7 「もうA.I.Sは卒業だから」
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孝之は隣を歩く萌恵の耳が真っ赤に染まってるのを見て、満足気に微笑む。
スマホで待機していた佐伯を呼びつけた。
商業施設の地下駐車場に停めていたセンチュリーの後部座席に乗り込んだ萌恵。運転手にぺこりと頭を下げる。
「お姫様、奪還ですね社長」
「…秘書の佐伯だよ。覚えなくてもいいよ」
「初めまして、白川萌恵です」
「どうも。…俺もコーヒー買ってきていいですか?
その後自宅まで送りますね」
萌恵の手にあるテイクアウトのコーヒーカップを見つつ、気を利かせて車から離れる佐伯。
萌恵はセンチュリーのフカフカの後部座席を珍しそうに眺めていた。
「車、会社のもあるんですね…!」
「うん、他社に行く時は社用車で向かうよ。
…萌恵、全然こっちを見てくれないのは照れてるだけ?」
「…だって、孝之さん。急にどうしたのかなって」
隣に座っている萌恵の右手を絡め取る孝之。
萌恵は急に距離の近い孝之に、たじたじしていた。
…孝之さん、私のこと好きって、愛してるって言ってくれたんだよね。
萌恵は人前だという状況から、車内の密室に入ったことでジワジワと実感していた。
ほんの2週間前、クリスマスディナーでの萌恵の一世一代の愛の告白をスルーされてから、ギクシャクしていたはずの二人。
ちらっと孝之の顔を見上げると、微笑みはとても甘い。
真っ直ぐ見つめてくる瞳が、まるで好きだと訴えてくるようだった。
萌恵は心がふわふわして、嬉しくてたまらなくて口角が上がってしまう。ニヤニヤしてしまうのが恥ずかしくて孝之をまっすぐ見られない。
…でも、本当に嬉しかった。
「ゆっくり話がしたいって言ってたのはなんだった?」
「…私、両親から孝之さんが、父と本当はどんな約束をしたか聞いたんです。
だから、孝之さんが私を待ってくれてるのは分かるんですけど…」
「うん」
「やっぱりキスも、…まだほっぺまでですか…?」
『20歳を迎えるまで、私は萌恵さんに手を出しません。』
それは孝之が自ら萌恵の両親と約束した、彼女と関係を持てる条件だった。
ほんの少し頬にキスをしただけで、耳まで真っ赤にしてしまうくらい初心な心を持つくせに、もっとしたいと愛を欲しがる萌恵に、孝之は胸を熱く焦がす。
そっと体を寄せて、萌恵の顎を優しく掴む孝之。
萌恵はまたおねだりをしてしまった自分を恥ずかしく思いつつ、さっきはっきり言ってくれた愛の告白を思い出す。
二人は同時に目を閉じた。
そっと重なる唇。萌恵は心臓が激しく高鳴って、口から飛び出てしまうかと思った。…このまま空に飛び立てそうなくらい、とても幸せだった。
そっと唇を離すと満足そうな顔で、ぎゅっと抱きつく萌恵を、腕に抱いて小さくため息を着く孝之。
「…本当に2年くらい、余裕で待てると思っていたんだけどな。
その間にまたA.I.Sが萌恵の相手を見つけるかもしれない…」
「大丈夫です!さっき、三浦くんに拒否のやり方を教わって…んっ」
ふと男の名前を口にした萌恵の唇を塞ぐ孝之。
驚いた萌恵が、孝之の胸に腕を伸ばして距離を取るように突っ張るが手は震えていて弱々しい。
…中途半端な拒絶は、むしろ孝之を煽る。
ペロリと自分の唇を舐めて小さく震える萌恵の手を握る。
やはり一度許されたキスは、孝之の理性の紐を緩ませた。
「もう萌恵から、男の名前は聞きたくないな」
「…今日、孝之さんが『楽しんで』って言ったくせに…!」
「言った瞬間から後悔してたよ。…余裕のない大人は魅力ないかな」
「そうなんですか?…少しくらい、妬いてくれました?」
期待するような目で孝之を見る萌恵に、そろそろ本気で手が出そうでギュッと抱きしめて自分を律しようと務める孝之。
「今日は仕事にならないくらい、妬いてたよ」
「本当ですか?…ならちょっと嬉しいです。…あ、そうだ」
嬉しそうな声色で照れる萌恵が、孝之の顔を見て、ふと思いついたように言った。
「なら、先に入籍だけしちゃいましょう!
