最悪の寝取りクズ男に転生した
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5月31日、日曜日。
「………は?」
今、俺は混乱の極致にいた。
突如、強烈な頭痛に襲われ、必死に耐えていたのだが、その頭痛が治まると、あろうことか、俺ではない全く別の記憶を思い出したのだ。
何を言ってるんだって思うかもしれないが、事実なのだから仕方がない。
思い出した記憶の最期が眼前に迫るトラックだったため、恐らくそのまま死んだのだと思われる。
いわゆる前世の記憶、というやつだとでもいうのだろうか?
「いやいやいや………は?」
混乱した頭で周囲を見渡せばそこはアパートの一室。物は少ないくせに、ゴミ袋が散乱している。
「………汚えな」
そう、そこは確かに高校進学と同時に住み始めた自分の部屋なのだが、今までは何とも思わなかったというのに、今はこの部屋を汚いと感じている。
加えて―――。
「………ってか、俺、クズ過ぎねえ?」
自身のこれまでの行いに対し、そんな感想を抱いてしまう。
なにせ、気に入らない相手がいれば暴力で解決すること多数、そして、この年にしてすでにそれなりの人数の女性と肉体関係を持っていたのだ。
幸い、と言っていいのか、男がいる女性との関係はないみたいだが……。
ってか、現在進行形で付き合いのある女性がいないようで本当によかった。
そうこうしていると、二人分の記憶と人格が融合したとでも言えばいいのか、いや、そうとしか表現のしようがないのだが、とにかくそんな感覚を覚え、混乱は大分落ち着いてきた。
そうすると、今度は俺の中で信じられないような一つの仮説が浮上してくる。
「まさか、な………」
あり得ない、という思いからそんな言葉とともに、思わず引き攣ったような笑みが漏れる中、俺はその仮説を確認するため、徐に立ち上がると、洗面台へと向かった。
そして、鏡に映る自分を見た。
これまで幾度となく見てきた自分の姿だ。
特に思うところなんてないはずだが、今の―――前世の記憶を思い出した俺にとっては少々事情が変わってくる。
「…………マジか」
そこには金髪で耳にピアスをした見た目完全に不良なチャラい男がいた。
顔立ちは整っている方だと思うが、鏡に映る男は極悪な人相をしている。
さらには、身長も高く、鍛えられた筋肉質な体をしている。
格闘技でもやれば大活躍間違いなしなのではないだろうか。
何となく試しに笑顔を作ってみた。
「…………」
うん、人を殺してそうなヤバいやつの笑みにしか見えない。
そんな悲しい現実にちょっと落ち込みつつ、確認が終わった俺は部屋へと戻るとそのままドカッと胡坐をかき、腕を組んで考え始めた。
今のこの状況について―――。
「……龍賀玲旺、か」
ポツリと呟く。
龍賀玲旺、それは俺の名前だ。自分の名前なのだから、当然しっくりくる。
のだが、先ほど思い出した記憶では全く別の意味を持つ名前だった。
「……タイトルはどうしてか思い出せないけど、やっぱヒロインを幼馴染の彼氏から奪うあのクズ男、だよなぁ?」
思い出した記憶、それは今の自分がとある漫画に出てくるキャラクターだということだ。
それは、成人向けの漫画でありジャンルは寝取られ、凌辱モノ。
漫画の中で、俺が彼氏から奪うことになるヒロインの顔と名前も、彼女と同じクラスである龍賀玲旺の記憶の中にあるから間違いないだろう。
どうして一つの漫画のことをそこまで覚えているのかというと、理由は単純明快。
とにかくエロくて、本当にひっじょ~にエロくて、全編フルカラーという点もエロさをより際立たせていて最高で。
つまりは前世で幾度となく大変お世話になったからだった。
あまりにもお気に入り過ぎて、登場人物紹介からあらすじまで熟読したのはもちろんのこと、ネットでの口コミを見たり、作者のSNSをフォローしたりしていたくらいだ。
だからこそ、こんな悪役の名前まで憶えていた。
というか、漫画の中で、龍賀玲旺の息子は、非常にデカく、名字のとおり正に『龍』の如しであり、非常に獰猛で、名前のとおり正に『ライオン』の如しである、なんて馬鹿みたいな紹介をされていて、印象に残っていたというのもある。
「……ってか、龍賀玲旺の家族関係って相当だな。もしかして、だからなのか?」
漫画では描かれていなかった玲旺の家族という裏事情。
そういう過去の経験から、ヒロインを彼氏から寝取るなんていう悪行をしてしまうのかと考えたが、それで正当化できるもんじゃないなと即座に否定する。
