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呪い呪われ遊びましょう  作者: 浅霧猫ノ輔
壱章 赤い空と青い花
4/10

壱−4  開花


 化け物がうろつく外に出ようにも出られず、三人は社家に閉じこもって作戦会議となった。屋内に入ってこないとも限らないので、五感の優れた朝嘉あさかが引き続き警戒をしながらの話し合いだ。


「なぁ、ここ村なんだし庄屋とかあるんじゃねぇ? いつの時代も村の長は普通いるだろ? そこなら社家にあった記録帳みたいに誰か書いてるやつがいるかも知れねぇぞ」

「たしかに、庄屋ならお金持ちだし読み書きの教育はしてるだろうから日記とかあるかも⋯⋯宮司のより詳しかったら、当時何が起こっていたのかもっと深く知ることができるよね」

「でも、アイツ絶対追いかけてくるぞ。向こうで探してる暇なんかないだろ」


 庄屋を見つけたとしても日記を探すのに手間取って全滅なんてことになりかねない。そもそも足の遅い石動いするぎが移動中に捕まる危険もある。三人は唸った。

 こんなときいつも打開策を見出すのは朝嘉だった。二人に聞こえるくらいの小声で話し始める。


「おし。なら俺と塩来えんらいが走ってここから出てあいつの気を引く。その隙に石動が庄屋へ向かう。どうだ?」

「⋯⋯危険すぎるよ。二人にもしものことがあるかもしれないし」

「いや最善だと思う。アレはタエの恨みから生まれたネオ・タエだから他に化け物はいないはず。それならあいつをおびき寄せる役と調査役に別れたほうがいい」


 三人は総じて冷静な性格の持ち主だ。言い合いをしたり取っ組み合いをしたり子どもっぽいところはあるけれど臨機応変に対応できる。気持ちを切り替えその場の最善を尽くすことのできる者たちだ。三人は頭をつきあわせて作戦を練った。

 体力があるから石動以外の二人で白い化け物に応戦し、その間に石動が庄屋へ向かう。石動は記録帳も割としっかり読めていたし、おそらく庄屋にあると思われる日記も大丈夫だと判断した。


「庄屋の裏手に集合。石動、気をつけてな」

「無理はすんなよ」

「うん。二人もね」


 頼もしく笑った二人はすぐに気持ちを引き締めて社家を飛び出した。白い化け物も彼らに気づいて突進してくる。記録帳の言う通り、ヤツは目も鼻も潰れているのに獲物の位置を正確に割り出す。見たところ耳もないようだが、いったいどうやって反応しているというのだろうか。


(分析してる場合じゃない。急がないと)


 石動は二人が白い化け物を引き連れて社家から遠ざかるのを待って飛び出した。急いで階段へ向かう。それをみとめた二人は、白い化け物が石動に反応してそちらへ走ろうとするのを回り込んで止めた。


「ッシャア! 石動んとこには行かせねぇぞ!」

「かかってこい、不細工!」


 氷魚には体術の心得はない。幼い頃からバレーボールだけを熱心に取り組んできた。ボールの扱いはうまくても相手を殴る蹴るという行為には適していない。氷魚は唾をのみ込んだ。

 対して朝嘉は生まれつき身体と運動センスに恵まれている。五感は鋭く、筋密度は高く、どんなスポーツもコツを掴むのが異常に上手い。そして独自の格闘センスを磨いてきた。


 突進してくる化け物より高く跳躍する。そして思い切りよく持ち上げた足を叩き込んだ。


「あぁッ! 足がッ! めりっめりこッ 気持ち悪ぅ!」

しょうぎッ!」


 ところが化け物の肩に踵落としをキメたはずの朝嘉の足がずぶりと入り込み、化け物の身体を貫通していた。痛みは感じているようだが、大したダメージにはなっていない。


「硝の足は選手の命だぞ! 手ェ出してんじゃねぇ!」


 比較的丁寧な言葉遣いの氷魚は、戦闘に興奮しているのもあってか朝嘉のように言葉が荒くなる。ただそれは興奮だけではなく、幼馴染を害そうとするモノへの敵意でもあった。常日頃から喧嘩ばかりの二人だが互いが互いをライバルと認め切磋琢磨している。そこへ割り込んでくるモノは何であろうと排除する。