結婚しちゃえばもうA.I.Sは卒業だから、マッチング相手は探されないです」
萌恵は名案とばかりに提案する。
あっけらかんとした表情に、孝之は目を見開いて固まった。
ーそれは逆プロポーズだった。
「…あっ!」
「ふっ、ははは!…もう、萌恵には敵わないな…」
「ご、ごめんなさい。私ったらまた…」
言ってしまってから気づいた萌恵は、顔を真っ赤にして目線を下げる。
先程、三浦に孝之と結婚したいと思っていると口にしてから、すっかりその気でいた萌恵は、孝之が自分が好きだと聞いて舞い上がっていた。
経験豊富で年上な孝之は、告白だけでなく、プロポーズすら年下の萌恵に先越されてしまって、まるで立つ瀬がなかった。
…曖昧で酷い態度を取り続けたにも関わらず、相も変わらず真っ直ぐな想いをぶつけてくれる萌恵に、孝之はたまらなかった。
ここで遠慮したら、男が廃る。
「萌恵、もう一回…キスしても?」
「…ん、孝之さん。大好き」
「俺も大好きだよ」
少し照れながらも、完全に体を預けて全てを差し出す萌恵の唇にゆっくり重ねてもう一度キスをした。
萌恵の後頭部にそっと手を置いて、唇を離そうとした動きを押さえる。握った手と体に力が入るのに構わず、彼女の吐息を奪う。
しばらく味わっていると、ふにゃりと力が抜けて崩れ落ちそうな萌恵を抱き支えた。
「大丈夫…?」
「…や、やっぱりキスも!もう少し後にしましょう…!」
「プロポーズまでしておいて、…覚悟が足らなかったんじゃないかな?」
「…やだ〜、また意地悪な孝之さんになってますよ」
まるで腰が砕けたような、ふにゃふにゃの萌恵を後部座席にもたれ掛からせるように座らせる孝之。
今まで無自覚に孝之を煽り続けてきた萌恵へのほんの仕返しだった。
…本当は全然足りないんだけどな。
そっと頭を撫でながら、顔を覗き込んで囁く。
「大丈夫。…俺が萌恵に全部教えてあげるよ」
「ひぇっ、あ、あのお手柔らかに、…お願いします」
顔を真っ赤に染めて、もう今日は無理とばかりに両手で口を押さえた萌恵に怪しく笑いかける孝之。
コンコン、と運転席の窓が叩かれ、暫くしてからドアが開く。
テイクアウトのコーヒーを手にした佐伯だった。
「ただ今戻りました。うわ、なんかすごい甘い空気…!
ダブルエスプレッソにすればよかった」
「…佐伯、うるさい」
孝之と萌恵は、顔を見合せ、幸せそうに笑って手を繋いでどちらともなく指を絡ませた。
***
その後。
「萌恵。これからの俺の人生を全て君にあげるから、君のこれからの時間を貰ってもいいかな…?」
「はい、孝之さん…!」
完璧なプロポーズをやり直した孝之は、萌恵から了承の返事を貰い、正式に婚約した。
両家の両親も二人の関係がまとまって、一安心。
家族は二人の門出を祝福した。
3月の萌恵の高校の卒業式の後。
孝之と萌恵は、文京区役所にて婚姻届を速やかに提出した。
再びネットニュースに、
【A.I.S相性率100%のマッチングカップル 年の差を乗り越えてゴールイン】
そんな見出しが一時話題になり、A.I.S利用者を多少増加させた。
孝之は一部界隈で時の人となったが、最後まで萌恵の名前は世に出なかった。
A.I.Sは、男女二人の出会いのきっかけにしかならない。
運命の相手は自分たちの努力で愛を育てていくしかない。
少しの好奇心と勇気を出して、気持ちの向くまま恋をしよう。
人工知能が導く愛の先には、きっと幸せな未来が待っている。
END
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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