期末テストの勉強は大事
久住慎也の事件から一週間が経った。
「そう言えば、二週間後には期末テストだけど、勉強は大丈夫かい?」
昼休み、生徒会室で昼飯を食べ終えた後、美涼が俺と望愛にそんなことを言ってきた。
ちなみに、俺の昼飯は、事件翌日のあの日から毎日美涼の手作り弁当だ。
この弁当に関しては、美涼と話し合って、大まかに二つ決めたことがある。
まず、費用は、一回の弁当にかかる金額をだいたいで教えてもらい、それに少しプラスした日数分を切りのいい金額に繰り上げして毎月支払うことになった。
美涼はプラスも繰り上げもしなくていいと渋ったが、いくら手間はかからないと言っても、労力は実際にかかっているため、そこは俺が譲らなかった。
それと、これには、俺の分を作るからといって、普段よりも豪華にするとかそういう気遣いは不要だという意味も含まれていて、美涼も了承している。
それでも、コンビニ弁当なんかよりは相当安い金額だ。その上、比べ物にならないくらい美涼の弁当の方が美味いため、俺としては、美涼に申し訳なくなるくらい、メリットばかりだった。
また、美涼が弁当を作れないときは、その日の朝にでもメッセージで教えてもらうことになった。その流れで、俺と美涼は連絡先を交換した。望愛と美涼は事件の日、すでに連絡先の交換を済ませていたらしい。
後は、何かあればその都度決めていこうということになった。
そして、こちらもあの日から毎日だが、今日も美涼に食べさせてもらった。
あの日はちゃんと伝えることもできず、押し切られてしまったため、その翌日、左腕の怪我なんて、弁当を食べるのには何の支障もないんだから、自分で食べられると言ったのだが、そこは美涼が譲らなかったのだ。
理由は、抜糸が済むまで無理をしてはいけない、の一点張りだ。
理解しがたいが、弁当箱を持つことすら、美涼の中では無理をしているということになっているらしい。
俺はちゃんと言葉で伝えても変わらなかった結論に、諦めることにした。
慣れというのは怖いもので、今では美涼に食べさせてもらうことを普通に受け入れてしまっている。
ただ一点、望愛がジト目で見つめてくることを除いてだが。
まあ、けどそれも、見られてると食いにくいなと思う程度のことだ。
それに、望愛は昼飯を食べ終わると、俺に頭を差し出してきて、俺が頭を撫でるとすぐに機嫌が直るからな。
最初は何がしたいのかマジでわからなかったが、どうも頭を撫でられるのが気に入ったらしく、恥ずかしそうにおねだりしてきたのだ。
「あ、え…っと、その、あのね……?玲旺くんに、頭を、また撫でてほしいな、って……。ダメ、かしら……?」
そのときの望愛は、冗談抜きに破壊力抜群の可愛さをしていた。
ということで、別に減るものでもないし、望愛の頭を撫でることも、美涼に食べさせてもらうことと同じように受け入れている俺がいた。
閑話休題。
「私は一応毎日復習してますしぃ、これからテスト勉強も始めて、準備するつもりですぅ」
美涼の問いに、望愛が力の全く入っていないヘナヘナな声で答えた。
「うん、さすがだな。私としても、望愛のことは特別心配してる訳じゃないんだ。心配なのは玲旺君なんだけど?」
美涼はそんな望愛にツッコむことはなく、苦笑一つで話を進めた。
俺達二人に言ったように思ったが、どうやらターゲットは俺だけだったようだ。
ま、普通に考えれば、そりゃそうだと納得しかない。
俺は、お終いの合図に望愛の頭を二度ポンポンしてから撫でていた手を離し、美涼の方を見た。
「まあ、大丈夫ってのが、赤点って意味なら、なんとかなりそうだ。……たぶん」
これまで学校に全然来ていなかったのにどうしてと思うかもしれないが、一応6月から毎日学校に来て授業は真面目に受けてるし、漫画が現代日本を舞台にしているからか、勉強方面では結構前世の知識が役に立っている。
教科書を見ているだけでも意外と思い出してきたのだ。
これには、前世では気づかなかったが、日本の教育ってすげーんだなと思ったね。
まあ、ちょっとズルのような気もするが、前世の知識含めての俺だからな。
ただ、そんな前世の知識も一つ欠点があるとすれば、この世界のテレビ番組や歌、漫画なんかは前世と全然違うってことか。玲旺自身、これまでそういうものに興味がなかったみたいで、そっち関係はからっきしだ。
