【番外編】練習台
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高校卒業とともに入籍した萌恵と孝之。
孝之が新居を用意しようと不動産をピックアップし、萌恵に要望を聞く段階で慌ててストップをかけていた。
愛の巣をしっかり用意しようとした孝之だったが、萌恵は最低でも2年間は学生結婚になってしまうし、とりあえずは六本木にある孝之の高層マンションに転がり込む形になった。
充分過ぎるほど、広いマンションで最初は落ち着かなかった萌恵だが、実家も電車で二十分ほど。孝之の帰りが遅い日には気軽に帰れる距離だった。
4月、専門学校が始まると忙しくなった萌恵のために、孝之は家政婦を雇った。
部屋の掃除や洗濯、おかずの作り置きを頼むなどなるべく新生活で不自由なく暮らせるように整えてくれていた。
余裕のある週末は孝之と二人でキッチンに立ち、一緒に食事を作ったりして、なんとも順風満帆な新婚生活を送っていた。
そしてこの日も、週末の二人はゆったりおうちデートを楽しんでいた。
「孝之さん、今週からやっとオリエンテーションが終わって実技の授業が始まったんです」
「ネイリストの実技って最初はどういう事をするの?」
「最初はとにかくケアばっかりですね。ハンドマッサージとか甘皮除去とか爪の形の整え方とか…」
ネイルに関心があった萌恵は、これまでたくさんネイルチップを作ってはいたが、人の手に触るのは初めての経験だった。
生徒同士でマッサージやケアをし合ったのだが、指や爪の形が人それぞれだという当たり前なことに緊張していた。自分の爪なら毎日目にするのに人の手となると勝手が違った。
「チップばかり触っていたので、人の手にネイルするって難しい、ってケアの時点で思いました」
「なるほど。…俺の手で練習してもいいよ」
「え!いいんですか?是非、やりたいです…!」
思ってもみない孝之の言葉に、ウキウキとハンドマッサージやヤスリを準備する萌恵。
孝之は萌恵が夢に向かって頑張っている姿を見て応援していた。
ネイルデスクなんてないので、ダイニングで隣に座り、ダイニングチェアの肘掛けにタオルを置いて孝之の左手をオイルマッサージしていく萌恵。
手の甲を両手の親指でゆっくり撫であげ、オイルを伸ばしていく。
「孝之さんの手大きいですよね」
「…そうかな」
「マッサージのしがいがありますね」
クルッと手のひらを上に返して、親指付け根の膨らみや小指の付け根の膨らみを親指で少しだけ圧をかけてマッサージしていく。
「…うん、それ気持ちいいよ」
「ここが母指球で、こっちが小指球って言うんですって。あとツボとか、色々教わりました」
オイルでヌルヌルと手のひらの筋肉を解されて、練習台に名乗りをあげたものの普通に気持ちよくてリラックスする孝之。
萌恵が指の付け根をほぐしてから、一本ずつ指を持って軽く引っ張って、指先に刺激を与えてくる。
ヌルヌルと行き来する萌恵の手の動きを見ているうちに、孝之は胸の内はモヤモヤしていた。
…これを学生同士でやり合っているのか。
「…萌恵。ペアでマッサージし合った子は女の子?」
「はい、ももかって名前の子で。とてもオシャレで可愛い子なんです」
「…そう。もしかしてクラスに男の子もいるの?」
「えっと、うちのクラスは5人くらいいます。意外かもしれないけど、男性ネイリストって人気な人がたくさんいるんですよ…!」
無邪気に新生活を楽しそうに語る萌恵。
孝之は萌恵の世界が広がっていく現実に、少しだけ背筋がひやりとしていた。
…同年代の男になんか触れさせたくなかった。
ここのツボが…、と萌恵が授業を思い出していると、孝之が右手で萌恵の顎を取ってすくい上げ、唇を重ねた。
いつもより少し強引なキスに驚いて体を固くする萌恵。
「んっ…、はぁ…孝之さん…?」
「参ったな、自分がこんなに嫉妬深いなんて初めて知ったよ」
「嫉妬…、そんな、もう結婚してるのに…」
「出来たら俺以外の男にこんなことしないでほしいな」
オイルをまとった左手で萌恵の指を絡め取り、ヌルヌルと擦り合わせる孝之。指使いが熱を持っていて、萌恵が顔を赤くして瞳を揺らす。
「こんな触り方してません…!孝之さんのエッチ!」
「そうかな。俺には同じだったよ」
「…もう…!練習させてくれるって、言ったのに。…ぁ」
プリプリと怒り出す萌恵の手を引いて、頬を撫で再び唇を近付けるとそっと受け入れてくれた。
萌恵は隙あらばこうして、キスをする孝之に少しずつ慣れては来ていた。ただたまにこうして急なスイッチが入るタイミングが分からず萌恵は翻弄されてばかりだった。
…ただ、求められているという事実は嬉しくてたまらなかった。
「…寝室に行こうか」
「まだ、全然練習できてないのに…」
「今度は萌恵はあっちの練習をしようか。…そろそろ慣れてもらわないと」
「…わっ!え、えぇ…!?」
やっとキスに慣れてきた所だったのに、スパルタな孝之に肩を抱かれ、しまいには抱き上げられてしまった。
「…今日は嫌なら、無理強いはしないよ」
「ず、ずるいですよ。そんな聞き方…!」
「可愛いね、萌恵」
ぎゅっと抱きついて返事をしてくれる萌恵のおでこにキスをして、可愛い奥さんを寝室に連れて行く孝之だった。
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