4 「運命の相性率が聞いて呆れますね」
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次の日。
学校で授業を受けながら、萌恵は一日モヤモヤして過ごしていた。
それは三浦に会う不安などではなく、ここ最近ギクシャクしていた孝之への不満だった。
昨夜、萌恵は何故自分が三浦とマッチングされた後、チャットすることになったのか、相手がどういう人物かを孝之に話した。
今は、少し気まずい空気があるけれど、萌恵は結婚を見据えた関係の孝之への誠意ある行動をしたつもりだった。
同窓会のような気持ちで少しだけ会話をしてくるだけ。そう伝えたのに、孝之は相槌すらしてくれなかった。
もし孝之が少しでも不快に思うなら、萌恵はそれすら断ろうと思って、お伺いを立てていた。
…それに他の男性と会うことになったと言えば、少しくらい嫌そうな素振りくらい見せてくれるかも。
萌恵は女心から、もしかしたら孝之が嫉妬してくれるんじゃないかと淡い期待もしていた。
『楽しんで行っておいで』
かけられた言葉は、求めていた言葉ではなくて正直がっかりした。
きっといつもの優しい笑みで、スマートに萌恵に寄り添ってくれているんだろう。…そんな風に思っていた。
つまり萌恵は盛大に拗ねていた。
A.I.Sのチャットアプリを面白くない顔をしてじっと見つめていても、孝之からおはようの後から、特に通知は来ていない。
そもそも、このチャットのやり取りすら、萌恵が孝之にやりたいと言ったから付き合ってくれているものだった。
…もしかしたら、孝之は萌恵との関係に疲れてしまったのだろうか。
新しいA.I.Sのマッチング相手が見つかったならもう辞めたいのかもしれない。
ずっと萌恵に気遣い続けるのは、孝之にとって負担になっているのかも。
萌恵は一日考えすぎてまたネガティブな考えが膨らんでいた。
孝之は萌恵にずっと優しい。
萌恵がしたいといえばなんでも叶えてくれる。
でも萌恵は孝之の気持ちが欲しかった。
…やっぱり、ちゃんと話そう。
会って、向き合って、拙い言葉かもしれないけれど、このモヤモヤしている気持ちもぶつけてしまおう。
少し怖いけれど、孝之に受け入れられなくても、歩み寄ることは出来るかもしれない。
(萌恵)ー 学校終わりました。
待ち合わせ行ってきます。
近いうちに会ってしっかり話しがしたいです ー
孝之にチャットを送ると萌恵は放課後、三浦との約束した、待ち合わせの最寄り駅のカフェへ向かった。
***
孝之は、酷い一日を過ごしていた。
仕事中かなり珍しい小さなミスを連発。多少のことならすぐに自分でフォローしてしまうのに、対応は後手後手に回っていた。
取引相手との会議中に、不意に心ここに在らずになり話を聞いていなくて、秘書の佐伯が必死でカバーした。
あの浅見孝之が、ーーまさにポンコツだった。
佐伯はこれはダメだと夕方に予定していた重要な予定をリスケし、多少のミスがあっても修正できるような仕事に変更することにしたくらいの酷さだった。
…連休明けとはいえ、呆けすぎだろう。
佐伯は首を傾げていた。
何度も熱でもあるのかと、体調確認をするが至って健康で、ここぞとばかりにからかって罵っても、いつものキレのある鋭い皮肉すら返ってこない。
佐伯が運転する黒いセダンのセンチュリーの運転席から、後部座席にどっしりと腰掛けて片手で目元を覆って反省している上司に態度悪く、声をかける。
「社長。そろそろ何があったか教えて頂けませんと、対応しきれませんよ」
「…すまない。自分が腑抜けなのは分かってる」
「…もしかして、振られたんですか?相性100%の女性に…?」
ハッと気づいた佐伯が、萌恵の話を振った瞬間に目に見えてズーンと頭を抱えて項垂れる孝之に、図星か!と目を見開いて驚く。
こんな落ち込んだ上司の姿を見るのは今まで務めてきて初めてのことだった。