「基準が赤点で、たぶん、か……。ふむ……」
美涼が難しい顔を始めてしまった。
あ~、こりゃまた何か考えてんな。
すげーデジャヴなんだが。
「自分で言うのも何だが、ちゃんと学校に来るようになったのが6月入ってからだからな。今回はそんくらいにしか言えねえよ。次からは平均点くらい取れるように頑張るからよ」
言い訳にもならないのは重々承知だが、一応、本心を伝えた。
学校生活には勉強も含まれるからな。
このまま、前世の記憶を持ったまま、これからもずっと玲旺の人生を歩めるなら、そういうところも大事にしていきたい。
……けど、まさか俺がこんなことを表明するなんて、自分で言っておいてなんだが、笑っちまうぜ。
……望愛と美涼、二人のおかげ、なんだろうな。
「む?そうか。確かに玲旺君は、ずっと学校をサボりがちだったからね。けど、これから頑張るっていうのは、いい心がけだと思うよ」
「くくっ、ありがとよ」
「……うん、よし、決めた。私が玲旺君の勉強を見よう!生徒会があるから、今日と来週の水曜の二回しかできないけど、やらないよりはいいはずだからね。も、もし玲旺君が足りないって思ったら、土日に、れ、玲旺君のお家へ行ってもいいんだよ?今回のテストも大事だからね」
「いや、勉強くらい一人でやっから」
「っ!?ズルいですよ、美涼さん!それなら私が玲旺くんに勉強を教えます!美涼さんにとっては去年の内容ですよね?その点、私と玲旺くんは同じ授業を受けてるんですし、私の方がうってつけだと思います。それに私なら毎日だって教えられますし」
「待て、望愛。そもそも教えてもらう必要はねえから」
俺が否定してんのに、どうしてお前は毎度張り合おうとするんだよ!?
余計話がややこしくなるだろうが!
「それこそ駄目だ!そんな毎日一緒にいるだなんて、うら……色々よろしくないと思うぞ!?それに、そう、すでに習い終わった内容だからこそ、負担なく教えられるんだよ。加えて、私は生徒会長だからね。困っている玲旺君の手助けをするのはやっぱり私の役目だろう?だから望愛は、自分のテスト勉強をするといい」
だから俺は困ってねえ……。
俺の言葉聞こえてるはずだよな!?
「美涼さんだって、さっき、あわよくば休日に玲旺くんの家で二人っきりになろうとしてたじゃないですか!しかも生徒会長は今関係ないですよね!?美涼さんは高三で、受験もある大事な年なんですから、玲旺くんのことは私に任せて、美涼さんこそ、自分のテスト勉強に専念してください」
「二人とも、さっきから言ってるが、勉強は一人でできる。だから俺に教える必要なんてねえんだ。お前らはそれぞれ自分の勉強をすればいい」
俺は今回諦めねえぞ。ちゃんと意思を伝えるぜ。
お、今二人がチラッと俺を見たか?
ようやく俺の話を聞く気になったのか?
「……このままじゃ埒が明かないな。とりあえず、今回は二人で玲旺君の勉強を見る、ということにしないか?」
「……そうですね。そうしましょう」
「じゃあ、やっぱり日程は、今日と来週の水曜日だな」
「それがいいと思います。休日もやるのであれば、三人で、ですね」
………なんなんだ、本当に。
なんでこいつらは急に人の話を全く聞かなくなるんだよ!?
しかもあんなに言い合ってたのに、なんか二人ですんなりと決めちまったし!
仲良しだな、おい!?
「そうだな。後は場所だが……」
「私の家でいいですよ」
「なに?それなら私の家でやればいいと思うんだが?」
「美涼さんは電車通学じゃないですか。私の家なら徒歩で行けますから」
「む。……徒歩ということなら、玲旺君の家も徒歩で行けるんじゃなかったか?」
「っ、確かにそうですね」
「……玲旺君はどこで勉強したいかな?」
二人が頷き合ったかと思ったら、美涼が初めて俺に訊いてきた。
だが、すでに二人が俺に勉強を教えることは確定になっている……。
しかも、なんか二人からの蒸し返すなよって圧がすげえんだが?
なんでそんな圧を俺はわかっちまうんだろうな……。
ってか、こいつら、押しが強いとかって次元じゃねえぞ。
……それとも、もしかして俺がこいつら相手だと強く出れなくなってるってだけなのか?
「……図書室で」
俺は最後の抵抗とばかりに、誰の家でもなく、学校を選んだ。
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