6 「た、孝之さん…!?」
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ーさかのぼること5分ほど前ー
萌恵は、三浦を固い表情で見つめていた。
三浦はふっと笑って、続けた。
「待って、そんなに緊張しないで聞いて。
何も週刊誌に売りつけようとか、脅そうとかしてるわけじゃないんだ。
…俺、A.I.Sの大ファンなんだよね」
「…へ?」
「最初は公務員になれば安泰だっていう今後の生活しか見てなかったんだけど。
区役所で働いてたら職員出入口にA.I.S利用者の婚姻数が貼ってあったり、コンビニに来てくれる来庁者の幸せそうな表情とか見たりしてたら、…なんかすげぇなって思って」
予想もしてない話題になり、萌恵は呆然としながらも、一度話し出したら止まらない早口の三浦の話に耳を傾け、勢いのまま相槌を打つ。
三浦は拳を握りしめながら、宙を見つめキラキラと瞳を輝かす。
その顔はまるで夢見る子どものようだった。
「一体どんな計算式で、どんな考えでA.I.Sが相性率を出しているのか、本当に気になるんだ。
俺、採用されたらシステム管理課に配属されたい!
少子化に貢献してきたA.I.Sの開発者は本当に天才だし、素晴らしい人工知能の使い方をしてるって感動した…!」
「う、うん…!」
「あ、ごめん。つい止まらなくなっちゃった。
…100%なんて今までにない高確率が出たことにも、それが20歳差っていうドラマにも正直興奮してて。
自分がいざ誕生日迎えて登録したら、白川さんとマッチングしてたから…、その、話がどうしても聞きたくて」
三浦は、A.I.Sが導きだした100%という確率は、きっと誰が切っても切れないような強固な赤い糸で結ばれた二人だと信じていた。
まだ結婚していないから、自分と萌恵がマッチングしてしまっただけで、二人の間に入ろうなんて気持ちはこれっぽっちもなかった。
現に、萌恵にチャットの初日に、決まった相手がいるからと断られている。
…三浦はその萌恵の、20歳差という壁を越えて、孝之を想う気持ちに『A.I.Sってやっぱり本物だ!』と胸が熱くなっていた。
「18歳で、もう決まった相手がいるって言ってたから、絶対そうだと思って…。
100%の男女ってどんな感じなのか聞きたかったんだ。
…やっぱり、結婚は高校卒業まで待っている感じなのかな?」
「…あー、えっと。私はその、…結婚したいなって思ってるくらいなんだけど」
萌恵は、三浦にどこまでどう話そうか迷いつつ、とりあえず照れながら自分の気持ちだけを話す。
三浦はそれにウンウンと満足そうに頷く。
春に孝之と会ってすぐは結婚なんて考えられなかった。
…結婚したいって、私、思ってるんだ…。
自分で口にしながら、ぽっと頬を染める。
目を爛々と煌めかせる三浦に、孝之との関係を聞かれるという、A.I.Sでマッチングした相手との会話の内容ではありえない状態だが、二人は全く気にならない。
「大丈夫だよ!
二人なら幸せになれるってA.I.Sのお墨付きなんだから!
…そういえば、俺のチャットの申請、何度も保留にしてたけど、どうして拒否にしなかったの?」
「え!拒否なんてボタンなかったよ?」
ポケットからスマホを取り出して、机に置いてアプリを開く。
その時にやっと孝之から何度も着信が来ていることに気がつく萌恵。風やジェットコースターの音で着信とバイブがかき消されていたようだった。
慌てる萌恵に気づかず、スマホを貸してと手を伸ばす三浦。
「そっか。マッチング相手一人だけだったから説明がなかったのかな?
