2 「乾杯しようか。…おいで」
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萌恵は孝之に進路の相談ができた事で、未来への道が開けてホッとしたのも束の間。
アボカドシュリンプのサンドイッチを食べている時に思ったのだ。
自分に食事マナーが身に付いていなさすぎてやばいという現実に、打ちのめされていた。
目の前でハムチーズサンドを優雅に食す孝之の姿が、どこから見ても格好よくて、佇まいや姿勢などから品の良さが染み出ていた。
これは育ちの良さと言ってしまえばその通りなのだが、これから孝之が連れていってくれる店はきっとどこも高級料理店のはず。
萌恵は孝之がいくら気にしないと言っても、自分の振る舞いで彼の顔に泥を塗るような真似は絶対にしたくなかった。
夕食を食べたあと、食器の片付けをしている母親にそっと声かける萌恵。
「ねぇ、お母さん。進路のことなんだけど、やっぱりネイリストの専門学校を受けてみたい」
「あら、いいじゃない。どうしたの?急に」
「今日孝之さんと話せて、挑戦してもいいんじゃないかって応援して貰えたの」
そう、と安堵のため息をつく母、香奈恵。
ネイリストになりたいという萌恵の夢を、ずっと傍で聞いていた香奈恵はてっきりAO入試も使うのかと思っていた。
しかし、孝之との結婚のこともあり、流石に急かすのは酷過ぎるかと強く言えずにいた。
色々他にも言いたいことがあったが、二人で決めたことを親に首を突っ込まれるのも嫌かなとどう話をしようか迷っていると、萌恵が先に口を開く。
「お母さん。私部活も引退したし、受験も頑張る。
だからアルバイトしてお金払うから、マナー教室に通わせて欲しいの」
「…マナー教室?」
「孝之さんが連れてってくれるお店が、とても高級なホテルのレストランばかりで…。
付け焼き刃でもいいから、料理マナーとか教えて貰えるところに通いたいの!お願いします!」
家事もちゃんと手伝うから、と必死で許可を求める萌恵に、香奈恵は自分の娘の成長に驚く。
もし今後浅見家の嫁として生きていくなら、きっと必要になるマナーや振る舞いを、夢見がちな萌恵が自分から学びたいと言い出すとは思わなかった。
…女の子の成長って本気になると早いのよね。
父の幸一と香奈恵は、先日の萌恵と孝之が初デートしている間に、買い物ついでに萌恵のマナー教室の下見に行っていたのだった。
「萌恵ちゃん。お父さんとお母さんもちゃんと考えてるわ。マナー講座のパンフレット、貰ってきているから一緒に見ましょうか」
「…え、そうだったの?」
「受験勉強が終わってからでも遅くないかなって思ったんだけど、萌恵にやる気があるなら料理マナー講座から始めましょ?」
「萌恵、まだアルバイトはしなくていい。社会に出るのも大事だけれど、まずは進路を決めてからにしよう」
リビングで寛いでいたはずの幸一がキッチンに顔を出して、萌恵に優しく微笑む。
萌恵は全て一人で頑張ろうと、気を張っていた気持ちが緩んでいくのを感じた。
親にはまだ敵わないな、と父と母に抱きつく萌恵。
「ありがとう、お父さん!お母さん!」
「いいのよ〜!萌恵ちゃんが私立4大にも通えるように、元々学費も用意してたんだから」
「いつも節約ありがとう、母さん」
パンフレットをダイニングテーブルに広げながら、どのマナー教室にするか白川家、家族会議が和気あいあいと始まった。
「…萌恵、本当に水着、着て海に行くの?」
「こら、幸一さん」
***
7月の最後の週末。
萌恵は孝之に連れられて、東京から1時間半ほど離れた会員制の貸切ヴィラに遊びに来ていた。
今日は一日、勉強はお休みでリフレッシュするぞ、と気合を入れて準備してきた。
グランピングドームが建ち並ぶ、リゾート施設の一番奥に建てられた貸切ヴィラ。
中に入ると、庭に3×7mほどの大きさのプライベートプールと浴室で温泉に入れて、サウナではセルフでロウリュが楽しめるそうだ。
インクルーシブが売りのリゾート施設で、フルーツジュースやミル挽きコーヒー、ハーブティなど飲み放題。
屋根付きのスペースでBBQも楽しめ、冷蔵庫にはカットフルーツとケーキまで用意されていた。
高級すぎるプライベート空間に圧倒され、始めはわーすごい!とテンション高く興奮していた萌恵も、凄すぎて次第に呆然としてしまう。
慣れた様子で荷物を運び、萌絵を個室に移動させ、早速プールに入ろうと着替えを促す孝之。
個室に入るとベッドが2つ用意されていて、ここはレンタルスペースの宿泊施設なのでは?と考える萌恵。
今の時刻は10時半頃で、すんなりスタッフに会わずに中に入って来てしまったが、ホテルのチェックインは大体夕方以降だったような、と頭でぐるぐる費用を考えてしまう。
そもそも日帰り予定で来ているが、ここって相当高いんじゃ…とお腹の辺りがヒュンとする。
今回こそと親からちゃんとお金を貰ってきていた萌恵だったが、孝之はちゃんと受け取ってくれるのだろうか。
「水着…ズレたりしてないかな…?」
真由と何店舗か回って、悩んで買った大人っぽさを意識したブラウンのワンピースタイプの水着。
胸元にリボンが付いて、腹部は胸のアンダーラインから大きなダイヤ型に切り込まれ、臍上ハイウエスト。
後ろは肩から細紐でクロスされ、ざっくり腰上まで開いているが甘く編み込まれて、大人かわいいが意識されたデザインだった。
『萌恵は色っぽい大人ビキニより可愛い系を入れた方が、シルエットも映える!』
との真由の力説によって選ばれていた。
上から黒いシースルーのUVカットシャツを羽織って部屋から出ると、既に着替え終わった孝之が窓の外に出ていた。
黒い膝丈のサーフパンツに白いラッシュガード、薄い黒色のサングラス姿の孝之。
細いワイングラスを持つ姿はとても格好よく、背景のプールから太陽が反射して光って見えた。
恵は孝之の姿を遠巻きに見蕩れていた。
…リゾート感溢れる、孝之さんめちゃくちゃ色っぽい!
どうしよう、出て行ける?
自信満々に選んだ水着だったのに、急に恥ずかしくなっていた。
「萌恵さん、乾杯しようか。…おいで」
「は、はいっ…!」
見ていたのがバレていたようで、孝之に手招きされておずおずとフルフラットの大きなガラスドアから外に出る。
よく晴れた夏の日差しが強く照りつけ、眩しさに目を細める萌恵。グラスを手渡され、中には凍ったカットフルーツが沈んでいた。
「今日ここにある飲み物は全部ノンアルコールだから、好きに飲んで大丈夫だよ」
「ありがとうございます。カクテルみたい、素敵」
うっすらピンク色に色付いたノンアルコールカクテルは、炭酸がプツプツと上がっていた。
乾杯、と声とともにチンッと音を立ててグラスを当て鳴らし喉を潤す。
「こういう所に来たら孝之さん、お酒飲みたくなっちゃいますよね」
「普段もあまり飲まないけれど、萌恵さんが20歳になったら一緒に飲もうか」
「わぁ…!楽しみ」
置かれていた屋根付きのテーブルと立派な椅子に腰を下ろして、萌恵と孝之はのんびりと寛ぐ。
お読みいただきありがとうございます。
夏はやっぱり海かプールですよね!
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