 腹から湧き上がるような怒りが氷魚を突き動かす。両手を化け物に伸ばして力いっぱい叫んだ。


「はっ!? 塩来何だソレ!? 今何した!?」

「え、え? え?」


 氷魚と白い化け物には距離があった。二、三メートルの距離だ。腕を伸ばしただけでは届かない。そのはずだった。

 ところが、白い化け物は氷魚に押されたかのように後ろへ吹っ飛んでいった。空気圧でもあったのかもしれない。とにかく、氷魚は触れずに化け物を攻撃したのである。

 顔を輝かせて感激する朝嘉は氷魚に方法を尋ねるも、本人も何が起きたのかわかっていなかった。自分の両手を見つめて瞳を揺らしている。


「な、なんか念じたらああなった」

「は?⋯⋯いや、今はいい。念じてできるんなら念じろ! あいつを丸めて潰せ!」

「了解!」


 倒れてもすぐに立ち上がる化け物めがけて腕を伸ばす。手を握り飯を握るような形にしてヤツを包みこむ。そうしてぎゅっと力を込めていく。

 化け物は見えない何かに圧迫されるように身体を丸くして宙に浮いた。


「死ね」


 氷魚は冷めた目で化け物を睨んだ。



□□□



 二人が白い化け物と応戦している一方、石動は庄屋に急いでいた。せっかく二人が作ってくれたチャンスだ。無駄にするわけには行かない。

 村で一番大きな建物が庄屋の家と見て間違いないだろう。階段を下りながら大きな家を探すとそれはすぐに見つかった。階段下から東へ少し行ったところにある。小さな村だが、一学年くらいの数は住んでいたのだろう。何十件も並ぶ家の間を走り抜け庄屋を目指す。


 崩れた玄関から中に入って、土足のまま上がり込む。埃やカビだらけの屋内で靴を脱ぐほうが危ない。靴といっても赤椿あかつばき高校で上履きとして指定されているつっかけのようなスリッパだ。まだ慣れていないため走ると脱げそうになる。小・中学での踵までしっかり履けるタイプならよかった、なんていまさらながら思う。


 土間の大きな柱に切り込みがあるのを見つけた。おさち五つ、とナイフか何かで彫られている。子どもの成長記録だろうか。五歳といえばあの少女、タエも五歳ほどの見た目だ。


 日記をこまめに書く人なら几帳面な人が多いはずだ。几帳面なら部屋の整理整頓がなされて荒れ具合も控えめな部屋の持ち主。時間節約のためにも少し考えて動かなければ、手当たり次第に探しても見つからない。石動は少し逸る気持ちを抑え、冷静に周囲を見て回った。


 すると、ある程度片付けられた部屋があった。物があまり置かれておらず、部屋の隅に木箱がある。収納上手な人らしい。押し入れの戸を開けると箱が山積みにされていた。埃臭くクシャミを連発する。押し入れの箱を開ける気にもならず部屋を見渡すと文机がひとつ、ひっそりと置かれているのが見えた。隣には木刀が立てかけられている。

 近づいて畳に膝をつく。机の上には何もなく、引き出しを開けてみると冊子が一つ入っている。社家で見つけた記録帳と同じように和綴じにされたものだ。

 ページをめくると案の定それは日記帳だった。新しくしたばかりなのか最初の数ページしか使われていないようだ。表紙をめくって最初のページから読むことにした。


 娘が死んでからが妻おかしくなった。九郎兵衛のところの娘を見る目が異常だ。どうすればおきよを落ち着かせられるのか。

 そんな記述から始まっている。この日記は庄屋の主人のつけていたものだろうか。主人の妻、キヨはタエを毛嫌いしていたようだ。これで少女に対する怨恨の存在を確認できた。

 土間の柱にあったサチという女の子が死んでから、理由はわからないがキヨがタエに並々ならぬ感情を抱いていたということらしい。


 次のページには、不穏なことが書かれている。

 九郎兵衛の妻が怪我をしたのはおきよのせいかもしれない。宮司に相談してみようか。


 石動は眉をしかめた。キヨが恨んだのはタエだが、仕返しをした相手はタエの母とはどういうことだろうか。一応持ってきていた宮司の記録帳を開いてタエの母の怪我についての記述を調べると、虫食いがあって読みづらいが、彼女の足は獣に噛みちぎられたような怪我ができて日中は立って動くことが困難になったというものがあった。ある朝、起き上がろうと布団をめくったところ、血塗れで抉れた自身の足を見つけたのだという。獣に襲われた覚えはなく、彼女は布団で過ごすようになった。


 不思議な話だ。寝ている人間の布団から出ている首を狙わず足だけを食うなんて。石動は首を傾げた。彼女の隣にはタエも寝ていたそうだからネオ・タエも現れようがない。庄屋の主人が言うようにキヨによる犯行なのだろうか。それもまたあまり釈然としない結論だ。


 読み耽っているうちに時間が経っていることを思い出す。こうしてはいられない。二人とこの家の裏手で待ち合わせをしているのだ。

 二人はもう来ているかもしれない。石動は慌てて記録帳と日記帳を閉じて小脇に抱え立ち上がる。


「ッ!」


 振り向くと白い化け物の顔が目の前にあった。


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