申請が来て嫌だったら、長押しすると拒否ができ…!」
萌恵が顔を上げた時に、左手に大きな手が重ねられ、ふわっと香る、萌恵が大好きな上品な香水の香り。
力強く回った腕にギュッと後ろから抱き締められた。
「…俺が!萌恵の100%の相手だ!」
「…た、孝之さん…!?」
耳元で叫ばれた言葉と、ジェットコースターの音が萌恵の耳に木霊する。
孝之の肩が上下し息が切れ、吐息が伝わる。
華奢な肩をすっぽりと包み込む長い腕、鎖骨あたりに服の上から回されて、孝之の右手が萌恵の左肩をギュッと掴んで握りしめる。
見上げようと首を動かすと、重ねられた左手の指が絡む。
ボンッと顔に熱が集まり萌恵があわあわしていると、孝之はギロリと三浦を睨みつけている。
三浦は呆然としていたが、次第に目を輝かせて口を開いた。
「はい…!存じております!!三浦 誠です!
会えて光栄です!!…握手してください…!!」
「…はい?」
「あー、…えっとぉ」
三浦は、生の100%カップルの登場に興奮して、まるで推しのアイドルに会ったかのようなムーブをする。
孝之は全く状況が掴めず、困惑して萌恵を見るが照れて頭が真っ白になっていて何も言えない。
取り敢えず、萌恵からそっと腕を離した孝之が、三浦から差し出された右手に右手を差し出し、謎の握手をする。
三浦は嬉しそうに両手でブンブン孝之の手を振って、お辞儀をする。
「直接会えて、受験勉強のモチベが上がりました!
俺、絶対国立受かって、区役所職員を目指します!
…白川さん、今日は時間ありがとう。お幸せに!」
「あ、うん。ありがとう…」
孝之が離れて少し回復した萌恵は、バイバイと手を振り嬉しそうにその場を後にする三浦を、何とか見送った。
孝之は全く状況が飲み込めず、ぽかんと三浦が離れていくのを見ているしか出来なかった。
「…彼は、一体…?」
「えっと、いわゆるA.I.S信者の人だったみたいです」
A.I.Sの導きで幸せになっていく現代の人々の、運命的な出会いやエピソードに、ときめくA.I.S信者たち。
…まさか自分の同級生にもいたとは萌恵は知らなかった。
とはいえ、萌恵もA.I.Sのマッチングを夢見る女の子だったので、確かに相性はいいだろうなと感じていた。
…孝之に会うまでは。
「孝之さん。
通話かけてくれたのに、出られなくてごめんなさい」
気付かなくて、と口にした座ったまま萌恵を、正面から抱き締める孝之。
…思っていた状況とは全く違ったけれど、萌恵が三浦に取られなかったことに、酷く安堵していた。
「…俺の方こそ、ずっと萌恵にちゃんと向き合ってなかった。逃げていてごめん」
「…た、孝之さん…?ひ、人が見てますよ…!」
「見せておけばいいよ。…もう遠慮なんてしない」
テラス席の前は人通りがあり、抱き合う二人を指さす人が視界に入る萌恵。
トントンと背中を叩くと、孝之が少し顔をあげるが、萌恵の体に回っている手は離れない。
至近距離の孝之の顔に萌恵はさっきまで凍えるような寒さだったのに、汗が出そうなほど体が熱くなっていた。
そっと頬に手が添えられ、するりと親指が頬を撫でる。
ゾクリと背筋が震え、孝之の真剣な瞳から目が離せない。
「…萌恵。俺も君を一人の女性として、愛してるよ」
「…っ!」
ちゅっ、と音を立てて頬に唇が押し付けられた。
萌恵は孝之の唐突な告白に、驚きながらもぶわっと感情が高ぶる。
抱き返そうとしたが、場所が場所で萌恵はハッとして何とか立ち上がる。
今萌恵は学校帰りで制服姿だ。
あっという間に話題になってしまう。
「萌恵、どこに行くの?」
「ひ、人気のないところです!!」
孝之はスッと萌恵の学生鞄を持ち上げる。
萌恵の左手に指を絡ませて強く握って、歩き出す。
決して離そうとしなかった。
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