一年近くかけて準備した大口の取引がおじゃんになった時すらこんなに落ち込んでいなかったのに…と冷や汗をかく。
仕事人間の孝之が仕事に身が入らないほど、一人の女性に振り回されていた。
しかも相手は20歳も年下。
佐伯は信じられない気持ちで上司を見つめる。
孝之は、か細く声を絞り出す。
「…振られても振ってもいない。
佐伯が数日前に言ったことが現実になったんだ」
「え!俺ですか?…何を言いましたっけ」
「萌恵に、新しいマッチング相手が見つかったんだ」
軽口を叩いているのはいつものことなので、なんの事だっけと動揺する佐伯。
萌恵、と初めて相手の名前を呼ぶ孝之に、こそばゆい気持ちになるが、内容にギョッとする。
「それヤバくないですか…?」
「たまたま相手が中学の時のクラスメイトで、懐かしくなったから今日…会ってくるらしい」
「どうして止めなかったんですか!嫌だって言えばいいでしょう?」
稀に見るロマンチックなA.I.Sの恋愛劇場が繰り広げられそうになっている恋敵の登場に、佐伯が孝之を信じられないといった声色で非難する。
孝之は、簡単にいってくれるな、と恨めしそうに佐伯を見る。
「言えるわけないだろ…。彼女の選択肢が…」
「何ぬるいこといってるんですか!
そういう要らない気遣いで、どれだけ女の子が不安になるかちょっと考えれば分かるでしょう?」
「…お前…、萌恵はまだ18歳で、俺と20歳差だ!
どの面下げて俺だけにしろなんて言えるんだ…!」
佐伯は孝之の自己肯定感がこんなにも低い人間だなんて知らなかった。
若い時にモデルのような美人を侍らして、よりどりみどりだったと聞いていたのに、なぜ結婚しなかったのか不思議だった。
富も容姿も能力だって兼ね備えてる孝之が、恋愛面でこんなに弱い男だったなんて思いもしなかった。
「そんなの好きだったら、なりふり構ってる場合じゃないですよ。
…そもそも、その萌恵さんはどう言ってるんです?
まだ遊びたいって?」
「…いや、それは」
「なにより社長は?その18歳のガキンチョ男子高校生に、彼女を差し上げちゃうんですか。
…運命の相性率100%が聞いて呆れますね」
孝之は悔しかった。
佐伯の言った通りだった。
どうして自分は今まで一歩引いて萌恵と向き合ってきたんだろう。彼女のためといいながら、全部自分のためだった。
…こうしてA.I.Sにまた相手を選ばれた萌恵が、孝之じゃない人間を選ぶ未来に傷つきたくなくて、逃げているのかもしれない。
萌恵は出会った日から、ずっと孝之に全てをぶつけてくれている。一生懸命、健気に努力し続けて、愛まで伝えてまでくれた。
初めて重すぎる恋心を自覚したばかりの孝之は、選ばれる努力をするどころか、彼女から逃げた。
相性率100%とA.I.Sが弾き出した二人の間に遠慮などいらないものだった。
孝之が変な気遣いばかりしているから、どんどん可能性が低くなっていく。
相性率75%だという、ぽっと出の若い男にすらあっという間に抜かれてしまうかもしれない。
ブブッとプライベートスマホが通知を告げる。
そっと開くと、萌恵から『男と会ってくる。話がしたい』との旨が送られてきていた。
…もしかしたら、この話し合いで関係が終わってしまうかもしれない。
萌恵のいない日々がやってくるのだろうか。
孝之は急に視界が色褪せていく気がした。
…まだ間に合うだろうか。
彼女を失うなんて考えられない。
「…佐伯。後楽園駅に向かってくれ」
「はい、社長。行先まで教えて貰ってるんですか?」
「学校帰りに、最寄り駅でカフェに行くしか聞いてない。…手当たり次第に探す」
もう遅いかもしれないけれど、孝之はじっとしていられなかった。
お読みいただきありがとうございます。
萌恵ちゃん、もっとちゃんと怒っていいんだぞ。
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