噂が流れちまうか正直わからない。
これ以上、望愛に傷ついてほしくないのに。望愛には笑っていてほしいのに。
「……玲旺くん」
胸に飛び込んできてから初めて望愛が顔を上げて俺を見つめてきた。
望愛は大泣きしたせいか、頬が少し赤くなっていたが、もう涙を流してはいなかった。
ただ、その泣き腫らした目を見た瞬間、胸の奥の方で鋭い痛みが走り、俺は困惑する。
「……大バカ野郎だ、あいつは。お前をこんなに傷つけるなんて。俺なら―――っ!?」
息を呑んだ。
俺は今、何を言おうとした……?
望愛になんてこと言おうとしてんだよ!?
「玲旺、くん……?」
小首を傾げながらも、望愛の瞳は真っ直ぐと俺の顔を捉えて離さない。
「いや、何でもねえんだ。何言おうとしたか忘れちまって。わりい」
動揺が激しくて、見つめられているのに耐えられなかった俺は思わず目を逸らしてしまった。
「……そう。……そうよね。……ありがとう、玲旺くん。もう大丈夫よ」
望愛が目を伏せるようにして顔を下に向けたのがわかった。
だが、すぐに顔を上げると、微笑みを浮かべながら、そっと俺から離れる。
「そうか」
「美涼さんにも悪いことしてしまったわね。随分待たせてしまっているもの。私のせいで遅くなってしまって申し訳ないのだけれど、玲旺くんはすぐにでも図書室に行ってくれるかしら?」
「望愛はどうすんだ?」
「私は、たぶん今酷い顔してるでしょうから、もう少しここにいるわ。それに、ちょっと考えたいこともあるから。だから、今日は美涼さんと玲旺くんの二人で――」
「それならよ。美涼には悪いが、今からこっちに来てもらうか。俺もちょっと勉強って気分じゃねえし、今のお前を一人にはしておけねえよ。それに美涼なら、女同士だし、仲もいいから、望愛の考え事ってのも話聞いてもらったり、相談したりできるんじゃねえか?」
望愛の言葉を遮る形で、しかもちょっと早口になっちまった。
らしくねえ。マジでらしくねえぞ。何慌ててんだ俺は!?
でも、どうしてもこのまま望愛を放っておくなんてできなかったんだ。
「……そう、かもしれないわね。わかったわ。心配をかけてしまってごめんなさい」
申し訳なさそうに、眉尻を下げ苦笑する望愛。
「んなこと、謝んな」
言いながら、望愛が納得してくれたことに安堵している自分がいた。
「……ありがとう、玲旺くん」
「おう」
俺はすぐに美涼へメッセージを送る。
ただ、さっきからずっと、望愛と触れていた胸の辺りが寒かった。
望愛の涙で濡れているからじゃない。
だから、ただの錯覚だってもちろんわかってるが、このときの俺は確かにそう感じていたんだ。
お読みくださりありがとうございます。
面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!
【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》も本当に嬉しいです!
モチベーションがとんでもなく上がります!
何卒よろしくお願い致しますm(__)m