前世の記憶のおかげで少し客観的に捉えることができているが、それでも家族についてはあまり考えたいものではないため、俺は首を振って考えるのを止めた。
「でも、そこは俺が下手なことしなきゃ何も起きないか……」
今の俺に、誰かの女を寝取る趣味は一切ない。
だから彼女に関しては大丈夫だろう。
「ただなぁ……」
そこで思わず深いため息が零れ落ちる。
なぜなら、芋づる式に漫画の詳細を思い出してきたからだ。
この漫画、龍賀玲旺も通う学校が主な舞台で、オムニバス形式の話となっているのだが、内容が寝取られ、凌辱系ということもあり、各ヒロインの結末は、破滅的な鬱エンドと言っていいものなのだ。
「あんな結末、フィクションだからこそ許されるもんだろ……」
前世の価値観、思考回路が強く影響しているのが自分でもわかる。
寝取られってのはフィクションだから楽しめる。胸糞な凌辱系もフィクションだからギリギリ許されているに過ぎない。
なのに、今それらが現実として起こりえる状況になってしまっている……。
そこに、ヒロイン達の未来を知っていることへの高揚感や上手く立ち回ってヒロイン達を攻略してやろうなんて気持ちは全くない。
むしろ、メンタルをガリガリと削られる思いだ。
だって―――。
「現実で破滅する女の子を見たいヤツなんていねえ」
口に出して確信する。
それが今の俺の正直な気持ちだと。
漫画の展開なんて関係ない。
だってこれは現実なのだから。
わかっている破滅からヒロインを救って何か問題があるのか?
あんなに魅力的なヒロイン達には幸せになってほしいと願って何か問題があるのか?
いいや、そんなものは何もない!
漫画では龍賀玲旺が狙うヒロインは一人だけ。
なら、それ以外、つまり他のヒロインに対してはそれなりに自由に動けるはずだ。
どんな因果か、俺はエロ漫画に登場する最悪のクズ男に転生した。
けれど、この状況がずっと続く保証はない。
俺は再び消え、元の龍賀玲旺に戻ってしまう可能性だってあるのだ。
だから、今やれることをやっていこう。
俺が俺であるうちに、ヒロイン達が憂いなく生きていけるように、彼女達が破滅へと突き進んでしまう起点となる出来事を阻止して、破滅フラグを全部ぶっ壊すんだ!
決意が固まったところで、あまりに特異な経験をしたからか何だか疲れてしまったため、気分転換を兼ねて、龍賀玲旺の記憶だけでなく今の自分自身でこの世界を見てみたいと思った俺は、少し外に出ることにしたのだった。
今日が休日で本当によかった。
部屋の掃除は面倒くさいので後回しだ。
Tシャツの上から着古した薄手のシャツを着て外に出た俺は、あてもなく歩くことにした。
見慣れた街のはずなのに、新鮮にも感じる、何とも不思議な感覚だった。
そんな風にどんどん自分の住むアパートから離れていきながら、考えるのは現在の玲旺のこと。
高校の二年に進級して早二か月。
登校頻度はかなりまばらだ。
一年の頃に色々とやらかしていたこともあって、登校してもクラスメイトからは遠巻きに見られるような日々を送っていた。
「俺のやろうとすることを考えれば、やっぱこのままじゃダメだよな。明日からはちゃんと登校すっか」
オムニバス形式のこの漫画は、矛盾がないように、各ヒロインに起こる出来事の時系列はかなりしっかりしていた。
明日から六月、それならばまだ誰も手遅れな状態ではないはずだが、各ヒロインの状況を確認する必要があるし、そもそも漫画どおりにヒロイン達がいるのかも確認したい。つまりは、登校しなければできないことが多いのだ。
それに、できることなら俺自身、せっかくの学校生活を楽しみたい、という気持ちも正直ある。
まあ、難しいのは重々承知しているが……。
「それにしても……。はぁ……」
歩きながらつい大きなため息が出てしまった。
もしかすると、未だ玲旺という人間の現状を受け入れきれていなかったのかもしれない。
「ま、わかるんだけどな……」
そう呟きながらも俺は苦笑を抑えることができない。
自分でも鏡を見たときに感じたとおり、玲旺の見た目は完全に不良である。
だからこそだろう。
先ほどから、すれ違う人達がふと俺に目を向けた瞬間、距離を取るようにして離れていくのだ。
そのことに今の俺は少しショックを受けてしまった訳だが、玲旺の記憶から今までもそうだったので気にしても仕方のないことだった。
こういったことは今後もあるだろうし、もうすぐ実際に体感することになる学校でも、きっとこんな感じなのだろう。
早く慣れてしまうに限る。
俺は龍賀玲旺なのだから。
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